『掃除当番』 月曜日


月曜日の放課後、皆の背中を見送りながら僕は溜息をついた。

今週は掃除当番だ。何が悲しくてこんな罰ゲームみたいな制度を思いついたんだろう。

クラス全員で毎日掃除をしない代わりに、出席番号順に週替りで清掃を行うのがルール。

ふてくされる僕の前に、同じく掃除当番(女子)がやってきた。



「今週はよろしくね、中谷くん」

「あ……うん。よろしく」

彼女は長瀬やよい。掃除当番という面倒な役回りに対して嫌悪感をあらわにしない分だけ僕より偉い。

体操服にブルマという身軽な格好の彼女はたしか吹奏楽部。

体力づくりとかでマラソンしている姿を帰り道でたまに見かける。

それほど普段は会話をすることもなく、お互いに空気のような関係にもかかわらず二人きりになると緊張してしまう。

目の覚めるような美少女というわけでもないけど、取り立てて不細工でもない。

ツインテールが似合うクラスメート。


「あ、ごめんね……こんな格好で。このあと私、部活あるから」

「えっ? 別に気にしないけど」


「良かった♪ いい加減な性格とか思われたくなかったし」

体操服姿で掃除するというのだから、制服姿の僕なんかよりずっと合理的だと思うけど……彼女は恥ずかしそうにモジモジしている。


「とにかく始めようよ……長瀬さんも部活で忙しいんでしょ?」

「ウン……」

僕が穏やかに促すと、彼女は両手で持っていたモップをきゅっと握りしめた。







掃除を始めてから数分後、僕はすっかり集中力を失っていた。



(長瀬さんって、思ったより色っぽいというか……)

普段意識していなかったこともあって新鮮な色気に抵抗できない。
彼女の脚はスラっとしていて真っ白で、思わず見とれてしまうほど美しかった。

あちらにしてみれば真面目に掃除しているだけのことなのに、邪悪な妄想が頭の中から離れてくれない。

何度か頭を振りながら窓の外の景色を眺めていると――

「中谷くん!」

「ふ、ふぁいっ!?」


「ちゃんと掃き掃除してないと、後で先生にやり直しとか言われちゃうよ?」

「そ、そうだよね……うん、ごめん……」

ここは素直に謝るほうが得策だと思った。


「すんなり謝っちゃうんだ? 男の子なのに」

「……こういうのは男女関係ないと思うけど?」


「じゃあ、あともう一つ!」

「ひっ……」

まだ何かあるのかよ!!


「この格好……そんなに気になる?」

「っ!!」

長瀬さんはコホンと咳払いをしてから僕を睨みつけてきた。


「だって、さっきからチラ見し過ぎだし」

「き、気のせいじゃない? なんのことやら……」


「そういうの男らしくない!」

言い逃れしようとする僕に、鋭い視線が突き刺さる。


「すみませんでした……」

すかさず本日二度目の謝罪。
彼女、思ったより勘が鋭いみたいだ。
それとも僕があまりにもジロジロと見つめていたせいだろうか。
どちらにせよ大いに反省しなければならない。


「もしかして体操服フェチ? ……なーんてね」

「!!」


「えっ、嘘……信じられない」

急に彼女の声が沈んだ。ヤバイ……そんな噂をもしクラスの女子に広められたら非常に困る。

「あ、あの……長瀬さん、まじめに掃除するから!! それとさっき見とれていたことは謝るから!!」

「ふ~ん。見とれてたんだ?」


「あ……」

自分なりに考えて必死に謝罪したつもりなのに、彼女はさっきよりもニヤニヤしながらこちらを見つめている。

「じゃあこっちきて……早く♪」

「あ、あれ……?」

急に右腕を掴まれて、すごい力で引っ張られた。

そして――!


(少しだけドキドキさせてあげる)

僕の左耳に息がかかる距離で彼女が囁いてきた。
フォークダンスでも踊るような体勢で、誰も居ない教室の隅で長瀬さんに抱き寄せられてしまった。

「うっ……!」

身を引こうとしても無駄だった。
いつの間にか細い右腕が僕の腰に回されていた。
反射的に彼女から離れようとした僕をしっかりと引きつけながら彼女は言う。

「んふ……ほら、女の子の匂い……感じるでしょ?」

頬が触れ合いそうなギリギリの距離で長瀬さんが髪を揺らすと、シトラス系の香りが僕の鼻先をかすめた。
少しだけドキドキ……どころか、周囲の音が聞こえなくなるほど自分の心臓がうるさくなってる。

右腕は相変わらず掴まれたままで動かすことも出来ない。さらに彼女が僕の左肩にちょこんと顎を載せてきた。

「ねぇ、感じるでしょ……?」

「よくわからない……」

苦し紛れに僕が言葉を吐き出すと、長瀬さんがクスっと笑った。


「そう? 私はさっきから男の子の匂いを感じてるんだけどな?」


グリュッ!

「ぁうっ!」

彼女の右腕が僕をさらに腰を引き寄せて、同時に太ももがジワリと股間を圧迫してきた。
柔らかくて温かい感触が僕の下半身を麻痺させる。
すっかり硬くなったペニスは魅惑の美脚に押しつぶされて大量の涙を流した。

「ビンゴ♪ いっとくけどね、チラ見と一緒で全部バレバレなんだから……」


クニュクニュクニュッ♪

「ぐあ、あう! 揺らさないで、おね、ああぁぁっ!」


「ふふふ、抵抗しちゃうんだ? かわいい♪」

必死で声を噛み殺す。
股間に押し付けられた美脚が更に深く食い込んできた。
僕の両足の間で、トントントンとリズムを刻んでくる真っ白な太もも。
完全に彼女の膝がペニスを持ち上げながら、静かに忍び込んでクイクイと刺激してくる。


(ああぁぁ、出ちゃう……!)

今度はさっきよりも明確に、ドロリとしたものが快感と同時に股間に広がっていくのを感じた。
必死で声を漏らさぬよう歯を食いしばっているのに、唇の端から熱い吐息が溢れだしてしまう

「熱くなってる……まだ我慢できるんだ? すごいね、中谷くん……」

甘ったるい声が耳から流し込まれると、それだけで我慢する力が緩みそうになる。
器用に片足で立ったままの姿勢で、僕にもたれかかるようにしながら彼女の足責めが続いてゆく。


クチュッ、クニュル、クチュッ……

(これが……すごくたまらなくて――!)

長瀬さんは太ももの中間から膝の先までをゆっくりと往復させてくる。その動きが次第に僕を追い詰めてゆく。
一往復ごとに腰の力が抜けて太ももに体を預けたくなってしまう。
そして彼女が言う「男の子の匂い」も、どんどん濃密になってゆく気がした……。

「逃げないで……えいっ……!」

「ああっ……!」

そしてまた腰が引き寄せられた。


「私に抱きしめられて興奮しちゃうんだ?」

「っ!!」

彼女の何気ない言葉づかいに背筋がゾクゾクしてきた。
僕は長瀬さんに抱きしめられてるんだ……ただそれだけの事実が、なぜかとても恥ずかしく感じる。


「いっぱい頑張ったし、今日はそろそろ終わりにしちゃおうか?」

「えっ……」

その言葉の意味がわからず問い返すと、彼女は静かに微笑んでみせた。


「女の子の匂いに溺れちゃえ――!」

腰を押さえていた腕が首に回って、僕の右手を掴んでいた手のひらが右肩に置かれる。

真正面から僕を覗きこんだ長瀬さんは、鼻先が触れ合う程度の距離のままでゆっくりと口を開いた。



「ふううぅぅぅぅ――……」

次の瞬間、やわらかい風が僕を包み込んだ。

彼女の口から暖かい息が吹きかけられ、僕は彼女の香りに包み込まれた。

(ああぁぁ……長瀬さんの……)

フワフワした感覚のまま、それ以上頭が働かない。心地よい恍惚とした気持ちにたゆたう。

正面で微笑む彼女の顔と、髪の香り、肩に置かれた重みと温もり。

相変わらず下半身を支配し続ける彼女の膝先が、ゆっくりと円を描き出すと僕もつられて腰を動かしてしまう。


「あ……ううぅぅ……」

「最後まで我慢しなきゃダメだよ?」

切なそうに腰を揺らす僕を制する彼女の声。
キスをされたわけでもないのに、彼女の濡れた唇を見つめてしまう。


「もう一度感じて? ふううぅぅぅぅ――……」

「あっ、で……うぅ……!」

そして再び優しく吐息を吹きかけられ、暖かな彼女の香りに包まれた瞬間、ついに……射精してしまった。

静かに漏れだした背徳感。彼女に与えられた心地よい刺激が、僕の身体から全ての力を奪ってゆく。

膝から崩れ落ちそうになる僕の身体を彼女の膝が支えると、敏感になったペニスが押しつぶされて激しくわなないた。

長瀬さんに身体を押し付けられて、膝で何度か刺激された……ただそれだけなのに身体中がとろけてしまったみたいに心地よい。

クラスメイトが悪戯してきただけなのに、何の抵抗もできずに……一方的に快楽漬けにされたことに対して、一種の敗北感を味わいながら僕はがっくりとうなだれてしまった。




「中谷くん……♪」

そして脱力した僕を近くの椅子に座らせると、少しだけ乱れた髪を整えながらクスっと笑ってみせた。

呆然としている間に、長瀬さんは手際よくモップを片付け終わってしまった。


「次はもっと支配してあげる…………また明日も一緒に掃除しようね」

フワフワした気持ちのまま、脱力する僕を椅子に座らせた彼女が、そんな言葉を口にしたような気がした。



(火曜日につづく)










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