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 結局、同じ穴のムジナなのだ。
でなければ、こんな普通でない、友人にだって話せない、
しかも各々が深い快楽に浸るような行為を毎日繰りかえすはずがない。
いくら龍麻がそれなりに格好良く、それなりにモテたとしても、
こんな嗜好を持っていると知って、なお交際しようとする同級生がどれくらいいるか。
交際を断られるだけならまだしも、
下手をすれば学校中の噂になっても仕方がないくらいの性癖だった。
 もっとも、それは葵にしても同じで、真神の顔と言って差し支えないくらいの
美貌とスタイルと学力と運動能力を兼ね備えている彼女が、
學園で一番遊んでいそうな女生徒よりも
もっとただれた性の細道を歩んでいるなどと知れたら、
なまじ教師からの期待も大きいだけに、
龍麻以上に学校内のスキャンダルになるのは間違いない。
 だがもちろん、二人にはそんなことはどうでもよかった。
偶然にせよ宿命にせよ出会ってしまった二人はもはや別れるつもりなど毛頭なく、
龍麻は葵のためなら東京でも何でも護るつもりだったし、
葵も龍麻と居られるのなら鬼でも何でも全力で折伏するのにためらいはなかった。
 葵の小さな指を、龍麻は同じ指でさする。
右足の薬指を右手の薬指で、クレープの生地を伸ばすように丁寧に円を描かせて。
まだ葵の表情に変化はない。
ほんの少しだけ開いた唇はすぐに閉じ、触られていることすら気づかぬ風で、
龍麻の顔を撫でるのを止めない。
 龍麻の方もこの程度で葵が陥落するなどとは思っていなくて、
葵の右足を愛撫する指をさりげなく一本増やしつつ、
巧みに葵の左足を誘導し、ズボン中央のふくらみを正確になぞらせた。
素足とはまた異なる、絶妙なもどかしさを感じさせる気持ちよさに、
自然と顔がにやけてしまう。
ともすればこちらから仕掛けるのを忘れてしまいそうになる意識を、
懸命に繋ぎとめなければならない龍麻だった。
 笑顔を絶やさぬまま、足の裏に当たる隆起の形を葵は想像する。
もう何度となく目にし、手でも、口でも、もちろん身体の中心でも
触れたことがあるものだけれど、その都度感嘆させられる、異形の牡の器官。
敏感な部分だと聞いてはいるが、足でつつかれても嬉しそうに脈打つのは、
持ち主の品性に由来するのだろうかなどと意地の悪いことを、
自分もこたつの中で触られたときはひどく濡らしてしまった事実を忘れて葵は考えた。
 龍麻の頬が小刻みに震えている。
それは葵の左足の動きに正確に追随して、男のシンボルを踏みにじられる都度
微細な反応を指に伝えるのだ。
快感と痛みの境界線上を行きつ戻りつさせ、葵は龍麻をなぶる。
戦う時、あれほどりりしく引き締まる口が、
ほんの少しかかとに力をかけただけでだらしなく緩む。
そこから吐きだされる息は戦いの後と同じように熱くても、ただれた粘度に満ちていた。
 葵は指先を曲げ、根元の方にも触れる。
袋の中に収まっている二つの玉は、ズボン越しではまだわからなかったが、
上から押しただけで龍麻の開いた口が、息を吸いこんで奇妙な音を奏でた。
龍麻によると、棒の部分よりもこちらの方が痛みを強く感じるらしい。
以前加減を間違えて強く刺激してしまったとき、
涙まで流していたからそのとおりなのだろう。
龍麻が求めているのは、あくまでも快楽であって痛みではないはずだ
――今のところは。
それでも、悶絶してしばらく口もきけなかったあの時の龍麻の顔を、
もう一度見てみたいとひそかに思いもする葵だ。
泣いて許しを請い、すがってくる男に慈母の愛を与える。
それは女として最高の喜びではないだろうか。
自分の考えが歪んでいると承知はしていても、
いつかその日が訪れるのを待ち望む葵だった。
 葵の左足を、龍麻は優しく制する。
積極的なのは望むところだが、性急すぎてはもったいない気がしたのだ。
 葵の左足を持ちあげた龍麻は、自分の腰の上で右足と拝み合わせる。
シンバルを叩く猿のおもちゃのような、
それは美しさに見合わない珍奇な姿であったけれども、
合わさった足の裏に生じた、棒一本分の隙間を見ているとたまらなくなってくるのだ。
葵に無理な姿勢を強いているのを承知で、両手で掬うように足先を持った龍麻は、
微妙な陰影がもたらす美を余すところなく堪能した。
「もう……あんまり見ないで」
 葵を嘘つきにさせたというだけで、この性癖は罪深いと龍麻は思う。
だが、本当は見られたくないどころか、
ありとあらゆる方法で賞賛されたいのだという彼女の本心については、
変態などとは思わなかった。
むしろこれだけの美しさを持つ足なのだから、
そんな風に考えるのも自然だとさえ納得している。
「今日って体育あったよな」
「……ええ」
 返答の時差はどんな意図があっての質問かを正確に理解するだけの刻限。
そして、質問者が何をしたいのかを予想するだけの時間だった。
「……」
 はたして、返事を聞いた龍麻は、無言のまま手を持ちあげ、
そこに乗っているものを顔に近づける。
そして女として嗅がれることを到底容認できない臭いを、
鼻腔の奥までたっぷりと吸いこんだ。
そして、鼻から深く吸いこんだ空気を、口から吐きだす音を葵は聞く。
通常の呼吸なのかもしれないが、葵には、龍麻が臭いを溜めこんだように思われるのだ。
その認識が頭から脊髄を通って尻へと抜ける時、葵は下腹に強烈な疼きを覚える。
親友である小蒔にも話せない、ほとんど瞬間的に沸騰する欲情は毎日のように噴きだし、
抑える術を持たなかった。
 龍麻はまだ臭いを嗅いでいる。
足の先から膝の上辺りまで、遠慮も気遣いも捨てて、
嗅げる範囲の臭いは全て嗅ぎつくすとばかりに鼻を寄せていた。
「頭がくらくらするよ」
 再び顔を上に向けて笑う龍麻の、葵は頬を軽くはたく。
けれども掌は頬に当てたままにして、彼の顔をもう少しだけ上に傾けさせた。
「ひどいわね」
 龍麻はまだ両足の先を掴んでいるので、完全には足を閉じられない。
指先を包む掌の温かさを意識しながら、足の中に抱かれる男の、
葵は口の中に親指を入れた。
舌腹の上でしっくいを塗りひろげるように指を動かし、口腔を蹂躙していく。
苦しい姿勢を強いられた龍麻の口から聞こえる呼気は激しさを増したが、
掴んでいる足先も含めて、龍麻は一切を受けいれていた。
 指先に、龍麻がまとわりついていく。
滑らかさを増していく摩擦は、舌以外の場所へも指を滑らせていく。
従順な頭を思いきり両足で挟みたい衝動に耐えながら、
葵はしなやかな指で頬の内側や歯列や歯茎を、昂ぶる欲望が命じるままに愛撫した。
「あ……あ……」
 龍麻の口からしまりのない喘ぎが発せられる。
無理な姿勢で口を開けっ放しなのだから、そろそろ限界なのかもしれない。
彼の体液にまみれた指を、葵は引き抜いた。
視界の端で足先が包まれているのを確認し、
じんわりと快感に満たされている親指にくちづける。
 下からは龍麻が見上げていた。
舌を出して爪を舐めると、彼の手に熱が篭もった。
不自然な、龍麻に出会わなければ決して取ることのなかった姿勢が、
ただれた解放感を葵にもたらす。
 特に厳しく躾られてきたわけではないけれど、葵は上品に育っていた。
同級生が行くような店やするようなことも縁がなかったし、
それを不満にも思っていなかった。
それが龍麻に出会ってから、たった数ヶ月にも満たないうちに。
 ついに指を口中に収め、葵は一人笑った。
「何笑ってるんだよ」
 答える前に赤ん坊がそうするよりも、もっと執拗に指を吸う。
足の側面に、今吸っているものよりもずっと大きく、固いものが当たった。
それをもっとしっかりと、たとえば足の裏で感じたいという新たな欲望をひとまずは秘め、
葵は答えるために口から指を抜いた。
もちろん、抜くときにひときわ大きく吸い、卑猥な音が聞こえるようにするのも忘れない。
「龍麻の味がするわ」
 それは本当であり、嘘だった。
ひとまず彼の味のする液体を、舌のあらゆる部分で味わいながら、
じっくりと嚥下する。
アルコールはまだ口にしたことのない葵だが、
粘液が喉を落ちていき、胃にたどりついたそれが蒸溜されて来た場所を上り、
頭の中にまで染みていく感覚は、まさに酩酊だった。
身体の中心に一本の、エレベーターのような線があって、それが熱を運んで上下する。
地上から最上階へ、そこから今度は地下へと熱が下っていったとき、
葵は足の先端にまで欲望が満ちるのを感じるのだ。
龍麻を愛し、愛されたいという願いよりも、もっと淫らで歯止めがきかない欲望。
彼の身体を思うままに弄り、自分の肉体を隅々まで弄られたいと、
数ヶ月前までは考えもしなかった願望に、全身が焦がれていた。
「あ、ぁ……」
 半ば自覚的に、色を帯びた吐息を漏らす。
龍麻と自分とを誘う調べに、下腹が甘く疼いた。
同時に葵はつま先に反応を感じる。
重しを押しのけるように、彼の身体から雌を求めて突きあがる器官を、
葵は軽く押さえつけた。
すると人間の倍以上の大きさもある鬼にも臆することなく立ち向かう勇敢な男が、
なさけない悲鳴を放つ。
「く、う……」
 それは確かに悲鳴だ――けれども、本心の悲鳴ではない。
そのことを当人よりも知っている葵は、彼の喘ぎを耳と口から吸いながら、
さらに右足の親指に力をこめた。
「うっ……!」
 今度は腰がびくりと跳ねる。
荒い呼吸を二回してから見上げる龍麻の顔は、奇妙に中途半端だった。
怒りと快感、惨めさと恍惚。
いずれもが他を凌駕するには足りず、結果としてずいぶんと間抜けな顔になっている。
その顔がたまらなく愛おしくて、葵は彼の顔を掴んだ。
「気持ちよかったの?」
「……ああ」
 正直に答えた褒美に、女神は金と銀、両方の斧を与える。
両足を巧みに操り、右足で茎の部分をおさえ、左足でその下に位置する袋を撫でた。



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