Elbereth

 激しく踏み鳴らされる足音が急速に近付いて来たかと思うと、後頭部を強かな衝撃が襲った。
「な」
 振り向こうとすると、今度は側頭部に。
「私の心の痛みを知りなさい!」
 3度振り下ろされる柊柯の拳を激痛により眩む意識でようやくかわして、後退り間合いを取る。
「殺す気か!」
「事と次第によっては!」
 慌てて飛んできた紫が柊柯を羽交い絞めにしてくれたので、ひとまず1度も死なずに済んだ。

「頼むから本当に殺す前に一体何事なのか教えてくれ」
 ひとしきり暴れたが抜け出せないと悟ると、柊柯はようやく少し落ち着いた。
「以前お茶で風邪薬を飲んだら良くないって言って私を責めたでしょう」
「……そんなことあったっけ?」
 僕が思い出せないでいるとまたひと暴れ。
「あったの! 去年の4月に!」
「そんなことよく覚えてるな……」
「あなたの記憶力が悪いんでしょう! この痴呆!」
 蹴り上げた柊柯の足からスリッパが飛んで、僕の額に命中した。
「で……それが何?」
 柊柯が再び物凄い勢いで暴れだしたので、紫は足をかけて柊柯を倒し、押さえ込んだ。

「最近の風邪薬はお茶だろうとコーヒーだろうと何で飲んでも大丈夫だって聞いたの!」
「誰に?」
「……テレビ」
「ふーん……」
 上半身が固められているので、柊柯は仕方が無く足をばたつかせたが、すぐに飽きたようだ。
「いつまで主人の上に乗ってるのよ。どきなさいよ!」
「でも……」
「お前は主人じゃないからどかないってさ」
「うるさい!」

「何事ですか?」
「あ。ちょうどいい所に」
 騒ぎを聞きつけたたまよがやってきて、やっと柊柯は解放された。
「あなたも見てたでしょう? 風邪薬とお茶の話」
「はい」
「最近の風邪薬は大丈夫だって言ってたでしょう?」
「そうらしいですね」
「ほら!」
「アルコール以外なら別に構わないそうですよ」
「へぇ……そうなんだ」
「……どうしてたまよが言うと疑わないのよ!」
 柊柯が激しくヘソ曲げたので、しばらく家中を追い掛け回されることになった。

Elbereth

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