「ま、いっか……」

ウィルはリィナを家に連れて帰ることにした。

その前にライムから頼まれた買い物をしなければならなかった。

手ぶらで帰宅しては何のために外出したのかわからなくなってしまう。

今夜の食べ物や必要な衣料品を大急ぎで街で買い込む。

リィナに荷物持ちをさせながら、彼は買い物をすばやく済ませた。













場所は変わって、こちらはウィルの家。

転職の神殿に近い「賢者の森」をぬけたところに遠くの街を見下ろすことが出来る小高い丘がある。

ウィルの家はそこに建っていた。

ログハウス調のこじんまりとした洒落た家である。

その中で一人の美女が紅茶を飲んでいる。


肌は露出させていないが、服の上からでも色気を感じさせるボディライン。

グラマラスというよりはスレンダー……しかしバストはDカップ以上。

赤みを帯びた美しいブラウンの髪。

そして勝気な性格を感じさせるはっきりとした顔立ち。

小さなつくりの顔……彼女の個性的な美しさを表すにはまだ多くの言葉が必要である。

その美女が溜め息をひとつ吐いて部屋の中を見渡す。




「遅いわねぇ、ウィル。どこでなにしてるのかしら?」

肩まで伸びたまっすぐな髪を軽く揺らしながら、美女はもう一度カップを口元に近づけた。

彼女の名前はライム。元淫魔……いや、今も淫魔である。

スライムの粘体技をいくつも使える彼女は、かつてウィルと敵対していた。

人間とスライムのハーフゆえ、仮に彼女がハンターにイカされても消滅することも無い。

まあ……彼女ほどの実力者をイカせるハンターは協会でも数少ないといえるが。

彼女はウィルの現在の恋人である。

今のところまだ「奥さん」とは呼ばれたくないのでウィルとの結婚は考えていない。


「あの人のことだから、途中で淫魔にやられちゃってたりして……あなたはどうおもう?」

「はぁ、は……はいぃ、師匠は無事…… あっ!……はずだと……うっ!」

ライムは視線を部屋の中に移した。

そこにはマルクと呼ばれた一人の若者が椅子にくくりつけられて悶えていた!

彼の名はマルク。淫魔ハンター志望の若者である。

特にスライム退治に特化したスキルを身につけたいということで、ウィルの家に住み込みで修行させてもらっている身だ。


「マルク、僕が出かけている間はライムに稽古をつけてもらいなさい」

数時間前にウィルは外出した。どうやら夕方までには帰ってくるらしい。

ハンターの世界に限らず、師匠の言いつけは絶対だ。

師匠が出て行った後、マルクは深々と頭を下げて特訓をお願いした。

ライムがニヤリと妖しく笑ったことも知らずに。


そして特訓が始まった。

ライムは手始めにマルクの手足を椅子に縛りつけた。


「動けないと感じやすくなっちゃうね?」

気になるメニューはというと体の自由を奪った上でスライムローションをペニスや乳首、その他の性感帯に塗りつけて、一定時間耐えさせるというものであった。


「気持ちいいでしょう? まだ素直に感じていていいわよ」

ライムの指先からとめどなく粘液が溢れ出し、彼の体をうっすらとコーティングしていく。

細い指先が粘液を丁寧に擦りこんでいく。

ヌルヌリュ……ヌルッ……ピチャ……♪

美女の指先が奏でる快楽マッサージ、その妖しい旋律にマルクの体は違和感を訴えていた。


(この粘液……変だ……自由に動いてるぞ……!?)

彼に擦り込まれた粘液は、時間が経つにつれてライムの意思を写す「粘体」へと変化する。


「脇の下とか膝の裏……くぼんでいる所は性感帯がたくさんあるのよ?」

(まるで……体中をライムさんに包まれているようだ。気を抜いたらすぐに持っていかれる!!)

ライムに抱きしめられている。そんな錯覚を感じさせられている彼の体は快感の波に飲まれ始めていた。


「さて、そろそろいいかな……いっぱい気持ちよくなっていいのよ?」

ひたすら粘体のもたらす快感に耐える……

そんなシンプルなメニューであり、ハンターの基礎であるタフネスの向上を狙ったものである。

こうして彼の長く厳しい特訓メニューが開始された。


(ま、まだ……まだ終わらないのかっ!?)

今回の修行にマルクは苦戦していた。

ハンター養成学校のときから、彼は攻撃主体のBFスタイルなのだ。

マルクの身上は……「自分がイく前に相手をイかせる」

裏を返せば自分は快感に耐えるのは苦手。

今まではそれでも何とか養成学校の単位は取れていた。

しかし今までの経験が全くの無意味……そんな実戦さながらの厳しさを彼は体験していた。

ライムの責めに対して先ほどから射精しまくりなだけでなく、既に何回も気絶しそうになっている。


「こ、こ……こんなはずじゃないのに……!全然耐えられないっ!! これじゃ師匠にあわす顔が無いよ」

またもや爪先をピーンと硬直させ、快感に耐え続けるマルク。

そんな彼のガマンを打ち砕くかのように甘い誘惑を続けるライム。


「あらあら……またイっちゃいそうね?」

必死の形相のマルクを楽しそうに見つめるライム。










彼女自身は彼の体には指一本触れていない。そのことが彼にさらなる屈辱感を与えているのだ。

マルクの股間には、ライムが作り出した粘体「ミニライム」が張り付いていた。




これはライムが手の平からにじませたローションを変化させたものに簡単な快楽命令を刷り込んだものである。

しかも見た目は半透明で小さなライム……人型をしている。

小さな羽もついているので見ようによっては、ペニスより少し大きめの妖精に見えなくも無い。

その妖精は今、ペニス全体をサワサワと探っている。

相手がぴくぴく反応したところだけを意地悪に責める命令を実行している。

亀頭の表面を撫で上げ、クニュクニュと棹とカリの間を刺激する。


「あああっ、なんで……そこばかり責めるんですかぁ!!!」

妖精の責めがマルクの快感のツボを捉えた。

「……」

ミニライムは言葉を発することは無いが、主人であるライムの精神に反応してその表情を変えるときがある。


「……」

マルクの目には自分のペニスを愛撫して離さない妖精がにこっと微笑んだ気がした!

(あっ、……また出ちゃいそう……!!!)


「……♪」

妖精はそんなマルクの意思など無視してペニスに抱きついて体をすり寄せている。


「……ちゅっ♪」

今度は亀頭をぎゅううううっと柔らかく抱きしめながら鈴口を広げてきた。



敏感になった先端部分にチロチロとキスをまぶしてくる。

「あっ、ああっ……くそ!!」

慣れることのないヌメヌメとした快感がマルクの性感帯を刺激してくる。


(こ、この攻撃にさっきはイかされちゃったんだ……! 今度は耐えてやる!!)

たとえ小さくても相手は淫魔のエリート・ライムの分身である。

新米のハンター見習いには相手としては荷が重い。

だがマルクにも男としてのプライドがある。


(ちっ、小さいくせに!!!……ああああっ!! やばっ!)

その小さなヌルヌルの妖精にマルクはずっと喘がされているのだ。

ミニライムはカリ首を下から上に持ち上げたり、裏筋部分を軽く揉みあげたりと急所ばかり狙ってくる。


「あと少しだけ耐えなさい。」

遠くでライムの声が聞こえた。

ガマンの甲斐あって今回はイかずに時間切れとなりそうだ……


「あと30秒よ~」

ライムの声にマルクは心の中で勝利を確信した!

その時ドアが勢いよく開いた。


「ただいまぁ~…………がんばってるかい?」

師匠が帰ってきた…マルクの緊張感が一瞬だけ途切れてしまう。

その様子はペニスの状態にも敏感に影響するのでミニライムの主人であるライムにも瞬時に伝わる。


「ウィルが帰ってきて油断したわね。許さないわ。」

ライムの美しい手のひらが、おもむろにマルク自身を包み込む。

マルクが気を抜いたのを察したライムが、直にペニスの先端を握り締めた。

容赦なくヌルヌルクチュクチュと妖しい愛撫を加えた。


「ひいっ!!」

ペニスに襲い掛かるライムのしなやかな指先。

先ほどまでのミニライムとは比べ物にならない。

精密に性感のツボだけをえぐり取ってくる!!


「私に隙を見せちゃだめよ?」

ツルツルとしたライムの指がカリ首を撫で回し、棹をしごきあげた。

リズミカルにペニスを刺激されると精巣内部がぐるぐると蠢きだした。

一瞬遠のいていた射精感が一気に津波のように押し寄せてくる!!

もはやマルクに残されていた余裕は、一気に吸い取られてしまった。


「うっ、があああっ!! 」

突然の手の感触に一気に高められてしまうマルク。

しかもミニライムも主人の手の動きにあわせて玉袋をコロコロしている!


「もう無理でしょ? ふふッ♪」

意地悪に微笑むライムの表情に、ますますマルクは感じさせられてしまう。


「えっ?……あっ、で、出ちゃううっ……ぐああああああ!!!!!!!」

プシュップシュ……ドッピュウウウウウ!!!!


一瞬の隙を突いたライムの激しい愛撫にマルクは射精してしまった。

しかも今回は気絶というおまけ付きで。


「ウィルおかえり。この子、がんばってたわよ。」

ぐったりとなる研修生を放置したライムがウィルを見て微笑む。


(うわぁ……あいかわらず容赦ないなぁ、ライム)

ウィルは自分の恋人の鬼っぷりを見て膝を震わせていた。

その背中からリィナがひょこっと顔を出す。


「ライムせんぱぁーい」

それは懐かしい笑顔。

可愛らしい後輩に驚くライム。


「えっ、リィナ?なんであなたがここにいるのよぉ!?」

普段は冷静沈着な師匠の恋人が軽く取り乱している。

そんなことを思いながらマルクの意識は静かに闇に沈んでいった。










遠くで僕を呼ぶ声がする。

「マ……ク、起き……ルク……起きろ~~!」

白い霧の中をさまようような感覚が次第に薄れてゆく……
まだ重いまぶたを開くと、そこには師匠が……
ウィルさんが心配そうに僕を見つめていた。

「おお! マルク、目をあけたな。
 よし、今つめたい水を飲ませてやるからな……」

師匠はそういい残して僕の視界から消えて行った。
代わりに僕の顔を覗き込む綺麗な女性……ライムさんだ。
あれ、なんだか機嫌悪そうだぞ。

そういえばライムさんにタフネス特訓を受けていたはずなんだけどな……
記憶が途切れているし、なんだか体がだるくて、指一本も動かせない。

「……ウィルは心配性なんだから。研修生を甘やかしてどーすんの!?
 ほら、あなたもさっさと起きなさいよ!!
 それともミニライムをもう一体追加してあげようか!?」

……ライムさんがなにかしゃべってる。なにをいってるんだろう?
ぼんやりと考え込んでいると僕の股間が急速に痺れて……どんどん体の隅まで広がっていく!

「うわあああぁっ!!」

悪夢にうなされて目覚めるように、ガバッと飛び起きる僕!
意識より先に体のほうが無理やり目覚めさせられた。
恐る恐る僕は視線を自分の股間に向けた。




きゅきゅきゅっ、クキュ、クチュチュ……くにくにくにっ!

股間に張り付く透明な妖精……
柔らかい小さな手で一生懸命に僕を愛撫している。

しかも二体に増えて……いる!?
その妖精の片割れがペニスの先端を抱きしめながら、
チュチュッとキスをしてきた。

「はぁぅっ!!! 起きます、起きますっ、起きてます!!!」

ああ、これか……股間に走るこの刺激が僕をたたき起こしたんだ。
そして僕の体中から一気に汗が噴出した。

「ふんッ、はじめからそうやって起きればいいのよ……」

さらに、ライムさんは僕のペニスの先端をコネコネしてきた。
悶絶する僕。なんていう強引な起こし方……

「うふふっ、おはよう♪
 あなたってタフネスは未熟だけど……ホント、絶倫だよね?」

なんのフォローにもなってないですよ、ライムさん。
軽くひきつった表情の僕。

「ぐううぅ…………ははっ……おかげさまで……」

淫らな笑みを浮かべながら、僕を見つめるライムさんと
その傍らに初めて見る可愛らしい女の子……だれだろう?

「紹介するわ。この子はリィナ……私の妹みたいなものよ。」

「マルクさん、はじめましてですぅ♪」

ペコリとお辞儀をするリィナさん。



か、かわいいな……本当に「妹」って感じだ。
なんだかフワフワした印象の優しい女の子。
でもライムさんの妹分ってことは、もしかすると……まさか……

「あと、この子も淫魔だから。しかも強いわよ?」

あっさりと僕の不安を的中させるライムさんの一言。
なぜこの家には淫魔が普通にいるのだ!?

ウィルさんの家はサキュバスのペンションなのだろうか。
目覚めたばかりで体も心も落ち着かない。
師匠が水を持って返ってきた。

「ようやく目覚めたみたいだね……
 まったく、いつもやりすぎなんだよ。ライムは!」

ライムさんは師匠からの追及が面白くなさそうだった。

「だって人間相手に修行なんてやったことないし、
加減がわからなかったんだもん。しょうがないじゃない。
それとも私が悪いって言うの?」

ライムさんに逆ギレされて引き下がる師匠を見ながら、リィナさんもくすくすと笑っていた。

「ライム先輩、相変わらずなんですねぇ♪
その強気というかぁ……男前なところ?」

リィナさんは優しい口調で先輩にキツイ一言を浴びせる。

「なっ……私だって、少しは女らしくなったんだからね!」

リィナさんの突っ込みに顔を赤くするライムさん。

僕は面と向かってライムさんには絶対にいえないけれど、
この人は美形ではあるが「女らしさ」はそれほどないと思う。

師匠から手渡された水を飲みながら、
少しずつ僕は落ち着きを取り戻してきた。

「僕らは先に隣の部屋に行ってるけど……
 マルクも落ち着いたらこっちに来てくれ。話がある。」

パタン、と閉まるドア。僕は急いで服を着替えることにした。
弟子の分際でいつまでも師匠に甘えているわけにはいかないから。




僕が隣の部屋に入ると、いつになく神妙な面持ちの師匠が待っていた。

「マルク、良く聞いてくれ。
 僕とライムは明後日から北の国へ行ってくる。
 そのための準備に明日は費やしたい。今回はかなり長旅になるから……」

そういえば、協会のほうから召集通知が来ていたな。
しかもSクラス任務を示すプラチナカード……
師匠は普段はノンビリしているようにみえるけど、やっぱり頼りにされているみたいだ。

「僕らがいなくなる間、マルクの教育係をどうしようか迷っていたところなんだ。」

僕はだまって師匠の話を聞いていた。
すると僕の隣の席に、リィナさんが静かに腰をかけた。

「この人に明日からマルクの教育係を頼むことにしたよ。」

えええっ? リィナさんが僕の教育係……ですか??

「教育係といっても、僕と君みたいな師弟関係ではないよ。
 二人で協力して色んなミッションをこなして欲しいんだ。
 僕らがいない間の細かい任務は、キミに回してもらうように協会のほうには言ってある。」

それって……この上ないスパルタ教育では??
とぼけた顔してこの人は鬼だ。師匠、ボクまだハンター見習いなんですけど……
そんな僕の不安など無視して言葉を続ける師匠。

「ああ、だいじょうぶ。
 任務で死にそうになってもリィナが助けてくれる……とおもうから。
 それに彼女はキミに足りない部分を沢山持っている。一緒にいて学ぶことは多いはずだよ。」


「ちょちょ、ちょっと待ってくださいよ!師匠!!」

あわてて問い返す僕を、いつものようにノンビリとした雰囲気で眺める師匠。
この人を見ていると、スライムバスターって緊張感から無縁な世界なのかもしれないと錯覚してしまうことがある。

「んん? なんだい、マルク」

僕は少し苛立ちを覚えながらも、ゆっくりと師匠に理詰めで問いかける。

「師匠とライムさんが旅立つのはわかります。
 それがお仕事ですから、しょうがないですよね。
 その間、僕を指導する立場の人が必要なのもわかります。その気配りにも感謝しています。
 でもなぜ僕はこの初対面の女の子を師事しなくてはいけないんですか!?」


ウィルは少し考えるように視線を宙に泳がせてから、マルクに向かって答えた。

「ん~……理由は色々あるんだけどさ、なんか不満あるの?」

ウィルにしてみれば、リィナとライムが一緒だとライムの機嫌が悪くなる恐れがある。
(ライムはとてもヤキモチ焼きなのだ)
だからリィナを冒険の旅に連れて行けないというのが本音だ。
しかしそれはマルクに言えない。





「問題おおありですよ!
 これでも僕は協会認定のハンター見習いです。それをこんな女の子に……
まさか師匠はこの子の方が僕より強いとお考えなのですか?」

僕は思い切って師匠に尋ねた。
しかし師匠から返ってきた答えは、僕の予想を裏切るものだった。

「……今のところそうだね。
きみより圧倒的にリィナのほうが強いと思う。
 でもそれは単純に性技の強さが問題じゃなくてさ……」

師匠が僕を説得しようとする最中ではあったが、その言葉を遮って僕は反論した。

「納得いきません……リィナさん、僕と勝負してください。」

僕は彼女のほうに振り向いて、キッと睨みつけた。


「うみゅ?」

僕は彼女に対して、軽い嫉妬と敵対心を燃やし始めていた。

「勝負ってBFのこと? えぇ~~~……やっちゃっていいのぉ?
 リィナ、手加減できないかもしれないよ……」

完全に僕を各下扱いするリィナさん。
その返答に、ますます僕は頭に血が上る思いだった。

「かまいません。これは僕のプライドの問題ですからっ」

僕の言葉を聞いて、彼女は椅子から立ち上がった。
その表情が先程までと微妙に変化していることに僕は気がつかなかった。

「よし……じゃあ、やろっ♪
 男の子がプライドを口にしたら、それ相応の戦い方をしてもらうよぉ。
 でも、プライドはかけてもいいけど、命はかけちゃダメよ~」
こうして僕は、師匠が見守る中でリィナさんとBFすることになった。
このときの僕はまだ彼女の実力を何も知らなかった……。




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