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 マリアの爪先が、顎をなぞる。
冷たささえ感じさせる血の色をしたネイルは、
獲物を捕らえた蛇の舌をアン子に想像させた。
終端から口の下まで、じっくり一往復されただけで、
アン子の唇は意思に背いて開いていく。
そこから吐きだす呼気の、なんと熱いことか――
そして、それを冷却するように唇を撫でるネイルの、なんと快いことか。
 昨日、学校でされた時のように、不思議な、
説明を求めてもはぐらかされてしまった力で動けなくされたりはしていない。
なのにアン子は、いつのまにか動くどころか声すら出せなくなっていた。
 口をうっすらと開けたまま、何をすることも叶わないアン子は、
ぼんやりとマリアを見つめる。
心得た微笑で頷くマリアの、やけに紅い口唇の隙間に覗く犬歯が、
なぜか一瞬長く見えた。
「いい子ね……遠野サン。今度、アナタにも用意してあげるわ。
後でサイズを計ってあげるわね」
 契約は完了した、とばかりにマリアは唇を触れさせる。
紅のルージュと濃い、脳にいつまでも残る香りが、アン子を抱きすくめた。
「う……ン……」
 マリアの舌が、すぐに入ってこようとする。
昨日の官能が唇に蘇って、アン子に拒む術はなかった。
 長く、肉厚の塊はたやすく口腔の奥にまで到達し、
触れるもの全てに快感を植えつけていく。
舌以外に触れることができない場所を、自分以外の舌に触られて、
アン子の理性は一足飛びに崩れていった。
「んッ……ふぅ……」
 キスすら初めてだったのに、たった一日で口は快楽を覚えこんでしまった。
一晩かけて口の中のあらゆる部分を舐めまわされた結果、顎を動かすだけで、
喋ろうとするだけで快感が身体をまっすぐに落ちていき、
下腹に溜まっていくようになってしまったのだ。
おかげで今日一日、アン子は友人から心配されるほど口数を減らし、
もちろん新聞部としての活動など全くできなかった。
英語の授業はなかったのが幸いだった――もしもマリアの視線を少しでも感じたなら、
たちまち肉体は昨夜の火照りを思いだしてしまっただろうから。
 マリアの舌に、いつしかアン子も応じている。
覚えがいい、と褒められた昨日の夜の記憶は、まだ生々しく残っていた。
英語の発音の練習のように舌を動かしてみせたマリアは、そのまま顔を近づけ、アン子に実技を練習させたのだ。
それに先立つ三十分で、すっかり蕩かされていたアン子は、
逆らう気力もなく同じように舌を出し、マリアのそれに絡めた。
マリアはこの分野でも優秀な教師であることを示し、アン子はその日のうちに、
キスに関してはマリアに合格点をもらえるまでに上達していた。
 けれども、合格というのはあくまでも基準を通過したにすぎないことを、
アン子は思い知らされていた。
容赦なく口をこじ開け、歯を、歯茎を蹂躙するマリアのキスに、
アン子は全くなすすべがない。
立つ力はとうに抜け、マリアに抱きしめられてようやく立っているありさまだ。
だからマリアが優しくベッドに押し倒したとき、
抵抗する余力などどこにもありはしなかった。
「フフ……可愛いわよ、遠野サン」
「あ……せんせ、い……」
 光と影が彫りの深いマリアの顔立ちを妖艶に縁取る。
下から見上げるアン子には、きらめく金髪は支配者の証に見えるとでもいうのか、
龍麻を蹴り、殴り、首を絞める勢いは毛ほどもなく、
借りてきた猫よりもおとなしくなっていた。
 唇の色と同じ、紫に近い紅の爪が、顎をなぞる。
その動きにはどんな命令も含まれてはいなかったのに、
アン子は少しずれてピントが合わなくなってしまった眼鏡を直そうともせず、
自分から供物を捧げるように唇を突きだした。
「ん……っ……」
 想像していたよりもずっと冷たい唇が、快い刺激をもたらす。
まだ唇は開かない――マリアの肉厚の舌に、
力強くこじ開けられる快楽を知ってしまっているから。
断固たる拒否ではない、ほんの少しのわがままは、しかし見透かされていて、
マリアはキスを仕掛けておきながら、アン子の望むようには舌を挿れてこない。
駆け引きをするには経験が不足しすぎているアン子は、唇の圧力が弱まると、
矢も盾もたまらず自分から閉ざした門を開け、マリアを招きいれた。
「ん、ん――ッ!」
 ベッドに身体が押しつけられると同時に、口腔への凄まじい圧力がアン子を襲う。
意思を持った粘塊は一瞬でアン子の口を塞ぎ、内部を蹂躙した。
「んんっ、ッは、あ、うッん――」
 喘ぎ声さえ支配される。
唾液を孕んだ舌が淫靡な柔らかさを口の中のあらゆる場所に植えつけていく。
昨夜の記憶が悦びを倍加させ、心を蕩かしていく。
下腹の一点に火が点り、小さく身をよじろうとするが、
押さえつけられた四肢にマリアをはねのける力などなく、
かえって舌を吸われてしまった。
「は、はふ、はぁ……はっ……」
 昨日までキスも知らなかったというのに、たった一日で快楽を覚えこまされた舌は、
マリアの口の中でどろどろにねぶられてあえなく降伏する。
敗軍を待っているのは、陵辱と蹂躙――
アン子はむしろそれを望むかのように舌を差しだしたのだった。
 眼前で始まった二人の女性による快楽の宴を、龍麻と葵は声もなく見ていた。
教師と教え子、女性と少女、近しい知人同士、それに外国人と日本人。
どのような切り口で見ても興奮をそそられずにはいられない組み合わせである。
卑猥な音自体を武器にするかのような激しい吸引と、
弛緩しながら時に感電したように震える制服。
アン子に跨って舐め溶かすようなキスを続けるマリアには、
こうした光景はかなり見慣れている龍麻も劣情をかき立てられるし、
同じ歳の少女があっという間に快楽の虜になっていくさまを、
やはりこうした光景を見慣れているはずの葵は頬を鮮やかな紅に染めて眺めていた。
「凄いな、マリア先生……あのアン子がさっきから一言も喋らねえ」
 本気で感心して呟いた龍麻が、同意を求めて葵を見る。
常によく気がつき、龍麻の言うことなら何にせよ聞き入れる少女は、
ぼんやりと口を開いたまま答えようともしていなかった。
苦笑しつつ龍麻は葵の腰に腕を回し、軽く引き寄せる。
たいして力は入れていなかったのに葵はふらふらと寄りかかり、
潤んだ瞳で龍麻を見上げた。
しどけなく開かれた唇は貪られるのを待っているかのようで、
これを味わわずにおくのはいかにももったいない話だ。
もう少し女教師と教え子による禁断の戯れを見ていたかった龍麻だが、
身体の向きを変え、優しくくちづけた。
「ん……」
 葵が嬉しそうに首に腕を回してくる。
自分が今どんな服を着ているのかいつ思いださせてやろうかと、
純情な高校生のように甘いキスをする葵に応じながら考える龍麻だった。
 龍麻と葵が情熱的なキスへと移行した頃、
マリアとアン子はようやく最初のキスを終えようとしていた。
キス、といっても途中からはマリアがほとんど一方的にしていたもので、
アン子は長く厚い舌にただただ翻弄されていたにすぎない。
 口の周りに貼りついた白く濁った唾液を、マリアが丁寧に舐めとる。
若い人間の体液は男でも女でも美味だが、肌の滑らかさは女性、
それも日本人の娘に勝るものはない。
口の周りから耳に至るまで舌を這わせ、近頃ではずいぶん減った、
化粧気のない張りのある肌を堪能したマリアは、
アン子が支配下にあることを確かめるとシロップのような声で命じた。
「遠野サン……腕を上げなさい。そう……いい子よ」
 なぜマリアの指示に従ってしまうのか、制服を脱がされながらアン子は考える。
そこで龍麻と葵も見ているのに、マリアに囁かれると
従わなければならない気が首の後ろからするのだ。
きっとマリアの神秘的な蒼い瞳に魅了されているんだわ、
と結論を出すアン子の首筋に、
今はもう塞がりかけている二つの小さな孔があることを本人は知らない。
ただただマリアの美貌と技巧に堕落させられてしまったのだと信じているのは、
おそらくは幸福なことなのだろう。
「素敵なバストね……きっとランジェリーが映えるわ」
 現れた稜線をなぞりながらマリアが微笑んだ。
ただし微笑む前、制服を脱がせた直後に、秀麗な眉目を数瞬曇らせている。
アン子の着けている下着があまりに安っぽく、
またサイズも一見して合っていなかったからだ。
せっかくの素体もこれでは台無しで、美しい女性にはそれにふさわしいランジェリーを
まとう義務があると考えているマリアには許し難いことだったのだ。
もっとも、結局マリアは自分が選んだランジェリーを着させたいのだから、
事前に何を着ていようと実は関係ないのだが。
「美里サンも素敵だけれど、アナタも同じくらいに素敵よ、遠野サン」
「あ、あたし……そんな」
 マリアに真っ向から見つめられて、アン子はしどろもどろになっていた。
胸を隠そうとした右腕も一度のキスでたちまち力を失い、
されるがままに左腕と一緒に頭上に掲げられてしまう。
「フフ、まだ自分の本当の魅力に気づいていないのね……
安心なさい、ワタシがこれから遠野サンを輝かせてあげるわ」
 龍麻あたりが口にしたなら、鉄拳を一通り叩きこんだあとに
寝言は寝てから言いなさいと止めをさすこと間違いなしのうわついたセリフも、
人外の魅力を有するマリアが言うと、媚薬のように耳を快くさせる。
「さあ、力を抜いて……全てをワタシに見せなさい」
「あ……ァ……!」
 小さく喘いだ、それがアン子の最後の自由意思だった。
 片手でアン子の両腕を拘束しているにも関わらず、
マリアは易々と邪魔な下着を取り払う。
サイズの合っていなかった下着から解放された乳房が歓喜に揺れ、マリアを歓迎した。
「本当に素晴らしいわ……どんなランジェリーが似合うかしら、
ボンデージなんかもいいかもしれないわね」
「ボンデージって、あの……ムチとかロウソクとかの」
「フフ、そうね。一般にはSMプレイをするときの服装という認識でしょうし、
それも間違ってはいないわ。
けれど、光沢のあるレザーは肉体のラインを余すところなく浮かびあがらせる……
遠野サンのカラダなら、ゾクゾクするような美しい起伏が浮かぶでしょうね」
 顎から首筋へ、さらには乳房を経て腰へ、
滑っていったマリアの指先がスカートのホックを外す。
見せつけるように眼前で開閉する唇と、会話の合間ごとに挟まれるくちづけが、
アン子をもがかせもしなかった。
「で、でも……キツかったりするんじゃ」
「自由になった肉体を自分の意思で閉じこめるのも、やがて快感になるわ」
 巧みに誘導されていることに気づかないまま、アン子はマリアの提案を承諾した。
すぐにマリアが褒美の熱いキスを与え、
さらにこの部屋で二番目に色気のない下着に触れる。
そこはすでにおびただしく湿り気を帯びていて、
軽くなでられただけでアン子は切なげに身を震わせた。
「想像して感じたのね……いい子よ、いつも、
どんな時でもワタシのことしか考えられなくしてあげる」
 アン子はおよそ彼女らしからぬ受け身の瞳でマリアを見た。
新聞のために常にアンテナを張り続ける必要がある彼女にとって、
一人の人間に夢中にさせられてしまうのは困る。
けれども一方ではそれをよしとする自分も居て、
破滅的な倒錯に身を堕としてみたいと思いもするのだ。
「アナタのこと、気に入っているのよ……学校では一番に」
「え、あ、あの、美里ちゃんは」
「もちろん可愛いわ……けれど、ワタシはアナタの方が好み。
それに、あの子は龍麻のモノだから」
 一番、という言葉が琴線をくすぐる。
アン子は新聞以外の分野で一番になったことがなく、こんな状況であってさえ甘美な響きをそれは持っていた。
それに、これだけの美貌を持つマリアにこんな近くで愛を囁かれて、
理性を保てというほうが難しい。
肘から腋へと滑っていく艶めかしい舌の軌跡を、
いつしか追いかけているアン子だった。
 籠絡されつつあるアン子の横では、葵が龍麻の愛撫を受けている。
龍麻は下着をすぐに脱がせてしまうような無粋なことはせず、
視覚的な効果をたっぷりと鑑賞しつつ女体を堪能している。
 男の欲望をかき立てる、ただその一点のためにデザインされた
 ランジェリーを着せられた葵は、
龍麻の手が際どいところを通るたびに身体をくねらせはするものの、
腕から逃れようとはせず、むしろ愛撫に身を任せるようにしていた。
「マリア先生凄えな。アン子もう濡れまくってるぜ」
「……」
 下品な物言いに目を伏せる葵だが、龍麻に顎を掴まれ、
無理やりにベッドの方へと向けられてしまう。
エロスの化身のようなマリアと、彼女の毒牙にかかって普段の溌剌さなど
見る影もないアン子という近しい者の組み合わせはいささか刺激が強すぎるらしく、
葵の呼吸はいつになく荒かった。
龍麻はそれを見逃さず、彼女が求めるよりもわずかに足りない弱さで
全身をくまなく撫でていった。
「あ……あぁ……」
 清純な美貌に淫らな表情が滲んでいく。
彼女を知る者がどれだけ否定したとしても、
葵の肉体は女の悦びをすでに知りつくしていて、
なお貪欲に淫楽を求める魔性の肉体だった。
龍麻の愛撫で股ぐらを濡らし、アン子が倒錯の悦びを教えこまされている姿を見て、
さらなる発情の糧としている。
後ろから勃起したペニスを押しつけ、さらに発情の糧を与えてやりながら、
龍麻は一足先に淫らな宴もたけなわとなっているベッドに葵を導いた。
「ほら、少しマリア先生を手伝ってやれよ」
 促されるままに葵はベッドに乗り、同級生のところへと近づいていく。
その時アン子はすでにマリアの洗礼をたっぷりと浴びせられていて、
目の焦点も合わない始末だった。
「アン子ちゃん……」
「み、美里ちゃん……」
 葵は恭しいほどの態度でアン子の頬にくちづけ、そこから舌を這わせる。
その甘美な舌遣いもさることながら、学校で最も優秀な葵がまるで召使いのように
接するという事態が、アン子の興奮を途方もなく高めた。
葵はきっと、マリアか、あるいは龍麻に命じられているから
そういう態度を取っているだけなのだ。
そう解釈してみても、自分のようにただ言葉を勢いよく吐きだすだけではない、
聞く者を自然と従わせてしまうような声を紡ぐ唇に、肌を吸われ、
それ自体を使って愛撫されると、ろうそくの炎にも似た何かが、
腹の奥底にぽっと灯ってしまうのだ。
他人に見られるわけではないその炎が、しかし極めて恥ずかしいものに思われて、
アン子は目を伏せる。
けれども伏せた視線の先にあるのは扇情的な下着をまとった美少女の妖艶な姿であり、
隠したいはずの炎はさらに燃え広がってしまった。
「ね、美里ちゃん……あたしも、触っても……いい?」
「ええ、もちろんよ、アン子ちゃん」
 真神學園でも随一の美少女に至近距離で微笑まれて、アン子の中で何かが弾けた。
ため息をつかずにいられない白い肌を仔細に観察し、次いで触って確かめる。
まるで研究対象のような触り方に葵は困惑したが、アン子は真剣であり、
眼光がネタを追うときのものに変わっていた。
「正直言って一回触ってみたかったのよね……変態扱いされるから言わなかったけど」
 乳房はともかく腋やへそにまで顔を近づけるアン子の激しい鼻息がくすぐったくて、
葵はさりげなく関心をそらせようとする。
「でも、アン子ちゃんも綺麗よ」
「美里ちゃんじゃなきゃ嫌みとしか聞こえないわよ」
 だが、「真神の聖女」の力をもってしても興味を抱いてしまったアン子から
逃れるのは難しく、未来のジャーナリストはついに舌でも感触を憶えようとする。
「はあ、改めてみると犯罪的な胸よね……そりゃ聖女って呼ばれもするわよ」
「ア、アン子ちゃん……あんまり、同じところばかり、触ら、ないで……っ」
「そういうわけにはいかないわ。この際だから美里ちゃんのカラダ、
とことんまで調べさせてもらうわよ」
「あ……ん、待って、お願い、もう少し優しく……!」
 すっかり乗り気になったアン子に、葵は救いを求めてマリアを見る。
「駄目よ、遠野サン……今日はアナタの歓迎なのだから」
「ひゃ、ん……!」
 アン子の顎を掴んだマリアは、有無を言わさぬ強引さで唇を奪い、
口腔を掻きまわした。
たちまちアン子は釣り針にかかった魚のように肢体をひくつかせ、おとなしくなる。
マリアに目で促された葵も再びアン子の身体に触れはじめ、
アン子は二人から洗礼を受けることとなった。
「ふむッ、ふ……!」
 果敢にもアン子はなお何か言おうと試みるが、マリアの舌技はそれを許さない。
酸素を求めて喘ぐアン子に最低限の呼吸だけさせ、
後はまたたっぷりと唾液を乗せた舌で、バターを塗りこむように口の中を犯した。
喋ろうとするアン子の舌の動きさえ利用して、
キスというよりも口を使ったセックスに耽る。
顎をつままれ、開かされたアン子の口は、
有史以来はじめて喋る機能を完全に停止させていた。
「は……あ……ッ、あぅ、んあ……」
 マリアは乱暴ではないが容赦なく責めたて、アン子に休む暇を与えない。
口唇のあらゆるところを陵辱しながら、下半身にも手を伸ばし、
まだマリア以外の他人が触れたことのない秘裂をなぞりあげるのだ。
「あぅッ、う、んッ……!」
 すでに淫水をたっぷりと湛えるヴァギナは、マリアの指先に過敏に反応し、
縁から粘液をしたたらせる。
新鮮な若い女性の体液を指に掬った吸血鬼は、血に対してと変わらぬ恍惚を浮かべ、
自らの舌先に乗せた。
「フフ……美味しいわね、アナタのジュース」
「う、あぁ……い、や……」
 羞恥に全身を炙られたアン子は、言葉を吟味することなく
そのまま声に出してしまう。
それが一層の恥ずかしさを呼び起こし、知性派を自認する彼女が、
赤ん坊のように首を振るしかできない。
「昨日もそうだったけれど、とても量が多いのね。淫乱なのかしら?」
 マリアが発した言葉は、銛さながらにアン子に刺さった。
こんな状況に置かれていても、自分は他の三人とは違う、無理やり連れて
こられたのであって、こんなことを好きでやっているわけではないのだ、
と心のどこかで思っていた。
だが、淫乱というキーワードはアン子の心を外から深く貫き、
どこかにあった言い訳を粉々に砕いた。
「ち、違、あたし……」
「いいのよ……全てを解きはなって。本当のアナタを見せなさい」
「ひッ、あ――!」
 紅の口唇から甘い毒を注ぐマリアが、同時にクリトリスを刺激した。
切れかけの電灯のように明滅する意識が、徐々に暗の方が長くなっていく。
それは瞼を射す陽の熱さではなく、閉じさせる夜の心地よい優しさで、
アン子はこれまで経験したことのない柔らかさの枕に深々と頭を沈めた。
 するとすかさずマリアが覆い被さり、
長いキスでアン子を一層の深みに引きずりこむ。
鋭い知性を感じさせる少女の瞳が快楽に潤んでいくさまに淫靡な笑顔を向け、
その滑らかな頬を艶めかしく舐めまわすのだ。



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