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中に入ったエリーは、我慢の限界が来たのか、一直線に椅子に座り込んでしまった。
マリーはまるで家主のようにてきぱきと振舞ってエリーに水を用意してやる。
「あ、ありがとうございます……」
「落ちついた? ちょっと最後の方は強行軍だったもんね」
ひと息に飲み干したエリーにもう一杯水を汲んできてやったマリーは、
向かいの椅子に座ると、大きく頭を動かして室内を見渡す。
「うーん、懐かしの我が家だ! ……でも、私が住んでた時とほとんど変わってないなぁ……
エリーってもしかして掃除苦手?」
「え? いや、その……えへへ」
エリーは耳まで赤くして下を向いてしまったが、マリーはかえってこの後輩の少女に親しみを覚えた。
「そんな恥ずかしがる事ないわよ。あたしだって苦手……っていうよりはほとんどしなかったもん」
「あ、それ、イングリド先生に聞いてます」
「あちゃー、そんな事まで聞いてるんだ」
マリーは頭を掻いたが、そんなに恥ずかしがっているようには見えなかった。
「実はね、イングリド先生だってそんなに片付け得意じゃないんだよ。知ってた?」
「え? そうなんですか?」
「うん、片付けるのは好きみたいなんだけどね、いっつも楽しようとして変な道具作って、
かえってめちゃくちゃになってるの」
「へぇ〜。知りませんでした」
「今度、部屋をこっそり見てみるといいよ。結構いいかげんだから」
自分の言葉に笑うエリーに、マリーは嬉しそうに頷くと軽やかに椅子から立ち上がった。
「それじゃさ、お風呂沸かしてくるからちょっと休んでてよ」
「あ、そんな、悪いです!」
「いいからいいから。昔住んでいた我が家だし、勝手知ったるなんとやらっていうでしょ?」
ザールブルグでも未だ貴族階級の家くらいにしかついていない風呂を、マリーは自力で設置していた。
一般の家庭では燃料の問題があって普及していないこの設備も、
錬金術でなら簡単に供給する事が出来るし、
万事において面倒くさがりのマリーも手を煩わせるだけの価値がこれにはあった。
もちろん後の住人であるエリーもこの恵まれた環境を多いに気に入り、
研究と実益を兼ねて存分に活用していた。
エリーは慌てて立ちあがろうとしたが、マリーはさっさと奥に消えてしまい、
まだ疲労が抜けきっていないこともあって、素直に好意に甘えることにした。

風呂で長旅の疲れを汚れと一緒に洗い流した二人は上機嫌で寝る支度を始める。
「ベッドは一つしかない……ってそりゃそうよね。
無理言って泊めてもらってるんだもんね、いいわ、あたしは床で寝るよ」
「そんな、あたしが床で寝ますから、マリーさんがベッドを使ってください」
反論しようとして不毛な言い争いになりそうな事に気が付いたマリーは
頭の飾りを外しながら妥協案を薦めた。
「それじゃあさ、一緒に寝ようよ」
「一緒に……?」
「あたしとじゃイヤ?」
「い、いえ! そんな事ないです」
「それじゃ決まりだね!」
半ば強引に話を決めると、これ以上の議論は無駄、
とばかりにマリーはさっさと衣服を脱ぎ捨ててしまう。
覆う……というよりも下から支えるのが精一杯、といった感じの上衣が肌から離れると、
窮屈そうにしていた豊かな胸がこぼれ、それまでの鬱憤をはらすかのように揺れた。
(おっきいなぁ……ルイーゼさんより大きいかも)
エリーは感動さえ覚えながら、自分の物とはあまりにも違うその部分をじっと見つめる。
「ん? どしたの?」
「あ、いえ、その……それって、調合の邪魔になったりしないんですか?」
思わず本音を口にしてしまったエリーは慌てて口を塞いだが、後の祭りだった。
最初何を言われているのか判らなかったマリーは二度ほどまばたきすると、
突然エリーの身体を押し倒す。
「そう言う事、先輩に言っていいのかな?」
見せつけるようにエリーの顔の前に白い双丘を曝すと、そのまま押しつぶした。
湯上りで上気した肌が心地よくて、エリーにむずむずとした感覚を呼び起こさせる。
「ご、ごめんなさい」
なかなかどいてくれない胸に、さすがに息苦しくなったエリーは謝るが、
マリーにはもごもご、としか聞こえなかった。
「反省した?」
「は、はい」
またしても返事はふがふが、といった感じだったが、
胸の谷間に息があたってくすぐったくなったマリーは身体を離す。
「ふぅ……」
思わず大きく息を吐いたエリーの瞳が、微妙に目を細めているマリーと視線がぶつかる。
「あ、あの、本当にごめんなさい」
見るからにしょんぼりと謝るエリーにマリーはしばらく無言を保った後、いきなり笑い出した。
「大丈夫よ、エリーをからかっただけだから」
その言葉でおもちゃにされていた事を知ったエリーは軽く頬を膨らませたが、
すぐに一緒になって笑い出す。
旅の疲労がエリーを優しく眠りの国に導こうとしたが、
積もる話はまだまだ寝させてくれそうになく、
布団の中に潜りこんだエリーは一晩中でも話続けるつもりで枕を抱きかかえた。
マリーもうつぶせになってエリーと同じ格好になる。
二人は軽く顔を傾けると、尽きない話を語り合い始めた。

幾時間か話し続けてふと我にかえると、ランプの灯りもほとんど消えていた。
さすがに話題も途切れ、二人の間を夜の帳が別つ。
マリーはそのまま眠ってしまおうかとも思ったが、
エリーの一言が眠気をどこかに吹き飛ばしてしまった。
「そういえばマリーさん、ケントニスのアカデミーで男の人と話してましたよね」
「あぁ……クライスの事ね」
マリーは眉をわずかに細めて安物のワインを飲んだような渋い表情を作ると、
思い出すのも嫌だ、とばかりに頭を振る。
「あの人はマルローネさんの事好きみたいですけど」
「えぇ!? 冗談でしょ! 少なくともあたしはパスだね」
「そうなんですか? なんだかお似合いに見えたんですけど」
「お似合いって……エリー、本気で言ってるのなら怒るわよ」
「だってクライスさん、マリーさんと話してる時なんだか楽しそうでしたよ?
照れ隠しってやつじゃないんですか?」
「あれが照れ隠しに見えるの?」
「え〜、だって」
「もうその話はやめやめ!」
年頃の女の子のご多分に漏れず、エリーもこの手の話は大好きだったが、
マリーが本当に嫌そうな顔をするので、仕方なくこれ以上追求するのは諦めた。
「ところでエリーは? もう好きな人とかいるの?」
「え? えへへ、いないですよ」
突然自分に話を振られたエリーは驚いたが、
まさかアイゼルとの関係を言える訳もなく、適当に笑ってごまかす事にした。
しかし先ほどの恨みなのか、マリーは簡単に引き下がろうとはしなかった。
「本当〜? 帰ってきた時に工房の前に男の子立ってたじゃない。あれは誰なのかな〜?」
「……ノルディスは、一緒にイングリド先生に習っているだけですってば」
「ふ〜ん……どうかな〜? あたしが確かめてあげる」
マリーはエリーの身体を引き寄せると自分の上にあお向けに乗せ、背後から両方の胸を揉みあげた。



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