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中央公園を、龍麻達はひた走っていた。
如月骨董品店から龍山邸へ向かうには、この公園の中を突っ切るのが一番早いのだ。
「急ごうぜ、龍麻。如月の言うコトを信じるワケじゃねェが、何か嫌な予感がしやがる」
二人は既に小走りをしており、これ以上速度を速めると、
もし鬼道衆と闘う事態になった時に対処出来なくなる。
これが呼吸を乱さずにいられるぎりぎりの速さだったが、龍麻はもう少しだけ速度を上げた。
するとせっかく走り出したところで、京一が急停止する。
「あッ」
文句を言おうと龍麻も立ち止まると、京一がその前に叫んだ。
彼が叫んだ理由を知った龍麻は、もう少しで自分も叫んでしまうところだった。
前方に、良く見知った人影があったのだ。
京一の声に気付いた人影は、こちらに近づいてくる。
その姿を見た龍麻は、思わず逃げ出したくなってしまった。
「ひーちゃん……それに京一も」
前方を往く影は、葵と小蒔のものだった。
ばつの悪さを隠しきれず、京一は後頭部を掻く。
「へ……へへッ。ドコ行くんだよ」
「ドコ行くんだじゃないよ。いつまで待っても二人が部室に来ないから、
ミサちゃんに占ってもらって今から龍山のおじいちゃんのトコに行くんだよ。一体何してたのさ」
返ってきたのは矢のような怒声だった。
たまらず首をすくめる京一の隣で、龍麻は悲しそうな瞳でこちらをじっと見る葵に、
すっかり硬直させられてしまっている。
理由はどうあれ、約束をすっぽかし、
更に彼女達に黙って醍醐の許に行こうとしていたとあっては、
どんな言い訳も出来るものではなかった。
「あ……あァ。ちょっとな」
「……もう、これっきりにしてよ。ボク達は、五人一緒がいいよ。一人だっていなくなるのは嫌だ」
「すまねェ」
京一は両手を合わせ、龍麻も頭を下げる。
彼女達、特に小蒔は相当に怒っているらしく、容易には許してくれそうになかったが、
今はそれどころではなかった。
「本当にごめん、桜井さん。後でちゃんと謝るけど、今は」
「うん……わかった。行こう、おじいちゃんの──醍醐クンの所へ」
小蒔もここで怒っても何にもならないことは判っている。
ただ、醍醐がいなくなり、これで龍麻と京一もいなくなってしまったらどうしたら良いのか、
という不安が抑えきれなくなってしまったのだ。
うっすらと滲む涙を隠し、小蒔は先頭に立って歩き始める。
その肩を、突然思いきり掴まれた。
「痛ッ……どうしたの、ひーちゃん」
「気配がする──複数だ」
緊張した龍麻の声に、他の三人も身構える。
確かに、一般人のものではない禍々しい気配がいくつも前方から近づいてきていた。
「へッ、こりゃいよいよ醍醐(はジジイの所にいるみてェだな」
木刀を袋から出しながら、京一が不敵に呟く。
醍醐の居場所さえ判れば、障害など排除すれば良いだけのことだ。
樫の木剣を握り締め、京一は仲間と共に鬼道衆が姿を見せるのを待ち構えた。
その彼らの前に現れたのは、醍醐をも凌駕する体格の大男だった。
「鬼道五人衆がひどり、おでの名は岩角(。ごの先(、通(ざない」
訛りのある、そして舌足らずな喋り方で男はそう名乗った。
朴訥(さを感じさせもするが、紛れもない鬼道衆の一員であり、
醍醐の許へ行こうとする龍麻達を明らかに邪魔しようとしている。
斃(すべき、敵だった。
「おで、命令されだ。九角(様に命令ざれだ。おめだぢを殺(ぜど」
岩角は淡々と、薪(でも拾ってこいと言われたかのように、
人の命を奪うことを宣言する。
氣を練りながら、龍麻が一歩で間合いに飛び込めるようつま先だけで移動していると、
その横から葵が進み出た。
驚く龍麻が制止する暇さえなく岩角に訴えかける。
「佐久間くんを……佐久間くんを唆(したのは、鬼道衆(ね」
「違(う。それは炎角(がやっだごどだぁ。
だども、炎角は佐久間(の望みさ叶(えだだげ。
あいづは強くなりたいと望んだだ。だがら、変生(えてやっだ」
「鬼道衆(は──何が望みなの? 罪のない人を巻き込んで」
いつになく葵の口調が強い。
平穏な生活を望む彼女にとって、決して好いてはいなかったにせよ同級生を化け物に変え、
また、醍醐をも窮地に追い込んだ鬼道衆に対し、深く、哀しいまでに憤(っていたのだ。
「おでだぢは捜しているだ。ある女を」
「ある……女?」
「ぐへぐへぐへ、教(えでやらね。おめだぢに教えだら九角様に怒(られる」
頭が悪そうに見えるが、最低限の知能は持っているらしい。
これも珍しく、悔しそうに唇を噛んだ葵に代わって、京一が進み出た。
「美里、下がれ。言わねェなら言いたくなるようにしてやるまでだ。
お前達二人は先にジジイの所に行け。岩角(は俺達がやるからよ」
龍麻も氣を練り、鬼道衆と一戦交える準備を整える。
するとそれに呼応するように、岩角と同じ、茶色の装束を着た忍者の集団が十人ほども姿を現した。
「逃がさねえど」
厭(らしい笑いを浮かべて行く手を遮る岩角に、木刀が一閃した。
不意を衝かれた岩角は、倒れこそしなかったものの大きくよろめく。
「どけよ」
京一の声に凄みが漲る。
「俺は今機嫌が悪ィんだ。手加減出来ねェから覚悟しやがれ」
新たな氣を木刀に宿らせた京一は、背後にいる小蒔に向かって叫んだ。
「小蒔、行けッ!」
「で、でも」
「いいから行けってんだよッ!!」
「わ、判ったよ。絶対醍醐クンを連れて戻ってくるから、それまで──」
「おう、醍醐(に早くこねェと出番がなくなるって言ってやれッ」
走っていく小蒔を見届けた京一は、眼光で敵を牽制している龍麻の横に立った。
敵の数は十人以上。
数だけならほぼ同数との喧嘩をしたこともある京一だが、
単なる不良学生の集まりと、訓練され、統制のとれている集団とは訳が違う。
多少自信過剰ではあっても決して無謀ではない京一は、
弱気と取られないよう不敵を装って語りかけた。
「……とは言ったものの、二人だとちっとばかし辛そうだな、龍麻」
「二人じゃないわ」
少し怒った葵の声がすると共に、二人の身体に氣が満ちる。
手足が軽くなり、拳に力が宿るのを二人は感じた。
「ッと、そうだった。すまねェな、美里」
『力』によって昂揚する心を無理に抑えつけ、京一は鬼道衆に対峙した。
包囲網は確実に狭まり、あと数歩で剣を交える間合に入る。
「京一……来るぞ」
龍麻の警告と同時に、京一は最初の一閃を繰り出した。
闘いが、始まった。
醍醐の意識は、昏い中にあった。
深い、足場の無い常闇。
足掻いても足掻いても抜け出すことの叶わない闇の中に、醍醐は浸かっていた。
怠惰と退嬰(が支配する闇は、母親の手の如き生ぬるい温かさで醍醐を迎える。
出たくなければ、ずっとここに居ればいい──そう囁く甘美な声。
それが自分自身が生んだ落とし子であると知りつつ、醍醐は抗おうとさえしなかった。
厭(だった。
わずかでも意識を、理性を取り戻せば、思い出してしまうものがある。
永遠に自分を苛むであろうそれを思い出すくらいなら、
何もかもを捨てて闇の中に逃げ込むほうがましだった。
だから醍醐は世界を捨て、己を捨て、全てを捨てる。
しかし、その、全てを捨てて逃げ込んだはずの意識の中に、どこからか入りこんで来た声があった。
「白虎(よ──」
「やめろ……俺をそんな名で呼ぶなッ!」
口元がわずかに動いたが、声は発せられていない。
己の内面に向かって叫ぶ醍醐を無視して、声は再び語りかけた。
「思い出せ……己の内の黒い欲望を。柔らかき肉の感触を」
「やめろ……やめてくれ」
永久(の楽園を追い出されようとしている醍醐は、内なる声に向かって弱々しい悲鳴で抗った。
しかし声は、手足をばたつかせて必死に逃げようとする醍醐に、
薄絹を纏った妖婦のようにまとわりつき、意識の最も深き部分をぬらりと愛撫する。
閉ざしたはずの意識を、肉の記憶が占めていった。
鋼と化した己(が腕を容易(く呑みこみ、捧げられた供物。
興奮を刺激して止まない血の匂い。
生々しく蘇る記憶から醍醐は逃れようとするが、
ひとたび獲物を捕らえた声は決して離れようとしなかった。
「食らえ──殺せ──」
「やめ……て……くれ……」
「さあ来い、白虎よ。来るがいい」
我を失った醍醐は、声に導かれるまま精神(を委ねた。
闇から新たなる闇へと己を捧げることへのためらいが薄れ、
ただ引かれるままに精神をうつろわせていく。
その時別の方向から、奇妙な抑揚を持った声が響き渡った。
「オンキリキリ オンキリキリ」
遠くもなく近くもなく、あらゆる所から聞こえ、どこからも聞こえない。
その不思議な言に、醍醐は無反応だったが、彼の意識の内にいるもうひとつの声は反応を見せた。
取り込みつつあった醍醐から離れ、わずかに怯む。
すると奇妙な抑揚は、更に不可思議な韻律を奏で始めた。
「ナウマクサラバタタ ギャティビャクサラバ ボッケイビャクサラバ
タタラタセンダ マカロシャダケンギャキサラバ ビキンナンウンタラタ カンマン」
言葉そのものが力を持ち、不可視の縄となって醍醐を誘う声を縛る。
空となっている醍醐の意識の内に荘厳に響いていたのは、
真言(と呼ばれる、宇宙の真理を集約した音であった。
「不動明王呪か……老いぼれが」
醍醐をかどわかしていた声の質が変ずる。
それまでの蜜のようにねっとりとしたものではなく、言葉の端々にまで毒素を滲ませた呪詛だ。
しかしその毒も、いよいよ大きさを増す真言の前には無力であるようだった。
「ナウマクサマンダ バサラダンセン ダマカロシャダソハタヤ ウンタラタカンマン」
「まあいい。そうしていられるのも今の内だ」
声は、なおしばらくその場に留まっていたが、やがて唐突に一切の気配が消えた。
真言の方も、こちらは徐々にその勢いを弱めていく。
完全に真言が止むと、護摩壇に焚かれた火の音だけが空気を震わせた。
「退散しおったか。鬼道衆め……人の弱き心に付けこむとは、何と卑劣な」
護摩(を終えた龍山は、結跏趺坐(を解いて護摩壇から降りる。
筮法師(であると共に密教の行者でもある龍山は、
佐久間を己の手にかけたショックで意識を閉ざした醍醐を狙う鬼道衆の手から、
不動金縛りの法によって愛弟子を護ったのだ。
「雄矢よ」
呼びかける声に、数日前に龍麻達と接した時のような張りはない。
「雄矢よ、己の内に閉じこもったままでは何も解決せぬ。
このままではお主の精神(は、確実にあやつらに囚われてしまうぞ」
醍醐の反応はない。
聞こえているかさえ疑わしかったが、龍山は構わず続けた。
「わしにはこうして護ってやることしか出来ぬ。
強き精神を持ち、立ち向かう意思を取り戻さねば、その精神の檻から出ることは叶わぬのじゃ」
息子に語りかける以上の愛情を込めて龍山は心を閉ざした醍醐に呼びかけたが、返事はない。
深く嘆息すると、護摩の修法を行った影響で鋭敏さを増している五感が、
何かが近づいてくる気配を察知した。
「ふむ……客人か」
氣は小柄な人間のもので、邪悪なものでもない。
そのまま待つことにした龍山の前に現れたのは、数日前に醍醐達と一緒にここを訪ねてきた少女だった。
名は、桜井小蒔といったはずだ。
挨拶もせず入ってきて、勢い良く襖を開ける小蒔の無礼を、龍山は咎める気にはならない。
この少女がどれだけ醍醐のことを案じているか、それだけで充分に伝わってきたからだ。
「おじいちゃんッ!!」
「おお、嬢ちゃん。どうしたんじゃ、そんなに息を切らせて」
恐らく竹林の入り口からここまで全力で駆けてきたのだろう、小蒔は両肩で息をしている。
髪は乱れ、汗を額に張りつかせた酷い格好だったが、この上もなく美しい姿だった。
「醍醐……クン……醍醐クン、ここに来ませんでしたか」
「雄矢も幸せな奴よの。こんな可愛い嬢ちゃんにそこまで心配してもらって」
「おじいちゃんッ」
好々爺ぶりを発揮して龍山が茶化すと、小蒔は鬼の形相で睨みつける。
微笑ましい若さに、龍山は眦(を下げておどけてみせた。
「おお、くわばらくわばら。雄矢なら、ほれ──」
「醍醐クンッ!!」
「三日前、庭で倒れておってな」
「醍醐クン……良かった……」
指し示す龍山も既に忘れ、数日ぶりに再会した仲間に、小蒔は泣きそうになるのを堪えて近づいた。
しかし醍醐の顔に表情はなく、開かれた瞳も死人のように濁っている。
異常に気付いた小蒔が龍山を見ると、醍醐の師はさっきまでとは全く異なる沈痛な面持ちで告げた。
「じゃが、それからずっと意識が戻らぬ。身体に異常がある訳ではない。意識だけが戻らぬのよ」
「そんな……なんとかならないの」
「残念じゃが……わしらにはどうすることも出来ん」
自分自身で壁を破らない限りは──そう言おうとした龍山は、
いつのまにか部屋に入り込んでいた新たな気配に気付いた。
小蒔と話していたとはいえここまで接近を許すとは、自分の耄碌(ぶりを悔やむほかない。
「嬢ちゃん──雄矢と奥に下がっておれ」
突然険しくなった龍山の声に、小蒔がとっさには反応出来ずにいると、
部屋の隅から一つの影が浮かび上がった。
「くくく……勘の鋭い爺め」
嘲笑と共に姿を現したのは、紅蓮の色をした忍者装束に身を包んだ男だった。
「久しぶりだな……」
「お前は……ッ!!」
男が着ている服の色に、記憶を呼び起こされた小蒔が叫ぶ。
比良坂兄妹をたぶらかし、
利用価値が無くなるや地下の研究室に火を放って証拠を隠滅した卑劣な男。
小蒔の瞳に、あの時の炎にも劣らない怒りの焔が宿った。
「どうやら覚えていてくれたようだな。嬉しいじゃねェか」
「嬢ちゃん──雄矢を連れて逃げるのじゃ。こやつはわしが食い止める」
恐らく、勝ち目は薄いだろう──しかし、醍醐と小蒔の前途をこんな所で失わせる訳にはいかなかった。
彼らを護れるのなら、老いた自分の命など安いものだ。
しかし、龍山の悲壮な覚悟は、生命力に溢(れた小蒔の声に簡単に弾き返されてしまった。
「おじいちゃんを置いていけるワケないじゃないッ。
それにボク、皆と約束したんだ。醍醐クンを連れて帰るって」
「威勢がいいじゃねェか、小娘。いいだろう、俺様が相手してやろうじゃねぇか」
孫ほどに歳の離れた小蒔に怒られて、素直に感銘を受けた龍山は、
彼女を挑発する炎角を目を細めて見やっていたが、
おもむろに袂から一枚の札を取り出し、小蒔に渡す。
「これを使いなさい。ちょっとしたお守りじゃ」
「それは……爺……」
「赤い装束など着おって、自分の得手を晒すなど小物のやりそうなことじゃ」
「言うじゃねェか……地獄で後悔させてやるぜ」
その名に相応しく激情を燃え上がらせる炎角に、弓を取り出した小蒔が叫んだ。
「お前の相手はボクだッ!!」
「ああ、いいぜ」
鷹揚に頷いた炎角は、後ろの空間に向かって顎をしゃくってみせた。
「おい野郎共ッ!! この爺を始末しろ。白虎は九角様の所へ連れて行く」
「卑怯だぞッ!! お前の相手はボクのはずだッ!!」
裏切られたと気付いた小蒔は、荒れ狂う怒りをそのまま言葉にして叩きつけたが、
炎角は動じる色も見せなかった。
「だから、おめェ(の相手はしてやるだろうが。
だが俺の手下のことまでは、言ってなかったよなぁ」
「こ、の……卑怯者ッ!!」
奥歯を噛み砕かんばかりに歯軋りする小蒔に、炎角は彼女の怒りを上回る激情で返した。
「誰と話をしてると思ってやがるッ!
どうせてめェもあの世に逝くんだ、爺も一緒に送ってやるだけのこったッ!!」
炎角は指図し、手下を龍山と醍醐に向かわせる。
二人を護ろうと小蒔は動こうとするが、炎角に阻まれてしまう。
多勢に無勢で、小蒔一人ではどうすることも出来なかった。
「醍醐クン……おじいちゃんッ……!!」
小蒔の目の前で、炎角の手下が醍醐を両側から抱え起こす。
物のように担がれ、運ばれていく醍醐を止めようと小蒔が動くと、突然熱風が吹いた。
「うあぁッ!」
炎角が放った炎の氣が、小蒔を撃ったのだ。
龍山から渡された札の効力によって火傷は防いだものの、
氣による打撃の痛みまでは消すことが出来ず、たまらず悲鳴を上げる。
「てめェの相手は俺様がしてやるっつってんだろうがッ!!」
勝ち誇り、哄笑する炎角の眼前で、山が動いた。
連れ去ろうとしていた下忍の一人が、庵の外へと吹き飛ばされる。
突如生じた火山の噴火に、この場に居る全員が等しく驚き、戸惑っている間に、
もう一人の下忍が打ち倒された。
九角より命じられた指令の一つが失敗してしまったことに、炎角は大きな音を立てて舌打ちした。
「ちッ……白虎の力だけ暴走しやがったか」
そうではなかった。
乳白の氣を纏(う醍醐の瞳には、強い意思が戻っていたのだ。
瞬く間に部屋の中の鬼道衆を、炎角を除いて倒した醍醐は、静かに小蒔と龍山に向き直った。
「桜井……心配かけて済まなかったな。龍山先生も」
「馬鹿もんが。ぎりぎり間に合(うたから良いが、
もう少しで嬢ちゃんまで危険な目に逢わすところだったんじゃぞ」
「すいません」
「醍醐……クン……」
小蒔の声は掠れ、目からは大粒の涙が浮かんでいる。
それをこの上なく尊いものに感じ、醍醐は万感の想いを短い礼に込めた。
「お前の声が聞こえたよ。……ありがとう、桜井」
「うん……うんッ」
懸命に目を擦りながらも、次から次へと涙が溢れてしまい、
収拾がつかなくなっている小蒔を微笑寸前の表情で眺めた醍醐は、炎角に静かに宣告した。
「表へ出ろ……貴様らが這い出てきた地の底へ、もう一度送り返してやる」
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