<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>

(3/4ページ)

「は……恥ずかしいよ」
「織部さん達には平気だったのに?」
それが小蒔に与える効果を計算して、なお言えてしまう自分が嫌だったが、それでも葵は言った。
この愛おしい温もりを離すことなどもう出来ず、その為には手段を選ぶ余裕など無かったのだ。
そして葵の期待通り、抱く必要の無い罪の意識を抉られた小蒔はそのままうなだれる。
「……うん、そうだよね。いいよ……ボクのこと、見て」
顔を上げ、観念したように目を閉じる小蒔に、葵はためらいなく口付けた。
頬に、顎に。
それから、唇に。
一度唇が肌に触れる度に、狂おしい波が葵を浚う。
耳朶が、胸の先が、そして下腹が、心臓と直結したように激しく脈打った。
しかし、想いの深さでは上回っていても、経験の無い葵には、そこまでしか出来なかった。
稚拙なキスを繰り返していた葵に、痺れを切らした小蒔の舌が蠢く。
「んっ! ん……」
驚いたのは一瞬だけで、すぐに爆発的な歓喜が、入ってくる舌とともに口腔を満たした。
一度、二度。
こんなやり方もあるのだ、と教えるように唇を舐めた舌は、しかし、すぐに退いてしまう。
舌を伸ばし、神聖な儀式を余すところ無く享受するつもりだった葵は、
昂ぶりかけていた情欲を完全には瞳から消せないまま小蒔を見た。
小蒔は一瞬、目だけで微笑んだが、すぐに彼女らしくない、生気の少ない表情になる。
「ボクは、雪乃達のコトが好き。でも、信じてもらえないかも知れないけど、葵のことも好きなんだ」
それは、予期していたよりもましな結果であったから、葵は笑顔を作った。
まだ小蒔に迷いがあるのなら、いずれ自分の方に引き寄せる機会もあるだろう。
そう考えれば、これは決して悪い結果では無かった。
「ええ……嬉しいわ、小蒔」
「良かった……ごめんね、葵」
「ううん、いいの……ね、もっと……キス……して……」
「うん……いいよ」
近づいてきた小蒔の顔が、まさに触れる直前で急停止した。
まだ何か言うことがあるのかといぶかしむ葵に、まだ涙で濡れている双眸が三日月を形作った。
「葵さ、さっきのキスが初めてだったんだよね」
「……ええ」
「それなのにさ、もうエッチなキスして」
「だって……」
「いいよ。エッチな葵には、ボクがいろんなこと教えてあげる。例えばね、目閉じて」
葵が言われるままに目を閉じると、湿り気を帯びた手が耳を塞ぐ。
その温かさに陶然としていると、小蒔の舌が唇をくすぐってきた。
「な、に、これ……あ……ん……ぅ……」
舌が交わるくちゅくちゅという音が、幾重にも反響して聴覚を揺らす。
「ね、凄いでしょ。音が篭って、頭の中がエッチなことだらけになっちゃうでしょ」
確かに小蒔の言うとおりだった。
ひどく大きく、そしていやらしくなった音は、舌の動きまで想像させる。
舌を、歯を、上顎を、頬の内側を、小蒔が触れる度に、異なる音階が葵の官能をかき鳴らした。
「はふぅ、あはぁ……っ、はぁ、はっ、ふ」
そしてそれ以上に、小蒔に五感を委ねているという悦びが、葵から優等生という仮面を剥がしていく。
もっと、身体の隅々まで、そして心まで捧げたい。
その、まだ口には出せない欲望が、葵の四肢から力を奪い、理性のかけらも無い表情を作らせていた。
魚のように一杯に口を開けてねだる葵を、小蒔は遠慮無く支配する。
親友の想いに応えるように、そしてその親友が、そうされたいと願っているのを見ぬいたかのように。
艶めかしい色をした唇を爪の甲でなぞり、唾液を拭き取る。
その指を口の中に押しこんでやると、餌を与えられた葵はたちまち食いつき、丹念にしゃぶり始めた。
懸命に、爪の間にまで舌を這わせる葵の表情の、なんといういやらしさだろう。
赤ん坊が一心不乱に母親の乳首を吸うよりも、もっと一途に指を咥える葵に、
小蒔は胸が熱くなる思いだ。
舌の表面のざらつきを、確かめる。
「んぅっ……ふ」
少し苦しそうな呻きが漏れたが、構わず舌の奥をかき回す。
奥まで入った指は、そのまま横に動き、奥歯をなぞった。
葵は口をきつくすぼめているから、折り曲げた指の節が上顎に当たる。
でこぼこしているその部分を節で撫で、指先には頬の粘膜をさすらせた。
へこんでいた頬が、片側だけ盛り上がる。
「凄い……エッチな顔してるよ、葵……」
顎と歯茎の間にまで指を入れ、ほとんど歯磨きをするように、
口の中のあらゆる場所を探りながら、小蒔は揶揄やゆと感嘆とをないまぜにして言った。
それに対してうっすらと開いた葵の目には、淫情の輝きしか無い。
だから小蒔は、もっと葵にエッチなことをしてやろう、と思った。
根元まで唾液に濡れた指を引き抜き、もう片方の人差し指もねぶらせ、再び耳を塞ぐ。
さっきと違ったのは、掌で塞ぐのではなく、濡らした指だけで耳孔を塞いだのだった。
「や、ぁぁ……こ、ま……き……」
指先を孔の中で動かされると、大きな音が響く。
口腔と同じく、体内に小蒔が侵入してくるという感覚に、葵は存分に酔いしれた。
自然と上擦ってしまう声は、自分のものとはとても思えなかったが、
小蒔の唇が触れ、声が喉で留まると、いやでも認めざるを得ない。
「んんっ……ぅ、ふ、ぅう……ん」
あまり声を出さないようにと思っても、優しく、
そしてねっとりと絡みついて掻き回す小蒔の舌は、麻薬じみた快楽を与えてきて、
それを許してはくれなかった。
小蒔の身体に添えていた手が、力を失って垂れ下がる。
腕だけでない、既に葵の身体は全ての意思を失っていて、
小蒔が顔を離すと、その場にくずおれてしまった。
「葵……?」
呼びかけに反応はしたものの、言葉を紡ぎ出すことが出来ない。
舌が溶けて無くなってしまったように感じられ、また、何を考えることも出来なかった。
涎が滴るのも気付かず、ただ口を開けているだけの葵の顎に、か細い指が滑る。
唇の端で泡立っている唾液を掬った小蒔は、そのまま葵の身体にのしかかった。
「ん……っ」
背中に腕を添え、ゆっくりと床に寝かせる。
されるがままに横になった葵は、赤ん坊がするように手を伸ばしてきた。
それをあやしながら、しかし手は握らない。
不服そうに動く手を躱しながら、小蒔は制服を脱ぐ為に立ちあがった。
先ほどから声もなく自分達の痴態を見ている雪乃たちに一瞥をくれて、スカーフを解く。
視線が──特に雪乃の視線が気になったが、今は考えないでおこう、と思った。
きちんと畳まれて置かれている葵の衣服の隣に、自分の服を置く。
同じ色の、同じ制服。
いつからこの服を着て、いつから一緒にいたんだろう。
ずっと親友だと思ってたけれど、そうじゃなかった。
雪乃への好き。葵への好き。
雪乃への気持ちの方が先に気付いたけれど、葵への分だって、
親友だと思ってた分がそのまま好きに替わったから、同じくらいのはずだった。
葵と違って、どうしても上手く畳めなかったけど、二つ並んだボク達の制服。
これから、ボクは──
葵がじっとこちらを見ているのに気付いた小蒔は、彼女に背を向け、下着を脱ぐ。
葵と同じく生まれたままの姿になって、その温もりを確かめようと身体を重ねた。
「こま……き……」
「痛い……よ」
「だって……だって」
その細い腕のどこからこんな力が出てくるのかと思うほど、葵は強く抱きしめてくる。
抗議をしても中々腕の力を緩めようとしないので、小蒔は別の方向から止めさせようと試みた。
すぐ横にあるくっきりと浮き出ている顎の線に沿って舌を這わせる。
「あ……ん」
葵がくすぐったさを覚えるよう、口の中で溜めた唾をなすりつけつつ耳へと向かう。
真っ赤に熟れている耳は熱く、そこだけ別の生き物のように脈打っていた。
熱を冷ますように、長く、細い息を吹きかける。
「や、ぁ……」
くすぐったそうに顔を動かしたが、なお腕は緩めない葵に、
感動しつつも、少し意地悪をする気になった小蒔は、舌を伸ばして孔の中へと踊りこませた。
「ひっ……ぁ、や、んぁあっ」
反対側の耳を押さえつけて、たっぷりと舐めまわす。
産毛が舌に触れて、思わず笑みがこぼれた。
葵ならこういうところまできちんと手入れしているか、
または全く生えていなくても不思議ではないと半ば本気で思っていたのだ。
短い体毛を、摘んでみようと唇をすぼめる。
「……は、ぁ……っ」
少しだけ吸ってやると、とうとう葵の腕の力が尽きた。
まだ耳から口は離さずに、自由になった手を胸の隆起にあてがう。
「んっ……!」
ふかふかした手触りは、小蒔に冬に食べる中華まんを思い起こさせた。
(そういえば、あんまんだったら真ん中にピンクのぽっちがあるよね)
親友の胸を食べ物に例えてしまった小蒔は、しかしすぐに思い直す。
(でもそれよりもずっと柔らかくて、大きいや)
片手ではとうてい掴みきれない大きな膨らみは、自分や雪乃のものでは味わえない感触を持っていた。
小蒔がこれまで触ったことのある中では一番大きい雛乃でも、葵には及ばない。
掴めば沈み、離せば弾くような質感を、小蒔は夢中で揉みしだいた。



<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>