Elbereth

 何やら白いものを携えて柊柯があらわれた。

「メイドさんごっこをしましょう」

 ついに陽気にやられてしまったのだろうか。

「……何がしたいんだ?」
「だからメイドさんごっこだってば」
「だから僕にメイドの真似をさせてどうしようというんだ?」
「あなたは旦那様をやればいいじゃない」
「お前は?」
「メイドさんに決まっているでしょう」

 ますます魂胆が読めない。
 まあ、どうせなんだかんだで僕が蹴られたり殴られたり投げられたりするのだろう。

 柊柯は黒いワンピースの上に白いエプロンとキャップを身に着けた。即席メイドの出来上がりということらしい。

「デートに誘ってね」
「……デートぉ?」
「そう」
「……何故?」
「そういう設定だから」

 どんなプレイを始める気だ。

「はい。それじゃあスタート」

 柊柯が姿勢を正し、手を打って開始の合図をした。



 デートに誘えと突然言われても……どうすればいいんだ。
 そうだ。まずは予定を確認しなければいけない。うん。

「なあ」
「はい」

 楚々とした佇まい。神妙な受け答え。
 じっとりと手に汗が浮かんでくるのを感じた。ついシャツの襟で手を拭おうとして思いとどまり、ハンカチを出して落ち着きなく開いたり畳んだりする。

「こ、今度の休みは、その、暇……かな?」

 それを聞くと、メイドの表情がにわかに曇った。

「……都合が悪いのか?」
「はい……」

 お前が誘えと言ったんじゃないか。

「……申し訳ありません」
「そう。まあ、いいけど。じゃあ、いつならいい?」

 ついにメイドは目を伏せ、うなだれてしまう。

「何だ? どうしたんだ」
「実は……実は私、少し前からお付き合いしている人がいるのです」

 ……は?

「ですから、旦那様とは、その……そういう関係を続けるわけには……」
「…………」
「ごめんなさい……! 何度も言おうとは思ったのですが……でも、でも、私……」



「出て行け」
「あら?」
「出て行け!」

 僕は力任せに柊柯を部屋から突き出した。
 そしてドアを閉めて鍵を掛け、寝床に潜り込んだ。

 外から柊柯の抗議がしばらく続いたが、幸いドアを破壊して乗り込んでくることはなかった。

Elbereth

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