金曜日の午後――。
昼食後の眠気が完全に過ぎ去った頃、授業が終盤を迎えていた。
(これが終われば今週もおしまいだなぁ……)
明日と明後日は家でのんびりできる。それなのに、休み前の安堵感というか……こみあげてくる嬉しさが足りない。
先生が話す姿を見つめながら、正体不明の物足りなさについてぼんやりと考えてみる。
僕自身がぼんやりしてるのはいつも通りなんだけど。
そんなことをしてるうちに授業もホームルームも終わった。
僕の周りでガタガタと椅子を引きずる音。
クラスメイトたちの数が見る見るうちに減少していく中、後ろから背中をトントンと叩かれた。
「中谷くん、どうしたの?」
「あ、うん……掃除当番があったね」
振り返ると目の前に長瀬さんが立っていた。
だがそれは水曜日に見た夢とほとんど同じ格好だった。
(体操服に、下は……黒スパッツだけ?)
思わず体操服の裾と、真っ白な太ももの間を注視してしまう。
見つめちゃいけないのにチラチラ見たくて仕方ない衝動をぐっと堪える。
「うん?」
彼女は不思議そうに僕を見つめている。
部活の前だから当然こういった服装になることもあるわけで、長瀬さんにしてみればこれは当たり前の衣装替え。
「掃除当番、今日でラストだね。一緒にがんばろ?」
二人きりになった教室で彼女は笑った。そして僕にモップを手渡した。
そう、今日で終わりなのだ……。
◆
「私、こっちのほうから片付けちゃうね!」
「うん、よろしく」
背を向けた彼女は黒板の方へ向かっていった。どうやら教壇まわりを片付けてくれるらしい。
僕は黙って椅子や机の位置を整える。もはや手慣れたものだ。
(あのスパッツ姿って……エロ過ぎるよ。まだブルマの方が気にならないっていうか)
黒板の近くで揺れてる彼女の髪を見ながらそんなことを考える。
たまにしゃがみこんだ時とか、体操服の中がチラッと見えるのもたまらない。
(長瀬さんってお尻や足のラインが凄く綺麗だし、うっすらと中の……)
ワレメとか見えるはずも無い。
真っ黒なスパッツだから当然中が見えることもないのに、裸よりもエッチな妄想が捗るから困る。
体操服と靴下がシンプルだから、逆に余計なことを考えてしまうんだ。
自分でも気づかないうちに掃除の手が止まっている。
ふっくらした太ももを少し締め付けてる境界線を指でなぞってみたい。
昨日みたいにペニスをあそこに挟み込んでコシュコシュして欲しい……
長瀬さんに抱きしめられながら体全体を上下に――
淫らな妄想が加速する。だめだ、僕はもう手遅れかもしれない。
その時彼女が急に振り向いた。
「ねえ、また見てたでしょう?」
呼吸も鼓動も全部かき消されたように僕の頭の中は真っ白になった。
長瀬さんがこちらを見て、ニヤリと微笑む。
心臓を凍りづけにされたように僕は動けない。
そしてゆっくりと僕のそばに来て、低い声でこう告げた――、
「そこ、座って」
「……」
彼女が指をさした椅子に大人しく座るしか無かった。
まるで教師のように長瀬さんは冷たく言い放つ。
「なんでお掃除に集中してくれないの? 中谷くん」
「ごめんなさい……」
沈黙。思わず視線を落とす。
ほんの数秒なのに、妙に長く感じる。
(長瀬さんに嫌われちゃう……それは避けたいけど、この状況じゃ何も言えない……)
スッ……
「えっ」
絶望的な気持ちになっている僕の頬に、彼女の手のひらが添えられた。
ほんのりと温かい彼女の手。
顔を上げてみると、長瀬さんは慈愛に満ちた顔で僕を見つめてる。
「当番なんだから集中しなきゃ駄目でしょ? 中谷くん」
「うん、ごめん。でも、何で分かったの……」
「むしろ何で分からないと思ったのかな?」
「えええええっ!?」
僕には彼女の言葉の意味がわからない。
やれやれといった表情で長瀬さんはじっと僕を見つめ続けている。
「二人しかいない教室って音がすごく響くんだよ。それなのに急に中谷くん、息を殺すんだもの」
「たったそれだけで……!?」
「私、これでも吹奏楽部だよ。静かになりすぎたら気づくと思わないの?」
ようやく謎が解けた。
それにしても長瀬さんの洞察力に感心させられてしまう。
僕を見下ろしていた彼女が一步前に足を進めた。
「しかもあんなにエッチな目で見られてたら熱くなっちゃうよ……」
「なっ……!」
そして正面から僕を抱きすくめるように、向かい合う形で僕の膝に腰を下ろしてきた。
さらに彼女は僕のシャツのボタンを順番に外してしまった。
「これ、お仕置きだからね。すごいのつけちゃう……」
チュッ……
「うあああっ!」
長瀬さんは僕に抱きつきながら、耳に優しくキスをした。
次に目の前に露出してる僕の上半身に軽く吐息を吹きかける。
たったそれだけで月曜日にされたことを思い出してしまう。
「うああああああぁぁっ!」
すでに敏感になっている乳首に熱い息が到達すると同時に、股間がビクンと反応した。
おそらく彼女にも分かるほどはっきりと。
「喜びすぎ……まだまだいくからね」
彼女は戒めるようにそう言ってから、今度はゆっくりと僕の左胸に顔を寄せてきた。
(あああああぁぁ、何かされちゃう……長瀬さんに気持よくされちゃううううぅぅぅ!)
不安よりも期待が大きい。
掃除の最中、学園内だというのに、彼女にいたずらされることに身体が求めてる。
長瀬さんは指先で乳首をコリコリと刺激してから、そっと舌先を伸ばして――、
ピチュ……
「ぁひいいいっ!」
真っ赤な舌先が僕の先端を舐め上げた。
いつもはなんとも感じていないところなのに、ゆっくりと刺激されただけでこんなに興奮してしまうなんて!
唾液がたっぷり乗った彼女の舌先は、僕を味わうようにネロネロと乳首周辺を這いまわる。
甘い髪の香りと彼女の体温を感じながら、ペニスは一気に破裂寸前まで追いやられてしまった……
「はぁ、はぁ、はぁ……なん、で……」
僕の上に乗ったまま、長瀬さんは左右の乳首を念入りに舌先でなぶる。
そして――、
キュウウウゥゥゥゥ!
「んはあああっ!!」
乳首ではなく心臓の真上辺りが急に熱くなった。
「フフッ、つけちゃった……」
驚いた僕が視線を落とすと、長瀬さんのツヤツヤの唇が僕の胸から離れたところだった。
そしてキスされたあとは紫色になって……こ、これって!
「もうひとついってみる?」
キュウウウウゥゥ~~~!
「ふあああああぁぁ!」
またその近くに顔を埋めて、彼女は僕の身体に熱い口づけをしてきた。
膝を揃えた状態で椅子に座らされているから全く身動きがとれない。
(しかもこれ……熱い! なんでこんな……あああぁぁ、またあああ!)
そこからはキスの乱れ打ちだった。
長瀬さんの唇が肩や腕、首筋以外の正面に押し当てられる度に僕は悶絶した。
紫色の刻印が少しずつ広がってゆく……
(僕、支配されてる……彼女の唇が熱くて……それに気持ちよくてえええぇぇ!)
長瀬さんがゆらりと立ち上がると、僕はヘナヘナと椅子の背に身体を預けた。
十数箇所キスをされた後、僕はすっかり動けなくされていた。手足に力が入らない。
キスされる度に彼女に力を吸い取られていたみたいに。
「もう夢中ね……今度は背中、もらっちゃうね」
火照りきった身体に彼女の指先がひんやりとして心地よい。
シャツを完全に脱がされ、脱力した僕の身体を彼女が折り曲げた。
「えいっ……」
「!!」
なにか柔らかいものが僕の頭を挟み込んだ。
(これって、足……長瀬さんの、あの……足ッ!!)
あのほっそりとした白い足に抑えこまれたと思うだけで身体が熱くなる。
椅子に座ったまま前のめりにされ、固められた……
「中谷くん、ここも感じるでしょう? ほぉら♪」
コリュッ……
「んふうっ!」
さらに彼女は自由になった両手を僕の脇の下へ回し、そっと乳首を指で挟み込んだ。
焦らすように小さくバイブレーションをかけながら左右の乳首をクリクリと弄んでくる……
痺れるような疼きが胸に広がってゆくと同時にペニスがズキズキと痛み出した。
そのような状態で、さらに背中にも甘い刺激がやってきた。
チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、
チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、
チュッ、チュッ、
チュッチュッ、
チュウウウウ~~~!
「はンッ、あ、ああぁぁ! あっ、ああああ~~~!!」
僕は喘ぐ。でも逃げ出せない!
無理やり前屈させられた状態で背中に何十箇所もキスをされた。
立ち上がろうとしても彼女の太ももに頭が挟まれている!
しかも乳首を指で転がされ、上半身にも力が入らない……
数分間、その愛撫を繰り返されたと思う。実際にはもっと短かったのかもしれない。
「中谷くんの身体、キスマークだらけ……もう誰にも見せられないよ」
少し息を弾ませた長瀬さんが僕の顔を覗き込む。
僕はさぞかし、うっとりした表情だったに違いない。
背中を徹底的に愛されて、体の正面もキス漬けにされて、
柔らかい太ももで抑えこまれたまま乳首を丁寧に刺激されて……
(もう長瀬さんのことしか……見えないよおおぉぉ……)
ペニスは弾けそうなほど脈打っている。
早くイきたいけど、最後の刺激がほしい……
フラフラになった僕には彼女の顔がとても美しく見えた。
「中谷くん、そろそろご褒美あげる。ピュッピュせずに、いっぱい我慢出来たもんね?」
両方の肩に彼女の手が置かれた。そしてまた膝の上に彼女の体重を感じる。
(お、押さえこまれて……あああ、またキスされちゃうううぅぅぅ!)
あの可愛らしい顔が、エッチな唇がゆっくりと近づいてくる。
あれが僕を駄目にしたんだ。
ツヤツヤした小さな花びらみたいな、あの唇にもう一度触れられたら、それだけで僕は――、
「……二回目のキスしよう? こないだよりも感じさせてアゲる……」
長瀬さんが小さな声で言う。
伸ばした舌先が絡み合い、甘い唾液を流し込まれる。
そして完全に呼吸を奪われた瞬間、
(あああああああ~~~~、イイ、イ、イクううううっ!!)
ビュルッ、
ドピュウウウウウウッ、
ビュルルルルルルッ! ビュウウウ!!
体中が弾け飛んだみたいに僕は果てた。
震える僕を彼女が強く抱きしめてくれたおかげで、長い射精は容易に収まることはなかった。
骨まで溶かされてグニャグニャになったような気持ちで彼女に抱きしめられる僕。
そして快楽の余韻に浸る僕を見ながら長瀬さんが呟く。
「もうキスだけでイけるようになっちゃったんだ? お手てでいたずらされて、足で擦られて、お耳も虐められて……体中を私にマーキングされちゃった中谷くん……」
満足そうな顔で彼女はしばらく僕の顔を見つめていた。
◆
「私ね、今月いっぱいで部活やめることにしたの」
僕がシャツや制服を元通りに着た後、長瀬さんがそう言った。
「なんで急に……? だって二年間続けていたんでしょ。部活」
「急にじゃないよ。ずっと考えていたの」
真剣な表情で彼女が続ける。
「部活内では恋愛禁止だって言われて、だったらクラスメイトの中で誰かいい人いないかなって」
言葉を切って、彼女は僕を人差し指でさした。
「それがどうして僕なの?」
「う~~~ん……」
聞き返された彼女は少しためらいがちに答えてくれた。
「中谷くんのことは同じクラスになった時から気になってたよ。でも掃除当番で一緒になるまでどんな人かわからなかったし……」
「だったら普通に言ってくれればよかったのに!」
僕の言葉に長瀬さんは少し困った表情をしてみせた。
「あのね中谷くんってちょっぴりMっぽいなーって見抜いていたんだ! だから今週は毎日試してたの」
「じゃああれは適性テストだったんだね……」
「そう、合格。だからこれからもずっと一緒だよ。中谷くんのこと、丁寧にお掃除してあげる。そのうち大事なところだって念入りにね……フフッ」
ギュッと抱きついたまま、ゆっくりと両手で僕の身体を撫で回す彼女。
(ま、また力が抜けちゃう……)
大事な部分ははぐらかされた気がするけど構わない。
掃除当番は終わったけど、長瀬さんとの関係はこれからも続きそうだ。
今はそれ以上の幸せを考えられない。
だって僕はもう彼女のことしか考えられないのだから。
(了)
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