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「ぁ……ん……」
正確に同じ所を辿る指に儚い抵抗もあえなく潰え、葵はついに声を漏らしてしまった。
耳を塞ぎたくなるような声が、部屋に響き渡る。
少なくとも葵にはそう聞こえ、それほど大きな声で無かったとしても、
雛乃の耳にも届いていないはずはないのに、彼女は全く反応を見せない。
それどころか、葵が自分でも知らなかった性感帯のひとつからあっさりと離れてしまった。
皮膚を弄んでいた感覚が遠のき、葵は無意識に目を開く。
「……っ」
しっとりと濡れた黒色の珠が、至近から輝きを放っていた。
身体の快楽に溺れかけていたことを見透かすような瞳に、葵は一瞬で何も考えられなくなる。
顔中に血が行き渡り、あらゆる部分が熱を帯びて、もう少しで叫んでしまうところだった。
動揺する葵を制するように、腰に触れていた雛乃の手が回りこみ、抱く格好になる。
密着する肌の温かさに言葉を失くし、身を強張らせる葵に、瞳と同じ色をした囁きが滑りこんできた。
「お座りに、なりませんか」
提案を受け入れたつもりはないのに、葵の身体はすとんと落ちてしまう。
だらしないところを雛乃に見せたくないのに、全身に全く力が入らない。
雛乃の手を掴み、自分でもどうしたいのか解らない抵抗を見せる葵は、
背後から優しく抱きしめられ、たちまち動きを封じられてしまった。
「覚えてください。ご自分の身体の……どこが感じるかを」
腹部に添えられた手が、ゆるやかに円を描く。
臍を中心にして、マッサージのように弱く力を加えながら動く雛乃の手に、
葵は奇妙な安らぎを感じていた。
背中に触れる胸からの心音がそれを増幅させ、安らぎから心地良さへと移ろっていく。
だから雛乃の左手が右の乳房に触れた時、葵は思わず深い吐息を漏らしてしまっていた。
「あぁ……」
無意識に膨らみの表面を這い回る感覚を追い、
それが遠ざかったことで初めて溺れてしまっている自分に気付くありさまだった。
「おね……が、い……」
乳房にぴったりと押し当てられている雛乃の手は、それ故に動きも大きくはない。
そのもどかしさが、葵に彼女らしくない、不明瞭な懇願をさせてしまう。
しかし指先は止まらない。
あるいは彼女の懇願の先にあるものを知っているのか、
まろやかな曲線の上をじりじりと動く指先は、白い下着の縁を滑り、決して止まりはしなかった。
「ふ、っ……ゃ……」
皮膚をくすぐられ、葵の背中の、雛乃の乳房が触れていない部分に官能が芽生える。
意思によらず漏れ出てしまった声は、赤面せずにはいられないほど大きく、
はしたないものに聞こえ、葵はたまらず自分の指を咥えた。
「ん……ふぅっ!」
唇が指を含んだまさにその時、首筋にぞくりとしたものが疾った。
雛乃が、心を動かしている訳ではないから構わないと言いきった唇を、首の付け根に押し当てたのだ。
抵抗しないのを良いことに、やんわりと吸い上げてくる。
ぞわぞわとうなじの毛が逆立つのを感じた葵はむずかるように首を動かしたが、
唇は蛭のように吸い付いて離れなかった。
「は……ぁ……」
ただ吸うだけでなく、時に食むように動く唇が与える愉悦に、背が反ってしまう。
極限まで湾曲した上体が元の位置に戻った時、葵の耳に硬質の音が聞こえた
やや間を置いてそれがホックが外された音だと判った時、既に下着は取り払われていて、
代わりに雛乃の手が胸を覆っていた。
「素敵な胸ですね。大きくて、美しくて」
自らの言葉を確かめるように乳房を擦る雛乃の手は、わずかに冷たい。
それが火照った肌に快くて、葵は手を払いのけるタイミングを失ってしまっていた。
五本の指で胸全体を摘まれ、掌を浮かせて乳首を軽く刺激される。
その感触はあくまで柔らかく、繊細なもので、
葵の背は再び、今度は逃れるのではなく、求めようと反りかえった。
追い求め、ようやく得ることの出来た甘い痺れは、しかしすぐに遠ざかってしまう。
「ぁ……」
ねだるような、嬌声。
声を出してしまわないようにと噛んでいた指は、あさましい欲望の前には何の役にも立たなかった。
羞恥に全身を内から灼かれた葵は、せめて雛乃が今の声を聞いていないようにと願う。
その、祈りにも似た願いは、しかし通じなかった。
一瞬の凪の後、胸を摘んでいた指が離れる。
解放された感覚は、すぐに、より鋭敏さを増して戻ってきた。
指先が乳房の中央で小さな円を描く。
薄く色付いている麓を掠め、その中心にある突起には決して触れず。
「っ……んっ」
前よりも近く、そして遠い刺激。
掌で膨らみを下から支え、人差し指のみでもどかしい愛撫を行う雛乃に、
葵の意識はそこのみに集中していった。
敏感な部分に触れられることを待ち望み、わずかな刺激でさえも逃すまいと皮膚がさざめく。
しかし、雛乃の指はコンパスででもあるかのように正確に同じ円を描き、
本能的な快感が眠る蕾には皮一枚ですら触れてこない。
求めて与えられない刺激に葵が諦めかけた頃になって、唐突にそれは与えられた。
爪が、乳首を引っ掻く。
「くっ……ぅ」
散々に焦らされていた感覚が、一度に噴き出した。
ひとたび狙いを定めた爪先は、今度は執拗なまでにそこのみを弄ぶ。
小さかった部分はたちまち膨らみ、可憐な果実となった。
二本に増えた雛乃の指先が、逃げ惑う果実を挟み、転がす。
「はぁ……ぁ……」
硬く張り詰めた果実は、もぎ取られそうなほど揺らされても、ただ歓喜に震えるのみだった。
自分で触れた時などとは比較にならない気持ち良さに霞む意識に、雛乃の声が響く。
「乳首も、お好きなのですね」
紡がれる言葉に、葵は酔わされていた。
耳朶に唇を触れさせながら囁かれると、そうだったのだ、と
考えるよりも先に身体が受け入れ、悦びに哭いてしまう。
もう片方の胸も同じように責められ、
同じようにしこらされた胸先がもたらす愉悦にわなないていた葵に、新たな刺激が訪れた。
腹に添えられていたはずの雛乃の右手が、内腿を割ろうとしていた。
既に半ば以上も快楽に浸っていた葵も、とっさに身を強張らせ、
最も密やかな部分に触れさせることだけは阻止しようとする。
「力を、抜いてください」
さっきは酔うほどに快かった声が、微妙に変質していた。
丁寧な口調の奥に潜む、鞭のような響き。
全身に回っていた酔いも一瞬で覚まされ、葵は言われるがままに力を抜いた。
「そう……良い子です」
冷たい口調は幻の如く失せ、うってかわって幼児を褒めるように雛乃は言う。
普段なら反発を覚えずにはいられないであろう語調。
しかし葵はこの時、開かれた足の間を羽毛のように撫でる雛乃の指先に再び酔いつつ、
そこに新たな酔いが加わるのを感じていた。
身体を直接触られるのとは比べ物にならない強い成分は、葵がその正体に気付く前に溶け、
皮膚がもたらす快感の中に紛れこんでしまう。
しかしそれは消え去った訳ではなく、葵の裡に確かな根を張り、心の一部となっていったのだった。
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