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九龍を胸の間で受けとめた亜柚子は、豊かな頭髪に埋めた指に、ほんの少し力をこめた。
縮まったのは、数ミリの距離。
頭は洗いにくくなったが、構わない。
亜柚子は至福を覚え、彼の地肌を情感たっぷりに撫でた。
「……」
九龍の反応はない。
髪を洗うくらいで気分を出すわけにはいかないと思っているのだろう。
けれども彼の股間からははっきりと熱気を感じる。
彼の頭を胸に、心臓の音を聞かれない程度に押し当て、亜柚子はさらに両手を優しく動かした。
耳の裏を洗い、指の腹で頭皮を揉みほぐす。
「……」
吐息がバスタオルを濡らす。
胸の間で彼の恍惚を受けとめ、亜柚子は再び、今度はさっきよりもやや強く頭をかき抱いた。
「ん……」
遺跡や文明の話をする時とは別人のように初心な少年が、愛おしくてたまらない。
結局欲望をこらえきれず、使い方さえ知らなかったような男性器を、
加減を知らない乱暴さで挿してしまう九龍を、亜柚子がどれほど男として見ているか、
当人はきっと知りもしないだろう。
彼の性器に触れそうで触れない距離を保ちながら、頭を埋めた泡に、亜柚子は溝をつける。
五本の指でうなじから頭頂に、もはや洗髪とも言えないなまめかしい動きで。
九龍は何も言わない。
なぞる指が気持ちいいのか、それとも顔を埋める乳房が気持ちいいのか。
どちらにしても亜柚子には同じことだったから、つきとめようとは思わなかった。
泡をこね、髪を攪拌する。
泡が立てる音の、異様ないやらしさだけが浴室に響く。
亜柚子は恍惚の表情で彼の後頭部を見下ろし、頭を揺さぶるように手を動かした。
バスタオル一枚の厚さがもどかしい。
ずっと我慢してきたが、そろそろ限界のようだった。
「頭、流すわね」
囁き、同時に、動かす必要はないと頭を抱えこむ。
何かを言いたそうに両肩が動いたが、九龍の反応はそれだけだった。
亜柚子は右手でシャワーを握り、左手はぐるりと回りこんで九龍の左耳を押さえる。
また少し、彼の顔を胸に埋めて。
手を使わず、水流だけで泡を落とすので、作業は遅々として進まない。
それは亜柚子にとって望むところであり、九龍もおそらくは同じはずだった。
片側を洗い終えた亜柚子は、シャワーを持ち替えて九龍の反対側の頭を流す。
左手はやはり右耳を押さえるが、腕を半周させる必要はもうなく、
つまり、九龍の頭は押さえつけられてはいない。
にもかかわらず九龍の頭は亜柚子の胸元に当てられたままだった。
もちろん、亜柚子はそれを良しとした。
生ぬるい湯は気持ちよく、頭を取り囲む女の質感はさらに気持ちがいい。
亜柚子の乳房から顔を離すきっかけをつかめないまま、九龍は体温の快楽に浸かっていた。
洗髪などしなくて良いなら極力したくない九龍だが、こうして亜柚子に頭を洗われる時間は、
不要だとは思わなくなっている。
だから亜柚子の掌が頭から離れ、シャワーの音が止んだときは、
眠ったふりを続けようかと思ったくらいだった。
「終わったわ、九龍さん」
しかし、無情にも亜柚子は呼びかけ、身体も離れてしまう。
不機嫌な表情を作りかけた九龍の頭に、タオルがかぶせられた。
「……」
母親に髪を拭かれる、という記憶は九龍にはない。
皆無ではなく、物心ついてからもされていたはずだが、
顔も含めて母親の存在を九龍は全く覚えていなかった。
だが、亜柚子に髪を拭かれて九龍は、彼女に母親を重ねる。
もちろん彼女は未婚であり、単に九龍が古代人のように胸に母性を見ているに過ぎない。
それが失礼な感情であるという自覚はあったから、口にはしなかったが。
亜柚子の手が止まる。
顔まで拭かれた九龍は、長い間閉じさせられていた目を開けた。
「……!」
亜柚子の顔が目の前にある。
桜色に上気した肌とひどく潤んだ瞳は、触れる寸前、というよりも、直前の距離だった。
九龍のその予感は当たり、亜柚子と目が合った、次の瞬間に唇が加熱した。
「う……」
灼けるほどの熱が口唇を炙る。
何度交わしても慣れることのない、ただ一度で頭の中の全てがはじけ飛んでしまう衝撃。
シャワーも止まり、静かになった浴室内で、九龍は大きな音を聞いた。
激しい、アフリカの部族が祭りで奏でる太鼓のような音が、
自分の身体から発せられていると気づくまで、何十秒かの空白がある。
その間呼吸も忘れ、鼓動のリズムに合わせて感じる、
押し当てられた亜柚子の唇の柔らかさだけを追っていた。
「ん……」
かすかな鼻息が、くちづけの終わりを告げる。
解錠に成功したときの音よりも興奮をかき立てるが、
同時に現実へと引き戻す音に、九龍はしぶしぶ目を開けた。
「……」
亜柚子が見守っている、その距離の近さに九龍は驚いた。
潤んだ瞳とやや下がった目尻が、少年を逃さない。
宝玉にも勝る輝きに魅入られていると、宝玉が傾いだ。
「っ……」
二度目の灼熱。
情けない、と思いながらも九龍は受け身でいるしかない。
しかし、亜柚子は九龍にただ受け身でいることを許さなかった。
ぬらりとした温い感触が、九龍を襲う。
唇の合わせ目を探り、奥へと入ろうとする塊を、素直に受けいれて良いか、九龍は迷った。
嫌なのではなく、恥ずかしいからだが、亜柚子は逡巡する時間さえ与えてくれなかった。
唇を舐めていた舌が戻っていく。
同時に亜柚子の唇の圧力も弱まり、九龍がわずかに息を抜いた瞬間、
猛禽のように鋭く舌が入ってきた。
「……ッ……!」
喘ぐこともできず、口の中が熱に包まれる。
たちまち炎は体内へと侵入し、九龍を燃やした。
「んッ、く、ふ……」
粘膜が絡みあう。
その心地よさは身体中が粘膜となったかのようで、
九龍はこれまでの自制をかなぐりすてて亜柚子の舌を求めた。
だが、決して主導権は握れない。
九龍が半ばは本能で舌を交え、吸いつこうとしても、亜柚子は常にそれを許さず、
九龍が思いもしなかったところを刺激して力を奪うのだ。
「あ、あ……」
どんな困難においても決して吐くことはなかった、か弱い悲鳴が口をつく。
古代マヤ文明で行われた生け贄の儀式さながらの、
生きながらにして魂を奪われるような恍惚が九龍を襲い、支配した。
亜柚子の貼りあわさった舌が、九龍のそれを口外へと引きだす。
そのまま舌先は彼女の口内へと引きこまれ、柔らかな口唇が表と裏から九龍を苛んだ。
「ん……んふ、んうぅぅ……」
亜柚子が立てる淫らな吸引の音が、舌を通して口の中から入ってくる。
蜘蛛の毒にも針の痛みにも耐えられる九龍だが、
頭を内側から揺さぶるこの音色にはなすすべがなかった。
亜柚子がいつしか蛇のように音もなく両手を絡め、抱きついているのにも気づかない。
断崖に投げだされた肉体を一本で支える力強い腕も無力に投げだされたまま、
女の魔性に取りこまれていくばかりだった。
逃げ惑う舌を蹂躙する。
九龍の頭を押さえ、逃れられぬようにした亜柚子は、口を一杯に開いて舌を挿れた。
彼が何か言おうとするのを遮り、欲望にまかせて犯す。
快感にひくつく彼の肉体を掌に感じながら、歯の隅々まで舐める亜柚子に昼の貌はなかった。
「う、あ、せん、せ……」
くちづけの合間に九龍が漏らす喘ぎが、まだ蕩けきっていないとみるや、
粘液で彼の理性を溶かしていく。
しどけなく開かれたままの唇を甘く吸い、健康的な白い歯を舌先でなぞり、
何よりも遺跡とそこに収められた秘宝が好きという変わり者に、性の悦びを刻みつけていくのだ。
「うふふ、九龍さん、可愛い」
褒められ方が気に入らないのか、九龍は何か言おうとするが、
口が痺れてしまったらしく言葉にならない。
その口を優しく拭ってやった亜柚子は、手を取って九龍を立たせた。
「ねえ、九龍さん……そこに座って。後ろに気をつけてね」
九龍を浴槽のへりに座らせた亜柚子は、彼の肉体を惚れ惚れと眺めた。
彼を少しだけ幼く見せる豊かな頭髪の割に薄い体毛と、
若く活力にあふれた筋肉、それに天井に向けて隆起するペニスのアンバランスさは、
それほど派手な男性経験を積んでこなかった亜柚子を酩酊させる。
これが目的で彼と親しくなったわけではないにせよ、
今やこれを抜きで彼を考えるわけにはいかない亜柚子だ。
期待と不安のない混ざった顔で見下ろす九龍に、
挑発するように舌を出し、唇を舐めてみせると、たちまち目の前の勃起が反応した。
「こんなに我慢して……悪い子ね」
まだ桃色の亀頭に息を吹きかける。
すると透明の液体が、小さな泡ぶくとなって割れ目から出てきた。
「が、我慢なんてしてねえよ」
この歳になるまで土と石しか知らなかった少年は、この状況でさえ強がってみせる。
亜柚子は薄く笑んだまま、彼の玉袋を下から持ちあげた。
「でも、溜まっているわよ」
ここで精液が作られるというのを、亜柚子は知識としてしか知らなかった。
だが数日に一度見るようになれば、自ずと学ぶというものだ。
左右で微妙に大きさの異なる二つの袋を指の腹で転がし、亜柚子はいたずらっぽく微笑んだ。
「別に溜まったって気になんねえよ」
「そうかしら? それじゃ、今日はやめる?」
言いながら玉を撫でる手は止めない。
同時に肉棒も軽く扱いてやると、あっさり九龍は降伏した。
「き、汚えよ、こんだけしといて」
「正直じゃない子は、嫌いなの」
再び九龍が悩む。
亜柚子がそのわななく唇に恋しているなど、知る由もないだろう。
一度唇を強く噛んだ九龍は、拗ねたように顔をそむけ、ついで目だけを亜柚子に向けて言った。
「してえ……よ」
亜柚子はちらりと目を上向けただけで何も言わない。
精巣を弄ばれて忍耐も限界に近づいている九龍が、絞りだすように言った。
「あ、あ、亜柚……子……と、してえよ……!」
「いいわ、九龍さん。たくさん、出して」
言うなり亜柚子は彼の先端を咥えた。
「う……ッ……!」
強烈な快感に九龍がのけぞり、倒れそうになる。
へりを掴むことでどうにか防いだが、その間も亜柚子はペニスから口を離さなかった。
それどころか九龍が姿勢を安定させるのに乗じてさらに奥まで咥える。
「ん、ふぅ……」
湧きだす唾液を舌に乗せ、亀頭に塗りたくる。
彼の臭い、彼の味に、臍の下が淫らに蠢いた。
「んん……は、ふん……」
上顎に彼を擦りつけ、喉の奥にまで導き入れる。
口の奥から鼻腔へと抜けていく体香に、亜柚子の足は自然と開いていった。
水分を帯びる秘園に触れたいという欲望をこらえ、
同時にその欲望を加速させるべく、肉茎を吸い、陰嚢を掌で押し包んだ。
口内に満ちる熱気は火傷しそうな一方で、掌が感じる熱は冷たくさえある。
男の、というより人間の機能に感嘆するほかない亜柚子だが、それを口にする余裕はない。
「は、ふッ、んふゥッ、ん……ン……」
顔を前後させ、鼻から息を抜きながら口唇でシャフトを扱く。
歯を立てないよう気をつけながら、なるべく舌も用いて奉仕するのは簡単ではなく、
また、彼の味と臭いを感じるのに集中したかったのだ。
亜柚子は目を閉じ、九龍の股間に深く顔を埋める。
喉を圧迫する息苦しさをも恍惚に変えて、端正な顔をいびつにへこませながら、
若い男性器を容赦なく責めねぶった。
「く、あ、先、生ッ……!」
頭に置かれた手は心地よかったけれど、あえて亜柚子は、
喉の奥に導くように頬をすぼめ、丸めた舌でさらに通路を狭くして、
男にとっては苦痛と感じる激しさで亀頭を吸った。
「わ、悪かったッ、あ、亜柚、子ッ……」
九龍が反省したのですぐさま責めを緩めてやる。
おとなげないと承知はしていても、言いつけをすぐに忘れてしまう駄目な年下の男に、
躾を教えるのは禁断の愉しさがあると知ってしまった亜柚子だった。
「何回言っても覚えないのね。もしかして、責められるのが好きなのかしら?」
「そ、そんなわけないだろ」
屹立に舌をべったりと貼りつかせながら、亜柚子が口を抜く。
垂れた彼女の桃色の舌に、九龍の心臓は不規則に高鳴った。
「どうかしら。ここを吸ってあげると、九龍さん嬉しそうにびくびくするわよね」
十歳近くも離れている割に幼く見える顔立ちと、年齢に見合った淫艶な表情。
二つが同居する亜柚子の笑みに、九龍の喉はすっかり干上がっている。
「あ、あんたこそ……痛て、亜柚子こそやらしい顔しやがって、教職が泣くぜ」
「教師である前に、女ですもの」
平然と答える亜柚子に九龍が何も言えないでいると、おもむろに彼女は立ちあがった。
つられて視線を移動させる九龍の、眼前でバスタオルに手がかかった。
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