(2025.04.23改稿)
「ありがとう、ウィル……」
レベッカが光の渦へと消えてゆく。激戦の末、僕は敵の首領である少女レベッカを絶頂に導いた。
今でも信じられない。多くの偶然が重ならなければ勝てる戦いではなかった。
「こんなことって……あのお方がバトルファックで負けるなんてありえないわ!」
意識を取り戻したライムは唇を震わせながらレベッカの残滓を見つめている。
肩をがっくりと落として床に手をついたライムに僕は声をかける。
「ねえ、ライム」
僕の声に肩をビクッとさせ、怯えた顔で振り返る彼女。
「……今度はあたしを消すの?」
神殿を侵したのだ。間違いなくこのままでは死罪。
呪縛を解かれた神官長ミサが見守る中、僕は彼女にある選択を強いることになる。
「そうじゃなくて……僕のところへ来ないか」
「な、なによそれ!?」
「もし行くところがないなら、どうかなって」
僕の提案に、ライムは一瞬目を丸くしてからすぐに鋭い目で睨みつけてきた。
自尊心が高い彼女は敵に情をかけられたと思っているのだろう。
「馬鹿にしないで! さっさと殺しなさいよ。『行くところがないなら』って……捨て猫じゃあるまいし、ふざけないでよ」
先程までとは違う涙を浮かべる彼女。
負けたからには潔く死にたい、か……いかにも気丈で彼女らしい返答だ。
それに対して僕は首を小さく横に振る。
「そうじゃないんだ。君の体の中に僕の大事な3人住み着いちゃったんだ」
「……えっ……」
「ほら、感じるだろ? スライムのルル、ミリア、メタリカなんだけど……たぶんライムの魂に溶け込んでるみたいなんだよね」
これが僕の提案理由だった。
スライムリングから解放された彼女たち3人の魂を拾い上げる術が僕にはない。
僕はせっかく出会えた彼女たちとは離れたくない。
普通なら解放と同時に魂が消滅してしまうのがスライムリングに宿る彼女たちの宿命なのたけど、今は奇跡的にライムの身体の中で生きている。
「ウィルは私に彼女たち3人の器になれというのね。死ぬよりも辛い選択をしろなんてひどい人……」
今度は屈辱感たっぷりに泣きだしそうな顔をするライム。
く気まずい展開になってしまった。
でもたしかにこれだと残酷な提案に聞こえてしまうかもしれない。
でも……
「ち、ちがうんだ! ライムに器になって欲しいわけじゃない、僕はライムのことが……ちょっと、いや、かなり好きなんだ!」
「ええぇっ!」
限界まで目を開いてこれまでで一番の驚きを見せるライム。
そんな顔されるとこっちのほうがドキドキしてくるのだけど。
(……思わず告白してしまった)
だが後悔はない。僕はやっぱりライムみたいな女性が大好きなんだ。
勝気で、クールで、スタイルが良くてエッチが上手な人。
敵であってもこんな素敵な人とはなかなか出会えない。
「い、いけませんよウィルさん! 相手はこの神殿を混乱させた大罪人ですっ!」
神官長ミサがあわてて僕の言葉をさえぎろうとする。当然だろう。
でも僕はミサの言葉を無視してライムを見つめ続けていた。
やがてライムの表情がフッと緩む。
「いいわよ。あなたについていってあげる」
「や、やった……!」
「どうせ行くところもないし、ね?」
僕はライムを仲間にすることに成功した!
「本当に来てくれるの?」
僕と見つめあい、しばらく黙っていたライムが突然クスっと笑い出す。
「ええ。そうしないと他の3人が頭の中で暴れだして毎晩眠れない気がするし。でも勘違いしないでよね。私はまだあなたのことを好きでもないし、これからも好きにならないかもしれない。気を抜いたら今度は本当に脚奴隷にしちゃうからね? 」
ライムが僕に寄り添い、腕を絡ませて頬に軽くキスをしてきた。
近くでミサが口を開けてこちらを見ているのも気にならない。
こんな幸せなことってあるだろうか……。
「だらしない顔しちゃって。もうすでに私の責めが忘れられないのかしら……。まあいいわ、ふふっ♪ いきましょ、ウィルの家に」
そのあと、小声でライムがささやく。
(ねえ、ウィル。あなたといっしょになるなら、私は無罪放免よね?)
ライムがパチッとウィンクをする。やっぱり計算高い女性だなぁ。
僕はミサから見えない角度で小さく頷き、その場をあとにした。
あれから半年……僕たちは幸せに暮らしている。
ライムを引き取ってから神官たちには僕からあらためてお願いをした。
今回の報酬を受け取らないかわりにライムの無罪放免と彼女の管理権限を与えてもらえるように。
『即刻死罪を! 大罪を犯したものを許すな!!』
……という反対意見が多数の中、神官長ミサの鶴の一声でライムは執行猶予の身となった。
そういう意味で僕はミサにしばらく頭が上がらないだろうな。
僕と一緒の暮らしにライムも始めのうちは戸惑っていたけど、多重人格を楽しめるようになってきたようだ。
ルルと一緒の夜は、仲良しの兄妹のようにひたすら甘く過ごす。
ミリアの時はその逆で、テクニシャンのお姉さまに僕が甘えさせてもらう。
メタリカが出てくる夜は、エッチ抜きで徹夜でひたすら遊んだり……
本体であるライムとの夜は恋人(候補)同士として抱きしめあう時間が増えた。
「ねえ、どうして私を選んだの?」
「赤い髪が好きなの? それともポニーテール?」
「ちょっと! どこ見てんのよエッチ!!」
質問攻めの毎日だけどそれなりに上手く躱している。そして相変わらず、僕は彼女の脚責めに勝てそうもない……ちょっとくやしいけど、気持ちいいんだからしょうがない。
僕らはいつも2人組みで行動して、ハンターたちと共に敵と戦っている。
ライムの活躍のおかげで僕のスライムバスターとしての名前も売れてきた。
来月は氷山がプカプカ浮かぶような海がある北の国へ遠征する予定だ。
「ねえ、ウィル。私は寒いところが苦手なんだけど?」
普段は見せない不安そうな表情のライムもまたかわいらしい。
僕にとっては念願の彼女も出来たわけだし、どんなに強い敵が現れても二人ならがんばって倒せるような気がする。
「心配ないよ。どんなに寒くても僕が暖めてあげるから」
「ばば、馬鹿じゃないの!? ウィルのくせに何いってんの!」
さて次はどんな相手なのだろう。
僕は隣で騒ぐ彼女の手をぎゅっと握り締めた。
◆◆◆ HAPPY END ◆◆◆
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