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結局他の酒にも手を付けてしまってすっかり酔いが回ってしまったリリーは、
机に半ば顎を付けながらぼんやりと空のグラス越しに映るイルマの顔を眺めていた。
横に伸びたり縮んだりする友人を見ていると、突然何かを思い出して身を乗り出す。
「ね、イルマって踊りも出来るんだよね」
「え? うん。旅した所で踊りを見せて、そしてその場所の踊りも教えてもらって。
あたし達はそうやって暮らしてるから、踊りには結構自信あるよ」
「なんでもいいから、踊って見せてくれない? イルマの踊ってる所、見てみたいの」
「いいよ。家の中で踊るのってなんだか恥ずかしいけど、でもリリーが見たいなら、踊るね」
気軽に応じたイルマは、立ちあがって踊るのに不要な上着を脱いだ。
身体の線を際立たせるための、服として最低限の機能しか果たしていない白絹の短衣は、
褐色の肌との相乗効果で、ごく自然に見る者の視線をそこに集中させる。
ほっそりとした肉付きの薄い体つきは、女性、というよりはまだ少女のそれだが、
形の良い胸は、むしろそれ以上の成長を拒むかのようにバランス良く収まっていた。
酔いを覚ますために数回軽くその場で飛ぶと、
イルマはリリーに向かって軽く一礼してゆっくりと舞い始めた。
始めは踊り子を存分に見てもらい、目を引きつける為の、優雅な動き。
それが一転して激しい動きへ。
見る者を虜にする、絶妙な緩急のバランス。
最高級の絹でも出せない滑らかさとつややかさを合わせもった漆黒の髪が、
まるで三本目の腕のようにイルマの動きに彩りを添えていた。
イルマの動きについていけずに肌を滑り落ちた汗が、身体から弾けて悔しそうに床に落ちていく。
恐らく、イルマはたった一人の観客の為に全身全霊を込めて踊っているのだろう。
いつしかリリーは、しなやかに、艶かしく動くイルマに、まばたきも忘れて魅入られていた。
「リリー……リリー?」
額の汗を拭いながら踊り終えたイルマが近づいて来ても、リリーは微動だにしない。
軽く肩を揺すってやると、2、3度まばたきしてようやく我に返った。
「あ、あれ……あたし」
「ふふっ、そんなに夢中になって見てくれて嬉しいわ」
「ごめんね、なんだか途中から夢を見てるみたいになっちゃって……」
立ちあがろうとしたリリーだったが、腰に全く力が入らずしりもちをついてしまった。
「あ、あれ……?」
何が起こったのか判らないまま再び立ちあがろうとするリリーの後に回り込んだイルマは、
そっと肩口に手を回す。
踊り終えたばかりで火照っているイルマの身体と、
立ち上る汗が混じった匂いが、今のリリーには何故か心地よく感じた。
「あのね、リリー」
イルマは、ほとんどリリーの耳に触れんばかりまで口を寄せて囁く。
「今踊ったのは、東の方の国に伝わる、求愛の踊りなの」
「きゅう……あい?」
イルマが一言紡ぐ度に、リリーは心がすこしずつ脱がされていくような錯覚に囚われてしまっていた。
「そう。一年に一度、娘の方から男に、愛を伝える踊り。
この踊りで求愛をされて、それを受けた男と、その日の夜に結ばれるの」
「え、だって……あたし、女の子……」
イルマは抱いていた手を下ろして、さりげなくリリーの下腹部に触れる。
「でも、リリーはあたしを好きでいてくれるんでしょう?
だって、立てなくなるくらい、こんなになっているんだもの」
イルマが股間に置いた手を擦りつけるように動かすと、
いやらしい音がリリーの耳に響き渡って、
自分がいつのまにか衣服越しからでも判るくらい濡らしてしまっているのを知った。
「あ……や、これ……違うの……あたし……」
「違うの?」
イルマは短くそれだけ言うと、口を閉ざしてリリーに心情を整理する時間を与えてやる。
しばらく黙っていたリリーは、やがて自分の身体を抱いている手に自分の手をそっと重ねた。
「でも、でも……あたし……、ヘンじゃないのかな?
イルマは、嫌じゃないの? 気持ち悪くないの?」
「大事なのは、本当に好きかどうかよ。
それが男の子でも女の子でも、あたしは自分の心に従いたいわ。リリーは?」
それを聞いたリリーは、必死にせきとめていた心のたがが音を立てて外れるのを感じて、
吹っ切れたように想いを告げる。
「うん……あたし……あたしは、イルマが好き。ずっと前から。
ね、イルマは? イルマはあたしのこと好き?」
「うん……あたしもよ」
頬に手をやったイルマは顔をこちらに向かせようとするが、
リリーはいやいやをするように首を振る。
「お願い、ちゃんと……言って。イルマの口から聞きたいの」
イルマはにっこりと微笑むとリリーの耳元に口を寄せて、
想い人にしか聞かせる必要の無い大きさの声で囁いた。
「うん、ごめんね。リリー、あたしもあなたが好きよ。大好き」
言い終えると同時に、イルマの手に熱い物が触れる。
「あ、あれ? あたし……」
イルマはそれに答えずに、再びリリーの顔をこちらに向ける。
今度はリリーも逆らわず、肩越しに振り向いて瞳を合わせると、静かに目を閉じた。
「リリー……」
少しずつ二人の唇が近づいていき、やがて顔が重なりあう。
「ん……」
求めていたものを見つけたリリーの手が子供のようにイルマの腕にしがみついた。
イルマが唇を離そうとすると、ぎゅっと掴んでそれを拒む。
それが3回ほど続いた後、ようやくイルマは一度唇を離すのに成功した。
「もう……これから、いくらでもキス出来るんだから、そんなに焦らないの」
「だって……だって……イルマはあんまり好きじゃないの?」
「好きだけど……キスだけでいいの?」
イルマはリリーの正面に回りこむと、膝に跨るように腰掛けて、
衣服越しにもその大きさが隠しきれない胸に手を滑らせながら、心を捕らえる言葉を投げかける。
「……ううん。もっと……イルマと……したい、な……」
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