『碧い時間』
何気なく立ち寄った店がまさかの本格派だった場合、貴方はどんな感想を抱くだろうか。
料理店ならその出されたものに舌鼓をうち、美味しさに唸ることだろう。
書店なら快適さに時間を忘れ、閉店まで滞在するかもしれない。
だがここは都内の雑居ビルの一室にある怪しげなマッサージ店。
薄暗く階段も急だし、お世辞にも立派な設備とは言いがたい。
店のドアをくぐれば怪しげなフロント……愛想はいいが目が笑っていない。
さしずめ奴隷商人といったところか。
「お客さん初めてネ! 60分5000円でいいヨ」
「60分で5000円? それはちょっと……」
「気に入らなかったらお金全部返すヨ!」
安すぎる、と言おうとしたのだが相手は違う方に解釈したらしい。
とにかく男に紙幣を渡す。
すると別の案内人が奥の方からやってきて、私を部屋に案内した。
女の子を選ぶためのカタログなどは存在しない店。この時点で普通なら大ハズレ確定なのだが――、
「や、やあ……」
私の声が少し震えて小さな部屋に響き渡る。
自分でもわかるほど緊張してる。
それでもこちらが挨拶すればニッコリと微笑んでくれる美少女。
目の前に居るのは間違いなく特級品。
名前はローラというらしい。
モデルとして雑誌やテレビに出ていても問題ないレベルの造形。
しかも目がラムネの瓶みたいに青い。
日本人でないことは明白だが、それよりも気になるのが年齢が確実に一回り以上離れているだろうということだ。
私はロリコン趣味ではない。
だがそれすら怪しくなってしまうほど少女は魅力的だった。
手足は伸びきっている。
だが、もしかしたら未成年かもしれない。
いや、やはりわからない……異国の少女の年齢を正しく把握する手段はないのだ。
案内してくれた男が言うには、エステティシャンは全員成人済みだという。
もう一度目の前の美少女を見る。
サラサラとした肩より少しだけ長い金色の髪。
薄い緑色をしたキャミソールから覗く白い肌。
大きさはそれなりだがふんわりとした曲線を描くバストと、抱きしめたくなるようなクビレ。
キャミの裾からちらりと見え隠れする控えめなおへそ。
半透明の白いレースのスカートは、そこから伸びたほっそりとした脚をより慎ましく見せている。
そんなお世辞抜きで妖精のような女の子が私のお腹の上にちょこんと座っているのだ。
部屋に入ってすぐ、少女は私に体を寄せてきた。
ぼんやりとした部屋の明かりの中にくっきりと存在感を示す美少女。
そのミスマッチと甘いお香の匂いに酔わされたのか、私は少女に押されるようにしてベッドに腰を掛けてしまった。
心地よい重みが私の上にのしかかり、部屋のお香よりも甘い髪の香りが感覚を麻痺させる。
気づいた時には全裸にされ、ベッドの上で大の字にされていたのだ。
「~~~?」
小さな唇が動いて言葉を発するけど、かろうじて聞き取れたのは最後の「クスッ」という吐息だけだ。
でもそれ以上に彼女の表情が雄弁に物語っている。
『おにいさんのこと、犯してもいいの?』と。
逃げようと思えば逃げられる。拒絶するなら今のうちだ。それなのに抵抗する気持ちにならない。
私は黙って頷いた。
そしてそれだけで通じてしまった。
「オーケィ♪」
ああ、それならわかる……と理解したのと同時に、私の上で美しい妖精が体を前に倒してきた。
唇が優しく触れ合う頃には、店の男が言っていた『気に入らなかったらお金全部返すヨ!』などという言葉は完全に私の中から消え失せていた。
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