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 水角はいよいよ美しさを増していた。
白い身体はほのかな色に染まり、銀光を浴びて神々しいほどに輝いている。
柔らかな曲線が作り出す陰影はどんな芸術家にも生み出せない美を醸し、
龍麻はこの日何度目かの恋に落ちた。
肩から始め、彼女の身体の隅々に触れる。
柔らかな張りを持つ水角の肢体は、ただ触れているだけでも欲情をそそられ、
龍麻は飽きもせず手を行きつ戻りつさせた。
 水角の呼吸に合わせ、なだらかな丘が上下する。
男の性か、その部分を中心に手を往復させていた龍麻は、先ほど叱られた、丘の頂に興味を持った。
指先で触れてみると、そこは女の身体にあって異質なほどしこっている。
再び聞けば機嫌を損ねるのは判りきっていることなので、今度は龍麻はいきなり行動に移った。
きれいな椀状の膨らみは、掌の感触よりも実際に見ると大きな印象がある。
その頂点に慎ましく乗っている、肌よりもわずかに色が濃いだけの蕾に、
ほとんど吸い寄せられるように龍麻は口を寄せた。
「……っ、なん、じゃ……?」
 戸惑う水角の声を頭上に聞き、突起を含む。
味などするはずがないにも関わらず、口の中には奇妙に甘い味覚が広がった。
「やっ、止めぬか……そなた、まるで赤子じゃぞ」
 水角の言うことももっともなのだろう。
舌で乳首を転がし、吸いたてながら龍麻はそう思う。
それでも龍麻は止める気はなかったし、水角も、制止してはいるものの声がうわずっている。
赤ん坊が吸うのも当然だと納得しつつ、龍麻は赤ん坊よりもはるかに卑猥に口を動かした。
歯を当てて尖りを弱く引っ張り、窪みを舌で突つく。
「こ……これ……っ、止めよと言うておるに……っ、く……っ」
 一転、咥えた乳首を離し、舌で彼女自身に押しこむようにねぶりたてると、口内に彼女の味が満ちた。
「……ぅ、んっ……っは……っ」
 水角の呼吸が乱れている。
初めて見た時は冷徹な印象さえ受けた彼女が、肌に触れられ、恍惚に身を委ねている。
乳を吸い、さらには手でももう片方の乳房を弄んでいた龍麻は、
水角の最後の秘園に興味を抱いた。
腰から臍へ、そしてその下へ、震える手を滑らせていく。
細長い草原をも過ぎ、辿りついた園は、すでに蜜を噴きこぼさせて龍麻を待っていた。
ひっそりと息づく泉に興奮を隠せないまま、淵をなぞる。
これまでなぞってきた部分とは全く異なる複雑な形をしている渓谷を、
龍麻の指は途方に暮れたようにさ迷った。
 慎重に、いかなる変化も逃すまいと蠢く指が、やがて目指していたものを見つけた。
柔らかく沈みこむ箇所は、そこが最も秘められたところなのだと龍麻に教える。
指先を浸す雫に驚き、そこが持つ熱に龍麻は息を呑んだ。
「あまり……触れるでない……」
 弱々しい声が龍麻を縛る。
激情にブレーキをかけるその声を、一旦は無視しかけて龍麻は止めた。
それが彼女の、たぶんいつもの声である強い調子で言われていたら強引に続けていたかもしれない。
しかし、繊手で遮りながら囁く水角の声はかげろうの羽根のように薄く、透き通っていた。
 自分が何か酷いことをしていたような思いに囚われ、龍麻は身体を起こす。
薄目を開けた水角は、瞳だけを泳がせて囁いた。
「良いか、優しくじゃぞ、痛うしたら許さぬぞ」
 強がりで固めてはいても、水角からはかすかに怯えが漏れでていた。
彼女への想いを構成する成分に、新たな種類のものが加わったのを感じつつ、
龍麻は己を水角にあてがった。
 切っ先が触れ、濡れた肉が早くも刺激する。
腰全体に広がっていく、嗚咽を漏らしてしまいそうな快感を抑えつけて、龍麻は屹立を沈めていった。
「くぅぅ……ッ、ぁぁッ……!」
 か細い悲鳴が遠くから聞こえてくる。
膣は想像以上に狭く、入れるというよりも押しこんでいく方が感覚的に近い。
女を組み敷き、己が物にする──
そんな根源的な欲望すら芽生えさせつつ、敏感な器官を締めあげる女の身体の、
想像を遥かに超える快感に支配され、龍麻は一気に水角を貫いた。
 肉の中に埋没させていく悦び。
熱く濡れる肉路の、奥深くまで自身を挿入させた龍麻は、
交わりがもたらす快楽に酔いしれていたが、水角の悲鳴に我に返った。
「こ、の……馬鹿者め、あれほど言うたのに」
 絞り出すように言う水角の、目許が光っている。
気づいていないのか拭おうともしない、これまでに見たありとあらゆるものの中で最も美しい輝きに、
冷や水を浴びせられた思いの龍麻は、もう素直に降伏するしかなかった。
「ごめん」
「なッ、なんじゃ」
「いや、痛かったんだろ? 悪かったと思って」
「急に素直になるでないわッ、気味が悪い」
 謝ったことに対して本気で怒っているような水角に、苦笑しかけた龍麻は、
それを封じこめると真顔で訊いた。
「動いてもいいか」
「嫌じゃと言っても動くのじゃろう? 好きにすれば良いわ」
 ついと顔を横向けてしまう水角のはらりと散る髪に触れた龍麻は、その一房にくちづける。
それでも拗ねたままの水角に、もはや愛情しか抱くことができない龍麻は、
既に抑えがたくなっている腰を動かしはじめた。
「ん……うぅっ……」
 切り揃えられた前髪が可憐に揺れる。
親指を噛んで耐えている水角に、ゆっくりと抽送を行う。
ただきつく狭いだけの彼女の中は、快感というには程遠かったが、
己のものが出入りするという事実が何よりも龍麻を昂ぶらせた。
水角は細い眉をしかめ、顎を浮かせて、痛みに耐えている様子だ。
端正な顔を歪ませてしまっていることに罪悪感を抱きながら、
龍麻は同時にどうしようもない男の性のようなものにも見舞われる。
なにしろ彼女にこのような顔をさせたのは、世界で初めて、そして唯一自分なのだから。
「っ……はっ……」
 短い呼吸を水角は重ねる。
まだ苦痛が収まっていない彼女に、
それでもこれ以上顔をしかめさせないよう気をつけて龍麻は行為を繰り返した。
 そのうち、水角に変化が訪れていることに気づく。
屹立が出入りしている彼女の膣が、少しずつではあるが馴染んでいるような気がしてきたのだ。
技巧などまだ知る由もない龍麻は、腰を引き、単純にまた挿入するだけだ。
それでも彼女の前髪が軽やかに、そして乳房が重たげに揺れる度、
屹立を押し包む洞は自分を受け入れはじめていると感じた。
 それが錯覚でなかったのは、戸惑ったような水角の声ではっきりする。
「あッ……な、なんじゃ……この……身体が浮いたような……」
「気持ちいいのか?」
「し、知らぬわッ。……知らぬから、もう少し……確かめ、させよ……」
 最後は消えるような声で言った水角に、想いが膨れあがる。
無限に膨れてしまいそうな想いを、龍麻は行動に変えた。
水角の顎が跳ねあがり、体香が立ちこめる。
固く閉じられた眼が再び開いて龍麻を見据えた時、瞳は黒水晶さながらに濡れ光っていた。
「きゅ、急に動くなと言うておろうに! ほんにそなたは……酷い……奴じゃ」
 シーツを掴む手に、無意識に力がこもる。
渾身の力で抱きしめそうになるのをこらえ──後になってなぜそうしなかったのか、
悔恨と共に振り返ることになった──龍麻は喉を鳴らし、唾を飲み下した。
腹へと落ちていった熱い衝動を水角に伝える。
「あっ……あぁ……ッ」
 水角の反応は、確実に変わりはじめていた。
破瓜の痛みから硬くなっていた顔に朱みが射し、紡ぐ息に色が付き始めている。
シーツを掴んでいた手はいつのまにか龍麻の腕を握り、その掌はしっとりと汗ばんでいた。
 腕に爪が立てられるのも厭わず、龍麻は水角の奥を抉る。
彼女とひとつになっているという快感、柔らかく器官を締め上げる肉の悦び、
そして、彼女が恍惚にむせんでいるのを見る幸せ──
水角の肢体にやみくもに触れながら、龍麻はおののいてしまうほどの感覚に沈んでいた。
「うっ……くっ、あ、ぁ……ッ」
 屹立を沈めるたび、紅の唇が歪む。
半時間ほど前に初めて見た時に感じたのは、人形的な美しさだった。
それが今は、朱肌をしっとりと汗に滲ませ、ひとつの生き物のようだった黒髪を振り乱し、
男がもたらす肉の悦びに震えている。
敵から、愛しい人へ──
鮮やかに移ろう水角に、抽送は自ずと速さを増した。
「あぁ……はぁっ、ん、ぅッ、待てッ、待つのじゃっ」
 逃れるように身をくねらせていた水角が、薄目を開ける。
「これほど苦しいとは思わなんだ……もう少し……ゆっくりせよ」
 喘ぎ、必死に呼吸を整える水角。
彼女自身こそが、龍麻の狂える情欲を焚きつける、最後の一滴だった。
忘我の後、獣じみた欲望に冒された龍麻は、彼女の願いとは反対の方に向かう。
「ま、待て……ッ!」
 慌てた水角の制止を聞きいれず、猛りを叩きつける。
どこまでも──水角の中心まで結合せんばかりの勢いで、龍麻は腰をぶつけた。
肉がぶつかるぱん、という音に、ぐちゅぐちゅという粘液が絡みあう音が重なる。
耳からなぶるそれは、下から苛む愉悦と胸の位置で混じり、龍麻を追い詰めた。
「あぁ……ッ、駄目じゃ……ッ、妾は、妾……は……ッ、あぁぁッッ……!!」
 控えめだった水角の喘ぎが、突如反転する。
 濡れた唇を一杯に開け、澄んだ声には熱を篭らせ、水角は喜悦にむせび哭いていた。
白い肢体をしならせ、抑えきれぬ恍惚を掴んだ腕から男に伝える。
 その手を振り払い、掴ませるのではなく、握ったところで龍麻は爆ぜた。
抗いがたい欲望を、抗うこともなく女に注ぐ。
凄まじい解放感と共に噴き出した精液は、たちまち隘路を満たし、女の身体に染みていった。
それでも止まらない腰は、白濁を最後の一滴まで放ち終えたところでようやく止まった。
 想いを遂げた喜びを呼気に乗せて吐き出した龍麻は、まだ小刻みに震えている水角を見下ろす。
月の光を浴びて徐々に弛緩していく肢体は、この世のものとは思えないほど輝いていて、
龍麻はいつまでも目を逸らせなかった。



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