『快楽の繭』




大学生として生活を始めてからまだ二週間くらいしか経っていない。

それなのに僕は……


「ああ、真由ちゃん、まゆ、まゆちゃ――うあああぁぁっ!」

ベッドの上でガクガク震え出しながら快感の濁流に巻き込まれる。

愛しい人の名前を呼びながら絶頂、そして脱力。

これでもう4回目になる……
彼女を思うだけですぐに達してしまう。
まるで体がそうなるように改造されてしまったみたいに。

頭の天辺から足の指まで身動きができなくなるほど痺れきってしまう。
たった一人の女子に心を奪われてしまった結果、ティッシュの消費量がヤバイことになってる。

スマホのカメラで隠し撮りした一枚の画像を見つめる。

画面で微笑んでいるのは箕村真由……大学付属の学園に通う女の子だった。







可憐な学園制服に身を包み、仲間たちと一緒に並んで歩く彼女を見かけたのは数日前のこと。
大学の講義も終わって帰宅途中の出来事だった。



「ウサギと亀」に出てくる亀のように、のろのろ歩いていた僕を女子校生の一団が追い抜いていった。
こういう時の自分は、黒髪ロングの子に自然と目が行ってしまう。


(そっか、付属の女の子が毎日見られるんだっけ。ちょっとラッキーかも)

はじめはその程度にしか考えていなかった。

大学に入って気づいたのは、絶対的に女子の数が少ないということ。
工学部だから仕方ないとはいえ毎日男の顔ばかり見ていても飽きる。

男だらけの学生生活にため息を吐いた僕の目に飛び込んできたのが彼女だった。

さっきの一瞬で、横顔しか確認できなかったけど、きっと美少女に違いない。


(ただ自分との接点は生まれないだろうな……)

そんなことを考えていた時、黒髪ロングの女の子が手にした鞄から何かが道路に落ちた。
友人たちとの会話に夢中らしく落としたこと全く気づいていない。

後ろを歩いていた僕は鞄から落ちたものを手にとって、その姿勢の良い背中に声をかけた。


「ちょっと! これ、落ちましたよ!」

勇気を出して大きめの声を出すと、彼女たちの足がピタリと止まった。
くるりと振り返った少女は不思議そうな顔でこちらを見ている。



(あっ……遠くで見ていたよりも断然可愛い! この子……)

ツヤツヤの黒髪と大きな瞳。
全体的に優しげな雰囲気の表情と、雑誌のモデルみたいに背筋を伸ばした姿勢の良さから健康的な色気も伺える。

単純に僕の好みだということを差し引いても、誰でも見とれてしまうレベルといっても差し支え無いだろう。


「ありがとうございます!」




僕が手渡したハンドタオルを受け取った彼女は丁寧にお辞儀をした。

飛び切りの笑顔に心を奪われた瞬間から僕は彼女の信者になった。


彼女の周囲にいた女の子たちがクスクス笑っていることも気にならないほどに。





帰宅した僕はズボンのポケットから小さな手帳を取り出した。

それは付属学園の生徒手帳だった。
パラパラと開いてみると、綺麗な字で女子生徒の名前が描かれていた。


「なんて読むんだろこれ……みのむらまゆ、でいいのかな?」

じつはさっき彼女に返したタオルの他にこの手帳も拾得物の一つだった。
タオルはともかくこの手帳の中身に対する僕の好奇心が打ち勝った結果、現在手元にあるわけだが……

「罪悪感が半端ないな……」

軽く後悔していた。
それほど悪意はなかったとはいえ、これは良くないことだ。

その時の僕は、明日にでも付属学園の事務室に届けておこうと考えていた。


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