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全ての授業が終わり、教室が賑やかになる。
猛々しいまでに騒ぐ生徒達は、青春の一日を友人と、あるいは一人で消化すべく、
数分もすると半分以上が教室を去り、残る半数も時間の問題といった体で支度をしていた。
注意深く観察すれば、その中に無言の生徒が何人かいる。
彼らはそれぞれ帰り支度を済ませると、一人の生徒のところに集まった。
「それじゃ、行くとすっか。最後の不動へよ」
教科書など一冊も入っていないのが一目で分かる薄い、くたびれた鞄と、
同じくくたびれた、しかしこちらには命より大事な物が入っている木刀袋を携えた京一が、
龍麻のところに集まってきた仲間を見渡して言った。
「うんッ、終わらせちゃおうッ」
元気よく答えた小蒔が、同意を求めて親友を見る。
だがそこにあったのは、眉根を寄せた葵の顔だった。
「……どうしたの、葵。気分悪いの?」
「少しだけ。でも大丈夫よ。小蒔の言う通り、これで最後なのだから終わらせてしまいましょう」
昼を過ぎた頃から、頭が疼いている。
それは大きさこそ小さいものの芯に響いており、他人の話し声でさえ不快に感じた。
しかし、何か──もしかしたら、その疼き──が、摩尼の封印を見届けよと命じている。
「朝も言ったけどよ、固まって動いた方がかえって危なくねえ。
辛いかもしれねェけどよ、今日だけ辛抱してくれ」
「ええ、判っているわ」
表情には出さないよう努めたが、仲間達は一様に気遣わしげに自分を見ている。
その視線すら、葵には苛立たしく感じられた。
最後の不動となる目黄不動は、江戸川区にある牛宝山最勝寺に奉られている。
さすがに緊張しているのか、五人の中でも特に賑やかな京一と小蒔も駅を出てからずっと黙している。
もちろん龍麻達も同様で、五人は彼ららしくない重苦しい雰囲気の中、最勝寺の門前に立った。
「いよいよ最後だね」
小蒔の声は緊張を帯びている。
それに答える京一の声も、いつになく真剣味を含んでいた。
「早いとこ祠を探そうぜ。美里と小蒔はここで待ってろよ、俺達で探してくるからよ。行こうぜ、醍醐」
京一は醍醐を伴い、寺の中へと入っていく。
無言で託された役割を理解した龍麻が、彼女達を護るように立った。
「鬼道衆……どっかでボク達のコト見てるのかな」
「どうかな」
龍麻は既に、幾つかの気配を感じ取っている。
最初からいると意識していなければ判らないほど巧妙に隠されていたが、確かに鬼道衆はどこかから自分達を見ていた。
京一と醍醐もそれに気づいたからこそ、先に中に入ったのだ。
むやみに緊張させてもいけないと考えてあいまいに答えた龍麻に頷いた小蒔も、
おぼろ気ながら気配を感じているようで、その表情は硬い。
その隣に立つ葵に至っては、元より良くなかった顔色が蒼白になってしまっていて、
今にも倒れそうなほどだった。
早く終わってほしいとそれだけを考える葵の背中に、何かが触れる。
驚くより先に感じたのは、暖かな氣だった。
「俺の『力』じゃ気休め程度だけどな」
「……ありがとう」
実のところ、龍麻の氣が身体を巡っても、疼きはゴムのボールのようにいっとき小さくなっただけで、すぐに増大している。
それでも葵が素直に礼を言ったのは、この際彼でも良いから縋りつきたいとまで思っていたからだ。
だが小蒔がいる状況では、龍麻も手を出してはこない。
理不尽な怒りを彼に対して抱きかけたとき、中から京一が呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい、見つけたぜ」
「あ、うんッ、行こッ」
駆け出す小蒔をも疎ましく思いながら、葵も後を追いかけた。
祠の前に五人が揃う。
これまで全く興味がなさそうだった京一も、
さすがに最後の一つとなると思うところがあるのか、緊張した面持ちで祠を見ていた。
龍麻が慎重に珠を置く。
全てを封印し終えた時はこれまでとは違う何かが起こるのではないかと見守る一同の期待をよそに、
摩尼が発していた光が消えても、他の四箇所の封印と同じく、祠に変化は見られなかった。
祠には。
学校からこの場所に来るにつれて強くなっていた疼きは、祠の前に立つに至って葵の頭全体を苛んでいた。
それが人の声であると知った葵は、摩尼のことを脳裏から消し去り、
明瞭さを増す疼きを聞き取ろうと意識を飛ばす。
ただのガラス玉と化した眼が、祠の中に置かれる摩尼の色が消えるのを映した瞬間、
その声はいきなり音の洪水となって頭の中に氾濫した。
目醒めよ──
目醒めよ、菩薩眼の娘──
そして戻れ、我が元へ──
繰り返される声が保とうとする意識を覆い尽くした時、葵の全身から力が抜けた。
龍麻の背後で人が倒れる音がする。
「葵ッ!」
それに重なる小蒔の叫び。
四人とも祠に集中していた為に、摩尼の光が消えた瞬間、
葵が糸が切れたように倒れるのを察知することができなかった。
力なくくずおれる葵を抱き起こした龍麻が、軽く揺さぶってみるが反応はない。
摩尼のことなど瞬時に忘れた四人は、葵を診てくれる場所へと走りだした。
葵は夢を見ていた。
夢、と自覚できたのは、出てくる人物が男性も女性も皆、着物を着ているからだ。
広がる街並みも現代のそれではなく、茶色を基調とした木造の家ばかりだ。
そこに葵はいた。
小蒔も、京一も、醍醐も、そして龍麻も。
服装も髪型も、そして顔も今の彼らと異なるのは、もしかしたら当人ではなく血縁者なのかもしれない。
しかし、葵も含めた五人は今の自分達と同じように語りあい、笑いあっていた。
場面は変わり、どこかの寺の前や、大きな屋敷の前、それに富士山を近くに見ることもあった。
断片的ではあるが、とても懐かしい感じがする夢だった。
ずっと浸っていたくなる――だが、その夢の全てを知ってはいけないとも、頭のどこかで理解していた。
夢が薄れていく。
自分が目覚めようとしていることを葵は知ったが、それが無意識の恐怖によるものかは判らなかった。
瞼を開けると、心配そうな小蒔の顔が飛びこんでくる。
「こま……き……?」
「良かった……」
目許を拭う彼女に助けられ、葵は身体を起こした。
「ここ……私……一体……」
「ここは桜ヶ丘中央病院。目黄不動で摩尼を封印したら、いきなり倒れちゃったんだよ」
小蒔の説明に小さく頷きつつ、葵は夢を反芻する。
未だ夢は残っていた――まるで記憶のように。
懐かしさと共に小さな痛みをも覚えて胸に手を当てると、それを契機としたかのように甲高い声が聞こえてきた。
「突然みんなで来るんだもん、ビックリしちゃったァ〜」
「高見沢さん……」
「えへへッ、お久しぶりィ〜。でも、意識が戻って良かったねェ〜」
男達と共に入室してきたのは、高見沢舞子だった。
春に知り合った、ここで働きながら看護学校に通っている彼女の笑顔は、人を安心させる柔らかさに満ちている。
それが意識してではない、自然の笑顔なのが彼女の素質なのだろう。
彼女の笑顔に幾らか気分が落ち着いた葵は訊ねた。
「私……どれくらい眠っていたの」
「んっと……五時間くらいかな〜」
それまで、皆はずっと付き添っていてくれたということか。
葵は申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。
「ごめんなさい、結局皆に迷惑をかけてしまって」
「水臭いことを言うな。仲間を思いやるのは当然だろう」
「そうそう。摩尼は封印できたんだしよ」
口々に言う京一と醍醐に葵が愛想笑いで応じていると、病室の扉が開いた。
入ってきたのは、ここの院長である岩山たか子だった。
「どうやら気がついたようだな」
眠たげな眼を葵に向け、たか子は患者の容態を確かめる。
診察ではただの疲労だったが、春先から次々と問題を持ちこんでくる彼らに関する限り油断はできない。
国内における霊的治療の第一人者という裏の肩書きを持つ彼女は、表向きは至って冷たく訊ねた。
「どうだ、具合は」
「はい、もう大丈夫です」
たか子は葵の優等生的な返事を鵜呑みにすることなく氣を見る。
多少は弱まっているものの、今は安定しているようだった。
「ふむ……確かに、大分良くはなったようだな。
こいつらに話を聞いたが、ローゼンクロイツ学院とやらに攫われた時の、
実験の後遺症が残っているのかもしれんな。
桜ヶ丘で治療を続けているマリィ──お前の義妹になったのだったか、
あの娘も薬物投与の後遺症から回復するのにはまだ時間がかかるからな」
先日葵に伴われて病院を訪れた外国人の少女を見た時、たか子は驚きを隠せなかった。
まだ十歳前後にしか見えない少女は、激しい薬物によって成長が抑制されており、
本当は十六歳だというのだ。
彼女が持つ火走りという『力』は、成長すると能力が消えてしまうらしく、
それを維持する為に飲まされていたのだという。
その手の薬品事情にも通じているたか子だったが、
マリィに薬を飲ませたジルという男は薬学の知識もあったらしく、
彼が独自に調合したと思われる薬の成分を割り出すにはかなりの時間が必要と思われた。
「家の者には連絡しておいてやるから、今日はここに泊まっていけ」
「でも」
「医者の言うことは素直に聞くもんだ」
ベッドから降りようとする葵を制止し、たか子は狭い病室に五人もいる人間を鈍い眼光で睨みつけた。
舞子は病院の関係者なのだが、ひとまとめにされてしまっている。
もっとも彼女はたか子の眼光に、いつなんどきでも臆するところのないという貴重な才能を持っているから気にした様子はない。
「お前らはさっさと帰れ。大人数でいつまでもいられたら他の患者の迷惑だし、
だいいち産婦人科に男がいたら客が来ん。ただし」
「ただし?」
思わず訊き返した龍麻達に、たか子はこの世のものとも思えない笑みを浮かべた。
「ただし、なんならお前達は泊まっていってもいいんだぞ。わしも夜の相手が欲しいところだからな」
「いッ、いえ、帰ります。すぐ帰りますッ。お邪魔しましたッ!」
この世のものとも思えない笑みに、地獄の釜が煮えたぎっているような笑い声が化合して、
龍麻達は一瞬で肝を凍らされ、我先にと飛びだした。
脱兎よりも素早く部屋から逃げ出した龍麻達に、呆れて首を振った小蒔は、自分も立ちあがる。
「それじゃ葵、ボク達は行くね」
「ええ……今日は本当にごめんなさい」
「また明日来るからさ」
たか子も去り、部屋に一人残された葵は、再び横になった。
どういう訳かひどく気だるく、五時間も眠っていたというのにすぐにまた眠くなってしまい、
欲求に屈して目を閉じた。
それを待っていたかのように、頭の中に声が響き、再び往古の光景が蘇る。
思い出してしまったら、皆と一緒にはいられない──
そう拒む心は、脳裏の声に圧されて小さくなっていく。
目醒めよ──
目醒めよ、菩薩眼の娘──
そして戻れ、我が元へ──
葵は甘美な誘惑に慄きつつ、豊かな映像となって流れ込んでくる夢に自己を委ねた。
おい、聞いたか。いよいよ戦になるらしいぞ──
ああ、ああ、何でも幕府が人を集めているって話じゃないか──
京から陰陽師も招かれているという話も聞いたぞ──
そうなればここも危うい、御屋形様はどうなさるおつもりなんだろう──
あんな女など捨ておけばいいものを──
姫、どうかお考えなおし下さい──
九角めの申し出を呑む必要など御座いませぬ──
ただ今幕府が武士を募っております故、今しばらくの御辛抱を──
必ずや、九角めの首を取って御覧にいれます──
目醒めよ──
目醒めよ、菩薩眼の娘──
そして戻れ、我が元へ──
目を醒ました葵は、自分が泣いていることにさえ気づかなかった。
他の感情が入りこむ余地を許さないほどの哀しみが、身体を満たしていた。
菩薩眼の女達が辿ってきた宿命。
それらのいずれも辛く、険しい歩みを、葵は全て知った。
新たな菩薩眼の女として。
流れる数多の血と涙が大河を生み、戦乱を呼ぶ。
幾つもの時代、幾つもの刻に渡って同じような光景が繰り広げられ、繰り返されていた。
その中心に、菩薩眼の女がいる。
彼女達に仕える男、奪おうとする男。
苦悶の叫びを上げ、顔を歪ませながら、そのどちらもが死んでいく。
自分を巡って。
菩薩眼の女を手に入れる為に。
夢だとは思えなかった。
彼女達の哀しみは、目が醒めた今でも心に深く刻まれているから。
葵の手の甲に、新たな涙が落ちる。
それは仲間達を想って流れた、別離の涙だった。
窓の外に、何者かの気配が生じる。
誰もいなくなった病室で、カーテンが小さく揺れた。
真神学園新聞部部長である、遠野杏子の朝は早い。
書かねばならない記事はいくらでもあるし、学校内で起こる事件は、
どんな些細なことでも掴んでおきたいからだ。
この日も他の生徒が登校するよりも、まだ二十分以上も前の時間に学校への道を歩いていた杏子は、
前方に固まって歩いている集団を見つけて駆け寄った。
「おっはよーッ、今日も元気そうじゃない、皆の衆」
「おはよ、アン子」
「どうしたの? こんな朝早くから全員揃ってるなんて」
「うるせェな、あっちいってろ、しっ、しっ」
露骨に嫌そうな顔をする京一を視界から消し去って、アン子は好奇心の赴くままに訊ねた。
「で、何があったの。もしかして美里ちゃんのこと?」
「ううん、今朝病院へ寄った時には元気そうだったから、大丈夫だとは思うけど」
「じゃ何よ」
三人はあまり言いたがらないようであったが、 アン子の勢いに押され、遂に醍醐が腕を組みつつ言った。
「鬼道衆の奴らについて、少し気がかりなことがあってな」
「摩尼は五つとも封印したんでしょ? で、後残ってるのは九角って奴だけ。問題無いじゃない」
「それはそうだが、美里があの調子だからな。今仕掛けてこられるとこっちも身動きが取れん」
「それもそうね」
そこまで話したところで、アン子に視界から消し去られた京一が頬を抑えつつ起きあがった。
「っ痛て……てめェら、何事もなかったように話を進めんじゃねェッ!」
「あら、いたの」
この時のアン子ときたら、瞳に刃を仕込んだような酷薄無残な態度で、
京一になど滅多に同情しない小蒔ですら哀れまずにいられなかった。
京一を無視して腕を組んだアン子は龍麻達に疑問を呈する。
「ところでその九角って奴は何者なのかしらね。素性も居場所も、何にも判ってないんでしょ?」
「うん……天野サンも調査してくれてるみたいだけど」
「天野さん? 誰よそれ」
アン子は鋭く小蒔に訊ねた。
とにかく自分の知らない単語が出てくると、アン子は闘犬のように食らいつく。
それが自分達を幾度も助けてくれた彼女の情報収集能力に繋がると判っていても、
朝からこうではうんざりもするというものだ。
「お前のボスみてェな人だよ」
「何よそれ。詳しく教えなさいよ」
アン子が訊くと、先ほどの恨みか、京一は嘲るように拒絶した。
「ヘッ、やなこった」
「なんですってェ」
再び手を振り上げる彼女の攻撃範囲から、京一は素早く脱出して更に挑発した。
本格的な追撃態勢に入ろうとするアン子を何も言わず見送っていた龍麻を、背中から呼ぶ声がする。
「タツマ──!」
少し癖のある発音で龍麻を呼んだのは、ついこの間葵の家族の一員になった、マリィ・クレアだった。
龍麻も彼女が美里家の養女になるきっかけとなった事件に関わっており、
マリィもどういうわけか葵の次に龍麻に懐いている。
マリィは今はまだ養女となるための正式な手続きやら学校の編入やら
ローゼンクロイツ学院で投与されていた薬物の影響を調べるやらで忙しいらしく、学校には通っていない。
だからこんな時間にここにいることは考えられないのだが、龍麻は軽く腰を落として彼女を出迎えた。
「マリィじゃないか、どうしたんだ」
「タスケテ、タツマ。アオイオ姉チャンガ」
息を切らせてそれだけを言うマリィに、目ざましく反応したのは小蒔だった。
「葵がどうかしたのッ!?」
「サッキ、病院ヘ行ッタノ。ソシタラ、アオイオ姉チャンガイナイノ」
「──!!」
「舞子オ姉チャンモ、イナクナッタノ知ラナイッテ。コレガベッドノ上ニ置イテアッタダケ」
マリィが差し出した一枚の手紙を、龍麻はひったくるようにして読んだ。
今までありがとう、さようなら──
手紙にはそれだけしか記されていなかった。
龍麻が手紙を小蒔に見せると、彼女は蒼白な顔で葵の字に間違いないと認めた。
思いも寄らない事態に、龍麻達は立ち尽くす。
通学途中の他の生徒達が怪訝そうに見ていくが、そんな視線になど気づきもしなかった。
龍麻はマリィ以外に一番最後に彼女に会った人物に手掛かりを求める。
「桜井、朝会った時、美里に変わった様子はなかったか」
「う、うん……これといって」
小蒔の声も沈んでいる。
彼女は親友を自負しながら葵の失踪の兆しに気づけなかった自分を激しく責めており、
その悔悟に駆られる想いは龍麻以上のものだ。
しかし、そこで絶望に沈んでしまったりせず、すぐに立ち直り、
葵を探し出すという決意を心に宿すことができるのが彼女の強さだった。
「オ願イ……アオイオ姉チャンヲ探シテ……」
「大丈夫だよ、マリィ。葵は絶対探し出すから。ね、緋勇クン」
半べそをかいているマリィの頭を撫でた小蒔は、
意思の強さを宿した瞳を龍麻に向けて力強く言った。
「ああ、とりあえず桜ヶ丘に行ってみよう」
しかし、走り出した龍麻達の前方に、程なく鮮やかな金髪の女性が現れた。
「アナタ達──どこへ行くの」
「げッ、まずい……マリアせんせー」
「そっちは学校とは反対方向よ」
もちろんマリアは教師として生徒の集団不登校など見過ごせる訳がなく、彼女の態度には少しの容赦もない。
仲間達の視線を受けた龍麻は、無駄な時間を浪費するのを避ける為に、簡潔に理由を述べた。
「美里を探しに行くんです」
「探しに……って、どういうことなの」
「昨日、具合が悪くなって一晩病院に泊まったんですけど、朝になったらいなくなったらしくて」
手短に、かつ要点を抑えた龍麻の説明と、殺気さえ感じさせる真剣な態度に、
マリアは腕を組んで考えこんだが、長い間のことではなかった。
「……今日は欠席扱いにしておきます。
その代わり美里さんを探し出したら、何時になってもいいからワタシに電話すること。いいですね」
「ありがとうございます、先生」
頭を下げるのもそこそこに走り出した龍麻達を、マリアはじっと見送る。
その蒼い瞳は、様々な彩を乱反射していた。
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