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なんとなくロビーに向かうと、そこはおみやげを求める生徒達で一杯だった。
ほとんどが恋人、あるいは恋人予備軍の様相で、
居心地の悪さを感じた龍麻が部屋に戻ろうとすると、すっかり耳に馴染んだ声が自分を呼んだ。
「へへヘッ、龍麻、探したぜ」
「京一か……何だよ」
「実は、折り入って相談があるんだけどよ」
さっきの一幕の事などすっかり忘れたかのように声をひそめる京一に、
龍麻は露骨にうさんくさそうな表情を作る。
しかし京一は意に介した風もなく、馴れ馴れしく龍麻の肩を抱き寄せると耳元に囁いた。
「実はよ、この宿……覗けるらしいんだよ」
「覗けるって、何が」
「かーッ! 全くお前はニブいねェ。修学旅行で覗けるって言ったらアレしかないだろ、アレしか」
挑発的な京一の言葉にムッとしたものの、何かが引っかかった龍麻は、
少しの思案の後、「アレ」の正体にピンと来て眉を跳ねあげ、
京一が思わず身構えてしまうほど真剣な表情をした。
「マジか!?」
「おう、マジよマジ。で、もう少しで俺達のクラスの入浴時間なんだけどよ……どうする?」
目の前にぶら下げられた、あまりに禁断の誘惑に、龍麻はそれでも少し考えるふりをした後、



言うまでも無く覗きに行く事にした。

そんな卑怯な事は出来ない、と断った。



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