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『快楽の繭』




 突然二人の距離がゼロに近くなる。
 絹糸のような髪が僕の頬にふれてくすぐったい。


「ちょ、いきなり……駄目だよ! やめて真由ちゃん!!」

「やめません。やっぱり見たんですね、私の名前」

 思わず彼女の名を呼んでしまう。
 証拠を掴んだという表情で彼女が責める。


「ぁあっ……でもそれは、偶然というか……」

「偶然? それでもしっかりと覚えているのね」

 取り繕うつもりが逆に不信感を広げてしまう。
 慌てふためく僕を楽しそうに眺める彼女。

 それからの数秒間、口角を上げ、妖しい笑みを浮かべながら僕の目を覗き込んで……まるで視姦されているような気分だった。


「じゃあ他のことも記憶してる可能性だって充分ありますよね」

 ポツリと彼女が呟く。
 そして制服のポケットからなにか小さな瓶を取り出した。


「困るんです本当に。だから……ここから先は貴方の口を封じるために手段は選びません」

キュッ……

 瓶の蓋を緩め、僕をじっと見つめながら中身を口に含む。
 その様子を黙ってみていることしかできない。


「んっ……♪」

「!!!!」

 一口だけ含んだ液体を、彼女が突然口移しで僕に飲ませてきた!

コクン……

 花のような香りの唇と、少しだけ苦い液体。
 僕は訳もわからずそれらを同時に味わうことになる。

 ご丁寧に手のひらで僕の顎を上げて、喉を一直線にしてから舌先で唇をこじ開けてきたのだ。

 なすがままに飲まされた液体に不信感を抱く前に、真由との突然のキスで気が動転してしまった。


「いったい何を……!」

「すぐに効いてきますから」

 そう言いながら彼女は両手で僕の手首を押さえつけた。

 体重がかけられて軽い痛みを覚えた僕は、その細腕による拘束を振り払おうとしたのだが……


「あ、あれ……、あっ、え!?」

「ふふ、逃しません」

 手足に力が入らない。

 どう考えても僕より体重の軽い女子校生に抵抗できずに抑えこまれてる……


すっ……


 彼女の力が弱くなる。それでも僕は動けない。
 口移しされた液体のせいで体がだるい。急な発熱にうなされたように呼吸もおかしい。

 身動きができずにピクピクしている僕の体を抱き起こしてから、彼女が背中に回る。
 そして思い切り抱きしめられた。

「あっ……」

 甘酸っぱい彼女の体臭と、フワフワのバストを背中に感じる。
 細身なのに結構大きいんだ……

「もうビンビンね……」

 耳元で彼女が笑うと同時に、荒っぽくシャツのボタンが弾き飛ばされた。


「うああああっ!!」

 胸の辺りを無理やりむき出しにされ、もがこうとする僕を彼女がやんわりと押さえつける。
 
 さらに魅せつけるように、僕の目の前で真っ白な手のひらを開いてみせた。

 ゆっくりと右手と左手の人差し指が僕の乳首に近づいてくる。


「……してあげる」

 真由の声がじわりと頭の中に染みこんできた気がした。


クリュッ

「あっ……!」

 指先が滑り、僕の乳首を優しくこね回す。

クニュッ、クニュ……コリコリコリ……

「うっ、ん……ぅ!」

 今まで味わったことのない感覚だった。

 真由の細い指が小刻みに揺れる。
 僕の体もそれにつられて痙攣する。

 真由の指が乳首をつまむと、ぴりっと小さな電流を流されたみたいに背筋がゾクゾクした。


「男の人でも感じちゃうでしょ? 乳首……」

 甘い声で彼女が僕を恥ずかしくさせる。

 女の子に背中を抱かれたまま乳首を愛撫されるのがこんなに気持ちいいなんて!


コリュッ、コリコリコリ……

「あぁぁ……そんな!」

 少し爪を立てられた途端、ペニスがビクンと大きく震えた。

「下半身が切ないですか? 触って欲しい?」

「くっ……」

 自分でもわかる。
 パンツの中はもうグシャグシャになってる。

 乳首責めで濡らされたペニスの先を触って欲しくてたまらない。
 今ならすぐにイけるのに……

 しかし彼女は乳首だけを念入りに責め嬲ってくる。
 時々指先で肋骨の間をツツツー……っとなぞったり、耳の穴に息を吹きかけたりしながら。

 しかもさっきよりも頭がボーッとしてきて、何も考えられない。




 その時彼女が低い声で囁いた。


「ねえ、今から貴方は真由の名前しか呼べない……」

「名前しか呼べない……」


「真由の名を口にすると感じる体になっちゃうの……」

「ううぅ……」


「呼んでみて? 真由、って」

「まゆ……うあっ! あ、ああああ、真由ぅ!」

ビュクッ!!

 不思議な事に彼女の言う通りの現象が起きた。
 ペニスには一切触れられてないのに、射精と同じような快感が僕を包み込む。


(心が……イかされたんだ……ぁ……)

 静かに僕はそう悟った。
 乳首責めと彼女の名前を連動させることで、通常よりも深い快楽を与えられたのだ。


 ボンヤリと歪む視界の中、背中を抱きしめた彼女がゆっくりと左足を伸ばしてきたのが見える。


「まだイってないですよね?」

くにゅ……


「はうううううぅっ!!」

 ハイソックスに包まれたかかとの先で、彼女は僕の股間を軽く押してきたのだ。


「あっ、ああっ、もっとおおおぉぉ! まゆっ、真由うううぅぅ!!」

 腕の中でジタバタしようとする僕を巧みに押さえつけながら、真由は変わらぬ口調で囁き続ける。


「もう一度私の名前を口にしながら果ててください……貴方の頭の中にある余計なものを全て私の名前に置き換える儀式ですから……ほら、もう限界でしょう? 軽く触れただけなのに恥ずかしいですね」

 僕を責めながら彼女が笑う。

 背中から回された指先がしつこく何度も乳首をこね回し、軽くひっかきながら僕を追い詰める。


 クリクリクリクリ……コリュッ!

「あっ、あああっ、イくうううううっ~~~~~~~~~~~!」

 そして右手の人差指が強めに乳首を弾いた瞬間、ついに僕は爆ぜた。

 ガクガクと体を震わせ、ズボンの中を真っ白に染め上げる様子を彼女は笑いを殺しながら観察していた。



「はぁっ、はぁっ、はぁ……!」

 ぐったりと動かなくなった僕を抱きしめながら真由が腕を伸ばして何かのボタンを押した。

 いつの間にか僕の右側に置かれていた小さめのビデオカメラのスイッチを切ったのだ。


「これは預かっておきますね。今日のことを口外したら大学にいられなくなると思いますよ?」

 髪型や衣服の乱れを直しながら彼女が言った。

 そしてまだ快感の沼から這い上がれない僕に背を向けて帰り支度を始めた。


「真由……ああぁぁ……!」

 名前を呼ぶだけで背筋に快感が蘇る。
 その様子を見た彼女が鼻で笑った。

 名前を呼んでも振り向いてくれない女神がドアノブに手をかけた。


カシャ……

 僕は気絶する直前に彼女の後ろ姿にスマホのカメラを向けた。



(了)


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