Elbereth

 何の前触れもなく柊柯が鼻を僕の肩口に近づけてきた。

「……臭い」

 なんと単純明快に酷い言い様だろう。

「たいた?」
「……は?」
「何か焚いた?」

 もしや。

「蚊取線香のことか?」
「ああ……」

 蚊取線香を焚いたので匂いが服に染み付いてしまっていたようだ。柊柯は尚もそれを大きく吸い込む。

「豚で?」
「豚で」

 いつからか僕の部屋には陶器の豚の香炉があり、蚊取線香を焚く時に利用している。

「そう……」

 柊柯はいつもよりずっと遅い速度で呟くと、突然僕の首筋に腕を回してしなだれかかってきた。

「なっ……!」

 絶句する僕に構わず、髪から襟へ、襟から肩へと鼻を巡らせる。

「日本の夏……」

 線香に弱いらしい。

Elbereth

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