―― そして夜 ――

フラフラになりながらも柚子よりも先に家に着いた俺は、体力を回復させるためにベッドで横になっていた。

テニスコートの裏で突然俺に迫ってきた
柚子の親友・花鈴ちゃんとは結局あの後、すぐにお別れした。

そのときの彼女の言葉を思い出す。


「きょうはここまで……です」

そのときの俺は、そりゃないだろ!、というのが素直な気持ちだった。
もはやイく寸前まで俺を高めておきながらここで寸止めとは……

「あの、センパイ……私まだ部活の途中でした」

「あっ……」

確かにそうだった。
このまま彼女が帰ってこなければ誰かが心配してこちらに来てしまうかもしれない。

「今日のことは柚子にはナイショですよ?」

「う、うん!」

人差し指を立て、片目を閉じて子供にシーっと言うような仕草の花鈴ちゃん。
できれば俺だってナイショにしていて欲しい。


「その代わり今度機会があれば、脚でドピュってさせてあげます」

「えええっ!」

彼女は左手でミニスカートのすそを少しだけ上げた。
長くて綺麗な脚がチラリと見え隠れする。

「だって、センパイは私の脚をキレイだって誉めてくれましたから」

「あ、ああ……それで」

「センパイの可愛いおちんちんを脚でスリスリしたり、挟んであげますね!」

コロコロ笑いながら楽しそうに脚コキを宣言する彼女。

きっと面白半分で言っているつもりだろうが、
こちらにしてみればその言葉だけでも今夜のおかずにしてしまいそうだった。

それに……あの脚で擦られたら本当に花鈴ちゃんから離れられなくなりそうで怖い……

「あの、センパイ……もしよかったら、私と……」

「うん?」

「ふふっ、なんでもないです♪」

そしてもう一度ニッコリ笑っておじぎをしてから、
花鈴ちゃんはテニスコートへと戻っていった。

彼女は一体何を言おうとしていたんだろう?
いくら考えても答えが出ないので俺はボンヤリしていた。


ふいにドアがノックされた。

コンコン

「兄貴いるかーい!」

「げっ!!」

これは柚子の声。
いつの間にうちに帰ってきたんだろ。

そういえば今夜も特訓するようなことをメールで言ってたっけ。
やばい、なにもしてねーぞ……

ガチャ

「入るよん」

もうすでに入ってるよね、キミ。
片手に昨日とは違う紙袋を持って、柚子が部屋に入ってきた。

「まてまてまて!」

「そんなに驚かなくてもいいじゃん。なんかあったの?」

本当は柚子がここに入ってくる前に自分に消臭剤をかけておきたかったのだ。
万が一、花鈴ちゃんのにおいにコイツが気づいたりするとうるさいからな。

「いや、べつに……」

「へんなのぉ?」

「そうか?」

「いつもへんだけどね、兄貴は」

お前がいうな!!

ゆずは遠慮無しにベッドに腰をかけた
そしてくるっとこっちを向いた。

「兄貴、あの本読んだ?」

「ああ、読んだけど……」

「ごめんね、あれ……渡すの間違えちゃった。だから返して」

「お、おう」

こちらに向かって手を合わせる柚子。
俺は学校のカバンの中をガサゴソと漁ってみた。


(あっ……!)

これは大変だ。
雑誌・・・きっとあのテニスコート脇に置きっぱなしだ。


「どしたの?」

「ひっ」

いたずらがバレた子供みたいに思わずビクっとしてしまう。
挙動不審な俺の顔を覗き込む妹。

やばいヤバイやばいヤバい!!!

早くいいわけを考えなきゃ……

悪い汗が背中と頬と額にあふれ出す。

「まさかアンタ……」

とっても気まずい雰囲気。そしてちょっとした沈黙。


「失くしちゃったとかいうんじゃないでしょーねっ!」

「その…………まさか、なんだよね……ハハハハハ」

「それは困ったわね。ハハハハハハ」

無理やり笑い出した俺に合わせて妹も笑う。
だめだ……! こいつの目が全然笑ってない。


「笑ってる場合じゃないわよーーーーーーっ!!」

まるで火山爆発の効果音でも鳴り響きそうな柚子の怒り。

こ、こええええええ!!

落ち着け、ゆずっ
お兄ちゃんを怖がらせても、いいことなんてないだろ!?

「あたしが友達に怒られちゃうでしょう!? どーしてくれんのよ! このバカ兄貴!!」

目が三角になってるぞ、柚子!
落ち着いて話し合おうじゃないか。
解決策ならきっとあるさ。
ああ、そうだ……

「だ、だいじょぶだよ……かりんちゃんならきっと許してくれるってば」

「そうかなぁ? かりんはああ見えて怖いんだよ?」

「うーん……」

困った振りをしてみる。
かりんちゃんの名前が出たことでいくぶん妹も落ち着きを取り戻したのだろうか。

「ホントに兄貴、なにやってんのよ……」

「だよなぁ」

ハァ~~~~~…………

お互いに顔を見合わせてため息をついた。




「「ああああああああー!!!」」

同時に部屋の中で絶叫する俺たち。
きっと先に柚子が気づいたに違いない。

「ちょっと兄貴! なんであの本、かりんから借りたって知ってんの!?」

「えっ、いや…………たまたま今朝彼女と会ってさ……」

俺はとっさにその場を取り繕うような話を考えた。
柚子もしばらくは俺の言い訳を聞いてくれていたのだが……


「ストップ。それ嘘っぽい。」

「うぐっ!!」

「あの子が自分からそんな話するわけないでしょー!!」

「い、いや自分から言ったんだよっ」

「ウ ソ つ く な ー !!!」


どうやら俺は火に油を注いでしまったようだ。
じりじりとベッドの隅に追い詰められる。
知らないうちにコーナーに押し込まれたボクサーみたいに絶体絶命。


「何があったか全部話せ、兄貴!」


さて……どうする?

選択肢


1・ある程度話す


2・何も話さない












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