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「な、何すんだよ」
「言っただろう? しばらくおとなしくしていろと」
「聞いたけどよ、なんであんたまでベッドに乗ってくるんだ」
 ベッドに手足をついてにじり寄る瑞麗に、今度は獲物を狙う肉食獣を九龍は見る。
姿勢を低くし、今にも襲いかからんとするしなやかな獣。
食うものと食われるもの、生と死という極限にあってすら美しさを感じさせる、
獰猛な四本足の動物に、九龍は置かれた立場も忘れて魅入ってしまった。
 海苔のように──九龍の貧困な表現力ではそういうしかない、
瑞麗の漆黒の髪は常に、意思を持っているかのようにまとまり、右に左に揺れる時も統率が乱れることはない。
それが今、肩からいくらかかが落ちかかり、九龍の腕に触れていた。
「……」
 瑞麗が移動するにつれて二の腕をのぼってくる髪がくすぐったくて、払いのけようとする。
ところがいつもの力加減で動かしたら、腕はあまりにも頼りない動きで上がり、
ちょうど瑞麗の胸に触れた。
二人の時が止まる。
「……! ち、違うッ」
 いちばん言いわけの聞かない場所を触ってしまって、九龍は必死で頭を振った。
瑞麗は怒りはしなかった──九龍が危惧したとおり。
ほとんど触れんばかりの位置で、ほんの少し下から見上げる瑞麗は、
九龍の偶発的な行為をきわめて好意的に解釈したようだった。
「朝から、というのも悪くないな」
「悪いだろ、俺は授業に出る……うぐっ」
 学生としてもっともなことを主張する九龍の口は、熱い何かにふさがれてしまった。
 唇に全身をおさえつけられる。
それほど強く、刺激的なくちづけだった。
キスで顔を上向けられ、閉ざしたはずの唇の裏側にぬらりとしたものを感じる。
普段意識しない場所への刺激は、理性を根こそぎ奪うほどの快感だった。
瑞麗は舌を無尽に這わせて上顎の隅々をねぶる。
「あ……ぁ……」
 肌が粟立ち、だらしなく口を開けているしか九龍にはできない。
もともと経験の少ない身で、こんな淫靡なキスをしかけられてはどうしようもなかった。
傷の痛みさえ忘れ、生温かな感覚が口腔を満たしていくのを黙って受けいれる。
とろけていく──遺跡で秘宝を発見した時の身震いするような恍惚とは違う、
内側からぐずぐずになるような快楽に、九龍は支配されていった。
 舌が絡まる。
いつの間にそうなったのかのにも、少なくとも当事者の一方はわからないまま、
二つの舌は互いを求めあっていた。
性急に、強い動きで求める九龍の舌を、たしなめるような動きで瑞麗は応じる。
それでも突き放したりはせず、舌は触れあわせたままで巧みに九龍を導いた。
やがて九龍の舌は瑞麗にあわせ、二人が共に快感を得られるような動きへと変わっていく。
ゆるやかに、長く、二つの舌はいつまでも戯れることをやめなかった。
「う……ん……」
 九龍がいつのまにか閉じていた目を開けると、唾液にまみれた舌が離れていくところだった。
濃い紫色の口紅と、生紅い舌とが強く網膜に焼きつく。
追い求めたい衝動に駆られたが、力が入らなかった。
「フフ」
 九龍の視線に気づいた瑞麗が、口の端で笑う。
それは嫌味なものではなく、九龍も照れつつも同種の笑顔で返した。
それを合図にして、新たな愛撫がはじまる。
軽いくちづけを落とした瑞麗は、四つんばいの姿勢のまま、今度は身体を下方にずらしていった。
 瑞麗が身体のあちこちに落としていくキスは、口の悪さからは想像もできないほど甘く、
普段硬い石や岩を相手にしている九龍には刺激が強すぎる快さだ。
制服ははだけ、肌着はたくしあげられ、十二月の朝には少し寒い格好も、
触れる唇の熱さが気にならなくさせていた。
瑞麗のキスは臍にまでたどりつき、さらにその下を目指そうとしている。
羞恥と興奮が九龍の中でさざめく。
その二つに折り合いをつけるほど九龍は経験を積んでいなかったが、
天秤がどちらかに傾くよりも早く瑞麗の手が魔法のようにすばやくズボンを脱がせた。
顔をあげられない九龍にも見えるほどかちかちに張りつめた屹立が姿を現す。
熱気に満ちた赤黒い肉茎は、しかしすぐに見えなくなってしまった。
瑞麗が撫でつけるように倒したのだ。
「う……っ」
「ん? 痛かったか?」
「……いや」
 いきなりひんやりとした感触に包まれて、思わずうめいてしまっただけなのを聞きとがめられて、
赤面せずにいられない九龍だった。
 瑞麗は下側から舐めはじめた。
陰嚢の付け根、硬い部分と柔らかい部分の境目にくちづけ、そこから上へと舐めあげる。
しかし一方向にではなく、戻り、あるいは唇で食んだりしてさまざまな刺激を九龍に送りこんだ。
「うっ……あ……」
 絶え間なくもたらされる快感に九龍は身悶える。
瑞麗の仙術によって力が入らなくなった身体のせいで、苦しいほどの気持ちよさが一点に集中していた。
その一点も瑞麗のひんやりとした、これもまた快い手に押さえつけられていて、九龍にはなすすべがない。
そら怖ろしい快美感にせわしなく手を開閉させるのが精一杯だった。
 とうとう瑞麗の舌が先端にたどりついた。
鋭敏な傘の部分を、特に念入りに舌が這う。
舌先のこまやかな動きと、舌腹の貼りつくような責めに、九龍は身体を震わせた。
さらに瑞麗は陰嚢にも手を添え、優しく揉んでくる。
男の感じる場所を一度に責められて、早くも射精感がこみあげてくる九龍だった。
「……ッ」
 反射的にこらえ、波を引かせる。
しかしそれは新たな、より大きな波を呼ぶ、苦悶の始まりだった。
「出しても良かったんだぞ」
 あきらかに面白がっている口調に、龍麻は意地を刺激される。
いずれ負けてしまうとしても、もう少しは粘ってみせなければ沽券に関わるというものだった。
「ま……まだ、出さねぇよ」
 震える声で強がってみせると、目だけで笑った瑞麗は扇情的に舌を覗かせる。
さらに激しくなるであろう責めに九龍が身構えると、いきなり大きな音が聞こえてきた。
がたがたという音はベッドから発せられているものではない。
誰かが扉を開けようとしているのだ。
「ん? なんだ、鍵がかかってやがる」
 禁断の遺跡に潜入し、危険な罠に飛び込む時ですら恐怖しない九龍も、このときはさすがに狼狽した。
それでも声を出さなかったのは若輩ながらも経験を積んだ『宝探し屋』だからこそだが、
肌を接している瑞麗はそれを敏感に感じとったようだった。
屹立を舐める動きを遅くし、全体に吐息をまぶす。
「う……」
 じわじわと膨らんでくる快感に仰けぞってしまう。
どうやら早くも二度目の危機を迎えたようで、唇を噛んで備える九龍に、再びドアが激しい音を立てた。
「おい、誰もいないのか?」
 しつこく扉を開けようとする人物の正体を知って、九龍はますます緊張を強いられることとなった。
よほど未練があるのか、一度試せばわかりそうなことを何度も行っているのは九龍のクラスの同級生、皆守甲太郎だったのだ。
彼がこんな時間に学校にいるとは驚きだったが、今はそれどころではない。
皆守がどれだけ無関心な性格だとしても級友が教師と朝から励んでいるところを見たら平静ではいられまい。
それに九龍にも情事を他人に見せて悦ぶ趣味はなく、瑞麗に弄ばれるのとは違う、
単に底なしの恥ずかしさがあるだけだった。



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