先刻まで手袋が隠されていた細い指先を、彼女がぺろりと舐め上げた。
 人差し指と中指を、下から上へゆっくりと……まるでそれがペニスであるかのように、時間をかけて赤い舌先が這う。

 その様子は男根を刺激するには充分艶かしく、俺も目を奪われてしまうほど色気があった。


「嬉しい、だと……?」

「ええ。だって――」

 口元以外はニコリともせず女は言う。
 そして自らの唾液に濡れた指先を、無造作に俺の乳首へと押し当てる。


「く、ううぅぅ……!」

「貴方が素直になれるまで、存分に本気を出せますから。ふふふ」

 熟達したくノ一は、一瞬で相手の男の性的な弱点を見抜くという。
 だがこいつは違う。自ら弱点を相手に付与してくるといったほうが適切だった。

 触れられた場所が無条件で性感帯になる、と言ってもいいくらいだ。

(乳首なんかで感じるわけが――!)

 歯を食いしばろうとしても、すぐに弛緩させられてしまう。
 手袋を脱いだ女の指先は、静かに、そして確実に快感で俺を切り裂いている。

 無意識に逃げようとした。それほどまでに心地よく、同時に恐ろしいと感じていた。
 その反応を楽しむかのように、細い指先が俺の胸板を、さらなる弱点を求めて探りまわる。

(何だこの感触は! さっきと全然違うッ)

 目の前の女が手袋を取ったという事実。
 ただそれだけのはずなのに、明らかに指の滑り方や与えられる快感が先ほどより上まわっている。

「あ、あの手袋は……うううぅっ!」

「そうです。貴方は手加減されていた。ふふふ、どうです? 屈辱的ですか」

 小さく首をかしげ、女は俺の表情を覗き込む。
 俺は何も答えない。

 しかし……

クキュッ。

「くぅぅうっ!」

「さあ、ここからが本番ですね」

 女は右手の指で乳首をつまみ、くるくると回してきた。
 左手は強めに逆の乳首をひねり上げてくる。

 ペニスには触れられていない。だが、甘い刺激と軽い痛みを同時に与えられたおかげでビクビクと痙攣し始めている。

(鎮まれ、ここは耐えるんだ……!)

 だが丹田の辺りに力を込めた瞬間、俺の乳首に与えられる左右の刺激が逆転した。


「あああああああぁっ!!」

「クスッ♪ これも成功」

 悶える俺を見て、愉快な様子で女が声を漏らす。
 俺のほうは快感の不意打ちに耐え切れず、忍耐力を一瞬で崩された無力感で意識が朦朧としてきた。


「そろそろ天国を見せてあげましょうか」

「えっ……」

 不意に、乳首へ与えられる刺激が変化した。
 両手の指先を柔らかく使い、女は慈しむように乳首を愛撫し始める。

「おちんちんもそうですけど、優しくされる方がお好みでしょう?」

「うあっ……あ、あああぁ!」

 親指で弾くように、そして時折乳首をキュッキュとついばむようなリズムに悶絶させられる。

「私に調教……いいえ、開発されて、女の子みたいな体になっちゃいましたね。さあ、こちらを向いて」

 女の顔を見ると、すぐに目と目が合った。
 余裕の表情で、常に俺の顔を覗き込むような前傾姿勢。

 通路の壁に釘打ちされたように背中を密着して、身動きが取れない俺に対して、彼女は通路側に少し尻を突き出すような格好だ。

「く、くそっ、あ……ああっ、はあぁぁぁ!」

 屈辱感を払拭しようとしても、まとわりついた指先が俺を逃がしてくれなかった。
 体をよじっても追従してくる指の動きが、ジワリジワリと俺の心を侵食してくる。

「男の人も、たぶんですけど、乳首だけでイくと気持ちいいですよ? ふふふふ」

 甘ったるい誘惑の言葉がジンジンと染み込んでくる。
 ペニスはすでに完全に復活しており、直接的な刺激を求め始めていた。

(あああぁ、挿入した……ち、違うッ! 俺は何を望んでるんだ!?)

 首を振って抗うも、女からの責めは止まらない。
 丁寧に舐られた乳首は、感覚が研ぎ澄まされて、さらに敏感に成り果てていた。

「無駄な我慢をできなくしちゃいましょう」

 女が顔を寄せ、手元にトロリとした唾液を流しこむ。亀頭付近がますます滑らかになって、指先が絡みついてくる。
 逃れようがなかった。

(ああああっ、これれええ!? 気持ちいい、気持ちいいイイイィィ~~!!)

 まさに蕩けるような手淫。その凶悪で甘美な刺激は、今の俺には回避不可能。
 やがて俺はズルズルと、背中を通路の壁に滑らせるようにして腰を抜かしてしまった。

「はい」

 すると、頭上から声を浴びるのと同時に、俺の頭に小さな布キレがかぶせられた。
 それはほのかに暖かくて、柔らかくて……


「私のショーツを差し上げます。脱ぎたてですよ」

「っ!?」

 驚いて見上げると下着を脱ぎ去った女の姿があった。
 ほっそりとした両脚が目の前にある。その秘所からは、わずかに雫が滴っているようだ。

「わかっていただけたと思いますが……私の指だけで、貴方を廃人にする事も可能です」

 その言葉は否定できない。
 こいつの指先が魔性の快楽を生み出す事は、俺自身の体で実証済みだ。

(自分の実力を相手に見せ付けた上での尋問か。だからと言って屈するわけには……!)

 わずかに残るプライドをかき集め、俺は抵抗の意志を固める。

 そこで女は少しだけ頬を赤らめて、声を小さくした。


「ですが、そのエッチな声を聞かされていたら私のほうが興奮してきちゃいました……だから今から貴方を犯します」

「なっ……」

 困惑する俺。しかし、すっかり焦らされた肉棒は女の発した言葉を受けて大きく打ち震えてしまった。






次へ 


















※このサイトに登場するキャラクター、設定等は全て架空の存在です
【無断転載禁止】

Copyright(C) 2007 欲望の塔 All Rights Reserved.