『分け身』 第3話





 真っ二つに割れた球体から美少女が出てきた。いや、サキュバスか。
 一般的なイメージよりも胸のサイズが控えめすぎるのだが。

「ちょ、なんでいきなり失礼なこと言われてるのです? 私」
「事実を述べたまでだ。最低でもEカップ以上希望」
「むーーーーーーーーーーっ!!」

 悔しそうに胸を押さえつつ、膨れた顔はそれなりに可愛い。
 紗希ちゃんと同じく、茶色の綺麗な髪。目の色はなんとなく青っぽくて、細い手足。
 裸じゃないところが嘘っぽいが、こちらで服を用意しなくて済む点は助かる。
 それにどうみても紗希ちゃんより年下……高校生未満に見えるんだが。

「これから育つのか」
「なんのことです?」
「まあいい……お前の名前は?」
「貴方がつけて。ニンゲンはそういうの得意でしょ」

 微妙に不機嫌顔のまま彼女が言う。
 ゲームキャラの名前を作成するように安易につけていいものではないだろう。
 しかし呼び名がないのは不便なので適当に名づける。

「では『ドレインちゃん』でどうだ! サキュバスらしく」
「いやっ! ぜんぜん可愛くない」
「むぅ、まだ真名を告げる気にならないのか。これは親愛度を上げねば」
「親愛度とかシンメイってなに!?」
「ああこっちの話だ。気にするな」

 即座に却下された。そりゃそうか。

「じゃあ、レインでどうだ?」
「れいん……雨?」
「そこまで深くは考えてないが」
「えへへ、雨かぁ……うん、悪くない! 気に入ったかも」

 あ、笑顔はスゲー可愛い。
 不覚にも見とれてしまうほどに。

 女の子らしく胸に手を当てて、レインは嬉しそうに微笑んでいる。

「じゃあレイン。早速だが、フェラしてくれ」
「いやです」
「なぜに!?」
「えっちは得意ではないです」

 こちらをじっと見つめて、口を尖らせるように彼女は言う。
 ほんの少しだけ頬を赤く染めながら。

「レインお前、サキュバスだよな? エッチが得意じゃないとか許されないぞ。特に逆転とか駄目だ」
「何を言ってるです? サキュバス勘違いしてないですか貴方」
「勘違いしてない! 紗希ちゃんだっておとなしそうに見えてすごかったし、きっとお前だって――」

 俺がそこまで言うと、レインは急に体を密着させてきた。

「ぅおっ……」
「本当に得意ではないのです。でも、こうやって――」

 特に強く押されたわけでもないのに、俺は背中を壁に預けた体勢で彼女の体を受け止めていた。
 ほんのり暖かくて、細くて柔らかい女の子。それだけなのにとても幸せな気持ちだ。
 鼻の先をくすぐるのは彼女の髪の香りだった。

「体をくっつけたり、優しくされるのは好きで……頭、撫でてもらえます?」
「こ、こうすればいいのか?」
「はい。すごく上手♪」

 ゼロ距離からの上目遣い、そして俺好みの笑顔。
 何もエロい事をされてるわけじゃないのに……駄目だ、どんどん胸が苦しくなる。
 抱きしめてるだけでレインのことが好きになる。

「あ、ああぁぁ……」
「愛情感じちゃうと、こっちもお返ししてあげたいなーって思います」

 レインの手のひらが俺の背中にまわって、さわさわと体を撫で回してる。
 正面から抱きつかれ、グイグイと体を押し付けられる。
 それだけのことで、ますます彼女という存在を味わうことになり、俺は魅了されたように頭の中がぼんやりとしてきた。

「さっきも言ったけど、えっちは得意じゃないです。でも、得意じゃなくても……いいですか?」
「そ、それはどういう意味?」
「……少しだけなら、頑張りますよ。私を呼び出してくれた貴方のために」

 恥ずかしそうに告げてから、レインの身体がそっと離れた。
 そして彼女はゆっくりと服を脱ぎ始めた。

「うふふ……恥ずかしいから見つめないで下さい」
「いや、それは、無理だ……綺麗すぎる」

 真っ白な陶器のような肌と、青っぽい瞳の組み合わせは見事だった。
 上半身が裸になる。
 控えめに見えた胸は予想以上に大きかった。
 ショートパンツとショーツが床に落ちる。
 白くて長い脚は、もしも絡みつかれたらそのまま射精してしまうのででないかというほど色気が滲んでいる。
 彼女に対する、俺の失礼な第一印象はすべて吹っ飛んだ。

 そんな気持ちがきっと彼女にも伝わったのだろう。
 見蕩れる俺に向かってレインがにっこりと微笑む。

「さっきより少しだけ、貴方が好きになりました。だから……っ♪」

ちゅっ……ちゅ、うぅ……

 とびきりの美少女に体を預けられつつ、キスをされる。
 それだけで俺は射精してしまった。

 さっき俺が妄想した、勝手なサキュバスのイメージなど生ぬるいものだった。
 本当のサキュバスは……たった一度のキスと、その前の恥らう仕草だけで完全に俺の心を掌握したのだから。



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