火曜日の放課後。今日も僕は掃除当番。
いや、正確には僕達……なんだけど。
ぱらぱらとクラスメイトが教室を後にする中、僕は周囲を見回している。
週替りでクラスの男女一人ずつで掃除をすることになっているんだが、女子の姿が見えない。
(よかった……長瀬さんいないや……)
ほっと小さくため息を吐く。
実は昨日のことがあってから、彼女の事ばかり考えていた。
掃除当番の彼女が急に迫ってきた。
大人しい人だと思っていたのに、あんな大胆な行為を……あれはきっとただのイタズラに違いない。
今日はそんなことはないだろうと思いつつ、何故か心の何処かで怯えたり期待したり。
そんな僕の気持ちとは別に彼女はここにいない。
周りの女子に聞いてみたところ、吹奏楽部のセンパイから呼び出された様子。
それなら仕方ないと気持ちを入れ替えて、掃除を始めた時だった。
「遅れてごめんなさい!」
「あっ……」
勢い良く教室の扉を開けて長瀬さんが帰ってきた。
全力疾走したみたいに息を乱して、顔の前で両手を合わせている。
「今日は中谷くん、何もしなくていいよ! 残りは私がやるからっ」
「いやいや! 僕もまだ始めたばかりだしっ」
「中谷くん、優しいんだね……ありがとう」
本当はまだ何もしてないんだけど。長瀬さんがペコリと頭を下げる。
咄嗟に飛び出した言葉を彼女は素直に信じてくれたみたいだ。
――約20分後。
「だいたい終わったね」
机と椅子の位置を直しながら僕が声をかけると、長瀬さんは穏やかに微笑んだ。
教室の窓から差し込む光が彼女の髪をキラキラと輝かせる。
僕は思わず視線を逸らしてしまった。
昨日のことがあったおかげで彼女を女性として意識してしまう。
今まではこんな気持ちになったことはないのに。
「中谷くん」
「ぃっ!?」
「……ねえ、昨日の夜は何か『いけないこと』、しちゃったんじゃない?」
表情と同じく穏やかな口調で彼女はとんでもないことを言い始めた。
見た目通りおとなしい子のはずなのに、いつの間にか昨日と同じ空気を身にまとっている……。
「そんな……ことな、ないよ……」
「うふふっ、私をまっすぐ見ても言える~?」
イタズラっぽい目で僕を、僕の心を覗きこんでくる彼女。
本当に昨日と同じ、完全に長瀬さんのペース……そうわかっているのに逆らえない。
それはきっと、昨日やわらかな体を押し付けられてあまりの心地よさに敗北してしまった自分への負い目かもしれない。
長瀬さんは黙ったまま身じろぎしない僕の隣に身を寄せてきて、耳元で優しく呟いた。
(今日は体操服じゃなくてゴメンネ?)
「えっ!!」
甘くねっとりした声に慌てて顔を上げると――
「ふううぅぅぅ~~~~~」
正面を向いた僕の鼻先に、昨日と同じように吐息を吹きかけてきた。
たったそれだけで、
「ぅあ…………」
次の瞬間、僕は脱力した。
昨日と同じで、腰砕けみたいな状態になって、机の上にストンと腰を下ろしてしまう。
「目がとろ~んとしてる……それにすっかり力が抜けてるよ。そんなに期待しちゃって」
甘い吐息のおかげで心臓までドキドキしてきた。
まるで条件反射みたいに、昨日の一件で長瀬さんに快感を刷り込まれてしまったみたいに!
「なっ、長瀬さん……いつもこんなことをしてるの?」
「ん~? それはどういう意味かなぁ」
彼女の両手が僕の肩に置かれる。
ほんのり暖かい手のひらの温度がじわりと僕の中に流れ込んでくる……。
「教えて? 中谷くん……」
「い、いや……それほど深い意味は……」
「くすっ♪」
目の前で彼女が自分の唇をぺろりと舐めた。
真っ赤なイチゴみたいな彼女の舌先を凝視してしまう僕。
「私も特に理由はないの。ただなんとなく……ね」
「そんな……!」
「でも予想通りだったよ? 中谷くんがいい反応してくれたから」
不意に彼女の膝頭が僕の両足の間に割り込んできた。
今日は体操服ではなく制服のままなので、スカート越しに細い足が僕の股間をなで上げる。
「ぅあああっ!?」
「昨日はゴメンネ……帰り道、気持ち悪かったでしょ?」
そっと撫でるような足の動きなのに、僕の体は昨日の快感をフラッシュバックしてしまったせいでビクンと大きく震えてしまう。
長瀬さんの吐息が、体が少し触れてるだけで快感が蘇ってくる。
耳元で甘くささやかれて――
抱きしめられながら太ももで追い詰められた快感――
あっという間に股間が張り詰めて我慢汁が滲みだす。
(け、今朝あんなに抜いたのに……あああぁぁ、なんでええぇぇ!?)
彼女の香りが、声が、体温が僕を狂わせる。
学校にいる間は変な気持ちを起こさないようにと、寝る前と朝一にオナニーしまくってきたのに、全くの無意味。
「ねえ、中谷くん……」
「え、えっ!?」
「昨日は何回くらいしたの?」
「!!」
「答えたくないなら別にいいけど……知りたいなぁ?」
男としてこの質問には答えられない。いや、答えたくない!
「一回だけ?」
「……」
「違うみたいね。じゃあ二回?」
「…………」
「んー、ちがうっぽい。じゃあもしかして5回以上……?」
「っ!」
さすがに恥ずかしさも極まって、僕は何も言わずに下を向く。
「そんなに顔を真赤にして……ちょっと嬉しい。じゃあ今日は大事なところには直接触らないで遊んであげる。私の声と手のひらだけで……ね……」
彼女の両手が僕の肩から離れた。
長瀬さんはゆっくりと僕の背後に回る。
そして机に腰掛けたままの僕の背中から、両手を脇の下に通して僕を羽交い締めにした。
(む、胸っ――!)
背中にふわりと感じる感触はおそらく彼女の……しかしそれ以上に、左肩に乗せられた彼女の顔が気になる。
後ろから抱きしめられたまま再び僕は動けなくなってしまう。
やんわりとした拘束を受けながら、次に何が起こるのか嫌でも想像させられてしまう……。
(中谷くんの頭の中で、体操服姿の私はどんなことをしてくれた?)
高鳴る鼓動を切り裂くように、彼女のささやき声が頭の中に響く。
………………
…………
……
昨日の夜、夢の中でも彼女は登場した。
体操服のまま、ベッドの上で四つん這いになった長瀬さんが色々とポーズを変えながら僕を誘ってきたのだ。
そのうち真っ白なシーツの上で仰向けになり、両手を広げて僕に微笑んだ瞬間思わず抱きしめてしまった。
夢とは思えないリアルな感触と、甘い恍惚感のお陰で今朝は……パンツが一枚駄目になってしまった。
……
…………
………………
もちろんそんなことを素直に口にすべきではない。
僕は力なく首を左右に振るしかなかった。
「教えてくれないの? ふふっ、照れ屋さんなんだ。でも…………」
僕の胸を背中からぎゅっと抱きしめていた彼女の左腕が静かに降りてゆく。
そしてすっかりテントを張っている股間の頂点を、中指の先でトントンと小突いてみせた。
「あ、ああぁぁ…………」
湖の水面に小石が投げ込まれたように、快感の波紋が広がってゆく。
「ふふふ、すごく気持ちよさそ…………お顔がクシャクシャになってるよぉ?」
長瀬さんはからかうように言うけど、自分ではどうすることもできない。気持ちよすぎる……。
本当はこのままもっとしごいて欲しい。イカせて欲しい気持ちがどんどん湧き上がってくる。
指先で先端をノックされただけで僕の下半身が震えた。
それ以上に心を縛っていた何かが、彼女の指先で崩されてしまった。
長瀬さんの細い指先がリズムを刻む。本当に気持ちよくて、思考がとろけてしまいそうで――
「もっと触って欲しい?」
「ぅ……ん…………」
「ふふっ、そうなんだ…………どうしようかな」
迷う素振りを見せつつ、彼女は指先を緩慢に動かし始める。
クネクネと指が折れ曲がるたびに、ペニスの先端がくすぐられて身悶えする。
「うあ、ひあっ、ああぁぁ……だ、だめ……!」
「何が駄目なの? 中谷くん」
爪の先で先端をくるくると円を描き、時々真下に向かってなぞってみたり……僕の声に合わせるように指先が踊る度に快感が背筋を突き抜ける。
「もっと情けない声出してみる? となりのクラスにまで聞こえちゃうかも……」
今度は左手だけでなく、彼女の右手まで降りてきた。
「えっ……あ、あの……!」
「いいからいいから……ほら♪」
先端を責める左手をサポートするように、彼女の右手はペニスの中間……カリ首あたりを優しく撫で始めた。
(ち、力が抜け……ちゃう…………)
絶妙な両手責めを受けた僕は、思わず体を捻って彼女の拘束から脱出しようと試みた。
しかし抜け出せない!
「そんな力じゃ無駄だって。私いつも部活で鍛えてるんだよ……くすくすっ♪」
微笑みながらも彼女の責めはとぎれない。
左手が先端を撫で回しながら、右手がカリを強めにめくり上げてくる。
長瀬さんの両手責めはあっという間に僕を追い詰めてゆく。弱点を完全に見切った上で何度も同じ所を責め続けてくる。
「あああぁっ、だ、駄目だよ! もうヤバいって!!」
「んー、きこえなーい♪ もう少し強く擦るね」
逃げようとしても彼女は柳の枝みたいに柔らかく僕にまとわりついてくる。
そして少しでも動きを止めればさらなる快感を僕に与えて抵抗力を奪おうとしてくる!
「全部くすぐっちゃうね……ふううぅぅ~~~!」
「ぁぁああっ!」
さらに耳元でささやく代わりに、今度は吐息を耳の穴に向けて吹き込んできた。
「う~ん、もうすぐ出ちゃう? じゃあ今日もおうちに帰って揉み洗いしてね?」
彼女はクスッと笑ってから、ペニスにとどめを刺すべく両手をまるで雑巾しぼりのように力を込めた。
文字通り絞り出されるような強い刺激に飲まれ、僕の体が跳ね上がる。
「あ、あああぁぁっ!!」
ビュルルルッ、ドピュウウウウ~~~!!
女子に背中を抱きしめられたまま、恥ずかしげもなく僕は絶頂してしまった。
耳穴に息を吹き込まれ、脱力しきったところを両手で巧みに責められた僕は、昨日よりも激しく彼女の腕の中で体をビクビクと跳ね上げてしまった。
そして射精の勢いが衰えたころ、ぐったりした僕の体を彼女が抱きしめながら囁いてきた。
(すっかり支配されちゃったね……)
「えっ!?」
あまりの快感に意識が朦朧として、彼女の言葉をうまく聞き取れなかった。
「ううん、なんでもない。また明日掃除しよう、中谷くん」
掃除道具を手早く片付けてから、彼女は部活に向かうと行って教室を出て行ってしまった。
体中を犯されたような気持ちのまま、僕は彼女の後ろ姿を眺めていた。
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