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第三話




 夢の中でうなされている自分が見える。
 まるで神様みたいに俯瞰している自分がいる。

「ぐあ、あああぁぁぁっ、くそ! 離せ、リム……カーラァァァァ!!」

 悪夢にうなされている自分を見ている自分に気づいた時点で夢だと認識すれば目が覚める。
 それは普通のことだ。
 もしここが普通の世界なら目覚めることができるのに……ッ

ビュルルルルルルルッ!!

 声も出せずに突然自分が射精する。
 その瞬間、目覚める代わりに俺の意識はさらに深い場所へと導かれていく……。


「はぁ~い、勇者クン♪ 昨日は大変だったみたいね」

 まぶたを開けた瞬間、見慣れた淫魔が視界いっぱいに広がった。
 サラサラでフワフワの髪と、勝ち気な眼差し、そして首輪を携えた淫らな尻尾。
 こいつはリムカーラ……夢を支配する淫魔。

「はぁ、はぁ、はぁ……くっ、やはりお前のせいだったんだな!!」
「ふふっ、全部知ってるよ?
 だってキミはいつだって私とつながっているんだもの」

 そう言いながら彼女は自分の首元をなぞる。
 俺の首筋にも同時にその感覚がリピートされる。

「その首輪のこと、忘れたわけじゃないでしょ? うふふふふ」
「……」
「目覚めたあとでさすがに気づいてくれたよねぇ」
「何のことだ」
「何って……くすっ、私に全部言わせる気? えっちね♪」

 弄ぶような口調に俺は思わず歯ぎしりする。
 それでも相変わらずリムカーラはニヤニヤしたまま品定めするように俺を眺めていた。

「昨日からずっとシテないんでしょ? オナニー」
「っ!!」
「ううん、しようとしてもできないんだよね? ふふっ、あはははははは!!」

 心底愉快そうに、手のひらを淫紋の近くに当てながら彼女が笑う。
 目汁に涙まで浮かべて、哀れみたっぷりな目で俺を見つめている!

「だって、封印されちゃってるんだもん! 当たり前だよね?」
「リムカーラ、お前のせいなのか……ここしばらく俺の体がうまく動かせないのは!」
「今頃気づいた? うふ、ふふふふ……あなたはもう終わりよ♪
 のどだけじゃなく両手にも首輪つけられちゃって、上半身全部操られちゃって!」

 その言葉に俺は打ちのめされた。
 数日前、夢から覚めた直後に俺は鏡を覗いて安心していた。
 リムカーラに与えられたはずの首輪が見えなかったからだ。

 だがそれすらまやかしだった!
 首輪はこうして俺の体にはめ込まれているのだから。

「私がこうして指を鳴らすだけで~」

ぱちっ……

 ふいに淫魔が指を軽く鳴らした。
 その効果はすぐに俺の体に現れる。

「なっ! ま、待てそれはっ!!」

 ドクン、と心臓が大きく跳ねた気がした。
 同時に全身を桃色の靄が包み込み、俺は発情してしまう。

「んああああああーーーーーーーーーーーーっ!!」

 桃色の靄が頭の中に広がっていく。
 そしてリムカーラの愛らしい顔や声、甘い香りに思考が支配されていく。

「ほら、パチン♪
 あたまがぼんやりして、ふわふわにされちゃうでしょ~」

 もう一度指が鳴ると、今度は全身の肌が敏感になった。
 空気に触れているだけで気持ちいい……不自然な快感がどんどん呼び起こされていく状態異常。

「や、やめ……うあああああああああっ、腰がああああぁぁぁ!!」
「もうひとつパチン♪
 今度は右手を操ってあげる。左手は背中に回してね?」

 リムカーラに言われたとおり、俺の両手が操られてしまう。
 手首にはめられた首輪のせいだった。
 俺の意思ではどうすることもできず、左手が勝手に背中へ回った。

「キミの右手をそ~~~~っとおちんちんにかぶせて」

クニュッ……

「んひいいいいいっ!?」
「ゆっくり手のひらでこすってみようか?」

 甘ったるい淫魔の言葉通りに動く右腕。
 普段なら行動が予測できるぶんだけ、たとえ自慰であっても快感を抑制できる。

 しかし今は違う。
 この手は彼女に操られている。
 つまり、淫魔のテクニックがそのまま乗り移った魔性の手コキに等しいのだ。

「あ、ああ、だめだこれええええ!」
「声に合わせて動かして? ほらぁ、しゅっしゅっしゅ♪♪♪」
「とまんないっ、なんで!? うあ、あああああきもちいいいいいっ!!」
「きもちいいね? ふふふ……しゅっしゅっしゅっしゅ♪♪♪♪」

 ぎこちない手付きで指先がカリをめくり、溝を擦る。
 とろみが付いた我慢汁を丁寧に指先にまぶし、塗り拡げていく。
 いつもと同じ動作なのに断然気持ちいい!

 リムカーラに操られている感覚が性感を余計に刺激しているんだ……

しゅっしゅっしゅっしゅ、クチュクチュクチュ♪

「やめて、やめろ、こんなの我慢できるわけが!!」
「回数増やしていくよ? でも出しちゃ駄目」

 クスクス笑いながら淫魔はさらに指を鳴らす。

ぱちん♪

 今度は竿をしごく手の動きに左右の回転が加わった。

「あああああああああああーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「いっぱい我慢して、勇者クンの意地を見せて?」

 自分では制御できない手コキに悶絶する。
 もはや右手はドロドロになっており、射精に至るまでは時間の問題に思えた。

 しかし……

「んぐっ、あ、うう、で、でないいいぃぃぃ!」
「そんな切ないお顔をしても駄~目。も~~~っと強くしてあげる」

 リムカーラが自分の指先を唇に当てる。
 その色っぽい表情や仕草にドキドキしてしまう。

「ふふふ、もうすっかりだらしないお顔になっちゃってる……」

チュッ……♪

 唇から指先が離れた途端、ふわふわしたピンク色の何かがゆっくり俺に向かって放たれた!
 それは質量のある投げキッスだった。

「や、やめろっ! それをこっちに近づけるなああああああ!!」
「ずっと我慢してたんだよね? 触れなかったんだよね?」

 もはやその動きはリムカーラの手を離れていた。
 しかし俺は動けない。回避行動は制限されている!

「それなのに今、こうして体を操られちゃって……」

 ふわふわと漂う雲のようで居て、確実にこちらへ近づいてくる。
 リムカーラと思念がつながっているからわかる。

 あれは確実に、俺の唇にヒットする!

「あああああああああーーーーーーーーーーーっ!!」
「はじゅかしい~お顔にされちゃったんだよね?」

 そしてついに――!!

ピチュッ♪

「~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!!!!!!」

 リムカーラの唇に、全身が包み込まれた……

 柔らかな唇に、一瞬でたっぷり甘やかされた。
 体の表面と、心の表面を同時にキスされた。

「あ、あっ、あ、こ、これえええええ!」
「んふふ、頭の中ぐちゃぐちゃだね~。私に負けて、どんな気持ち?」

 その言葉すら快感にすり替えられていく。
 心臓は早鐘を打ち、ペニスからは我慢汁があふれる。
 射精した時みたいにボタボタ滲み出して床に水たまりを作っている。

「ふふふ♪ その首輪を通じて、キミの戸惑いが私に流れ込んでくるよ」
「ち、ちが、あ、あああっ、だめだ、うあ、ああああ!」
「こんなはずじゃなかった、僕は操られてなんかいない、勇者は淫魔に負けない……
 ふふっ、あははははははは! ホント、キミっておもしろ~い!」

 全身が脱力する中で俺は全力でリムカーラに抗おうとした。

 体は犯されても心までは屈するものか!

「まだ現実を否定するつもり? ここはたしかに夢の中だけど」
「あ……」
「お姉さんが許可しない限り、けっして覚めない夢なんだよ?」

 その言葉が意味するところを理解するより早く、リムカーラが指をパチンと鳴らした。

「そろそろ左手も解禁してあげる。ゆっくり動かしちゃう……」
「えっ、ま、まて!」
「キミのふっくらしてるタマタマを優しく掴んで?」

 左手が彼女の言葉っ通りに動き出す。
 俺の体は悲しいくらいに淫魔の支配に従順だった。

「そうそう上手だよ。そのままフワァ~って、なんども包み込むようにして」
「うあっ、ああああああ!!!!」

 耳朶に染み込むリムカーラの命令をトレースする俺の左手。
 睾丸をやわやわと揉んで、精液を増産する手助けを行わされている。

 鈍い快感がペニスの先へ伝わる前に、リムカーラはさらに淫らな指示を重ねてくる。

「私が上手に操ってあげる……ゆっくり撫でて、右手をサポートするんだよ?」
「だめだ、うごくなっ! あっ、ああああーーーーっ!?」
「右手はしゅっしゅ♪ 左手はくにゅくにゅ♪」

 普段ならしのげるはずの快感が、リムカーラの夢の中というフィールド効果と肉体の支配のせいで我慢できない。

「あはっ、気持ちい~い? まるでお姉さんに両手で手コキされてるみたいだよね?」

 限界まで口を開けて涙まで流して俺は快感を耐え凌ごうとする……が、無理だ!
 俺を操っている淫魔のテクニックは尋常じゃない。
 それにさっきの投げキッスのせいで思考が全くまとまらないのだ。

「なんだかもうイっちゃいそうだね? でも許さないから」
「なっ、なんでええええ!? いくっ、イきたいのにいいいいいいい!!」
「少し魔力を分けてあげる。キミは許可するまで射精できないわ」

 リムカーラが再び投げキッスをする。
 今度は肉棒にその効果が浴びせられた。

(寸止めと、射精禁止なんてされたら、気が狂うううううううぅぅぅぅ!!)

 両手を操られたまま俺は泣いてしまった。
 精神が崩壊する直前だったのかもしれない。

 だがお構いなしに、リムカーラが身を寄せてきた。

「私がカウントダウンして、3になったらイくのよ?」
「は、はひぃ!」
「なぜ3なのか? ふふふ、それはね……残りの数字は直後責め専用だから」
「!?」

 慈悲のない言葉に戦慄する。
 この期に及んで直後責め……
 リムカーラは完全に俺を壊すつもりなのだろうか……

「やればわかるわ。いくよ? 10・・・9・・・8・・・」
「ま、まってく、くださ……!」
「裏筋を強めに撫でなさい 7・・・6・・・」

 キュイッ!

「きゃひいいいいいいっ!!」
「ほらしっかりみて? 動きを真似して? 5・・・4・・・3・・・」

 カウントダウンは進み、彼女の命令どおりに裏筋が強めに刺激され始める。
 今まで我慢していたものが手のひらの中に溶け出していくのを感じた。

「いい、イくっ! 出るっ、もうでるううううううっ!!
 んあうっ、で、出ない、おねがい! 出させて、リムカアアアラアアァァ!!

 懇願する俺を満足そうに見つめながら、リムカーラはゆっくりと指を鳴らした。

「はい、イきなさい♪ 手の中でイって♪♪ イって~~~~~~♪♪♪」

ぱちん♪

 その乾いた音が鼓膜に達した瞬間にペニスが爆ぜた!


ビュルルルッ、ビュル、ビュッ、ビュッ、ビュウウウウウウウウウウウウウ~~~~~~~~!!!!


 あまりにも完備で盛大な射精に、俺は言葉を発することができなかった。
 その場に崩れ落ちるようにしながら何度も何度も白濁を吐き出し続ける。

「んふ、いっぱい出たねぇ? じゃあ続けよっか」

 全身が蕩けた俺に、リムカーラが追撃の指示を出す。

「あ、い、いやだ、いやなのにいいいいいい!!」
「右手で亀頭をフワフワして? 左手は竿をシュッシュッシュ・・・」
「ああああああああああああああああああああああ!!」

 見れば肩から先、指までが薄っすらと光を放っていた。
 桃色の靄に包まれて、そのまま淫魔の意思で動かされてしまう俺の右腕。

「くすくすっ、悶えてる! かわいい~~♪」
「いぎっ、らめええ、こんなの、れ、んひゃあああ!」
「ほらまたきちゃうよ・・・2・・・1・・・ゼロ♪」

ビュルルッ!

「んふぁああああああああああ!!」
「んふ、私の魔力でとろけちゃえ~~~!」

ドピュウウウウウウウウウッ!!

 二回に分けて無理やり絞り出された俺の精液は、先程よりも勢いがなかった。
 だが本当に搾り取られたのは精液ではなく精神力だった。

(かて、ないよおぉぉ……)

 この瞬間、俺はリムカーラに心の底から屈服してしまった。

「はぁい、お・し・ま・い♪ まだまだ搾り取れそうだね。」
「む、むりです、いまはだめえええ……」
「身も心もボロボロにされちゃう気分はいかが?」

 相変わらず可愛らしい表情で淫魔が俺を見下している。
 そして俺はこの下級悪魔に俺は勝つことができない……できなくされてしまった。

 ぼんやりと彼女を眺める俺の目の前で信じがたいことが起こった。

「キミの経験値が溶け出した精液は全部いただくわ」

 飛び散ったはずの精液が集まり、淡い輝きを放ちながらリムカーラの淫紋へと集中してゆく。

 エナジードレイン……

 目の前で起きている事象はおそらくそれなのだろう。
 そして搾り取られたものは俺の――、

「これでまた私は強くなれる。キミはもっと気持ちよくなれる。いい関係じゃない?」
「あ、あああ……お、俺はなんてことを……」

 状況を把握して俺はわなないた。
 憎むべき敵を、俺自身の快楽と引き換えに強化してしまったのだから。

「ふふふ……ブルブル震えたままの両足も、支配してあげる」

 リムカーラはゆっくりと俺に近づき、そっと指先で注に円を描く。
 ひとつ、ふたつ……指先が残した軌跡は空中でなにかの形になっていく。

「また首輪を増やしてあげるわ。その印が私とキミとのキズナだよ」
「ひっ……!」

スッ……

 リムカーラの指が俺の右足をさす。

カシャン……

 見慣れた首輪が俺の右足首に現れる。
 続いて彼女の指が左足へとむけられた。

カシャッ……

 右足と同じように左足にも首輪が出現した。
 俺の体にリムカーラへの服従の証が二つも余計に刻まれてしまったのだ。

「あ、あああああ、ま、またああああ!! んはあああっ」

 ビュクビュクンッ!!

 首輪のせいなのか、その光景のせいなのかわからないが俺は三度目の射精をしてしまう。
 リムカーラに支配され尽くした現実を拒むことができず頭が混乱する。

「そろそろ体力の限界かな? じゃあ、きょうはこれくらいね」

 錯乱状態の俺を抱きしめながら彼女がいう。

「起きるとキミは今のできことを忘れちゃうの」
「え、わ、わすれ……?」
「でもね、一つだけヒントを残してあげる」

 そして顔を寄せて、優しい目で俺を見つめながらそっと口づける。

(あああぁ、やわらかい、よおおぉぉ……)

 うっとりするような口づけに心をドロドロにされてから、俺は意識を手放した。

「次に私とあった時に、絶望が深まるようにね♪」

 だんだん視界が暗くなる。それでも彼女の声だけは聞こえた。
 腕の中でとろける俺を抱いて、意識に刻みつけるようにリムカーラは微笑むのだった。





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