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「拳武館……それが、暗殺集団の名前ですか」
 目を閉じたまま突然笑った絵莉に、龍麻達は困惑を隠せなかった。
その後、急に禁忌について語り出した絵莉にその困惑は深まったが、
彼女はどういう心境の変化か、協力する気になってくれたようだった。
「全く、あなた達といると命のスペアがいるわね。いいわ、わたしの知っていることは全部教えてあげる」
 そう前置きして、絵莉は東京の闇に潜む組織について語り始めた。
「葛飾区にある私立、拳武館高校。スポーツ、武術の推進校として名高いその高校の裏の顔こそが、
日本の裏社会を影から支配する最強の暗殺組織なのよ。
決して私利私欲では動かず、仁義と忠義の名の下に、社会の悪を裁くという。
でもわたし達ジャーナリストの立場から言えば、彼らは許し難い存在だわ」
「どうしてですか」
「彼らの『仕事』に対する報道は決してしてはならない。
彼らが関わった事件は、真実を隠蔽いんぺいし、作られた記事を発表しなければならない。
それに逆らって記事を書こうとしたり、拳武館の実体を暴こうとした記者達はことごとく
記事を握りつぶされ、時には記者生命すら断たれたわ。
杏子ちゃんが聞きに来た大臣暗殺、あれも彼女が疑った通り、
拳武館の手による暗殺なのは間違いないわね。
彼らにしては珍しく、証拠を現場に残すへまをやらかしたみたいだけど、当然それも揉み消される。
それどころか杏子ちゃんにその事実を教えた鑑識の人も、口外したことがばれれば危険だわ」
 やはり、大臣暗殺を行ったのは、その拳武館の人間だったのだ。
となると亜里沙の言っていたことが当たっているとすれば、
エルをさらったのも同一組織ということになるのだろうか。
更には、京一を襲い、自分達を呼び出したのも──
 敵の正体が見えてきたことで、龍麻の怒りは指向性を持ち始めた。
それが誰で、どんな組織であろうとも、京一を手にかけた以上、必ず報復する。
道義的に正しくなかろうが、その道を往くと龍麻は決めていた。
ただ、それを口には出来ない──
醍醐はあるいは、もしかしたら小蒔も賛同してくれるかもしれないが、
葵はきっと復讐をがえんじないだろう。
それに、葵には復讐に憑かれた顔を見られたくなかった。
 龍麻が昏い思考にふけっている間に、醍醐が代わって訊ねている。
「まさか、その拳武館ってのは国家公認なんですか」
「そうね。でもその立場は対等。例え警視庁、防衛庁からの依頼でも、
彼らのことわりに適わなければ突っぱねるって話よ」
「でも、そんな奴らがなんで俺達を」
 これは絵莉にとっても難問らしく、手を顎に当てて考え込んだ。
男性のような仕種だが、彼女がすると妙にさま・・になる。
眉間にしわを寄せていた彼女は、しばらくして何か思い当たる節を得たようだった。
「そうね、例え彼らの正義が歪んでいたとしても、あなた達のような、
社会の害悪からは程遠い人間を狙うはずがない。──でも、もしかしたら」
「もしかしたら?」
「最近、拳武館内部で分裂の動きがあるらしいのよ。
少ない報酬と厳しい戒律によって支えられていた禁欲的ストイックな体制に反発する
不穏分子が決起しつつあるって、記者仲間の間で噂になってるわ」
 絶対の禁忌タブーとされているからこそ、閉ざされた聖域からこぼれ出る噂はたちまちに知れ渡る。
古来からいかなる権力者も、完全に言論を封じることに成功した者はいないのだ。
「副館長が反対勢力の中心人物で、既に館長の理念に反する仕事を勝手に請け負っているって話よ。
報酬の額優先で」
「お金さえ貰えばなんでもするってコト?」
「そういうことね」
 小蒔の要約に、絵莉は大きく頷いた。
それは何故暗殺に大儀を必要とする集団が龍麻達を狙うのかという、ひとつの解答でもあった。
誰が、何の為にかはまだ不明だが、彼らの暗殺を依頼した者がいるのは間違いない。
 もしかしたら、崩せるかも知れない──
禁忌に対する反発や、彼らに対する庇護の想いが、絵莉の道筋を照らし始める。
「自分が館長になり代わり、暗殺者達を思いのままに操って富を手に入れようって魂胆だろうな」
 醍醐の言う通りであれば、正義も大儀も失った彼らは、単なる暗殺集団に堕したということになる。
それは東京このまちにとっても、極めて危険な事態というべきだった。
 絵莉は決意を瞳に宿し、少年達を見た。
彼らと共に在ると、気力がみなぎってくる。
忘れかけていた貴重な物を取り戻した気がして、絵莉は力強く請負った。
「そうね……わたしの方でも少し調べてみるわ」
「でも、そんなことしたら天野さんが」
「大丈夫よ。拳武館を密かに追っている記者なかまはたくさんいるし、
人脈コネには自信あるんだから」
 気負いのない表情でウィンクしてみせた絵莉だが、
彼女を目指そうとしている後輩に釘を刺しておくことも忘れなかった。
「それから、杏子ちゃんを見かけたら絶対に止めてあげて。
いくらあの子が敏腕でも、今回だけは相手が危険過ぎるわ。
あなた達も、わたしが情報を掴むまでは軽々しく動いたら駄目よ」
 わかりました、と答える龍麻に手を振り、絵莉は彼らに背を向ける。
彼らの前では、格好良くありたい──そんな気恥ずかしい気持ちは、しかし嫌ではなかった。
絵莉は胸を張って、律動的な歩みで彼らの許を去った。
 去っていった絵莉を見送って、最初にため息をついたのは小蒔だった。
「嘘……ついちゃったね」
 頼れる年上の女性である絵莉を騙してしまったことに、皆良心の呵責を感じていたのだ。
「ああ……だが話せば絶対に止められるし、それに彼女を巻き込んでしまうかもしれん。
この件は俺達だけで解決しないとな」
 醍醐の言に深刻な面持ちで頷いた龍麻達は、
数時間後の再会を約して一度それぞれの家に戻ることにした。

 汚らしい倉庫の一室に亜里沙は閉じ込められていた。
京一が八剣という男の凶刃に倒れた後、果敢にも闘いを挑んだ彼女だったが、
剣の束で側頭部を殴られて気絶してしまい、目が覚めたらこの部屋の中だった。
恐らく廃ビルのひとつだろうが、何区なのかまでは判らない。
殺風景な部屋には何も手掛かりはなく、唯一外へと通じる扉の向こうには、
屈強な男が三人彼女を監視していた。
この五日間交代しながら張りついていた彼らは、
監視と謳ってトイレの中まで覗こうとしたのだが、
彼女のしたたかな反撃にあって以後はおとなしく見張りに専念しているようだ。
もちろん亜里沙はそんなことで気が晴れるはずもなく、
自分とエルと、そして京一のために状況を打破すべく活動していた。
「いつまで閉じこめておくつもりだよッ!!」
 両手首を後ろでくくられている亜里沙は、
巧みにバランスを取ってやけに頑丈な鉄の扉を蹴りつける。
鈍い音が響き渡ったものの、扉が開く、または壊れる気配はなく、ここからの脱出は難しそうだ。
部屋には窓さえなく、日時すらわからない。
一応三度与えられる食事と、外されはしなかった腕時計のおかげでおおよその時間はわかるが、
太陽も夜空も見られないと感覚がおかしくなってしまう。
おまけに、食事とトイレは用意されているものの、
風呂まで用意してくれるほど彼らは気が利いている訳ではなく、不快感はそろそろ限界に達していた。
今のところ逃げ出す唯一の機会はトイレだ。
が、女性としてそういう機会を利用するのには抵抗があり、
また彼らも一度仲間の一人が男性の危機に陥ってからは用心深くなってしまったので、
逃げるなら策を練らないといけない。
こいつらをたぶらかすしかないか──暗鬱あんうつな気分で亜里沙が考えていると、
扉が、蹴ったのとは反対方向に開いた。
「うるせェ女だな、ッたく」
 辟易したように吐き捨てて入ってきたのは、八剣だった。
亜里沙がこの男と会うのは、京一が倒れて以来だ。
京一をやられた怒りは決して忘れていない亜里沙だが、
八剣からは凶々しいまでの気配が漂っていて、悔しいながらも気圧されてしまう。
 眼光こそ逸らさないものの、退いた亜里沙に下卑た笑みを浮かべた八剣は、
手にした日本刀を無造作に振るった。
「──!!」
 亜里沙の制服が、縦に割れる。
冷えた空気が肌に触れるまで、亜里沙本人が斬られたことにさえ気づかぬほど、
男は薄い繊維のみを斬ってのけたのだ。
恐るべき技量といえた。
白黒の派手なコントラストの柄の下着と、それが包む膨らみを見て、再び八剣が笑う。
亜里沙は両腕を縛られており胸を隠すことも出来ず、
八剣の視線は下着さえ貫き通すように感じられた。
美味うまそうな身体じゃねェか……すぐにでもっちまいてェところだが、仕事が先だな」
 金の為に、また血を見たいという自らの倒錯した欲望の為に人を殺すこともためらわない男にしては、
意外な真面目さだった。
あるいは金が絡んでいるから仕事を確実にこなすという意識なのかもしれないが、
ともかく、八剣は亜里沙の肢体を眼でなぶっただけで、
それ以上手を出そうとはしなかった。
「待ってろよ。後の四人をった後で、たっぷりと頂いてやるからな」
 言い捨てて、八剣は踵を返す。
「おい、おめェら、この女を見ておけ。逃がすんじゃねェぞ。それからあのクソ犬もだ。わかったな」
「ヘイッ」
「エルは関係無いだろうッ!」
 亜里沙の叫びに、八剣は口を裂いたように吊り上げた。
「大ありさ。仕事を終えてお前をる前に、腹膨らましておかねェとなァ」
「──!!」
「ククク……それじゃァ、楽しみに待ってるんだな」
 人外の哄笑を残して八剣は出ていった。
後に残された亜里沙は、エルへの危惧と、自分の無力さに唇を噛み締めずにはいられない。
八剣は「後の四人を殺した後で」と言っていた。
京一の他に、四人──それは、龍麻達のことではないのか。
龍麻達なら、きっとなんとかしてくれる。
エルを傷つけ、京一を──京一を倒したあの男を、きっと倒してくれる。
そこにすがるしか、今の亜里沙に出来ることはなかった。
 身体の中心から裂かれたセーラー服もそのままに床に座りこんだ亜里沙は、
龍麻達が八剣を倒し、自分を救いに来てくれるよう祈るしかないのだ。
自分の無力感に、亜里沙の頬を涙が伝った。
「ちくしょう……たまんねェカラダしやがって、八剣さんが帰ってくる前にヤッちまったらマズいかなぁ」
「止めとけ……バレたら絶対殺されるぞ」
 彼女を閉じ込めた扉の向こうでは、八剣と、彼の手下である武蔵山の部下が、
亜里沙を、彼らの上司に劣らず好色そうな視線で眺めていた。
ただし八剣が淫情を仕事に優先させることがなかったのに対して、
部下達は未練がましく亜里沙を幾度も見ている。
彼らが囚われの亜里沙に手を出さないのは、任務に忠実だからではなく、
彼女の気性の荒さと、何より八剣に対する恐怖が何物にも優るからだ。
 制服とはいえもともとかなり短い亜里沙のスカートは、
八剣に切られたことでほとんどその用をなさなくなっている。
体操座りとはいえ大部分が露になってしまっている彼女の足を、
男の一人は厭らしく顔の位置を変えて覗こうとしていたが、遂に諦めて肩をすくめた。
「ちぇッ。おこぼれを期待するしかねェか。ところでウチの大将は何やってんだ」
「さァな。何か食ってんだろうよ」
 どうやら彼らは武蔵山の部下らしい。
だが直接の上司に対する口調はお世辞にも尊敬の念は感じられず、
八剣のことを話す時にうかがえた畏敬は微塵もなかった。
「ちぇッ、俺達はこんなシケたところで待機だってのによ。──そういや、壬生の奴はどこ行った?」
「見ねぇな……あの野郎、怖気づいて逃げ出してたりしてな」
 いつの世も、どんな時でも上司の悪口は決して絶えることなく、酒がなくてもさかなとなる。
上司のことでひとしきり盛り上がった彼らは、そのまま上司ではない、
別の上位者のことに話題を移した。
「いつもスカしてる癖に逃げ足だきゃあ速ぇのかよ。とんだ腰抜けじゃねぇか」
 どうやら彼らが恐れているのは八剣だけらしく、
新たに名を挙げた壬生という人物に対しても嘲笑する。
三人はありさに手を出せない鬱憤うっぷんを晴らすかのように笑っていたが、
その笑い声が不意に止んだ。
何故自分達が笑うのを止めたのか判らず、三人は薄気味悪そうに顔を見合わせる。
そこに刺さった声は、一気に彼らの狂熱を冷ますだけの冷たさを持ち合わせたものだった。
「随分と楽しそうだけど」
「み、壬生……」
 男達の前に、いつのまに現れたのか、細身の男が立っていた。
壬生と呼ばれたその男は、ポケットに両手を入れたまま、
無関心とすら取れる風に三人を見ている。
悪口を言っていた当人が現れた気まずさ──ではない。
火薬庫の隣で花火をして、引火させてしまった時のような後悔が、三人の額に滲んだ。
 涼しげに三人を、順番に見ていった壬生は、半歩だけ左足を前に出す。
音もなく、上半身を微動だにさせずに動いた壬生に、三人は大きく後ずさった。
その足を、壬生の冷淡な声が縫いつける。
「君達にどう思われようと気にもならないが、
八剣や武蔵山如きの舎弟に腰抜け呼ばわりされる覚えはないな」
「てめェ、この仕事の指揮官かしらは八剣さんなんだぞッ!」
 自分達では壬生に歯が立たない──さっきまで悪口を言っていたことなどすっかり忘れ、
彼らは目の前の、日本刀そのものに見える男に対抗出来る唯一の手段を持ち出した。
しかし、八剣の苛烈な殺気とは異なる、底の知れない水場のような気配を放つ男は、
八剣の名にも臆することなく、軽やかなまでに言い放った。
「僕は八剣の部下じゃない。僕に命令出来るのは館長だけだよ」
「この野郎……ッ」
 三人は壬生に襲いかかった。
三体一なら勝てると計算したのかもしれないし、八剣を虚仮こけにされて頭に血が上ったのかもしれない。
彼らも拳武館の生徒であり、下っ端とはいえそれぞれ空手や柔道をたしなみ、
腕に覚えもあったのだが、結果として自分達からは壬生に触れることさえ叶わなかった。
それどころか壬生にポケットから手を出させることさえなく、
閃光のような蹴りであえなく昏倒してしまったのだった。
「ふん、準備運動にもならないね」
 強がりではなく、単に事実を述べる口調で独語した壬生は、彼らが任されていた扉を開いた。
 入ってきた壬生を見て、亜里沙が立ち上がる。
後ろ手に縛られ、服を切り裂かれた亜里沙は見るも無惨な姿だったが、
壬生を睨みつける瞳に宿る意思はいささかも衰えがなかった。
何かしようとしたら、死ぬ気で抗ってやる──
野獣の美を有した表情で構える亜里沙に、壬生は無造作に近づいた。
「この……ッ!」
 縛られているとはいえ、あまりにも簡単に後ろを取られ、亜里沙は動揺する。
それでも果敢に踵で壬生を蹴り上げようとするが、その寸前、急に両腕の拘束が解けた。
バランスを崩して倒れそうになった亜里沙を、壬生が支える。
馬鹿にされたような気がして亜里沙はかっとなったが、男の声はそれを一気に冷ました。
「これで縄は切れた……大丈夫かい」
「あんた……どうしてあたしを」
 意外な男の行動に、亜里沙ははだけた前を隠すことも忘れ訊ねる。
問いに壬生は目を閉じ、薄い嘲りを浮かべて答えた。
「標的に含まれていない人間を巻き込むのは低能の、
女性を人質に取るのは下種げすのすることさ。
そして余計な犠牲を出すのは──無能にしか出来ない」
 亜里沙がとっさに反応に迷うほど、壬生の台詞には毒が篭っていた。
味方に対してとは思えない辛辣な評価に呆然とする亜里沙に、
壬生は小さく笑うと、再び彼女の意表を突く台詞を吐いた。
「仲間の所へ帰してあげよう。ついてくるといい」
 仲間の所へ、帰れる──それは、二つ返事で飛びつきたくなるほど甘美な誘惑だった。
喜色を浮かべかけた亜里沙は、すんでのところでそれを抑制し、
顔の筋肉をひきつらせて無理やり怒る。
「でも、あんたは京一をやった奴の仲間なんだろ!?
そんな奴の言うことなんか信用出来る訳ないよッ」
 壬生は、亜里沙の喜から怒へのめまぐるしい移り変わりを、表面的には全く無視していた。
切れ長の目をわずかに細め、酷薄に告げる。
「京一? ああ、蓬莱寺京一のことか。彼については僕は知らない。
あんまり下手な希望は持たない方がいいだろうけど」
「そんなこと信じられるモンかッ!! あんたの言ったことも、あんたも信用なんてしないッ!!」
 希望を打ち砕こうとするこいつは、やっぱり敵だ──
ほんの少しでも安心した自分を罵倒しながら、亜里沙は断固として従わない覚悟を決めた。
「それは困ったな。ここにいたら確実に殺されるよ」
「あんたには関係ないだろうッ!」
 無理もないことだったが、亜里沙の思考は感情に流されてしまっていた。
駄々をこねる子供と同じに、なにもかもを否定し、相手の言うことを聞こうとしない。
そんな亜里沙に対して壬生は軽くため息をつき、更に激昂した亜里沙が怒りを紡ぎ出そうとした時、
それをたしなめるような犬の鳴き声が彼女の耳を打った。
「……エル……」
 八剣に拉致されて以来別々に閉じ込められていた、愛犬が尻尾を振って扉から入ってきた。
怪我をしているからか足を少し引きずるようにしているが、酷い怪我ではなさそうだ。
しゃがんでエルを抱いた亜里沙は、彼の身体に包帯が巻かれているのに気付いた。
「あんた、手当てが……」
 小さく鳴いてエルはその場に座り、亜里沙と壬生を交互に見る。
その仕種が意味するところを、亜里沙はすぐに理解したが、納得して口に出すまでには数秒を要した。
「もしかして、あんたが手当てを……」
「さァね」
 壬生は短く答えたきり、さっさと部屋から出て行く。
ついてきたくないなら、好きにすればいい──突き放した態度と、
何よりエルが吼えかからないその事実が、亜里沙の壬生に対しての評価を変えさせた。
立ち上がり、切られてしまった制服の前を手で合わせると、壬生の背中に向かって告げる。
「いいよ、わかったよ……あんたを信じてみる。皆の所へ……帰らないと」
 壬生から返事はなく、彼は黙って歩き出した。
その後ろを、亜里沙とエルは、やはり無言でついていった。



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