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◆登場人物紹介
大橋ワタル【おおはし わたる】 主人公。アラサーの会社員。学生時代はボクシング部に所属。身長169センチ。
仲台エミリ【なかだい えみり】 八等身美人。『美鈴アンナ』という名前でモデル活動をしている。身長170センチ。
ジムオーナー 元プロボクサー。現在はジムと飲食店を経営。
本日(飲食店の仕込みのため)不在。
◆以下本編
これは俺がジムへ通う生活を始めて約一年が経過した頃の話だ。
平日、仕事を終えた俺はフィットネスジムへ行く。
ときには休日も顔を出す。
もともと学生時代に(良い戦績は残せなかったが)ボクシングをしていた俺は社会人になってからも時々アマチュアの試合をしていた。しかし社会人数年目、何度目かの転勤を機に業務内容も忙しくなりほとんど体を動かすことがなくなった。
(今回の転勤先にこのジムがあってよかった)
切実にそう思う。
大手ではないこじんまりとした空間だがこのジムは少し変わっていて、元プロボクサーが経営している。そのせいなのか室内にはトロフィーやグローブが飾られている。女性会員の中にはボクササイズをする人もいる。スパーリングまでやることはほとんどないが、設置されている簡素なリングへ上がってオーナーに相手をしてもらう機会もあった。さすがに元プロなので俺などは軽くあしらわれてしまうが貴重な体験だった。
さて、ジムへ到着した。いつものように更衣室へ向かう。そしてロッカーに貴重品を入れて再びドアを開けた時だった。
偶然同じタイミングで一人の女性が斜向かいの更衣室から出てきた。
軽く会釈をして道を譲る。
相手はたまに見かける顔だった。美形なので印象に残っている。
ギリギリ肩にかかたない柔らかそうなショートヘア。
身長はおそらく俺と同じくらい。女性としては長身の部類に入る。
今日の彼女はタンクトップにスウェットという姿だがとにかく目立つ。
おそらくモデルとかそういった職業の人間。
顔立ちはアイドルのように整っていて、手足が長くて細い。
後ろ姿や歩き方にも無駄がなく多くの人から見て美しい姿勢。
いわゆる八等身美人というやつだ。
(あまりジロジロ見るのも悪いし、俺には関係のないことだ)
彼女は俺より先にランニングマシンに入った。
俺はマットで柔軟体操を始めた。
細身の彼女もボクシングするのかな……などと考えながら念入りに時間をかけてストレッチをする。体を鍛えに来て怪我をしたら元も子もないからな。
薄っすらと汗をかき始めた頃になってランニングマシンを使っていた男性がバイクの方へ流れたので空いた場所へ入る。ちょうど彼女の隣だった。
真横に感じる彼女の姿はやはり美しかった。首にタオルを掛けたまま走るたびに胸の膨らみが上下に揺れている(なにげにけっこうな大きさだ)。
こうして並んで走ることになるのは今日が初めてなので少し緊張する。
はじめは時速8キロ程度から俺はスタートして徐々にペースを上げていく。
ちらりと隣を見ると彼女は俺よりもだいぶ速いペースだった。
にわかに生まれた対抗心。俺も負けじと速度を上げる。
呼吸を乱さず淡々と足を進めること十数分、俺は素直に感心していた。
彼女は相変わらず俺と同じくらいのペースを維持している。
見た目以上に足腰がしっかり鍛え込まれているようだ。
息切れせずに俺よりも長い時間マシンの上で走り続けているのだから。
やがて彼女はマシンを降りてダンベルのある方へを向かってゆく。トレーニーとして大したもんだと思いながら俺はそのまましばらく走り続けた。
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