ブレイブXXVI 親の恋愛に項垂れる勇気



「あ〜もう!無茶しちゃダメでしょ!!」

岩場で休んでいたネギの頭を膝に乗せ(いわゆる膝枕)、このか達を待っていた。先ほどの戦闘によりネギは腕に負傷していたが、ネカネの治癒魔法により大体は回復していた。

「そろそろ、本山に向かわないとダメですよ・・・あぶぶ!」
「いい加減にしなさい!アンタは無茶しすぎなのよ。ちょっとは休息を考えなさい」

そう言い、明日菜はネギの頭を自分の胸に押し付けた。ネギはドキドキしながらも、懐かしい感じに落ち着いていった。

「本当にいい感じねあの二人・・・ネギのこと、任せちゃおうかしら?」

ネカネはこっそりネギ×明日菜の祝福プランを考え始めていた。すると、突如岩場の空間が歪み、そこから突如バカでかいSLが突き抜けてきた。そしてそのままブレーキがかかり、ネギたちの前で停止した。


「終点〜。関西呪術協会本山付近ニャ〜。お忘れ物のないようお願いするニャ〜」


滅茶苦茶能天気な声と共にドアが開くと、そこからは和樹・真名・このか・刹那・エヴァ・茶々丸・楓・クー・暁・黄昏と、和樹一行が出てきた。

「あ、和樹ちゃん・・・あれ?」
「先輩・・・その怪我」
「どうしたんですか、和樹さん?」

そう。皆の指摘の通り、和樹の身体中には包帯が巻かれており、中には赤く血に染まっている部分もあった。

「な、何があったの!?」
「実は、関西呪術協会の刺客との戦いで和樹さんが負傷してしまって」
「徒歩での移動は厳しいと思って、スキルでこのSL【トラベリオン】に運んでもらったんだ」

刹那と真名が明日菜たちに説明している間に、他の皆は再びどこかに行くトラベリオンの運転席にいるスモーキーにさよならを言っていた。そんなこんなで、皆は本山の関西呪術協会に向かって進み始めた。そして、進んでいく内に辺りの空気が変り始めた。

「ここが・・・関西呪術協会・・・か」

和樹は辺りをキョロキョロしながら見ていた。辺りの雰囲気はあまり良い物ではなく、気配が感じられなかった。

「皆、注意して・・・」

和樹が己の拳に魔力を込めたのを確認し、皆もまた戦闘態勢に入る。そして、門を潜り抜けた次の瞬間・・・。


「お帰りなさいませ〜!このかお嬢様〜〜〜!!」


大勢の巫女さんの歓迎があったのだった・・・。


「へ〜、ここがこのかの実家なんだ〜」
「大きくて引いた?明日菜?」
「え、ううん。びっくりしただけ。いいんちょで慣れてるから」

明日菜とこのかを先頭に、皆は屋敷の中へと入っていく。するとその先に大広間があり、そこには・・・。

「な、何で君が!!」

ネギが即座に抜刀して刃を向けた先には、千鶴と共に正座をしている小太郎の姿があった。

「あ、あれ?なんで那波さんが・・・」
「なりゆきでこうなっちゃったみたいで♪」

ホホホといつものマイペースを崩さぬ千鶴に皆が驚いていると、一人の少し痩せた男性が出てきた。その姿を見た瞬間、このかは駆け出す。

「おと〜さま久しぶりや〜♪」
「これこれこのか」

抱きつくこのかをナデナデしながら宥めるこの男性こそ、このかの父である【近衛詠春】なのである。そんな中、抱きついていたこのかが耳元でボソボソ呟くと、このかを抱えたまま和樹のもとに近づいた。

「君が、式森君かい?」
「は、はい」
「どうやら私の娘の婚約者になったらしいけど・・・本気だね?」

その眼は真剣なものだと知った和樹は、迷わずただ一言「はい!」と答えた。それを見た詠春は、納得した表情を浮かべる。

「君のような真っ直ぐな人になら、娘を預けられます」

和樹と詠春のやりとりが終わったのを確認したネギは、持っていた親書を取り出し、詠春へと渡した。

「学園長から託されました親書です。どうぞ、お受け取りください」
「確かに・・・確認しました。任務ご苦労、ネギ・スプリングフィールド君」

その言葉にネギや皆もほっとするが、ネギは先ほどから思っていた疑問を尋ねた。

「あの、詠春さん。なんであの小太郎君がここにいるんですか?あの子は僕たちを狙ってきたんですよ!」
「確かにそれは知っています。ただ、彼からここに自首のような形で来たのですよ。自分への処分はなんでも受けるから、その少女を守らせてくれと・・・ね」

詠春の言葉にネギは驚きながら小太郎の方を見た。そこには、千鶴に撫でられ照れつつも、真剣な眼差しの小太郎がいた。それを見たネギは、小太郎が本気なのだと確信したのだった。

「ごめん。僕の早とちりで剣を向けちゃって・・・」
「気にすんなや。実際ワイも戦いたいって本心だけでお前に手傷を負わせてしもうたんや。すまん」

二人は頭を下げ、そのまま近づいて握手を交わした。その光景を見て、皆の表情も綻ぶ。そんな中、和樹が一人前に出た。

「詠春さん。なんとか僕たちはここまでたどり着けましたが、正直ここにいるからと言って安心出来ません」
「どういう事ですか?」
「ここにくるまでに、関西呪術協会の人間とは思えない敵と遭遇しました。西洋魔術師のように見え、僕の力に似た力を行使していました」
「スキル・・・ですか?」

それを聞き和樹は驚きの表情を浮かべ、詠春は苦笑した。

「私もナギや総司と共に戦ってきた者ですからね。彼の事はよく覚えていますし、彼の能力も知っています」
「そうだったんですか・・・」
「しかし、君以外にスキル能力者がいるとは・・・」
「実際のところ、その敵が使ってはいませんでした。確か、ある御方から譲り受けたとか」
「能力を分け与えている部分からすれば、君の父親が使っていた方法を知っていると見える。これは、確かに厄介かもしれない」
「それで、相談なんですけど・・・」


「おい新入り!お嬢様が本山に入られてしまったやないか!それに犬上とも連絡がつかんとなると厄介やで」
「犬上なら裏切ったよ・・・」
「なんやて!?」
「僕の差し向けた僕を、なんらかの方法で倒したみたいだからね」
「厄介やな・・・」
「大丈夫です。僕に、任せてください」

フェイトはそう言うと、おそらく最後の宝珠を握り締める。すると、そこからは漆黒のフードを被った男が出現した。

「さぁ・・・近衛このかを奪取し、式森和樹を・・・殺せ」

フェイトの言葉を受け、漆黒の男が闇夜に消えた。そして、これが後に災悪を招くことになる。


場所は浴場。明日菜やエヴァや暁、和樹ラヴァーズの面々は今まで溜まった疲れを落とすために風呂に入っていた。

「ふ〜。汗かいてたからサッパリする〜♪」
「ふふ。疲れも洗い落としてくださいね」
「せっちゃ〜ん♪洗いっこしよ〜♪」
「こ、このちゃん!それはご勘弁を〜」

このかに追われる刹那を見ながら苦笑する明日菜。すると、となりにネカネが腰を下ろしてきた。

「今はなんとか平和ね」
「あ、はい。こういう時間が大事ですよね・・・」
「ええ。けど、恐らく和樹ちゃんを襲ったって敵は必ずくるわ。なんとかして、撃退しないと」

ネカネの言葉に頷く明日菜。そんな中、突如脱衣所にガタガタと音がした。皆が警戒する中、そこから聞こえてくるのは、和樹たちの声だった。

「あ、お風呂入ってるの気づいてないんじゃ?」
「やばいわよ!!皆、隠れて」

明日菜に急かされ、皆は一斉に隠れた。それと同時に、和樹・ネギ・小太郎・黄昏・長などの皆が入ってきた。そしてそのまま、皆は湯船へと浸かる。

「痛つ・・・」
「大丈夫ですか和樹さん?」
「ああ、大丈夫だよ。大体はネカネちゃんの治癒で治ってるけど、まだ完全じゃないからね」
「なんや、そんなんつばでも付けとけば治るやろ〜」
「おいおい(汗)」

それぞれに笑い声や苦笑が上がる中、ネギが気になっていた事を長に話し始めた。

「あの、長さん。サウザント・・・お父さんの事なんですけど、これってご存知ですか?」

ネギがそう言って左手の中指にはめていたザルバを見せた。すると、詠春の表情が変わる。

「き、君は!?」
「老けたな詠春。腕前は鈍ってないか?」
「・・・相変わらず毒舌は懲りてませんね」
「ま〜な。あのナギの相棒なんだ、嫌でもこうなるさ」
「それもそうですね・・・君がいるという事は、つまり・・・」
「ああ。コイツが新たな【牙狼】の称号を継ぐ者だ」

それを聞き驚きつつも、納得のいった表情を見せる詠春。


「しかし・・・私が本当に驚いているのは別なんですよ」


そう言って、詠春は小太郎の方を向いた。

「わ、ワイがなんなんや?」
「いえ、君があの“銀牙”の息子だとは」
「な!?ワイの親父を知っとるんか!!」
「知ってるも何も、サウザントマスターであるナギは私たちと共に戦った戦友ですよ」
「親父が・・・」
「更に言えば、彼はナギと同じ魔戒騎士だったんですよ。【黄金の牙狼】と【銀の絶狼】。二人の戦う姿は、まさに最強ともいえましたね」

それを聞き、ネギと小太郎は最初の戦いでそんな映像が見えたのを思い出していた。

「長、親父は・・・どんな奴やったん?」
「大雑把で大胆不敵、どんな強敵にも逃げずに正面から戦う男でしたよ。君のように、少々バトルジャンキーな部分もありましたね。ただ・・・」
「ただ?」
「色恋には滅法弱かったですねw実際彼と結婚した君の母親である“静香”とも、交際に至るまでに3年、結婚までに3年かかってましたから」
「6年もかかったんかい・・・」

あまりに不器用な恋愛をした両親をイメージし、頭をガシガシかく小太郎。

「しかし、ソレを言ったら恋愛劇では総司のほうが大変でしたよ」
「父さんが?」

いきなりの言葉に和樹が驚く中、詠春が続ける。

「ええ。彼が一目惚れした“玲子”はとても勇敢かつ可憐な女性でした。総司は彼女に相応しい男になるべく己を鍛えたのですが、これがとんでもない誤算を生みましてね」
「誤算?」

和樹が疑問に思う中、隠れている女性たちも耳を傾ける。


「己を心身共に鍛えすぎたために、他の女性陣に惚れられましてね」


ソレを聞き、湯船なのにずっこける和樹。ネギや小太郎、黄昏ですら固まっていた。

「おかげで彼女も彼に好意を持っていたのに、すれ違いがよく起きましてね。彼女も想いが強くなっていくうちに、焼きもちによる災害が増えて大変でしたよ(汗)」
「父さんも父さんだけど、母さんも母さんだよ(汗)」

それを聞き項垂れる和樹。

「そして、いい加減になんとかしないとやばいと感じた総司が考えたのが、とんでもない事だったんですよ」
「な、なんなんですか・・・?」
「世界でも危険視されていた上級魔族を倒したら、結婚してくれというものです」
「は・・・はぁ・・・で、父さんは・・・」
「彼女に見守られながら挑んだ総司は、魔法騎士団が束になっても敵わない敵を秒殺しましたよ(爆)」
「秒殺!?」
「ええ、スキルで仮面の男に変わっていましたが」
「・・・詠春さん、もしかして父さんは変身した姿でその敵に「電光ライダーキーーーーーーック!!」なんて喰らわしていました?」
「おや、よく分かりましたね」

それを聞き「父さん・・・」と呟きながら更に項垂れる和樹。どうやら某技の一号の遺伝子は受け継がれているようだ(笑)。そんな笑い声が響く中、夜はふけていく。月を暗雲が遮り、そこに立つのは・・・漆黒の陰我。月光の照らさない大地に、闇が押し寄せていく。それが、悲壮な戦いの始まりである事を告げているようにも見えるのだった・・・。


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