マリンの家を出たボクたちは、消えた人々の気配を魔法具で追跡した。
 そして街外れにある洞窟の入り口へとやってきた。

 ここはかつて武器の練成などで重要となる鉱石を採掘した「ドーヴィル坑道」だった。
 現在は資源を掘り尽くされた廃坑となっている。

「長い洞窟だね」

「ああ、それなのにまったく人の気配がしないな」

 坑道の内部には灯りがないので、ボクが松明(たいまつ)をともしながら先頭を歩く。

「ううん、するよ……でも……」

「?」

「すごく先で、一箇所に皆が集まってる」

 レンジャーであるボクの勘がそう告げてる。
 そしてその場所に今回の元凶が鎮座していることも。

「この廃坑にそんなに広い空間があるとは思えないけどな?」

「足元気をつけて! アドムフ」

「お、おう……」

 暗闇に足をすくわれないように気をつけながら、ボク達は先へと進んだ。







 そこからしばらく歩くと、急に視界が広がった。
 洞窟の中だというのに天井が高い。
 まるで教会のように明るく広い空間に魔法陣が敷かれている。
 光ゴケだけでなく、松明の代わりに不思議な光を放つ石が壁面に埋め込まれているようだ。
 そして椅子のような形をした岩の上に、一匹の魔物が脚を組んで座っていた。



「なぁに? あなたたち」

 ボクたちの姿に気づいた魔物はこちらを向いて不敵な笑みを浮かべた。
 銀色の髪と青く光る瞳……背中には翼や尻尾は見えないが、強そうだ。

「お前が街の人たちをさらったのか? いったいどうや……」

「何を言い出すかと思えば……私は場所を用意しただけ」

 魔物はアドムフの言葉を遮ると、魔法陣を指差した。

「彼らが喜んで私のテリトリーに来れるように、街全体に魔法をかけたの。だから私の邪魔をしないで!」

 視線を落とした僕たちの隙を付いて、魔物が素早く印を結んだ。
 魔法陣が淡く輝き出して、ボクとアドムフの身体を桃色の霧が包み込んだ!

「こ、これは……ぐううっ……!」

「アドムフ!!」

 ボクよりも魔物に近づいていた彼が、魔法効果の直撃を受けた。

(眠りの……魔法…………!)

 咄嗟にボクは息を止め、目を細める。
 時間にすると1秒足らずだが、そのおかげで魔法を無力化することが出来た。


「あら……あなたには魔法が効かないのね? 可愛いお嬢さん」

「貴様ぁ……!」

「じゃあ本気で相手しちゃう♪」

 魔物はさらに懐から何か小さな袋を取り出すと、魔法陣の中心へと投げ入れた。
 消えかけていた輝きが瞬時に甦り、今度は燃え盛る炎のように変化した!

「くっ……眩しい!!」

「うふふ……もっと驚かせてあげる」

 魔物が魔法陣の中へと足を踏み入れた。
 燃え盛る炎が彼女を包み込む。


「ああぁっ!」

「ふふ、いかが?」

「貴様……クイーン……!!」

 忘れもしない整いすぎた顔立ち。
 邪悪で淫らな笑みを浮かべた表情と、均整の取れたスタイルを誇るサキュバスの王がボクの目の前に現れた。












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