【番外編】 『月夜に輝く淫らな手』  (くノ一の奪い方 ~学園の謎~)





 その指先の動きは精妙を極めていた。

 相対して最初に言われた「痛くしませんから」という言葉を思い出す。
 こいつはとんでもない嘘つきだ。

 なぜなら、俺の心の中は現在苦しみと悔しさで溢れているのだから。
 白い手が翻るたびに、俺の腰が無様に跳ね上がる。

 肉棒をしごかれ、体液を搾り出されていく感覚。みっともない水音が耳の中に響いてくる。

「まだゆっくりですよ? いいんですか。射精(だ)しちゃっても」

「ああぁぁ、く、くそっ! ぐあああああぁぁっ!!」

 激しい動悸のあとに少しだけ遅れてやってきた体の底からこみ上げてくる衝動。
 身を任せたら破滅しかない甘い刺激に歯を食いしばって耐える。

 この相手と遭遇した瞬間、お互い無言で打ち合った。全くの互角だと思ったがそれは俺の間違いだった。
 様子見が終わってすぐに相手が加速したのだ。目で終えない速度で圧倒され、背後を取られた。

 一度目は不意打ちでキスをされ、何かを飲まされた上で、全身を手のひらで撫で回されているうちに射精。
 二度目は脱力した瞬間に何かの暗示をかけられ、ペニスをしつこくいじられているうちに爆ぜた。

 耳元で何を呟いたのかはわからないのだが、興奮が収まる気配はない。
 むしろ次の射精に備えて肉棒だけがいきり立っている。

 萎える事を許されないまま、硬さだけを主張する男の象徴に、そっと指先が添えられた。
 白い手袋を着用しているという事は、暗闇でもわかる。

 ひどくスベスベした素材で出来ている手袋だ。故に簡単には逆らえない。

 だが、もう嫌だ……こいつに、淫らな手の動きに弄ばれるのは!!


「気持ちよくなっちゃいましょう? そのあとすぐに暗示をかけてあげますから」

 あくまでもソフトな口調で女は言う。
 それは俺自身への愛撫と同じで、決して焦ることなく獲物を追い詰める効果に満ちている。

 ぴたりと照準を定めたように、細い指がクリクリと俺の感じやすい部分だけを抉り取る。
 女の指が裏スジからカリ首を丹念に調べ上げ、俺の弱点を導き出した。

「あっ、ぐ……ッ」

 声を噛み殺して悶える。
 それだけが俺のささやかな抵抗だった。



 俺は工作員だ。
 依頼者によって雇われ、この建物にある重要なものをいくつか回収しろという命令を受けている。

 この建物はいわゆる学園……学生も教員も定時になれば消えるわけで、当然夜中は誰もいない。
 申し訳程度にセキュリティシステムはあるが、無視してもいいレベルだ。

 俺の認識は間違っていなかった。ただ一点、目の前の女の存在に気づけなかった事を除けば。


「ほらぁ、また元気になってきちゃってる……」

 女の指先が翻り、窓から差し込む月明かりに照らされる。
 粘液まみれでヌラヌラと光る様子を見て俺は息を呑む。

「うあっ、はなせ、ェ……!」

 全力でもがいて抵抗するが、四肢を麻酔針のようなもので麻痺させられている俺は逃げ出すことなど出来ない。
 自害するために奥歯の薬を噛み潰す事も不可能。なぶられるしかないのだ……。


「貴方も運がないですね。どうせ狙いはアレでしょうけど……」

 スルリ、と女は手袋を脱ぎ捨てる。
 そのシルエットに俺は本能的に怯えと同時に興奮を覚えてしまう。

「誰に頼まれたんですか? 素直に教えてくださるなら私も優しくなれるのですが」

「だ、誰が言うものか!!」

「そうですか。嬉しい……♪」

 端正な顔立ちの女の顔が、質問者から拷問者へと変わってゆく……。






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