目の前の卓上カレンダーをパタパタとめくってみる。
 そんな事をしても問題は解決しないというのに。

「いくらなんでも長すぎる……僕の休みはどうなるんだよこれ」

 今月最後の日、僕は自室で頭を抱えていた。正確に言えば今日が今月最後の休みの日という事になる。
 サラリーマンにありがちな、急な出張。明日から遠方、それも月をまたいでの二週間だ。

 僕の勤務先にとって、働き改革だとか、プレミアムナントカなんて関係ないんだ。


「まとまった休みが欲しいなぁ~」

 そんなことを口に出して、大きく伸びをした瞬間だった。


「……おにいちゃん、お休みもらえないの?」

 右斜め後ろから、控えめで聞きなれた声を浴びせらた。
 慌てて振り向いたせいで椅子がギシッときしむ。

 部屋の壁に寄りかかっていたのは、おとなりさんの娘・絢ちゃんだった。
 僕より年下で、すらりとした体をした可愛らしい女の子。

 胸より長いであろう髪を、頭の上のほうでまとめてポニーテールにして、今日は肩に大きなリボンの飾りがある黒いTシャツを着ていた。
 白と緑のチェック柄のミニスカートと、定番の黒いサイハイソックスも似合ってる。

 もともと可愛らしい子だと思っていたけど、去年の秋ごろから急に身長も伸びて女の子らしさが増した。
 おそらく彼女の通う学園でも、確実に上位に入る可愛らしさだろう。

「あっ、絢ちゃん!? いつからそこに……」

 僕の質問に、彼女は困ったような表情で答える。

「ん~、もう五分くらい経つんじゃないかな。おにいちゃん、ずっと難しい顔して唸ってたから声かけられなかったの」

「そっか……ごめんね」

 立ち上がった僕は、綺麗に整えられた彼女の髪を、優しく何度か撫でてあげた。
 すると、嬉しそうに目を細めながら、真っ黒で大きな瞳で僕を見つめ返してきた。


「ところでおにいちゃん、絢との約束を忘れてな~い?」

「えっ」


「あ、やっぱりそうなんだ……あのね、今日は遊んでくれるって言ってたでしょー!」

 ぷくっと膨らむほっぺをみながら僕は思い出す。そういえば映画に誘われていた。
 先週から公開されているはずのアニメだったと思うけど、仕事が月末スペシャルすぎてすっかり忘れていた。

(そうか、だからお出かけ用の格好をしてるんだ)

 対する僕は部屋着でボロボロのスタイルだ。
 美少女のちょっとしたオシャレモードと比べて、情けないほどの準備不足というしかない。


「あの、んーっと……また今度じゃダメ、ですか……?」

「イヤ」


「でも今日はもう、午後だし……僕が出張から帰ってきたら必ず相手す――」

「絶対イヤ!」

 絢ちゃんが、プイッと横を向く。
 細い指先がスカートの端っこをキュッと握り締めている。

 休日の約束は後回し厳禁、確実な履行が常識ですか。そうですよね。


「絢ちゃん、僕はまだこんな格好だしちょっと時間がかかるかもしれないよ」

「じゃあ、お部屋でこのままえっちばとるしよ! そのあとで着替えればいいと思うよ!」


「なっ!」

 えっちばとる、というのは……まだ何も知らなかった彼女に、僕がイタズラで教えた性的遊戯だ。

 相手の気持ちいいところを探り当てて、降参させるだけのイカせっこ。
 最初は嫌がるかと思ったけど、ことのほか彼女はご執心で、回を増すごとにエッチが上達していった。

 しかも相手はこんな美少女だ。僕も行為自体は嫌いではないのだが――、


「それはダメだよ、絢ちゃん……下にほら、お母さん達が居るじゃない? 絶対無理だから」

「おかーさんいないよ。なに言ってるの?」


「嘘だっ!?」

「絢のおかーさん、ちょっと前におにーちゃんのママと一緒に出かけていったの。夕方まで帰ってこないって。それを伝えにここまできたの」

 時計を見れば、なるほど……うちの母さん達が出かけそうな時間ではある。
 僕のケータイのメールにも着信があることに気づいた。
 その内容は、絢ちゃんの正しさを裏付けていた。

「だからさ、しよ……?」

 ふいに背中を抱きしめられた。
 細い腕が僕の脇の下をくぐって、彼女の手のひらが胸の辺りを撫で回す。

「掴まえたよ、おにいちゃん♪」

「うぅっ、そんなことしちゃだめだよ絢ちゃ……」

 白い指が妖しく動き、乳首をコリコリと刺激してくる。
 それを何度か繰り返されると徐々に力が抜けていく。膝に力が入らず、呼吸も荒くなってしまう。
 絢ちゃんの体の温度を感じながら、僕はゆっくりと膝をつく。

「はぁ、はぁ……」

「絢とばとるして、おにーちゃんが勝てたらぁ、今日はおとなしく帰ってあげる」

 床に両膝をついた僕を見下ろしながら、絢ちゃんが耳元でささやく。
 そよ風のような少女の吐息と甘い言葉に耳をくすぐられ、背筋がゾクゾクしてくる。

「ぼ、僕が勝てたら……?」

「うん! 約束するよ~」

 元気よくうなづいてから、僕を見つめながら彼女は口元に手を当てて、小さく笑った。

(まあ、そんなに簡単には勝てないんだけどね? クスクスッ)





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