ちょっとした妄想 #12 屈辱のデュエル
「くそっ、こんなはずでは……」
「まだ勝負は終わってないよ~?」
ここはデュエリストタウンの一角。
大規模な新システムの導入によって今までは二次元のみだったカードバトルが立体視できるようになってから半年が経つ。
俺と対戦相手が向かい合うこのスペースは4メートル四方。小さめのボクシングのリングみたいだ。
そこに設置されたデュエルシートに手持ちのカードをセットすると、カードに描かれたモンスターが3D映像で浮かび上がる。
この「デモニックサーガ」というシリーズがサービス開始になってからというもの、俺は今まで負け知らずでここまで来たというのに、目の前の女子校生に歯が立たない。
俺の手札を見ぬかれ、思考を先回りされた挙句ことごとく手札を崩されてきた。
対戦相手の名前はミナという。もちろん偽名なのだろうが。
ストレートの黒髪に強気な瞳、口元にはうっすらと笑みを浮かべながら俺の顔を覗きこんでいる。
「ほらほら、ぼんやりしてるとトドメさしちゃうぞ~?」
黒髪ロングの髪を一部編み込んだスタイル。
女子高の制服の下で窮屈そうにしているバスト……目の前で微笑むミナは黙っていればかなり可愛らしい方だと思うが、この通り生意気だ。
「黙れ! おれのターン、ドロー!!」
しかし手元に来たのは魔法カード……しかもレアでもない体力補充の「生命水」だった。
俺の場に出ているのは3体のモンスター。いかにも屈強そうな攻撃力重視の戦士・アベルと、守備力重視のゴレム、そして背後に控えるSレア白魔道士マーリック。
今回繰り広げてるデュエルはエキスパート(上級者向け)ルールを採用している。
お互いの相手の攻撃力と防御力が霞のようなもので覆い隠されているので、正確な数値を読み取ることは出来ない。
素早い計算と自分の記憶力、カードに関する知識だけが頼りだ……
「ゴレムを守備表示にして俺のターンエンドだ」
悔しいが次のターンをしのいでからの反撃となるが、ミナがそれを許してくれるかどうか。
現在のところ、俺のライフは残り2800で相手は7500……しかもミナの手持ちは光り輝く美少女キャラ(おそらくSレア以上)が4体と魔法もしくは罠カードが3枚。俺のほうが圧倒的に形勢不利だ。
「もういいんだ? じゃあ、溶かしてあげるッ!」
ミナはしもべである真っ赤な剣を持つ女戦士に指令を下す。
「炎の剣士 ナスカ、ゴレムを攻撃!」
「はい、マスター!」
ナスカは可憐な声を発すると、金色のポニーテールを揺らしながら軽やかにこちらへ向かってきた。
その瞬間、俺は相手に見えないようにガッツポーズをした。
(こいつ、ついにしくじりやがった! ゴレムの守備力はシリーズ最高の3500だぞ)
「えいっ!」
小さな気合とともに真っ赤な刀身が素早く振り降ろされる。
「ブオオオオオオオオオッ!」
腕をクロスさせて防御に徹するゴレム。
普通に考えればこちらが守備勝ちするのだが、ナスカの操る炎の剣がゴレムの左腕を切り落とした。
そして無傷のナスカ。
「えっ……なぜ消えないんだ!?」
「ふふふ、やっぱり硬いね~。念のため魔法カード使っといてよかったわ」
ミナが開示したカードは『おぼろの剣撃』という魔法だった。
敵の防御力を一方的に半減させ、なおかつ自分のしもべは無傷という虐殺カード。
しかも防御半減の効果は2ターン持続する。まぎれもなくSSレア!
「その子、防御力2000くらいまで落ちたでしょ。次で破壊されちゃいそうだね?」
「くそっ、なんてカードを持ってやがるんだ……」
ゴレムという壁キャラを実質的に失った俺の落胆は大きい。
その前で行動終了した炎の剣士が武器を鞘に収めた。
敵からの攻撃はあと3つ……最悪3体とも破壊されてしまう可能性もあるが、ミナが攻撃手順をミスれば逆転の目も見えてくる。
「そんな泣きそうな顔しなくていいのに。でもこのままじゃ一方的に勝っちゃいそうだからチャンスをあげるよ」
ミナは残り3体のキャラはそのままに、さらに伏せカードを3枚セットしてからこちらにターンを投げてきた。
「なめやがって……見てろよ! 俺のターン、ドロー」
手持ちのカードが一枚増える。やってきたのは水の剣……炎属性の相手に対して攻撃力を150%増しにできる魔法剣!
これを戦士・アベルに装備させる。にわかにアベルの身体が光を放つ。
魔法効果の詳細などは相手に伝わらない。
「覚悟しろ! アベル、ナスカに攻撃だ」
俺が指令を下すと、アベルは小さく頷いてからミナの脇に控えている炎の剣士に飛びかかった。
水と炎なら水のほうが勝つ。攻撃力3000もあればあんな剣士など一撃で倒せる。
(補正数値を差し引いても絶対勝てる! まずは一枚消してやる)
だがアベルの力強い突進がピタリと止まる。
ナスカの目の前に立ちふさがったのは水の戦士アリア……Sレアカードのツインテ美少女カードで、銀の槍を持つ防御型のキャラ。
魚鱗アーマーの隙間からこぼれた素肌が眩しい。
「ここでトラップカード『身代わり』発動だよ」
「なっ……」
ミナが叫んだその瞬間、アベルの攻撃力が3000から2000に戻る。
アリアの防御力は2200……届かない!
トラップカード「身代わり」の効力は、敵から自分のしもべに苦手属性で攻撃を仕掛けられた時に同属性もしくは相手の天敵にすり替わるというもの。
デュエル本番で使うやつなんていないカードだと思っていたのに……!
「私、こう見えてもかなり強いみたいです…手加減できなくてごめんなさい」
そう言いながらアリアがアベルを抱きしめた。
アベルの防御力が見る見るうちにダウンしていく!
「グアアアアア!」
もがき苦しむ俺のしもべに向かってアリアがオドオドしながら口走る。
「私、痛いの苦手なんです……だから……」
ほんのりと淡い光がアベルを包み込み、さらに今度は攻撃力数値がダウンする!
「ほら、熱いの熱いの飛んでいけ~」
「ガアアア!」
アリアの細い腕に抱かれ、苦しみだすアベル。
アベルはもともと火の属性なのだが、アリアに抱きしめられてその属性が弱められているのだ。
「今度は冷たかったです? じゃあ抱きしめてあげます……それっ、ぎゅうう~~~♪」
細身のアリアが何度も両腕でアベルの身体を締めあげるとそのうちぐったり動かなくなってしまった。
「バカな……攻撃力800までダウンだと」
「ふふふ、アリアにあんな長い時間抱擁されたらどんな戦士でもああなっちゃうよ?」
余裕の表情を見せるミナを見て再び闘志が湧き上がる。
俺は後ろに控えていた魔法使いマーリックに全体化魔法のカードを授けて攻撃指令を出す。
敵のフィールドに居る4体を全て同時に攻撃できるSレアカード。
防御力は殆ど無いに等しいマーリックだが、攻撃表示は2500越えという優秀さ。
しかも今回は同時攻撃だからミナのしもべを何体消せるか楽しみな……
「魔法カードもう一枚発動させたよ~」
また身代わりカード! そして今、攻撃を遮ったのは……マーリックの天敵とも言える光の騎士・サリアだった。
そして彼女の特殊スキルは――、
「破邪の力、発動……」
サリアがそうつぶやくと、俺の場にあった全体化攻撃のカードが消滅した。
彼女はマーリックの攻撃を自分一人で受けきったのだ。
サリアの攻撃力は1100程度だからもちろんミナへのダメージが残るわけだが、
「私にアタックを掛けるとは勇ましいことだが……道連れになってもらうぞ」
「ブロオオオオオオォォォォォ!!」
道連れスキルが発動……サリアが消えた瞬間、先ほど防御力を半分にされたゴレムも同時に消滅した。
「なっ、ゴレムが……」
「女の子に乱暴しちゃダメってことじゃないのー?」
ライフを削られながらもクスクス笑っているミナのフィールドに一枚のカードが浮かび上がる。
これはフェイタルドロー……サリアの消滅と引き換えに敵の場に新たなしもべが現れた。
「おっ、なかなかいい子が出てきたみたい!」
ミナは嬉しそうな表情だ。
(なんだあのキャラは。見たことないぞ?)
それは競泳水着を着たような金髪の美少女キャラだった。
特に武器も持っていないので弱そうに見える。このターンは攻撃してくることはないし、何より防御召喚されているので放置で構わない。
俺のしもべは2体生存、しかし片方の戦士アベルは攻撃力はガタ落ちで使いものにならない。
こっちを攻撃されたらデュエルは終わる。何らかの対策を講じたいところだが、手持ちのカードではライフを回復させることしか出来ない。
俺は魔法カード「生命水」を使用してからターンを終えた。
「じゃあ次はこちらの番だよね」
ミナが静かに宣言すると、行動終了となったマーリックのそばに、ミナのしもべが静かに近づいてきた……
(あ、あれは! 闇の魔法使い サビーレじゃないか)
紫のコートを羽織った美少女……サビーレはゲーム内でも強大な魔力を持つキャラと言われている。
SSレアを超えた U(ウルトラ)レアカード。
恥ずかしながら俺も現物を見るのは初めてだ。
その能力は全くわからない。
そしてミナは今回魔法カードを使う気配がない。それがまた不気味だ。
すっ……
サビーレの細い腕がまるで恋人みたいにマーリックの首に回される。魔法使い同士の接近戦。
しかしその青い瞳に慈悲はなく、少し背伸びをするように彼を抱きしめたまま何かの魔法をかけ始めた。
「もう逃げられないね? このまま魔法漬けにしてあげるよ」
そんな言葉が聞こえてきそうなサビーレの表情。
少し遅れて俺のデュエルシートに赤文字でインフォメーションが浮かび上がった。
「サビーレの幻惑 4ターンの間マーリックは守備も攻撃もできません」
なんてことだ! 唯一使えそうだったしもべが行動不能に陥った。
あとで知った情報だが、サビーレの特殊能力は攻撃開始時にライフと引き換えに一定確率で敵を混乱させることだったのだ。
この時点でミナのライフはまだ5000以上ある。
彼女にとっては痛くも痒くもないわけだ。
足元をふらつかせながらその場で揺らめく俺のしもべを抱きしめ、幻惑しつづけるサビーレ。
(んふふふふ、動き鈍くなっちゃうね。でもそれだけじゃないよ。もう敵も味方もわからなくなっちゃったでしょ?)
またもやこんな声が聞こえてきそうな雰囲気。
その様子が立ったままで男を愛撫しているように見えて、不覚にも軽い興奮を覚えてしまう。
そして数秒間その状態が続いた後、サビーレは元いたポジションへと戻っていった。
幸いなことにライフは差し引かれていないが、実質的にこれではなぶり殺しだ……
サビーレの特殊能力のせいもあって、残りのしもべを動かす行動力はミナにも残っていないようだ。
「じゃああたしはカードを2枚伏せてターンエンド。そろそろ終わっちゃうかもね?」
「くそっ……」
歯ぎしりしても事態は好転しない。
ミナに圧倒的有利なままデュエルは進んでゆく。
(だがまだだ! 手負いだけどアベルはまだ動けるぞ……)
俺は決して最後まで望みを捨てない。その気持を込めてカードをドローする。
「おっ、これは……『正直な宝泉』じゃないか!」
最後になるかもしれないドローで引き当てた魔法カードの効力は、手札を3枚増やすというものだった。
さらに続けて3枚引くと、一発逆転を狙える手札が舞い込んできた!
手にしたカードは――、
・冥界への片道切符(無条件で相手のカード1枚を排除)
・氷結地獄(指定した相手1体を10ターン拘束)
・湧き出る命の泉(ライフポイント全快)
(これで勝てる! まだ逆転できるぞっ)
我ながらなんという引きの強さ。
俺はミナの前で勝ち誇ったようにカードを三枚開示してみせた。
「うそっ、なにそれえ!」
さすがに驚いたか。まずはライフを全快させた。
それからやばすぎるサビーレを排除、さらに炎の剣士も拘束した。
残るはそれほど強くなさそうな水着姿のキャラと、大仰な杖を持つ修道女……あいつは確か防御力が半端なかったはず。
「アベルに攻撃指令、水着のほうだ!」
俺が指さした方向にアベルが突撃する。
今度は魔法剣ではないが、攻撃力も元通り2000に戻っている。
(この攻撃は通る!)
しかしアベルの剣が水着娘を一閃した瞬間、ぐにゃりとビジョンが歪んだ気がした。
(もしかしてあれは「伝説の水戦士 ミレーネ」だったのかっ!)
俺の記憶ではミレーネは茶髪だった。
しかし目の前にいるのはおそらく二段階進化を遂げたミレーネ。
ミナのライフはしっかり削れたが、今度はアベルの動きが完全に停止してしまった。
「あーあ。また簡単に引っかかってくれたねぇ~」
「くそっ、一体どうなってるんだ……」
「ミレーネの進化スキル『永久氷河』は斬りかかってきた相手を氷漬けにするんだよ。しかも相手キャラが消えるまでターンが終わらなくなっちゃうの」
「!!」
「というわけで、今からおしおきタイムだよ? 場に出てる『清らかな修道女』をいけにえに、『緑の錬金術士ロレーヌ』を召喚!」
ミナが宣言すると、木の杖を持ち、緑色のローブを着た可憐な少女が現れた。
(終わった……)
この瞬間俺は全てを理解した。
ロレーヌの攻撃力は1000程度なのだが、特殊能力によって相手キャラが持つ攻撃力との差をプレイヤーに直接ライフアタックできる。
そしてロレーヌ自身は無傷というチート。
つまり俺は……ロレーヌの攻撃でじわじわとライフを削られることになる。
「グ……ガ……・」
先ほどのミレーネのスキルによって動きを封じられた俺のしもべ・戦士アベルが苦しげに呻いている。
その正面に立ったロレーヌが申し訳なさそうに戦士の屈強な身体に腕を回す。
「あの……できるだけ痛くしませんから。えいっ!」
グキュウウッ!
「ガアアアアアアアアアッ!」
ローブを纏った美少女の細腕に締め上げられたアベルが苦痛の叫びあげる。
だがしもべが消滅することはない。
代わりに俺のライフゲージが目減りするだけだ。
「あら、今のは軽すぎましたか……でも今度は少し強めで」
ギュウウッ!
「アアア、アアア……!」
悲痛な叫びを上げるアベルの姿が自分とシンクロする。
身動きも取れずに美少女になぶられているという点では、俺もアベルも同じ立場。
目の前の女子校生・ミナは淫らな目で俺を眺めている。
「もしかして興奮してきた? じゃあこれ、使おうかな……」
「これ以上何をッ……」
「……ライフドレイン。搾り尽くしてあげるよ」
ミナが一枚の魔法カードを開示すると、アベルを抱きしめているロレーヌが優しげな声で話しだす。
「だいぶ効いたみたいですね。ではここで吸精の魔法を……」
彼女が手に持っている魔法の杖が光りだし、アベルの身体から何かが吸い取られてゆく。
「アガッ、アガアアアアアアア!!」
苦悶の声とともにさっきよりも激しくライフが減少しはじめた。
さらにそのライフでミナのゲージが徐々に上がってゆく。
(ミナに吸い取られてる……俺のライフが、あいつに吸い尽くされて……!)
妖精みたいに可憐な美少女ロレーヌに抱きしめられたまま、徐々に弱らされてゆく俺のしもべ。
その哀れな姿に自分自身を重ねた俺は、自分のスペースでがっくりと膝をついてしまった。
「もうおしまい? すぐにライフが全部こっちに来ちゃうよ?」
「うううっ、くそぉ……」
こちらからはどうすることもできない。
アベル自身の数値が減らない以上、ターンは継続する。
そしてせっかく減らした敵のライフが攻撃の度に自分から吸い上げられ、回復していくなんて。
しかも力で優っているはずの戦士が女子の策略にハメられてなぶられてしまうとは……
(まるでミナに体中を犯されてるみたいだ……)
数秒後、デュエル終了を告げる電子音が鳴り響いた。
俺のライフはゼロ。相手は8000。
完敗だった。
「はぁ、ぐ、はぁっ、は……」
コツコツという革靴の音が響く。
デュエルが終わってもまだ動けない俺に女子校生が近づいてきた。
「頑張ったほうだと思うよ?」
それは敗者の傷口に塩を塗るような一言。フワフワした華のような香りが降り注ぎ、視線を上げると軽く興奮したようなミナの顔が目に写った。
(きれいだ……近くで見るとこんなに可愛いんだ……ミナ……)
制服姿のまま俺を打ちのめしたデュエリストに思わず見とれてしまう。
その美しい、端正な美少女の顔がゆっくり近づいてきた……
くいっ……
細い指先が俺の顎を無理やり上向きにさせる。
チュウウッ♪
続いて口紅も塗ってないのにツヤツヤでピンク色の唇が俺の呼吸を奪う……。
「んっ!!」
ビュルルルッ!
突然のキス。それと同時に俺は身体を小さく震わせてしまった。
下半身に血液が流れ込んでどくどくしているのがわかる……
ピチャピチャッ、ジュルル……
チュピ、クチュ、チュルルル~~~
そこから十秒以上、たっぷりとキスをまぶしながら俺を骨抜きにした後でミナがようやく俺を解放してくれた。
「本当ならアンティ……カードを一枚貰うところだけど、これで許してアゲル」
頭のなかが蕩けきって何も考えられないまま、彼女の言葉に頷く俺。
ミナは満足そうにゆっくりと立ち上がると、俺を見下したまま右足の先で射精直後の股間を踏みにじった。
ギュリリリッ!
「な、な……あふ、あうっ、あうううう~~~~~~~~っ!」
無慈悲な追撃。敏感になったままのペニスを踏みにじる美少女の足に悶絶しない男などいないだろう。
そしてヌルヌルした内部の感覚を確かめるように何度か足を動かしてから、ミナはもう一度顔を寄せてつぶやいた。
「今日のデュエルで興奮したんでしょ? じゃあまた今度遊んであげるからね……今度はもっと激しく吸いだしてあげる」
甘ったるい言葉が終わり、彼女が振り返った瞬間……俺はもう一度絶頂してしまった。
(了)