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先に入った龍麻の口から、かすかなため息が漏れる。
それは扉を閉める音に紛れてしまっていたが、マリアは聞き逃さなかった。
「どうしたの?」
「……いえ、なんでもないです」
見せつけるように服を脱ぐマリアに目もくれず、
いそいそと衣服を脱ぎ捨てた龍麻はさっさと浴室に入ってしまった。
曇りガラスに映る男の裸体を見ながら、マリアは声を立てずに笑う。
龍麻のため息の理由が深刻なものではなく、
マリアに逆らえず、欲望にも抗えない自分の不甲斐なさを嘆いたものだと解ったからだった。
マリアのマンションの浴室は、その間取りに比してかなりの大きさを誇っていた。
これはマリアがこの街に来た時に粘り強く家探しをした成果であるが、
こうして同居人が増えると思わぬ愉しみを与えてくれることとなっていた。
自分の家であるから、もちろんマリアはタオルで前を隠すことなどせずに浴室に入る。
先に入った龍麻は、シャンプーを手に取って頭を洗うところだった。
背後に立ち、乱暴に頭を掻き回そうとする龍麻の腕を掴む。
「洗ってあげるわよ」
「いッ、いいですよ、頭くらい自分で洗えます」
「ダメよ。言う事を聞きなさい」
龍麻の頭の上で、四本の手の滑稽な力較べが始まる。
短い争いの末に負けたのは、もちろん頭の持ち主だった。
「……」
勝利したマリアは、勝者の余裕を示すようにやんわりと敗者の髪を洗う。
理容店と同じか、あるいはそれ以上の気持ち良さに、龍麻は黙りこくったままだ。
それは頭をゆすいでも続き、悪戯っ気を出したマリアは、
ボディソープを自らの身体に垂らすと、乳房を広い背中に押しつけた。
「……」
今更驚くのもわざとらしいのか、龍麻は何も言わない。
しかしそれでは意味が無く、マリアは反応を引き出そうと身体を動かし始めた。
「く……っ」
柔らかく、そしてぬるりとした質感に、龍麻の口から思わず喘ぎが漏れる。
陥落が近いことを感じ取ったマリアは、更にソープを手に取ると、
少年の身体中を手で洗いだした。
自らの火照った肢体を押しつけたまま、たくましい筋肉の隅々まで指を這わせる。
特に身体の先端、指の間などは念入りに、両手でくるみこんで。
龍麻の指は武道で鍛えた人間らしく硬く、そして爪は短い。
その爪先に石鹸を擦りこみ、掌を揉みあげ、マリアは自分の手よりも余程丁寧に洗っていた。
マリアの手の中で泡に翻弄される己の指を見つめる龍麻の瞳は焦点が定まっていない。
それを横目で確かめ、頃合いだと思ったマリアは、
それまで我慢していた手を龍麻の下腹部に踊らせた。
龍麻は膝を合わせていたものの、
ほぼ垂直に衝き上げている怒張は隠しようもなくマリアの手の内に収まる。
指と同じように手につけた泡でくるんでやると、快楽に負けたのか、膝が開いた。
「朝からずっと我慢していたんですものね」
からかっていると思われないよう声の調子に注意を払いながら、
片手では掴みきれないそれをしごきあげる。
滑りの良いマリアの手はリズミカルに動き、確実に龍麻の性感を高めていく。
下腹全体に広がっていく恍惚感は、いつしか龍麻の背中をマリアに預けさせていた。
「うっ……」
大きく快感を口にした拍子にマリアと目を合わせた龍麻は、そのまま舌を交わらせる。
無理な体勢で舌だけを伸ばして絡めるのは、ひどく劣情を催させる行為だった。
ざらざらした表面を探り合うように擦りつけ、唾液と一緒にねる。
マリアの舌はその美貌からは想像も出来ない程力強く動き、
龍麻が劣勢に回るとその舌を唇で捕らえてしまった。
「はッ、ふっ、んっ……ん」
口の中で龍麻の舌が苦しげに呻くのも構わず、一方的にねぶりあげてから解放したマリアは、
一転して動きを柔らかなものに変え、ねろねろと舌を絡め取る。
温かな粘液にコーティングされた舌は理性を飛ばすに充分な淫らさを持っていて、
足の間でせわしなく動き続けるしなやかな指はそれを加速させる。
特に、腹につくほどに反りかえらされた屹立の裏側を撫でられると、
それだけで身体が反応してしまうのだ。
更にそれだけに留まらず、マリアのもう片方の手はその下にある袋をも優しく揉み上げ、
男の感じる部分の全てを愛撫してくる。
「うぁッ、ぁ……マリ、ア、せんせ……」
「フフッ……可愛いわ、龍麻……んぅっ、うむっ」
深い愛情とそれと同じくらいの淫欲に支配され、
犬のように息を荒げてキスに没頭する二人だったが、終わりは不意に訪れてしまった。
「っ……!」
泡とマリアの手に包まれていた熱い塊が、いきなり爆ぜる。
あまりに急激過ぎて我慢も出来なかった白濁が勢い良く放たれ、浴室の壁を汚した。
龍麻の受けた快感が乳房から伝わり、マリアも軽く身体を震わせる。
自らの波にはまだ少し遠かったものの、
男が自分の手の内で果てたと言う満足感はそれに近いものをマリアに与えていた。
射精の快感に震える龍麻をいたわるように抱き締める。
「はぁっ、はぁっ……」
二度、大きく己を脈動させた後も龍麻はしばらく動かず、
マリアも力を失っていく猛りを未練がましく握っていたが、
急に龍麻が立ちあがり、乱暴に浴槽に入った。
半ば飛びこむように入った為に、大量の湯があふれ出す。
「龍麻……?」
何が彼の機嫌を損ねたのか判らないマリアが尋ねても、返事は無い。
壁の方を向いていて表情は見えないが、憮然としているのは間違いなかった。
うかつに話しかけても泥沼に嵌まってしまうだけだと知っているマリアは、
自分の身体を洗いながら考えにふける。
恐らくあっけなく射精してしまったのが悔しいのだろうが、
それをいとおしいと考えてしまうマリアには、到底男の心理は理解できなかった。
とは言うもののこのまま放ってもおけず、
変な所に妙なプライドがある男と言う生物をなだめなければならない。
しかし特効薬などある訳もなく、結局正攻法で突破するしか無いマリアは、
泡を流し終えるとそっと龍麻を窺い、まだ壁を向いているのを確かめ、おもむろに立ちあがった。
気配に気付き、入れ替わりに出ようとする龍麻を押し留め、再び浴槽に浸からせる。
「もう出ます……のぼせちゃいますから」
「もう少しだけなら、平気でしょう?」
まだ少し声を尖らせている龍麻を強引に座らせ、自らも龍麻の上に腰を下ろしたマリアは、
少年の濡れた髪を触り、額に口付けた。
「龍麻……まだ怒ってる?」
そのまま目蓋や頬、とにかく顔中にキスを浴びせながら、甘く囁く。
もし本当に怒っていたとしても、
年上の女性にこんな仕種をされて怒り続けていられるほど、龍麻は我慢強く無かった。
和解のしるしに腕を背中に回し、密着を求めてくる。
先に言葉に拠らず態度で示すのが、駆け引きを知らない初々しさを感じさせて、マリアは好きだった。
「……怒ってないです」
「良かった。……好きよ、龍麻」
音を立てて唇にキスしてやると、龍麻の方から求めてくる。
マリアは、息がつまるような濃密なキスでそれに応えた。
「はっ、ん、んうッ、ああ……っ」
目まぐるしく位置を変えながら続くキスに、鼻息も続かなくなる。
呼吸を整える時でさえお互いの目をしっかりと見つめ合ったまま、
浅く呼気を吸いこんで無理やり再開させる。
交ざった唾液が二人の顎を伝って湯船へと落ち、
湯気と身体から立ち上る熱気で意識が朦朧としだしても、なお止めようとしなかった。
先ほどの昂ぶりの残滓と合わせ、すっかりその気になったマリアは、
湯の中に漂う龍麻を握り、そのまま自らの膣に導きいれる。
大量の湯と共に入ってくる硬い塊は、いつもの挿入感とは違う、奇妙なもどかしさがあった。
「ね……龍麻」
「ほッ、本当にのぼせそうなんです」
「いいわよ……のぼせたら抱き上げてベッドまで連れて行ってあげるから」
その一言が効いた訳ではないだろうが、龍麻は最後まで良く耐えた。
動くのはほとんどマリアに任せたものの、尻を掴み、しっかりと支えて下から貫く。
激しくは動けないのがかえって興奮を高め、
やがて二人は今度はお互いの満足する絶頂を迎えたのだった。



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