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「やぁ……この世界は、放蕩と死に溢れている。だが、それも美しき婦人たちの前では無きに等しい」
「……?」
「なんか、ブツブツ言ってるよ……」
 男は、葵でさえもが判断に戸惑うほど訳のわからない挨拶をよこした。
あっけにとられた小蒔などは、思わず素直過ぎることを言っている。
それを聞き咎めた男は小蒔に向き直った。
「君──今、僕に何か言ったかい?」
「えッ!? う、ううん、別に何も……」
「フッ……君は、美しい顔をしているね。まるで、髑髏の上に腰掛けた乙女のようだ」
「……!?」
「小蒔を見て美しいとは……かなりイカれてるな……いてぇッ」
 京一の最後の呻きは、小蒔に足を踏まれたからだ。
 反射的にそうしたものの、小蒔も実は京一の言葉の後半には賛成だった。
大体褒めるにせよ、初対面の者との会話で髑髏などと言う単語を持ち出す人間はそうはいない。
褒められた嬉しさより、不気味さの方が勝った。
「だが、美しいものほど、残酷で、罪深きものはない……なんという惨劇。
時こそが人の命をかじる。姿見せぬこの敵は、人の命を蝕んで、
我等が失う血を啜り、いと得意げに肥え太るのだ──」
「……」
 どこか詠み上げるような男の口調に、小蒔と葵は手を握りあっている。
そうでもしなければ、龍麻達を置いてさっさと逃げ出してしまっていただろう。
 明らかに嫌悪の情を見せる二人に、男は態度には何も出さず、再び口を開いた。
「フフフ……ボードレールの詩だよ」
「ぼおどれえるゥ?」
「ボードゲームとは違う……よね」
 京一と小蒔とは違い、国語の教科書に載っていたその名前を龍麻は知っていたが、
それを言って男に反応されてはたまらないので黙っていた。
「フフ……シャルル・ボードレールはフランスの詩人だよ」
「あの、キミは一体……」
「僕を知らないのかい? 詩人という高貴なる僕を。
何と言う事だ、僕の心はシテールのように荒涼たる風が吹いている」
 男は基本的に小蒔と葵の二人を相手にしているようで、龍麻達にはあまり関心を見せない。
それに気付いた京一が、龍麻に耳打ちした。
(なあ龍麻、こいつ新手の宗教かナンパか?)
(だったらお前のお仲間だな)
 心底嫌そうな顔をする京一に、龍麻はちょっと言い過ぎたと反省した。
 少し険悪な雰囲気を漂わせる二人をよそに、
自らを詩人、と名乗る男に、葵が何かに思い当たったような表情をした。
「そういえば……港区のセント=クライスト学院に、十三歳で文壇デビューした天才詩人がいるって。
確か、名前は──水岐」
「おぉ、君こそは砂礫されきの砂漠にいる慈悲深き尼僧。
僕こそがその、水岐みずきりょうだよ」
 ようやく水岐と名乗った男は、口許を軽く笑っているような形にさせる。
どうやらこの男の感情は、喜びよりも、哀しみの方が成分が多いらしかった。
素直に喜べよ、とそうされたらされたで嫌なことを考える龍麻だったが、
素直に驚いたのは水岐ではなく小蒔だった。
「ええーッ、この人、天才だったんだ。どうりで言ってるコトが難しいワケだ……」
「フフフ、僕の高貴な世界を理解できる人間は少ない。気にしないさ。……ところで君」
 急にこちらを向かれて、龍麻は思わず自分を指差してしまった。
すかさず京一と醍醐が半歩離れる。
孤立無援となった龍麻に向かって、水岐は髪をかきあげた。
「そう、君だ。君は海が好きかい?」
 それまでのさっぱり要領を得ない会話から、いきなりストレート過ぎる質問を出されて、
面食らってしまった龍麻だった。
「海!? そりゃ、嫌いじゃないけど」
「海の好きな人間は、僕の詩を理解出来る人間だ。君のような人に会えて嬉しいよ」
 夏に海が好きか──と訊かれて、嫌いだと言う人間はどのくらいいるのだろうか。
それでも事前に答えが判っていたなら嫌いだと言っただろうが、
とっさには嘘が吐けない龍麻は正直に答えてしまった。
そんな龍麻の内心を、京一が代弁してくれる。
「天才詩人だかなんだか知らねェけどよ、いきなり海は好き? はねェだろ……
ンなことどうでもいいじゃねェか」
「フフフ、どうでもいいことじゃないさ。海は偉大なんだよ。全てを生み出し、そして──
全てを無に還す、万物の根源なのさ。海は全てを呑み込む。
汚れた人間も、腐敗しきった世界も。今の世界は一度、海へと還るべきなんだよ」
 急にトーンの変わった水岐の話は、景色にまで影響をおよぼしたかにみえた。
龍麻達の立っている場所から木漏れ日が逃げ出し、影が取って代わる。
優しく髪をなびかせる薫風くんふうは肌をめる朔風さくふうへと変じ、
一同の背中に冷たい汗を生じさせた。
「一体……何が言いたい?」
「罪深い邪教を信じた報いを、この世界は受けなければならない。
かつての、紅の花に埋もれた美しい世界を壊した報いをね。
……もうすぐこの世界は全て海の底へ沈む。誰も逃れることは叶わない。
この世界はもうすぐ、海の眷属に支配されるんだ」
 水岐の声はくらさを増し、深青の響きを帯びる。
嫌なのに、惹きつけられる──水岐は文章だけでなく、朗読する才能も確かに一流らしかった。
なまじ感受性などという物を持ち合わせている龍麻と葵は、
彼の紡ぎ出す言葉の深海に引き摺りこまれそうになってしまう。
「頭が痛くなってきたぜ。俺達ゃお前の妄想に付き合うほどヒマじゃねぇんだよ」
 しかし、そんなものは食べ終えたラーメンの残り汁程度しか持っていない京一が、
呪詛とも言える言葉をあっさりと切って捨て、龍麻達を救った。
ちなみに京一は、最後の一滴まで飲み干す派である。
「妄想かどうかはすぐにわかることさ。その時に、人間が犯した罪を知るがいい」
 妄想、と言われ明らかに気分を害した水岐は、
言葉を解さない野蛮人を見るような目つきで京一を睨んだが、その語勢は弱まっていた。
あるいはつき合っていられない、とでも思ったのかも知れないが、
もともと話しかけてきたのは水岐の方からだし、彼が去ってくれるのは正直言って歓迎だった。
「やってらんねェな。もういいからさっさとプールに行こうぜ」
 その通り、自分達はこれから遊びに行くのに、なんだって犯した罪だの世界が沈むだの、
気が滅入る話を聞かされなければならないのか。
小馬鹿にしたように肩をすくめる京一に大きく頷いた龍麻は、
浪費した無駄な時間を埋め合わせようと葵達を促し、大股に一歩を踏み出した。
すると、なお水岐が食い下がる。
「君達……芝プールに行くのかい?」
「あぁ」
「そうか……楽しんでくるといい」
 短く答えた龍麻に、水岐は小さく笑った。
それはおよそこの初夏に似合わない、どちらかと言うと晩夏にこそ相応しいような、
人を不快にさせる笑いだったが、龍麻はもう気にしないことにした。
「そうするよ」
「それじゃ……君達とはまた会える気がするよ」
 龍麻は全くそんな気がしなかったし、会いたいとも思わなかった。
それは皆同じ気持ちらしく、程度の差こそあれ眉間に皺がよっている。
「なんだったんだ、ありゃ……これから遊ぶってのに、イヤな気分になっちまったぜ」
 水岐の姿が完全に見えなくなったのを確かめてから、京一がぼやいた。
彼を恐れる訳ではないが、あの調子で反論されてはもう逃げるしかなく、
万が一にも聞かれては困るのだった。
醍醐も同じ心境なのか、声は重い。
「確かにな……詩人と言うのは皆あんな変わった奴なのか?」
「そんなことはないと思うけど……でも、水岐くんは少し違ったみたいね」
「美里さん……」
「え、私、何か変なこと言った?」
「いや……」
 さりげなく酷いことを言う葵を、龍麻は思わずたしなめたが、
きょとんとした顔をされて、それ以上言うのを断念せざるを得なくなってしまう。
 次々と沈黙してしまう龍麻達にあって、一人奮闘したのは小蒔だった。
「それはともかくさ、見た目は結構良かったよね」
 それは皆の気分を盛り上げようとしてのもので、必ずしも彼女の本心という訳でもなかったが、
京一はしみじみと呟いた。
「お前、あんなのが好みタイプなのか……」
「ち、違うよ、違うけどさ」
「だったらぼおどれえるとボードゲームの区別くらいつくようにしなきゃな」
「違うッつってんだろッ!!」
 手にした水着の入っている袋で殴りかかる小蒔を軽くかわした京一は、
そのまま小走りでプールに向かい始めた。
「あぁ、もう行こうぜ。こんなところで道草食ってたって仕方ない」
 袋を全力で振りまわす小蒔がそれを聞いているかは怪しい。
ただ、二人の走っていく方向に間違いはなかったので、
誰も止めようとはせず、のんびりと後をついていったのだった。

 今年のプール開きをしてから最初の休日ということで、入り口は人々でごった返していた。
「おォ、若いおねェちゃんが一杯だぜッ!!」
「ふふっ、京一くんったら嬉しそう」
 毒のない口調でさらりと言った葵に、龍麻はちらりと目を向けただけでもう何も言わなかった。
口にしたのは、短く一言だけである。
「……行こう」
「そうね」
「んじゃ中でね」
「よし、俺達もさっさと着替えて水着鑑賞会としゃれこもうぜ」
 中で落ち合うことを確かめて、龍麻達は一旦二手に分かれた。
 何の考えもなく更衣場で着替えた龍麻は、京一を見て愕然とした。
「なあ京一」
「おうよ」
「確かに海パン買っといてくれたのは感謝してる……けどよ」
「なんだよ、文句でもあんのか」
 声を抑えていたために、京一は龍麻が怒っていることに気付いていない。
水着鑑賞会とやらをすべくプールに向かおうとしていた京一の肩を掴んで、龍麻は激昂した。
「ったりめーだッ! なんで同じ柄の買って来るんだ馬鹿野郎ッ! これじゃ変態じゃねぇかッ!」
「あッ……ば、馬鹿野郎、変態とはどういうこった変態とはッ!」
「お前今あッつったろ」
「うるせぇ、サイズは合ってたんだからいいじゃねぇかッ」
「……俺のそばに寄るなよ」
 静かに告げる龍麻に、京一は傷ついたような顔をして走って行ってしまった。
少し言いすぎたと思わないでもないが、男二人同じ水着を履いて並んでいたら、
しなくても良い誤解まで受けるというもので、ここはあえて鬼となった龍麻なのだった。

「やっぱ夏は海かプールに限るなッ! この俺の無駄なく引き締まった身体も見せがいがあるってもんよ」
 誰に向かって言っているのか判らない京一の大声が、プールに来ている他の客を振り向かせる。
しかし振り向いた者は皆、声の主の異様ないでたちに驚き、慌てて目を逸らせるのだった。
その理由に気付いていないのは、一人だけだ。
「それはいいんだが、京一……どうしてお前は、こんな所まで木刀を持ってきてるんだ」
「そういうコトは鏡見てから言えよ……
市民プールにゴーグルとシュノーケル着けてくるバカを俺は初めて見たぜ」
「俺だって市民プールに木刀持ってくる馬鹿は初めて見るがな」
 お互いに罵りあう二人から、龍麻は距離を置いて立っている。
海パンの件もあるし、同類と見られるのはたまらなく嫌だったのだ。
醍醐の方は、まだ多少おかしいというだけで済ませることが出来るかもしれない。
しかし何しろその体格が災いして、結果的には京一と同じか、より危ない人種に彼を見せていた。
「んだと手前ッ! おい龍麻、お前はどっちがバカだと思う」
「緋勇、いいから遠慮なく言ってやれ。馬鹿なのは京一だと」
「……」
 龍麻は聞いていなかった。
正確には聞こえていないふりをして、
タイミング良く空いたテーブルのひとつに荷物を置きに行っていた。
その後ろで呆然としている京一と醍醐バカ二人など、知ったことではなかった。
「……美里と小蒔はまだ来ねぇのか……なぁ、俺達だけでひとっ風呂浴びねぇか?」
 まるっきり無視されてさすがに堪えたのか、京一は露骨に話題を変える。
その隣で醍醐が、やはり堪えたのか、つい今しがたまで敵だった京一と共同戦線を張った。
「確かに……ただ待ってても汗が出るだけだしな。どうだ、緋勇」
「ん? 目印いないと困るだろ。荷物見ててやるから先行ってこいよ」
「そうか……義理固い奴だな、お前は」
 醍醐は感銘を受けたように頷いたが、
京一は無視された恨みを忘れていなかったらしく、すかさず口を挟んだ。
「ヘッ、おおかた一秒でも早く美里の水着見てェとかそんなんだろ。
まぁいいぜ、俺達はちょっと行ってくっからよ」
 言いたいことを言って京一は走っていく。
醍醐も申し訳なさそうにしながらも、京一の後を追っていった。
 椅子に座った龍麻はといえば、京一が葵の水着姿、などと言ったものだから、
妙にそれを意識してしまい、大仰に首を振る。
 すると横合いから、いきなり名前を呼ばれた。
「あら? もしかして、緋勇くんじゃない?」
 煩悩を追い出すことに集中していた龍麻は突然名前を、しかも女性に呼ばれて、思わず跳ね起きた。
 龍麻の名を呼んだのは、妙齢と思われる女性だった。
細身の身体は女性としてかなり理想的なプロポーションを持っており、
身長も高く、一メートル八十を超える龍麻と頭半分くらいしか変わらない。
しかし何しろ、顔の大部分がサングラスに覆われており、
龍麻は反応に困ることしかできなかった。
少年の怪訝そうな顔に気付いた女性は、洗練された動作でサングラスを外す。
現れた人好きのする笑顔は、数ヶ月前に見覚えのあるものだった。
「あ、えっと……天野さんでしたっけ」
「嬉しいわね、一度会っただけなのに、覚えててくれたの?」
 破顔した女性は、空いている椅子に腰を下ろした。
 彼女は以前、渋谷の街で鴉が人を襲う事件に龍麻達が関わった時に出会った、
天野 絵莉という女性だった。
彼女も独自のルートで事件を追っていたらしいのだが、
事件の原因が記事に書けないとわかるとあっさりと手を引き、
龍麻も名刺を貰ったもののそれきり連絡は取っていなかったのだ。
「天野さんこそ……良く俺がわかりましたね」
「私はそれが半分仕事だもの」
 フリーのルポライターである彼女は、一度会っただけの人物であろうが、
名前と顔を一致させることが出来なければ商売にならないのだ。
それにしても、髪を上げ、学生服も着ていない龍麻をこんな所で見つけ出すとは、
やはり大したものだった。
「今日は一人なの?」
 絵莉は問い掛けつつ、素早く周りを観察して自分で答えを見つけていた。
「何、こんなものプールに持ってきて。あの子……蓬莱寺くんもいるのね」
 木刀を見て呆れたように言う絵莉に、龍麻は我が事のように恥ずかしがるしかない。
全く、いくら大切なものとはいえ、
どういう精神構造をしたら真夏のプールに木刀を持ちこむと言う発想が出てくるのだろう。
 しかし、絵莉は単に京一が馬鹿なだけなのを、随分と深読みしたようだ。
「もしかして……まだ危ないことしてるの?」
「……」
「困ったものね」
 今度の口調には呆れたような響きはなく、それは今度は龍麻に深読みをさせることとなる。
「危ないことって……何かあるんですか?」
 かま・・をかけてみた龍麻だったが、絵莉は大人の余裕がなせるわざか、
小憎らしいまでに鮮やかにその問いをかわした。
「さぁ、どうかしらね。……あら、いけない。
友達が待っているんだったわ。それじゃね、緋勇君。また会いましょう」
 蝶のようだ──古今から女性を形容する語句を思い浮かべながら、
龍麻は姿勢の良い歩調で去っていく絵莉を見送っていた。
すると、去って行った彼女と入れ替わるように京一達が戻って来る。
と言うより龍麻が女性と話しているのを見つけた京一が急いで戻ってきたのだが、
一足違いで間に合わなかったのだ。
「お前、誰と話してたんだよ」
「天野さんって覚えてるか? ほら、渋谷の」
 龍麻が説明する前に、京一は身を乗り出していた。
彼の身体から滴る水滴が足にかかって、龍麻は気持ち悪さを堪えねばならない。
「んだとッ! 絵莉ちゃん来てたのかよッ!」
 京一は忙しく周りを見渡すが、もう彼女の名残はどこにもなかった。
絶望と羨望に身を焦がした京一は、にわかに躍りかかって龍麻の首を絞める。
「てめぇ龍麻、見やがったな!? 俺の絵莉ちゃんの水着姿、見やがったな!?」
 それは冗談にしては力が篭っており、龍麻の意識は夏の太陽に向かって旅立ち始めた。
異変に気付いたのは醍醐の方で、気付かず友人の首を絞めあげる馬鹿を全身の力で引き離す。
「げほッ、ごほッ……た、助かった、醍醐」
「全く……冗談もほどほどにせんか、京一」
「うるせぇッ! 絵莉ちゃんは俺に会いに来てくれたってのに、
こいつはそれを嫉妬して俺を呼ばなかったんだぞ!」
 自分勝手も極まった京一の主張に、醍醐は身体に見合った大きな嘆息をした。
「……龍麻、すまんな。俺から謝らせてもらうよ」
「いや……出来の悪い友人を持つと苦労するな」
「あぁ……お互いにな」
 京一をあざとく無視した二人は和やかに談笑する。
絵莉の水着を見れなかった悔しさと、二人に馬鹿にされた悔しさが合わさった時、
京一は木刀に手をかけていた。
「ぐッ、てめえら……」
 二度はやられまいと、無視をしながらも鋭く京一を観察していて、
振りかぶった瞬間を足を払おうと待ち構えていた龍麻だったが、それは未遂に終わった。
絵莉とは違う女性の声が、一触即発の危険を孕んでいた龍麻達の緊張に割り込んで来たのだ。
「あ〜、すっごい偶然〜ッ!」
 かん高い、そのくせのんびりとした声は、聞き間違いようのないものだった。
「その声は……高見沢じゃねェか」
「あッたりィ〜! うふふッ、元気〜ィ?」
 看護学校に通いながら、新宿区にある桜ヶ丘中央病院で働いている彼女もまた、
ある事件をきっかけに知り合った、高見沢 舞子と言う女性だった。
いつもピンク色のナース服を着ている彼女は、
もちろん今はナース服ではなく、黄緑色のビキニ姿だ。
ただし水着はシンプルでも身体の方はそうではない。
胸の膨らみは見事なもので、そこから腰にかけてきちんとくびれ、そしてまた広がっている。
それは女性を見た数なら誰にも負けない京一の眼鏡にも充分に適うものだった。
「お、お前って結構ナイスバディだったんだな……」
「わ〜い、ほめられたァ〜」
 無邪気に喜ぶ舞子が飛び跳ねるたび、水着が揺れる。
もちろん、水着が包んでいるものも一緒に。
思わず目を上下させる京一と龍麻だったが、醍醐の恐ろしい一言が二人に白目を剥かせた。
「も……もしかして、院長先生と一緒……」
「大馬鹿野郎ッ!! 気持ち悪いモン想像させんじゃねぇッ!!」
 身の毛もよだつ、とはまさにこのことだった。
一時的な呼吸困難に陥った龍麻は、酸素を求めて大きく口を開く。
その隣では京一が木刀に助けを求めていた。
「はっずれェ〜、看護学校のお友達とでェ〜す」
「本当かよッ! おッ、おい、その達はどこにいンだよッ」
「エッチな人には教えてあげない〜ッ」
 恐ろしい想像の反動からか、京一は目を血走らせて舞子に詰め寄る。
人差し指を唇に押し当てた彼女は、何故か龍麻にその指を向けると、
ひらひらと舞うように去ってしまった。
あっけにとられて舞子が去るのを見送っていた京一は、
龍麻の両肩に手を置き、がっくりとうなだれる。
「龍麻……俺の白衣の天使ちゃんをどうしてくれンだよッ! ううう……」
「し、知らねぇよ」
「こんな事で泣くのかこいつは……いいから放っておけ、緋勇」
 もはや打つ手なし、と首を振る醍醐に、何度も頷く龍麻だった。



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