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「あのさ」
「ん?」
「さっきは……ごめんな」
「もういいって」
「そうじゃなくてさ、えっと」
どうして自分がさっき、あんなに愚かしいことを言ってしまったのか、を語ろうとした龍麻は、
それがかなりの難題であることに気付いた。
なぜなら既に彼女への情愛は抑えがたくなっており、理を尽くしてなどいられなくなっていたのだ。
短い逡巡の末、思い切ってほっそりとした背中を抱いた龍麻は、
その痛さに小蒔が顔をしかめる前に、最も素直な気持ちを形にして彼女の耳元へと届けた。
「……」
小蒔の動きが止まる。
手足だけでなく、心臓まで──
二つの心臓はすぐに、より以上に活発に動きはじめたので、
それが事実だったのかどうか龍麻には判らなかった。
判っていたのは今の顔を見られたら俺は狼狽するだろう、ということで、
龍麻は渾身の一歩手前くらいの力で小蒔の身体を密着させていた。
前と後、両方から感じる息遣いが、小さくため息をつく。
「今言わなくたっていいのに」
「いつ言えってんだよ、こんなこと」
「別に皆の前だっていいんだけど」
「……」
どれだけ非を認めてもそれだけはできない。
なにしろ二人きりの今でさえ、顔を見ては言えなかったことなのだ。
その恐ろしい話題が続く前に、何も考えられなくしてしまおうか──
さきほどの誓いもどこへやら、どこかの頭の悪い悪役のようなことを、
半分以上本気で考えていた龍麻に、小蒔の足が絡みつく。
なんだまんざらでもないのか、と頬をにやけさせる龍麻だったが、
小蒔の真意が全く別のところにあると気付いたのは、お返しとばかりに耳元に吹きかけられた、
いやにひんやりとした言葉によってだった。
「ところでさ」
「なんだよ」
「さっき、まさか……それ言うの恥ずかしくてヘンなコト言った、とか?」
あまりにも鋭い矛先は、何もかもを貫通してぐっさりと刺さった。
人肌の気持ち良さも、好きな相手と抱擁できる幸せも遥か彼方へ吹き飛んでしまい、
龍麻は動揺を悟られまいと身体を離そうとする。
しかし小柄な身体はがっちりと巻きついて離れず、
いきなり倍ほども早くなった鼓動も、あっという間に噴き出た汗も、
全てを知られることとなってしまった。
「ん、んなわけねぇだろ」
「あ、縮んだ」
それでも虚勢を張ろうとした龍麻だったが、
小蒔の、股間を見下ろしてのしみじみとした呟きに、狼狽は最高潮に達した。
「あっ……あの、これはだな」
誰に対してか、講義口調になっているのも気付かず、何を言い訳する必要があるのかも解らず、
龍麻はとにかく言い訳をするために言い訳をしようとした。
小蒔はそんな龍麻を無視して抱擁を解く。
更なる窮地へと追いつめられた龍麻は、ほとんど泣きそうになっていたが、
小蒔はどうやらうろたえる男に愛想を尽かしたわけではなさそうだった。
「おっきくしてあげる」
照れと、それ以外の何かを瞳に浮かべた小蒔は、そう言って股間に顔を埋めた。
程なく力を失っていた屹立に、ふわりとした感触が訪れる。
地獄から蜘蛛の糸が垂らされているのに気付いた時というのはこんな気分なのだろうかと、
自分でも良くわからない例えを記憶のたんすから引っ張り出した龍麻は、
突然の──小蒔からしてみれば、突然でもなんでもない──変心に戸惑いつつ、
快楽に負けてしまうという、男にはありがちの、
そしてありがちだからといって情けないことには変わりのない状況を受けいれていた。
「んっ……」
くぐもった声と、断続的にもたらされる甘い刺激。
たったそれだけ、というにはあまりに心地良い感覚に、
すぐに血がたぎってしまうのは仕方のないことだった。
「あれ、もう?」
まだほとんど何もしていないのに硬くなったモノに、下方から驚きの声が上がる。
それに対して龍麻は、我ながら少し我慢が足らないのではないか、と内心で同意した。
ところが、目的を果たしたはずの小蒔は顔を上げない。
どうしたのだろう、と戸惑っていると、足の間にうずくまった小蒔は、目だけを動かして訊ねた。
「もう少し……しててもいい?」
こんなことを訊かれて否だと言える男など、世界のどこにいるだろうか。
龍麻ももちろん例外ではなく、小蒔の、あまりに愛らしい仕種に完全にやられてしまい、
ただこくこくと頷くのが精一杯だった。
嬉しそうに微笑んだ小蒔は、改めて口淫を始める。
両手で優しく握り、くすぐったいくらいの感触で先端を舐める小蒔は、
最近では二言目の前に手が飛んでくるようになった彼女とは大違いで、龍麻は妙な感慨を抱いてしまう。
すると想いは快楽を手助けするのか、単なる刺激以上の気持ち良さが、
小蒔の手の中にある器官からのぼってきた。
「うわ、すご……」
更に大きさと硬さを増した肉茎に、感嘆の声があがる。
なんとなく誇らしげになった龍麻が、背骨の浮き出た背中を見下ろしていると、
舌のぬらぬらとした感触が、少しずつ大胆に先端をくすぐりはじめた。
小蒔は肉茎の中ほどから亀頭までを、丁寧に舐めあげてくれる。
ゆっくりと時間をかけての舌技は、快感という点では少し物足りなくもあるが、
込められている想いはそれを補って余りある。
龍麻はわずかに背を反らせて、背筋を伝う熱い快楽に浸った。
先端を弄ぶ舌先は、的確に龍麻の求める快楽をもたらす。
あまり露骨に感じているところは見せたくないと思っても、
小蒔に唾液を含ませてねぶられると、どうしても腰がひくついてしまう。
そんな龍麻を見て、小蒔が上目遣いで訊ねた。
「う……っ」
「気持ち良かった?」
「だいぶ」
悔しさを滲ませて龍麻が答えると、笑う形に目許を緩ませた小蒔は、
今度は亀頭を頬張り、口の中でねぶる。
「……っ」
熱気の中に包まれた敏感な部分は、這いまわる舌に溶かされてしまいそうだ。
舌腹を使って裏側をくすぐり、弱く吸引しながら屹立をしごく小蒔に、
龍麻はあえなく溺れてしまっていた。
「んんっ……はふ、ふぅ」
喉を鳴らして口淫を行う小蒔の声は、嬉しそうに聞こえる。
それが錯覚にすぎないとしても、情感を揺さぶるには充分で、
足の間にかしずく小蒔の肩に手を添えて龍麻は快感を伝えた。
「ほふ、ほへはほふ?」
何を言っているかわからない、けれど屹立を震わせる気持ち良さははっきりと伝わってくる囁きは、
小蒔が動きを変えることで内容が理解できる。
「んふ……んぅ」
さらに奥まで屹立を呑みこんだ小蒔は、舌の根元の方を使って転がし始めたのだ。
短い髪が揺れるたび、骨までぐずぐずになりそうな快感が龍麻の身体を走る。
たまらず龍麻がのけぞると、小蒔は口を離すどころか、
よりしっかりと肉茎を咥え、舌をべっとりと絡みつかせてきた。
「……ぅ……」
このまま果ててしまうのは情けないと、龍麻は耐える。
小蒔は以前一度だけ龍麻が我慢できず口に出してしまった時、それは大層怒って、
機嫌を取るために龍麻はありとあらゆる手段を講じたことがあった。
怒る理由も判るのだが、そのくせ懲りもせずこうやって口でする小蒔を見ると、
何か嫌味の一つでも言ってやりたくなることはない。
今は嫌味など言うどころではなく、謎の箇所に力を込めて爆ぜないようにするのが精一杯なのだ。
だから小蒔がようやく屹立を解放してくれた時、龍麻はそのままぐったりと倒れてしまった。
「ん? どしたの?」
息も絶え絶えに喘ぐ龍麻に、小蒔は跨って訊ねる。
龍麻が答える余裕もなく荒い呼吸を繰り返していると、小さく笑ってくちづけた。
「いいよ、今日はボクがしてあげる」
うっすらと色香を漂わせて囁いた小蒔の、浮いた熱情を宿した瞳が遠ざかる。
口内とはまた異なる、より愉悦に満ちた熱が硬く張りつめた屹立を包みこんだのは、その直後だった。
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