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「あ……う、ぁ……」
 しまりのない喘ぎが耳に快い。
双肩に東京の平和を担っている男を足の指先で支配するのは、
この世界にただ一人、美里葵にだけ許された特権なのだ。
龍麻の、完全に勃起していて思い通りに操るのは少し難しいペニスを、
強引に転がし、踏みにじるように愛撫する。
たちまち黄龍の器の顔は泣きそうに歪み、仲間を励まし叱咤する口からは、
痛みと快楽のない混ざった、瘴気にも似た吐息が立ちのぼるのだ。
白皙の顔に熱を浴び、葵は微笑む。
彼の体内で醸成された二酸化炭素の塊は、いつでも葵を正しくない状態に導くのだった。
 足先を揃えて掴まれているので、葵の足は今、やや立体的な正方形を形作っている。
そのためスカートが足の間に垂れ、龍麻はそこに頭を乗せてきた。
開かれた股、つまり、性器。
その部分はまだ龍麻に触れていない――もう少しで触れそうだけれども、
きわどい位置で保たれている。
龍麻の顎に手を添えたままの葵は、思いきり彼の顔に気持ちいい場所を
押しつけたい欲望をねじ伏せながら、彼のために足を動かした。
ズボンの上からアイロンをかけるように、何度も同じ場所を往復させる。
指先で、全体で、かかとで。
奇妙に静かな時間が流れる中、葵は龍麻の眼を覗きこみながら、
ストッキングに包まれた美麗な足を飽きることなく操り続けた。
龍麻はすでに心持ち足を開いて、すべてを受け入れる体勢になっている。
そそり立ったペニスを恥ずかしげもなく晒し、
挿入したいと天に向かって訴えかけている。
それをあやすように、葵は親指と人差し指の間で太い肉柱をなぞった。
「あ、あぁ……」
 龍麻の目に涙がにじんでいる。
嬉しいのか、痛いのか、気持ちいいのか、情けないのか、もっとして欲しいのか、
たぶん、全部。
だから葵は、龍麻の目を自分のそれと正対させ、ゆっくりと告げた。
「そろそろじかに触って欲しくなってきたんじゃない?」
 質問が実は願望であることを隠すため、声を出せないよう龍麻の胸を反らさせる。
大きく動いた喉仏にさえ欲情を覚えながら、葵は返事を待った。
 質問に見せかけた、命令。
葵の端麗な唇からその呪文が発せられるのを、龍麻は心待ちにしていた。
上体を引っ張られ、敏感な部分を押さえつけられた状態では、
腕を動かすのも一苦労だが、龍麻は己の生命力を犠牲にしてでもベルトをゆるめた。
ホックを外し、腰を浮かせてズボンをずり下ろそうとする。
「返事よりも先に脱ごうとするなんて、そんなに我慢ができないのかしら」
 残酷な笑顔が龍麻の動きを止めた。
とっさに何か言い訳をしようとしたが、声が出せない。
頬が灼熱し、性器が膨らむ。
その両方を葵に支配されているという認識に、
龍麻がズボンに両手をかけたまま小さく喘ぐと、葵は全てお見通しとばかりに
ファスナーが下ろされて少し解放されたペニスを踏みつけ、龍麻に苦痛と快楽を強いた。
「ズボンを、脱ぎ……たい……じかに、触って、欲しい……」
 声を出すことに全力を注いだので、言い終えた直後にぜえぜえと息をする。
気道が熱く、それ以上に心が熱い。
逃げを許さない葵の笑顔が男としての恥辱を炙り、
性器が葵の足を押しのけようと膨らむ。
そこに足で体重をかけられるのは、全てを否定されるような気がして、
とろけるような恍惚を感じる龍麻だ。
「仕方ないわね。でも、わかっているでしょうけれど、汚しては駄目よ」
「あ……ああ……」
 踏みつける力が緩んだのを逃さず、龍麻は一気にズボンを下ろした。
上半身が押さえつけられているので、膝まで下ろしてあとは適当に足だけで脱ぐ。
その慌てようがおかしかったのか、葵が小さく笑った。
 踏みつける足から伝わる笑いの微粒子さえもが快感となる。
裏筋と陰嚢とに添えられた足がかける力は少し強くなって、
絶妙の心地を龍麻にもたらした。
「あ、う、あっ……!」
 虚脱する。
何もかもが。
そのまま射精してしまうかというほどの快感に腰が跳ね、頭上の葵が揺れる。
口の端から涎を垂らし、龍麻は男の尊厳はむろん、
人としての誇りさえ失くしたかのような喘ぎを葵に浴びせた。
「ごめんなさい、痛かった?」
「い、いや……平気……」
 龍麻が強がるのを知っていて葵は訊ねる。
そして返事が返ってくるや否や、今度は左足で陰茎を押さえ、右足の親指で亀頭を撫でた。
「う……あ……」
 立て続けにもたらされる刺激に、脳の処理が追いつかなくなっていく。
痛みと快感、まったく別のはずの二種が、同じものとして龍麻を痺れさせた。
たった一カ所、葵に踏まれている場所以外がぐずぐずに溶けてしまったかのような、
途方もない快感。
わずかな湿り気を帯びた足の裏の弾力と、それを包むナイロンの感触に、
龍麻は震え、とろけていく。
自分の性器が踏みにじられ、翻弄されるところを見たいという欲求が、
反らされた背中を伝う。
高められた性欲と絡まり、混じった衝動は抑えがたいものだったが、
両頬に添えられた手と、こんな情けない姿を見てなお微笑む葵が、
それを許してはくれなかった。
顔を動かせば、すぐに足を止める――葵は無言でそう告げている。
この快楽を手放すのなら、東京など売り渡しても構わないというほど
追い詰められた龍麻に選択肢などなく、恥辱と興奮で頭が焼き切れそうだった。
 動きを止めた龍麻に、再度の快楽が訪れる。
葵が足の指を巧みに操って、我慢を褒めるように刺激を与えてきたのだ。
今度は明確に快楽を与えようという意図が感じられて、
龍麻はすぐ果ててしまわないよう、小刻みに息を吐きだす。
けれども龍麻が葵の弱点を知り尽くしているのと同様、
龍麻の全ての急所を把握している葵は、
あっという間に龍麻を淫悦の彼方へと連れ去り、
彼女が踏みつけている器官に精液を充填させた。
「あ、ああ……!」
 待ち望んだ瞬間が訪れる。
このままだと自分の腹に向けて精液を放つことになると知りながら、
龍麻は何の手立ても講じず最後の一踏みが与えられる時を迎えた。
 だが。
いくら待ってもその瞬間は来なかった。
もうあとほんの一グラム荷重がかかれば、めくるめく快感の果てにたどり着けるのに、
葵はその寸前、息を吐いただけでもかかってしまうような重みを止めてしまったのだ。
悪魔でなければなしえない所業だった。
 葵は二本の黒い柱による拘束を解き、獣を野に放つ。
獣は己を解放した相手に感謝する気配もみせず、上体を起こすと身体を反転させた。
そしてすばやく目の前の牝を押し倒し、飢えを満たそうとのしかかった。
 血走った眼で龍麻が睨む。
野獣の如き猛々しい眼光に、葵は射すくめられていた。
妨げられた欲望を充足させようと、剣呑なまでにぎらついている漆黒の瞳。
前髪に隠れがちでちゃんと見る人は少ないが、
穏やかで、無条件の信頼を与えてくれる大きな眼。
その両の眸がただ一人、自分を見据えていることに葵は酔いしれていた。
制服を着ているのがもどかしく、早く素肌で龍麻を感じたいという欲求が、
おさえがたく膨れる。
 荒い呼吸を隠そうともしない龍麻の、両肩が上下動している。
彼の牡性をもっと感じたくて、葵は眼球だけを下方に動かした。
筋肉がいたるところで盛りあがっている、角張った、逞しい男の肉体。
これからこの男に犯されるのだ――
葵はさらに龍麻の腰へと視線を移動させる。
この、大きくみなぎった男性器に。
それから見て斜め下方にある穴を目指してたぎっている肉柱の偉容に、
思わず息を呑んだ瞬間、葵の視界は暗転した。
「――!!」
 唇が奪われ、彼の体臭が液体のように流れこんでくる。
口を開ける間もなくこじ開けられ、舌を奪い取られた。
「……ンッ、んン――!」
 呼吸を許されない苦しさに、思わず龍麻を跳ねのけようとする。
しかし両腕でいくら頑張っても龍麻の身体は岩のようにびくともせず、
やがて葵は諦めざるを得なくなった。
 龍麻の舌は制御を失ったかのように暴れ回る。
葵の上顎をねぶり、舌を食み、歯列を蹂躙する。
そのいやらしさと品のなさに、葵が背中に爪を立ててくるが、
お構いなしに龍麻はキスを貪った。
「……っ、はぁ、待っ……ン……!」
 一分近くも口を塞ぎ、ようやく解放した葵に一息すらつかせず再び舌をねじこんだ。
音を立てて唾液を攪拌し、啜り、飲ませる。
一度目よりは勢いを弱めた、しかし粘着質になったキスを、
龍麻がさんざんに堪能して口を離すと、葵の目はすでに焦点を失いかけていた。
普段の理知的な葵ももちろん良いが、
こうして白痴めいた顔をした彼女もたまらなく愛おしい。
葵が虚脱している間に手際よくホックを外し、
制服をたくしあげるところまで済ませてしまった。
 まろびでた双乳を満足げに眺め、指を這わせる。
柔肉の質感を愉しむのもよいが、先に乳首を勃たせるのが龍麻の好みだった。
「っ……あ……」
 細やかな刺激にさっそく悩ましげな吐息がこぼれる。
淡い桜色の乳頭はどれほどの間もおかずしこり立ち、
弄ばれるのを待っていたかのように指先になじんだ。
つまんだ乳首をつまみをひねるように撫で、指腹でこすりあげる。
「う……ぅ、うぁ……ん……」
 感じているのを必死でこらえる葵に、
湧いたサディスティックな欲望を生のままぶつけた。
「嫌……! お、お願い……痛くしないで……」
 それは半分本当で、半分嘘。
その証拠に葵は目を潤ませているが、身体から漂う香りに険悪な匂いはない。
だから龍麻は、指先は一転して甘く、いたわるように弄りつつ、
もう一つの乳首を咥え、軽く歯を当てた。
「んッ……は、ぁ、ん、んっ」
 葵の喘ぎは音色こそ違っても龍麻のそれと変わらない。
痛みと快感が同時に処理されて融合しているのだ。
そしてどちらともつかない声の調子が、徐々に片方に傾いていくのも同じだった。
 できたてのゼリーのように大きく弾む乳房を、龍麻は決して離さない。
口での刺激を弱めれば手の愛撫を強め、手で乳首を抓れば優しく口で吸ってやり、
絶え間なく快感を与え続ける。



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