『分け身』 第2話
「さっきより少し大きくなってないか?」
自分の部屋に戻った俺は、親友の彼女である紗希ちゃんから貰った球体を眺めている。
生物のタマゴと呼ぶには無機質で、握り締めると不思議な弾力が生じる物体。
それを手のひらで弄びながら、さっきのキスを思い出していた。
「ちょっとうぶな感じで可愛かったな、彼女……それにしてもサキュバスってあんなに穏やかな――」
そう、穏やかなイメージしか残っていないのだ。
ただ冷静に思い出してみると自分の彼氏がいるところで躊躇いなく他の男の唇を奪ってきたビッチなのだ。
しかもねっとりと甘く、病み付きになりそうな口付けだった……気がする。
その辺りが何故か曖昧で、自分でも歯がゆいのだ。
記憶を封印されたような感覚とでも表現すればよいだろうか。
「訂正。充分凶悪だったな、うん。ただ自分の想像とは違ったと言うだけだ。だいたいサキュバスっていうのは……」
俺は目を閉じて、自分の頭の中にサキュバスのあるべき姿を思い浮かべてみた。
・・・・・・
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目を開くと、薄暗い部屋で俺は冷たく硬い台の上に横たわっていた。
光をほとんど感じない部屋の中で、もっとも深い闇の中からスルリと美女が現れた。
「呼んでくれてありがと♪」
それはまさに背筋がゾクゾクするような声だった。
妖艶という言葉では足りず、たった一声で耳の奥まで舐められたような気分になってしまう。
本能的な危険を感じて逃げ出そうとするが、身体は何か見えない力で拘束されている。
「あああっ、なっ! 動けない、身体が……なんで!?」
「あらあら、当然じゃない。餌を逃がすほど愚かじゃなくってよ?」
ぴちゃり、と何かヌルついた生暖かいものが俺の左足に絡み付いてきた。
長い鞭かロープのようなものが蛇のようにするすると膝から太ももの付け根まで巻きついてくる!
(尻尾だ……これはサキュバスの、尻尾だ!)
戸惑う自分の頭を整理する前に女は次の行動に出る。
ひんやりとした指先で俺の乳首を弄びだしたのだ。
呆れるほど淫らで、男の感じるポイントを知り尽くした指だ。爪の先で軽く引っかくようにしつつ、乳首の芯をコリコリと撫で回す。
俺はそのたびに喘ぐ。いつの間にか服が脱がされていたことなど気にならなくなるほど狡猾な動きだった。
「うあっ、ああああぁ!」
「たっぷり味わいなさい。ニンゲンではたどり着けない性技の極みを」
その女は直感的に人外だと感じさせるのに充分なものを備えていた。
ぼんやりと淡い光を全身から放ち、ピンク色の瞳で俺を見つめているのだ。
彼女の身体は闇から生じたはずなのに、シルエットがくっきりと目に浮かぶようだった。
くちゅっ、くちゅっちゅ……
「ひうううっ!」
乳首を弄ぶのとは異なる刺激が、突然股間を駆け抜ける。
左足に巻きついている何かがそのままペニスまで絡みついて、細かく振動し始めたのだ。
しかも念入りに、先端だけを細い何かで突き刺してくるような……自在に動かせるサキュバスの尻尾の先で、クニュクニュと弄ばれているビジョンが頭の中に浮かび上がる。
俺のペニスは視覚と触覚、それに耳に残る彼女の声のおかげで既に完全に勃起してしまった。
「あらぁ? まだ手技も使ってないのにねぇ……ふふふっ」
「嘘だ!チンコをあんなにこね回して――」
「あれは私の可愛い尻尾よ」
やはり尻尾! そして俺は、彼女の言うように乳首を弄ばれているだけなのだろう。
尻尾での愛撫など技のうちにはカウントしないとサキュバスは言っているのだ。
「なんだかもうイっちゃいそうね?」
「うあっ、ああああ!」
「あらあら、早漏クンくせに私を呼んじゃうなんて、おばかさん♪」
蔑むように言い放ってから、サキュバスは尻尾での愛撫を中断した。
そしてふわりと手のひらで亀頭を包み込んでから、指と指の間でカリ首を挟みこんできた。
クニュッ、クニュ、クチュウウ!
「ほらほらほら♪」
「くッ、あっ、ああああぁ、なんだよこれ!」
「手コキだけで何度でも果てるといいわ。それっ」
細い指が踊るように、カリ首をリズミカルに締め付けながら上下する。
その動きに合わせて俺の腰が自然と躍動し、数秒後にはブリッジをするように反り返ってしまう。
サキュバスの爪がほんの少し、強めに裏筋を引っかいた途端、
ドピュドピュドピュウウウウウウウ!!
「んああああああああああああっ!」
「あはっ、手の中でドクドクいっちゃってる。でもまだよ」
文字通り瞬殺されてヒクついたままのペニスを、サキュバスの手のひらが包み込む。
すると不思議な事にあっという間に硬さが復活し、彼女の手の中に残った肉棒が快感を求めて震えだす。
「ああああ、なんでこんな! イったばかりなのにっ」
「ほ~ら、すぐにサラサラになったでしょ? 何度でも新鮮な感触を味わいなさい」
シュルッ、シュッシュッシュ……
今度は指先ではなく、手のひらのくぼみで亀頭を包み込んでから手首を回転させてきた。
「ああっ、あっ、ああああ!」
「すぐにイけるわよ。ほら出しなさい」
ビュルッ、ビュルルル!
「んー、まだ出し切ってない? じゃあ、はいっ」
サキュバスは人差し指で横から亀頭をピンッと弾いて見せた。
軽い痛みが絶妙な刺激となって、俺はまたもや射精してしまう。
ビュッ!
少量ではあるが確実に精を放ってしまった。
完全に弄ばれている悔しさも相当なものだが、それ以上に体中が彼女に与えられる快感に支配されつつあるのが恐ろしい。
「は~い、これで三度目。今度はもっと細かく連射させてあげるわ。気持ちいいのが小刻みにやってくるの。素敵でしょう?」
今度は両手でペニスを握り、やわやわと揉みしだきはじめる。
すると硬さが復活しただけではなく、性感もリセットされたように感じた。
だからといって体力が戻ったわけではないので、けだるさで手足を動かすことができないまま俺は彼女に弄ばれてしまう。
やがて数十秒後、サキュバスは両手の人差し指と親指で輪を作り、カリ首と根元を強く締め上げた。
特に根元は痛みを感じるほど強めに締め付けられた。
「さあいくわよ」
キュッキュッキュッキュ……
「ぐっ、ああ、あああっ! ふああああ!」
サキュバスは根元の締め付けを緩めながら、亀頭を重点的に刺激してくる。
身体の奥から噴出そうとする精液をコントロールしながら、亀頭に送り込んでいるのだ。
快感と共に痛みを感じながらも、やがて俺はその技に……屈した。
ピュルッ、ピュッ、ドピュ……
「あああぁ、出て、る……出てるのに、な、なんで……まだ出るッ!?」
「ふふふ、止まらない? 不思議ねぇ。なんでかしら」
困惑する俺をニヤニヤした顔で見つめながら、サキュバスの指技は続く。
そして十数回目の射精を経て、焦点が合わなくなった俺の目を覗き込んで彼女はこう言った。
「もう完全に壊れちゃったよ。坊やのおちんちん♪」
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・・
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・・・・・・
「こ、怖い!」
聴きなれない声がしたので俺は目を開いた。
すると部屋の窓際で、一人の少女が小さく震えていた。
「……あの、誰?」
「はぁ、それ聞いちゃいます!? あんなに強く念じて、激しく求めてきたくせに!!」
「求めた? 俺が何を求めたって……定番のサキュバスについて考えただけなのに……」
「ああもうっ、さっきからなんでエッチな事ばかり考えてるんです! ニンゲンっていうのは皆そういう生き物なの?」
「え、エッチ!? 俺は別にそんな事はッ……」
彼女の言葉に一瞬ドキッとしてしまった。心の中を覗き見されているようで。
目の前で怒っている少女は、よく見るとなかなか可愛らしい顔をしている。
どことなく紗希ちゃんに似ているような気もする。
「まさかサキュバス? なんで俺のところに……あっ」
気がつけば、紗希ちゃんから貰った球体が床の上で真っ二つに割れていた。
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