『いつの間にか美少女になっていた親戚の子と交際を賭けてゲームすることになったというお話』
お盆の帰省ラッシュにはまだ早い時期なので、のんびりと電車に揺られて遠くの町までやって来た。
ローカル線の駅のホームに降りると夏の匂いがした。
近くにある山と遠くに見える海。
駅前にある商店街も相変わらずというか、まるで時が止まっているかのように十年前とそれほど変わっていない。
周囲を眺めながら新しくできた駅前のレンタカー屋さんで一台の軽自動車を借りた。
久しぶりに母方の実家があるこの町へ来た理由は、ざっくり言うなら法事だ。
こういった集まりには普段であれば俺以外の家族が顔を出すことになっている。
ただ今回に限って両親には先約があり、急遽俺が代役を務めることになったのだ。
ちょうど早めの夏休みが取れたのでしばらく滞在する予定だ。
貴重な長期休暇を田舎でのんびりするのも悪くない。
親族の集まりで代役を果たすのが主目的とは言え、個人的にこの小旅行にちょっとした楽しみがあった。
久しぶりにトモに会える。
俺の頭の中に幼い日の思い出が甦る。
「ハジメにいちゃんいくぞー!」
「げっ、いきなり乱入してくるなよトモ! まあいい、かかってきな!」
トモというのは親戚の子で、俺より年下の女の子だ。
正しくは朋花(ともか)という名前……だったと思う。
活発で、どちらかというと男の子みたいな性格だった。
俺がこちらへ来るたびにニオイを嗅ぎつけては遊んでくれとせがんでくる。
鬱陶しいけど懐いてくれる遊び相手と言えばわかってもらえるだろうか。
「ううう~~! さっきからにいちゃん、
オンナだと思って手加減してるだろ! ざけんなー!」
「ぜんぜん本気だよっ! それにトモはオンナじゃねえ!!」
「なっ、なんだとぉー! セクハラ粛清ビーム!」
トモは俺と同じく格闘ゲームが好きだった。
当時は髪を短くしていた。
黙っていれば可愛い女の子だと思う。
「やった! にいちゃんに勝てた」
「うわぁー! トモにやーらーれーたー」
「やっぱりわざとか!
ムカツクから棒読みすんなー! にいちゃんのバカー!」
トモは自分が勝つまで挑み続ける負けず嫌いなところがあった。
だから時々わざと負けてやるんだけど……
それはそれで難しいものだ。
あれから十年が経ち、俺は就職して忙しくなった。
この町へ来ることも何度かあったけれど、すれ違いが続いてトモと会う機会も減った。
前回ここへ来た時もトモは部活の試合とかで会うことができなかった。
会えなくて残念だねと電話で話をしたのが最後の記憶だ。
身内の不幸があって以来、年賀はがきの往復も途切れた。
今はもう大きくなっているのだろうな。
トモはあの頃の面影を残しているのだろうか。
そんな事を考えているうちに、親戚の家に到着した。
「たいへんご無沙汰しております」
「いやぁ久しぶりだねハジメくん。ずいぶん立派になって」
「いえいえ、僕なんてまだまだです」
「はっはっは。ここで謙遜しなくてもいいじゃないか」
少し髪の毛に白い部分が増えたようだけど、おじさんもおばさんも相変わらず元気そうで良かった。
それにしてもこの家も変わらないな……と麦茶を飲みながらしみじみ考えていると、玄関の方からドタドタと騒がしく誰かが駆け込んできた。
「おとうさん、おかあさん! にいちゃんいるのっ!」
「ちょっと朋花、静かにしなさい」
「するよっ! それでいつ来たの!?」
駆け込んできたのは真っ黒な髪をした女子校生だった。
意思の強そうな目は俺をじっと見つめており、軽く呼吸を乱していた。
健康的に日焼けした細身の美少女。
それがトモであると認めるのに、数秒程度かかった。
「お、お前……トモなのか?」
「そうだよっ! えへへへ、お隣に座るね」
トモはカバンを降ろすと、俺の左側にちょこんと座り込んだ。
汗と混じった甘酸っぱい香りや熱い体温をしっかり感じる。
「いひひ、にいちゃん。いっぱいあそぼーね!」
「あ、ああ。そうだな」
美少女の口元から屈託ない笑みが溢れる。
やはりこいつはトモに間違いないらしい。
ちょっと会わないうちにこんなに可愛くなるものなのか。
たまたま軽自動車で移動中の俺の姿を見かけて、部活が終わってから駆け足でここへやって来たらしい。
トモは俺に会えたことを心から喜んでいるようだ……
その表情を見ているだけでこっちまで嬉しくなるほどに。
聞けば部活ではテニスをしているらしい。
今のトモならテニスのウェアもよく似合いそうだ。
「それにしてもト……朋花、さん。見間違えたよ」
「昔みたいにトモでいいよ! ところで今の言葉って、私褒められたのかな?」
「まあ……そのつもりだけど」
俺が言葉を濁すとおじさんがすかさず言葉を挟んでくる。
「はっはっは! いずれハジメくんの嫁にどうだ?
このとおり、お転婆だったトモもなかなか女らしくなったじゃろ」
いささか短絡的ではあるが今の俺を困らせるのに最適なツッコミだ。
「やめてくださいよ。
いくら血が繋がってないからと言って……」
正直なところを言えば、女性として魅力的になったトモが近くにいるだけでドキドキしていた。
おじさんからの追求を避けるように視線をそらせば、今度はトモのほうからぐいっと体を寄せてきた。
顔までの距離が近すぎる!
「えぇー、にいちゃん私のこと嫌いなの?」
「そういう話じゃねえっつーの!」
「じゃあどういう話だよー! あっ、私一旦荷物置いて着替えてくるねっ」
そんなやりとりをしてからトモは一旦自分の部屋に戻った。
でもすぐに着替えて戻ってきた。
Tシャツにスパッツというラフなスタイルだけど、体の線がはっきりわかるので目のやり場に困る。
こうしてみるとバストもけっこう大きいんだなこいつ……。
そんなよこしまな考えはどこかへ追いやって、みんなで食事を済ませた。
食事の時もトモは俺の隣に陣取った。
相変わらず懐いてくれてるのは嬉しいな。
そして部屋に戻って布団を敷いたり荷物の整理をしていると、ドアがノックされた。
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