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僕の名前は小林正太(こばやししょうた)。この白鳥学園の3年生だ。
部活はバレーボール部に所属している。現在部員は8名しかいない。人数こそ少ないけれど、皆で毎日仲良く活動している。
県大会に優勝して、関東大会に出るのが僕達の目標だ
試合や練習の事を考えると、あと4人は欲しいところだけど……うちの学園は元々女子高だったから男子の数が圧倒的に少ない。
僕が一応キャプテンを務めている。
ポジションはセンターだけど、身長は情けないことに170センチに満たない……少なくともあと10センチは欲しいと思ってる。
ある日の放課後、僕達男子バレー部は体育館で準備運動をしていた。
今日もこれから練習を始めるわけだが、その前に清掃をしなければならない。
これには学年など関係ない。3年生だからと言って楽できるわけもなく、
部員全員でコート全体をモップ掛けするのだ。
そしてコート内の清掃を終え、ネットを張るためのロープを締めなおしたところで、女子バレー部の広瀬奈緒(ひろせなお)が僕に声をかけてきた。
「ねえ、男子の部長さん! あたし達とゲームしない? 試合形式でさ」
少し鼻にかかった声に、モップがけの手を止めた。
彼女はニコニコしながら僕の方を向いている。
フワリとした短めの髪が、僕の1メートルぐらい前で揺れている。
「なんだよ広瀬、いきなり……」
広瀬は女子バレー部の中でも、愛嬌があって可愛らしい顔立ちをしているという事で、男子バレー部だけでなくファンが多いらしい。
こんな風に、部長である僕に向っても普通に話しかけてくる。
胸はそれほど大きくないみたいだが、ほっそりとしたスタイルをしている。
身長は僕より低くて、ポジションはライトだ。
「こっちは今から練習なの! だから、お前ら女子と遊んでる暇は無い」
「そんなこと言って、本当は怖いんじゃないの~?」
「……どういう意味?」
軽い嘲笑を含んだ言葉に、僕の後ろにいた部員たちが言葉を失う。
広瀬が意味深な笑みを浮かべた。
「別にィ……ただ、男子バレー部が女子に負けたら、悔しいんじゃないかなぁって思ったの!」
「あのなあ広瀬、練習前の僕達にわざわざ喧嘩を売りにきたのか?」
「やだぁ! そんなに怖い顔しちゃって」
女子バレー部は、この体育館の半分を使って練習している。
学園の部活動の中でも昔から人気があり、男子と違って大所帯だ。
だからコートが使えない間、僕達とゲーム形式で対戦したいということだろうか。
「ねえ、やろうよゲーム! それとも女の子からの挑戦を逃げちゃう?」
冷静に考えれば悪い提案ではないのだが、それにしても言い方というものがあるだろう……僕が広瀬に説教を始めようとした時だった。
「まあまあ、どうされたのです?」
広瀬と僕の間に険悪な雰囲気が流れたのを察してか、上品な声が割り込んできた。
この声の主は白鳥静香(しらとりしずか)。
生徒会長であり、女子バレー部のキャプテン兼部長である。
静香は真っ黒な長い髪を後ろで一つに束ね、穏やかな口調で僕達を見つめている。
彼女の性格は冷静沈着。女子部員からも頼られる存在だという。
広瀬と違って胸も……かなり大きい。
身長は僕とほとんど変わらない。
女子の中でも身長は高いほうだと思う。
ポジションは僕と同じレフトだ。
「男子の部長さん、ごめんなさいね。奈緒には後で良く言い聞かせますから……この場は怒りを納めてください。お願いします」
僕が怒り出すよりも早く、静香が頭を深々と下げた。
こんな風にされたら、僕もこれ以上事を荒立てるわけには行かない。
彼女とは同じクラスだし、何より相手は生徒会長だ。
「……わかったよ」
その言葉を聞いて、静香は軽く微笑んでから背を向けた。
広瀬は不満そうに僕を見つめてからペロッと舌を出した。
(下級生のクセに生意気な奴だ……!)
あのまま広瀬の言う「ゲーム」とやらを受けて、ボコボコにしてやっても良かったのかもしれない。
こうなると一度きついお灸を据えてやりたくなる。
だが、そんな気持ちを押し殺そうとしている僕の耳に静香の声が飛び込んできた。
「あんな言い方をしては駄目でしょう、奈緒?」
数メートル先、体育館を仕切るネットの向こうで静香が広瀬を叱っている。
「だって部長! あたし達が本気を出せば男子だって簡単に!!」
「……たとえそれが事実だとしても、です。どんなに強がっても男の子は脆いのですよ」
こちらに背を向けた静香の口から、そんな言葉が聞こえたような気がした。
(気のせいか? いや違う……彼女は、彼女達は明らかに僕達を下に見ている!)
頭の中が混乱する。
広瀬と僕の衝突を避けるために、静香は頭を下げたのではなかったのか?
(だとしたら、さっきの謝りは何だったんだ……芝居だったのか?)
たった一言の、慇懃無礼な言葉に隠された男子バレー部への侮蔑。
それを感じ取った僕は女子が練習しているネットの向こう側へ歩き始めていた。
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