第67話


「こ、これは………」

学校帰りの真名は、寮への道の途中で、とあるものを発見した。

それは………

クゥ〜〜ン、クゥ〜〜ン

右前足を怪我して地面に寝そべり、弱々しく鳴き声を挙げている真っ白な子犬だった。

実は、真名は無類の子犬好きである。

キョロキョロと辺りを見回し、人がいないのを確認すると、バッと子犬を制服の胸元に入れ、脱兎の勢いで寮へと走った。

寮に着くと、疾風を巻き起こしながら部屋へと駆け込んだ。

そして、部屋の中を確認し、相部屋の刹那の姿が無いことを確認し、ドアの鍵を閉める。

その後、胸元に入れていた子犬を解放すると、右前足の手当てをしてやり、餌を与えた。

嬉しそうに餌を食べている子犬を見て、普段の真名からは想像も出来ない緩みきった笑顔を浮かべる。

他の人達が見たら、普段彼女に感じているイメージが音を立てて崩れ落ちそうなほどだ。(しかし、新たな魅力に魅了される奴も出るだろう)

「お前、どうしたんだ? あんなところで怪我していて? ん?」

さらには、子犬に頬ずりしながら、話し掛け始めた。

そんな真名の顔をペロペロと舐める子犬。

「うわっ! あはは! くすぐったいぞ、おい!」

そう言いながらも、終始満面の笑顔を浮かべている真名。

と、

「………何やってるんだ? 龍宮?」

不意に後ろから聞こえてきた声に、真名は油の切れた機械のようにギギギィーと音を立てながら振り向いた。

そこには、相部屋の刹那が立っていた。

「せ、せせせ、刹那!? どどど、どうやって入った!? いい、何時からそこに!?」

「生活時間帯が食い違った時のために、合鍵を渡したのはお前だろ。見ていたのは、子犬の手当てをしているところからだ」

ほぼ全てを目撃していたというわけだ。

カチーンと石化する真名。

「あ〜、その………気にするな。好みなんてものは人それぞれだし………」

「フ………フフフ………フフフフフフフフ」

と、真名は石化から回復すると、背後に真っ黒なオーラを漂わせながらゆっくりと立ち上がった。

「た、龍………宮………さん?」

その迫力に思わず、さん付けで呼んでしまう刹那。

次の瞬間!!

真名はデザートイーグルを抜き、刹那に向けた!!

「私の秘密を見たからには、死んでもらう!!」

「ええーーーーっ!!」

叫び声を挙げた刹那の頬を、銃弾が掠っていった。

頬が切れて、血が流れる。

(じ、実弾!? マズイ!! 本気だ!!)

刹那は、慌ててドアを突き破るように外に逃走した。

「待てーーーーーっ!!」

それを鬼のような形相で追いかける真名。











30分後………

女子寮近くに佇んでいる機龍の姿があった。

「女子寮が大変なことになってるって通報を受けて来てみたが………なるほど、確かに大変な状況のようだな」

先程から、女子寮からは発砲音、破壊音が鳴り響き続けていた。

機龍は、意を決すると、入り口から内部へ突入していった。

「あ!! 機龍さん!!」

そこへ、慌てた様子の刹那が駆け寄って来た。

「桜咲くん、一体これは何事だ!?」

刹那に事情を尋ねる機龍。

「そ、それが、龍宮が………」

「真名が? どうしたんだ?」

と、そこへ!!

「見つけたぞ!! 刹那!!」

通路の影からバッと真名が姿を見せた。

「いいっ!!」

「へっ?」

「往生しろーーーーーっ!!」

パ○レイバーの太○功のような台詞と共に発砲する真名。

「うわっ!!」

「はっ?」

刹那は横っ飛びしてかわすが、呆けていた機龍は反応が遅れた。

弾丸が目の前まで迫る。

「うおぉぉぉぉっ!!」

咄嗟に機龍は、マ○リックスのように上体を反らして避ける。

が!!

咄嗟のことだったので受け身が取れず、後頭部を思いっきり強打した。

「はがっ!!」

「き、機龍さん!!」

「ハッ!! き、機龍ーーーー!! しっかりしろーーーーっ!!」

我に返り、慌てて機龍に駆け寄る真名。

「れ、レ○ンボーブリッジ封鎖できません〜〜………」

機龍はわけの分からない言葉を呻きながら、グルグル目玉になって気絶した。

頭の上をデフォルメされたJフェニックスが、回りながら飛んでいる。











「なるほど………話はよ〜〜く分かった」

気絶から回復し、やや怒り心頭の様子で仁王立ちしている機龍。

その前に、ちょこんと縮こまって正座している真名と刹那。

「この際、どちらが悪いとは言わん。しかし、寮を破壊したことについてはどうかと思うぞ」

「「ごめんなさい………」」

深々と頭を下げる真名と刹那。

と、そこへ、

ワンッ! ワンッ!

元気の良さそうな鳴き声と共に、右前足に包帯を巻いた白い子犬が現れ、真名に飛びついた。

「うわっ、お前!」

驚きながらも子犬を受け止める真名。

「ん? その子が、拾ってきたっていう子犬かい?」

真名の前にしゃがみ込み、子犬に視線を向ける機龍。

「ほう、よく見るとカワイイじゃないか」

機龍はそう言って、子犬の頭を撫でてやる。

ワンッ! ワンッ!

それに嬉しそうに尻尾を振って鳴く子犬。

機龍は、さっきまでの怒りが何処かへ消えていくのを感じた。

「………まあ、説教はこれぐらいにしておく。飼うからには、ちゃんと面倒を見るんだぞ」

「あ、ああ、分かってる」

意外にあっさり説教を止めた機龍に、怪訝な顔をしながらも助かったと思いながら、真名と刹那は部屋へと向かう。

「そういえば、名前とか決めてあるのかい?」

「え? 名前?」

そう言われ、不意に考え込む真名。

「う〜〜〜ん………あ! マーフィーにしよう!!」

「マーフィー?」

「ほら、機龍がいつか見ていた戦隊ヒーローに出てきたロボット犬の」

「ああ、特捜戦隊デ○レンジャーのマーフィーか。良いんじゃないの」

「よし、今日からお前はマーフィーだ!」

ワンッ! ワンッ!

マーフィーはまたも嬉しそうに尻尾を振るのだった。











その後………

「………で? 何で俺が寮の修繕を手伝わされているんだ!?」

作業着姿の勇輝が、穴の空いた壁にコンクリを塗りながら愚痴を零す。

「銃弾で壊れたなんて理由じゃ業者に頼めないからだ。大体、やってるのはお前だけじゃないだろ」

その隣で、同じく作業着姿の機龍が、乾いたコンクリの上にペンキで塗装を施している。

他にも、寮の彼方此方で、作業着姿のジン、サクラ、レイ、アーノルド、レッディー、ゼラルド、ゼオ、シリウスが修繕作業を行なっていた。

「ったく、メンドくせーな………」

「良いんだぞ、やめても。その代わり………金輪際、お前にはメシも奢らんし、金も貸さんぞ」

「さぁーー、皆さん! 張り切っていきましょうーーーーっ!!」

途端に懸命に仕事に掛かる勇輝。

………彼にとっては死活問題らしい。











その日の夜………

「うぃ〜〜〜………ヒック………部長のバカ野郎め〜〜」

人通りの無い通りを、酔っ払ったサラリーマンが、千鳥足で歩いていた。

どうも、上司に叱られ、ヤケ酒を飲んでいるようだ。

と、

建物と建物の間の路地裏から、ゴソゴソと音が聞こえてきた。

「あ〜〜ん? 野良犬か?」

サラリーマンが視線を向けると、暗闇に赤い目のようなものが、ギラリと2つ出現する。

「ひっ!!」

思わず、短い悲鳴を挙げるサラリーマン。

次の瞬間!!

グアァァァァァーーーーーッ!!

獣の咆哮のような鳴き声と共に、巨大な影がサラリーマンに襲い掛かった。

「ギャアァァァァァァァーーーーーーッ!!」











一夜明けて………

麻帆良学園女子中等部グラウンド………

「ラ○オ体操第一〜〜〜! ハイ、1、2、3、4、5、6、7、8!!」

「「「「「「1、2、3、4、5、6、7、8!!」」」」」」

機龍の体育の時間の始まり恒例のラ○オ体操をしている3−A生徒達。

………因みに、動きは軍隊並みに統一されている。

と、その途中、

「機龍さ〜〜〜〜ん!!」

ネギが、機龍の元へと走り寄って来た。

「ん? ネギくん、どうしたんだ?」

体操を中断して、ネギに尋ねる機龍。

「ちょっとすみません………ボソボソ」

ネギは、機龍に何やら耳打ちする。

「ええ!?………分かりました。ここはお願いします」

機龍は、それを聞いて一瞬驚いたような顔をすると、3−Aの方へ向き直った。

「皆、ちょっと所用が入ったので失礼させてもらう。皆は体操が終わったら、各自自習とする。監督はネギ先生が引き受けてくれる」

「「「「「やったーーーーーーっ!!」」」」」

大喜びする3−A。

機龍は、やれやれといった表情を見せると、その場を後にした。

しかし、武闘四天王やエヴァ等はまた事件が発生したと直感していた。











麻帆良学園都市の一角………

パトカーが集まり、挙っている野次馬達を警察官が立ち入り禁止のロープで押し止めている。

「ちょっと、すみません………」

機龍は、人ごみを掻き分け、ロープを潜ってその現場へと入って行った。

そして、現場の責任者らしき刑事に、手帳を見せる。

「機甲兵団ガイアセイバーズです」

「あ、どうも。麻帆良警察署刑事課長………というのは表向きの顔です。本当は、魔法協会の者です」

後半は小声で話す刑事課長。

「それで………一体、何があったんですか?」

「はい………昨夜未明、帰宅途中だったサラリーマンがこの場所で何者かに襲われました。被害者は重症を負いましたが、命に別状はありません」

「通り魔ですか?」

「いえ、それが………被害者がうわ言で、巨大な犬に襲われたと呟いていまして」

「巨大な犬?」

思わず首を傾げる機龍。

「被害者はかなり酒を飲んでいたので、警察側はただの幻想だと思ってるようですが、被害者の怪我にはどう見ても人間がやったようには見えない傷が多数残されているんです」

「なるほど………妖怪、もしくは魔物の仕業じゃないかと?」

「ええ。ですから、そちらの方にも、協力をお願いしたいのですが………」

「分かりました。この件に関しましては、ガイアセイバーズの方でも全力を挙げて捜査してみます」

「よろしくお願いします」

刑事課長は、そう言って現場の方へと戻って行った。

「巨大な犬か………」

ふと機龍の頭の中に、真名が拾った子犬のことが過ぎる。

何か関連があるのではないかと………

「………まさかな」

しかし、機龍は笑ってその考えを打ち消すのだった。











放課後………

ガイアセイバーズ基地作戦室………

機龍は、隊員達を全員集めて、先ほどの事件のあらましを伝えた。

「………というわけだ。今夜から惑星J組の方は、夜間警備を強化。3−A組の方は、何か変わった事があったら報告してくれ。良いな!」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

機龍の命令に敬礼して答える一同。



しかし………

奇しくも、機甲兵団ガイアセイバーズが厳戒態勢に入ったその日の夜に、第2の事件は起きてしまうのだった………

被害者は夜勤に出勤するところだったOL。

幸い、命は取り留めたものの、第1の事件の被害者と同じように、うわ言で巨大な犬と呟き、人間業とは思えない傷を負っていた………











それから数日後………

ガイアセイバーズ基地作戦室に集合している惑星J組………

「クソッ!! 俺達はなんて無力なんだ!!」

苛立ち気に机を叩くレイ。

機甲兵団ガイアセイバーズの警戒も虚しく、被害者は増える一方を辿っていた………

「…………」

隊長席に座る機龍も、無言で苦い顔を浮かべていた。

「兎に角、もう一度状況を整理してみよう」

「そうですね………」

アーノルドがそう言うと、シリウスが今までの事件を纏めた書類を全員に配った。

「ここ数日で起こった事件は13件。何れも死者は出なかったものの被害者は全て重体。その傷は人間の仕業には到底思えない」

最初にレッディーが報告する。

「その他の共通点については、発生時間が必ず夜間だという事だけ。襲われた人達に何れも共通点はなし」

続いてゼラルドが報告する。

「………その手口から人外の者の仕業である事は明確だが、目的を含め、詳細は分かっていません」

そして最後にジンが報告する。

「八方手詰まりですね………」

気落ちしかけているサクラの声が、やけに重々しく響く。

「ふ〜〜………せめて目的さえ分かればな………」

機龍は、タメ息を吐きながら書類に目を落とす。

と、

「!!」

突如、何かを発見したかのようにオペレーター席に走ると、コンパネを操作し、メインモニターに麻帆良の地図を映し出す。

「リーダー!?」

「どうかしましたか!?」

何事かと隊員達も注目する。

「今までの事件の発生場所はコレだ!」

そう言って機龍は、地図に事件発生現場をマークする。

「そして、コレ等の現場を事件が起きた順番に結んでいく………」

続いてそのマークを事件が起きた順に結んで行く。

「コレが、何か?」

わけが分からず機龍に尋ねるシリウス。

「犯人はある場所を目指しているんだ………」

「「「「「「「ある場所?」」」」」」」

首を傾げる隊員達に、機龍は犯人の目的地を拡大してみせる。

「「「「「「「!!」」」」」」」

それを見て、全員が驚愕する。

「リーダー!! もしそうだとしたら!!」

「マズイですよ!! もうすぐ日が暮れます!!」

「全員武装し緊急出動だ!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」」

全員が慌しく作戦室を後にする。

機龍がモニターに拡大した場所………

それは………麻帆良女子寮だった。











麻帆良女子寮近くの森林………

武装した惑星J組は、森林前に集合していた。

「各員、散開!! 目標を発見した場合、いざという時は命令を待たずに攻撃しても構わん!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」」

散開していく隊員達。

(どこだ!? どこにいる!?)

隊員達は森林の中を走り回る。





そして………『それ』と最初に接触したのは、機龍だった。

「こ、コイツは!?」

それは、白い毛並みをしたサイくらいの大きさを誇る巨大な犬だった。

グルルルルルルゥゥゥゥゥゥーーーーーー

低い唸り声を立てながら、機龍を威嚇する巨犬。

「妖怪? コイツが一連の事件の犯人か!?」

機龍は、腰の二刀に手を掛ける。

と、その瞬間!!

ワオォォォォォーーーーーーンッ!!

咆哮を挙げて、巨犬が襲い掛かってきた。

「おおっ!?」

咄嗟に横っ飛びしてかわすと、二刀を抜き放つ機龍。

「やる気満々ってか………上等!!」

そして、巨犬目掛けて突撃する。

「でやあぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

気合と共に二刀を横薙ぎに振る。

しかし!!

ガキィンと音がしたと思うと、二刀は巨犬の右前足の肉キュウで止められた。

「何っ!!」

驚いた機龍に、巨犬の左前足の平手打ちが決まる。

「ぐわっ!!」

ブッ飛ばされ、木を薙ぎ倒して止まる機龍。

「オイオイ………肉キュウってのは、普通柔らかいはずだろう………」

ワオォォォォォーーーーーーンッ!!

ふらつきながらも立ち上がる機龍目掛けて、今度は巨犬が突撃する。

「何の!! 動くこと雷の震うが如し!!」

そう言って機龍は、左の刀に気を込めて、地面に突き立てた。

すると、地面が弾け、砕けた岩盤が岩となって舞い上がる。

その岩を、右の刀でフルスウィングする。

刀が接触した際に発生した静電気を帯電しながら、巨犬を目掛けて飛んで行く岩。

だが!!

バリンッという音と共に、岩は巨犬に噛み砕かれた。

「ゲーーーーッ!? あっさりと!!」

思わず呆けてしまった機龍に、巨犬の頭突きが炸裂した。

「ぐはっ!!………」

刀を手放し吐血しながら、再びブッ飛ばされ、仰向けに倒れる機龍。

(ぐううぅぅ!! アバラにヒビが入った………まいったな………強いぞ、コイツ)

何とか起き上がろうとしたが、その前に巨犬の右前足に踏みつけられ、押さえられてしまう。

「ぐほっ!! や、ヤバイ………」

押さえつけている足に鉄拳をお見舞いするが、巨犬は意にも介さない。

(む、無念!! ここまでか!?)











その頃、麻帆良女子寮、真名&刹那の部屋では………

「アハハハ………ほら、マーフィー。取って来い」

ワンッ! ワンッ!

真名はマーフィーとボール遊びに夢中になっている。

ここ数日で、マーフィーは真名にとって、掛け替えのない存在になっていた。

同室の刹那も、見慣れた光景となったのか、気にも留めていない。

「ん?」

「どうした? 龍宮」

「いや、何か、変な気配が………」

と真名が言った時、

ワンッ! ワンッ!

マーフィーが開けていた窓から外へ飛び出していった。

「あ!? マーフィー!?」

慌ててその後を追う真名。

「…………ここ5階だぞ」

真名は兎も角、マーフィーが飛び降りたことに、刹那は思わず呆然としてしまうのだった。











一方、機龍は………

今まさに、巨犬によって頭を噛み砕かれそうになっていた。

「ぬうっ!!」

上顎と下顎を手で押さえて凌いでいるが、何時まで持つか分からない。

「クッ………ここまでか」

と、そこへ!!

ワンッ! ワンッ!

鳴き声を挙げながらマーフィーが現れた。

「!? マーフィー!?」

驚く機龍。

「オーイ! マーフィー!! どこ行くんだ………!! 機龍!!」

続いて現れた真名は、その光景を見た途端デザートイーグルを両手に持ち、巨犬に向けて発砲した。

巨犬は、後ろに飛び上がって弾丸をかわすと、真名を威嚇する。

しかし………

ワンッ! ワンッ!

マーフィーが嬉しそうな鳴き声を挙げながら巨犬の足に擦り寄った。

それを見た巨犬は、威嚇をやめ、マーフィーに頬を寄せ擦り付ける。

「これは?………どうなってるんだ?」

機龍を助け起こしながら、真名が怪訝な声を挙げる。

「どうやら、マーフィーはアイツの子供みたいだな………」

真名に助け起こされながら、推論を述べる機龍。

やがて、巨犬とマーフィーは2人に背を向け、山の方へと向かって歩き始めた。

「あっ!?」

真名が追い縋ろうとしたが、機龍が肩を掴んで止めた。

「!? 機龍!!」

「…………」

機龍は無言で首を横に振った。

仕方ないというように………

「っ!!」

再びマーフィーに目を向ける真名。

と、それに気づいたのか、マーフィーが立ち止まり、真名の方を振り返る。

「!! マーフィー!!」

そして、今までありがとうと言うかのように頭を下げると、再び巨犬と並びながら去っていった。

「あいつ等、ひょっとして………山の神だったのかもしれんな………」

やっとのことで駆けつけた隊員達が見たのは、ボロボロになって真名に肩を貸されて立っている機龍と、機龍に肩を貸しながら悲しそうな顔をした真名の姿だった。











翌日、3−Aの教室………

ネギの英語の時間では………

「え〜〜、では、次の文を訳してみてください。龍宮さん」

ネギは真名を指した。

しかし、真名はそれに気づかず、ボーッと窓から空を眺めていた。

「龍宮さん! 龍宮さん!!」

「えっ!? あ、はい!! 何ですか」

「いえ、ですから、次の文の訳をお願いします」

「え!? あ! え〜と………すみません、分かりません」

そう言って顔を伏せる真名。

「あ、いえ、良いですよ。じゃあ、え〜と、超さん、お願いします」

「ウム、任せるよろし」

超が代わって訳をしていく。

真名は、それを上の空で聞くのだった。

………そんな真名を、心配そうに教室の入り口の影から覗く者がいた。

(やっぱり、落ち込んでるな、真名のやつ………)

他ならぬ機龍だった。

(何とか元気を出してもらう方法は………!! そうだ!!)

何かを閃いた顔になる機龍。

昔の漫画とかだったら、電球が点灯しているところだ。

すぐさま何処かへと駆け出していった。











そして、その日の夕方………

麻帆良女子寮、真名&刹那の部屋………

「ハアァ〜〜〜………」

テーブルに突っ伏して重々しくタメ息を吐く真名。

「龍宮………」

刹那は、掛ける言葉が見つからず、ただ見ているだけしかできないのであった。

と、その時、コンコンというノックの音が響いた。

「あ、はーい」

刹那が応対しようドアを開ける。

しかし、そこには誰の姿も無かった。

「あれ?………鳴滝さん達か春日さんの悪戯かな………ん?」

ドアを閉めようとした時、刹那は床の上に綺麗に包装され、リボンが付けられたプレゼントのような包みを見つける。

「これは?」

さらにその包みには、カードのような物も付けられていた。

カードの見えている面に、『龍宮 真名さんへ』と書かれていた。

怪訝な顔をしながらも、刹那はそのプレゼントを拾い上げ部屋に入ると、真名の目の前に置いた。

「龍宮、お前にだぞ」

「私に?」

真名は、顔を上げると包装を丁寧に剥がして行く。

すると、中から現れたのは、

「!! こ、コレは!!」

マーフィーに良く似た真っ白な子犬のぬいぐるみだった。

「コレ、一体誰が!?」

「さあ? 部屋の前に置いてあったんだ」

真名は、付いていたカードを手に取ってみる。

そして、そのカードの裏にはこう書かれていた。

『あしながおにいさんより』と………

「あしながおにいさん? おじさんなら聞いたことあるけど、おにいさんって………」

それを見て呆れ気味になる刹那だったが、真名はある人物を思い浮かべていた。

「フ、フフフ………」

「龍宮?」

「アイツめ………随分似合わないことをするじゃないか」

「??」

真名の言葉の意味が分からず、?を浮かべるしかない刹那。

真名は、そんな刹那に聞こえないようギュッとぬいぐるみを抱きしめながら呟いた。

「ありがとう………機龍」











女子寮近くの舗装路………

機龍は女子寮から離れるようにその道を歩いていた。

途中、ふと立ち止まり、振り返りながら女子寮を見上げた。

「ちょいとキザだったかな………まっ、良いか。さて、仕事仕事っと」

そう言いながら、機龍は再び歩き出すのだった。










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