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日記帳なんてどれでも大差無いと思っていた龍麻は、
売り場に並べられていた多種多様な日記帳に驚いていた。
一日に一行のもの、一ページ丸々使うもの、十年分つけられるものまである。
幾つかをパラパラとめくっていると、後ろから葵と小蒔の会話が聞こえてきた。
「でも葵ってホントにマメだよね。いつもここで日記帳を買って、毎日ちゃんとつけて」
「もう習慣みたいなものだから。それに、最近は書くことが多すぎて困るくらいよ」
「ふーん……例えばどんなこと?」
「そうね……事件のこととか、学校のこととか」
「他には?」
「他にはって……そのくらいよ」
(ひーちゃんのこととかさ、書いてたりしてね)
聞いていないふりをしてしっかり聞き耳を立てていた龍麻は、
そんなことは全部お見通しの小蒔にいきなり話しかけられて跳びあがってしまった。
「かッ、書いてないだろ、そんなこと美里さんが書く訳ないじゃないか」
大声に、辺りにいた客が何事かと一斉に振り向き、
時ならぬ注目を浴びた三人は大いに赤面する羽目になってしまった。
「もう、恥ずかしいなぁ」
「ご、ごめん」
謝るしかない龍麻であったが、小蒔はもう怒ったことすら忘れているらしく話題を戻す。
「それで、どれにすんの?」
「そうね……大きさが揃っていれば、表紙はどれでもいいのだけど」
別に買う気もない龍麻は、葵が迷っているらしい中から、なんとなくひとつを手に取った。
シンプルなチェック柄の表紙で、少し地味過ぎる感がないでもない。
意味もなくパラパラとページをめくった龍麻が、再び棚に戻そうとすると、横合いから葵が覗き込んだ。
「あ、それにしようかしら」
「へ?」
「せっかく緋勇くんが選んでくれたんだもの、それにするわ」
選んだ訳じゃない、とも言えず、龍麻はやや慌てた。
しかし葵はさっさと龍麻の手から日記帳を取り、レジに持って行く。
それを見送った小蒔が、けしかけるような調子で龍麻に話しかけた。
「交換日記とか申し込んでみたらさ、以外としてくれたかもね」
「嫌だよ、そんな恥ずかしい」
一蹴したものの、もし葵の方から申し込まれたら二つ返事で受けるだろうな、と思う龍麻だった。
買い物を済ませた龍麻達は、その後もふらふらと売り場を見たりしていて、気付けばもう昼近くだった。
龍麻には残念ではあるが、このあと二人とも用事があるとなれば別れるしかない。
「今日はありがとね、ひーちゃん。そのうち遊びに来てよ。弟達も喜ぶと思うから」
「うん、そうさせてもらうよ」
兄弟がいない龍麻は、弟妹というものに憧れがある。
まして小蒔の弟妹とくれば、きっと彼女に似て楽しいに違いない。
社交辞令でなく答えた龍麻に、小蒔は嬉しそうに頷いた。
方向が途中までは同じということで、龍麻達は中央公園を通って帰る。
公園の半ばまで来たところで、向こうから走ってくる人影があった。
どうやらこちらを目指しているらしいその男は、近づくにつれ、
特徴的な金髪と手にしたギターのケースによってその正体を明らかにした。
「あ、あれ──雨紋クンじゃない?」
小蒔が指差すと向こうも気付いたのか、ギターを持った方の手を軽く挙げて挨拶をよこす。
確かに彼は、渋谷区にある神代高校の二年生である雨紋 雷人だった。
龍麻達のところまでやって来た雨紋は、息を切らせることもなく口を開く。
「よォ。良かったよ、見つかって。今日は他の二人はいないのか?」
「うん、ボク達三人だけ」
「そっか。両手に花ってワケだな。やるじゃねェか、緋勇サン」
雨紋の言ったのは確かに事実ではあったから、龍麻は弁解しようとはしなかった。
それにこういう時は変に照れたりすると余計な誤解を招くものだから、龍麻は堂々と話題を変えた。
「雨紋が新宿(にいるなんて珍しいじゃねぇか」
「なに、さっき渋谷で天野サンに会ったんだ。
あンた達と連絡が取りたいって言ってたから、学校に行ってみな、って言ったンだ」
頷きかけた龍麻は、今が夏休みであることを思い出して渋面を作る。
三年生の龍麻達がこの時期に学校に用があるとしたら、大抵はあまり良くない理由なのだ。
なのに雨紋は自分達が学校にいると言う。
「あのな……今は夏休みだぜ?」
嫌味を込めて言っても、雨紋には鼻で笑われただけだった。
「あンたらの誰かが補習でも受けてるだろうと思ってよ」
「そういや……京一と醍醐クンは補習だって言ってたね」
それが今日彼らがいない理由だった。
夏休みに入る直前、彼ら二人と小蒔が補習かどうかを訊ねあい、
ひとり免れた小蒔が大笑いしていたのを龍麻は良く覚えている。
訊ねあっていた辺り、彼女もぎりぎりセーフと言ったところのようだが。
「なッ、オレ様の読みもまんざらじゃねェだろ。
緋勇サン(が補習じゃないのはちょっと外したけどよ」
俺はそんなに馬鹿に見えるのか、と憤慨しかけた龍麻が口を開く前に、雨紋が軽く手を上げた。
「ッと、悪ぃ、ちょっと急いでるんだ。またなッ」
来た時と同様、雨紋はあっと言う間に走り去ってしまった。
ややあっけにとられて彼を見送っていた三人は、やがて再び歩き始める。
「雨紋くん……もしかして、わざわざ捜しに来てくれたのかしら」
「そんな訳無いと思うけど……でも天野さんが用ってなんだろう」
「事件……かな」
葵、龍麻、小蒔と横に並んだ順に会話が進む。
彼女と──天野絵莉と出会ったのは、
渋谷の鴉が人を襲うという事件を取材していた彼女を助けたのがきっかけで、
だからどうしても、彼女と事件は結びつけて考えてしまうのだった。
それにしても、何かまた異常な事件が起こっているのだろうか。
『力』に関わる、事件が。
期せずして顔を見合わせた三人は、お互いの顔に浮かんでいるものを読み取り大きく頷いた。
「そうね……ね、緋勇くん、悪いんだけど、天野さんが待っているかもしれないから」
「あぁ、学校に行ってみるよ」
「お願い。私達もすぐに行くから」
絵莉がいれば良いし、いなくても京一達の顔を久しぶりに見るのも悪くない。
公園の出口まで来た三人は、一旦別れることにしたが、龍麻に手を振った小蒔が可笑(しそうに言った。
「京一も醍醐クンも毎日補習で気が立ってるから、絡まれないように気をつけた方がいいよ」
「確かに……それじゃ」
笑った龍麻は彼女達が見えなくなるまで見送ってから、
ほぼ一ヶ月ぶりとなる真神学園へと向かうことにしたのだった。
龍麻が学校に着いた時、校門に絵莉の姿は無かった。
雨紋に会ってからそれほど時間は経っていないが、もしかしたら行き違いになってしまったのかも知れない。
そう思い、探しに行くか、それとも葵達が来るまで待つか、
龍麻が少し考えていると、ちょうど学校の中から京一達が出て来た。
醍醐と何か話しながら歩いていた京一は、
補習に来ない友人(を見つけるといやに愛想良く挨拶したものだった。
「おッ!! やァ緋勇クン、短き青春を充実させるべく、夏休みをエンジョイしてるかい?」
そら来た、と龍麻は思った。
小蒔の予言は見事的中した訳で、
これで今まで自分が彼女達と一緒にいたなどと知れたら何を言われるか解ったものではない。
そのことには一切触れないよう、龍麻は慎重に言葉を選ぶことにした。
「いや……図書館に行ってるから暑くはないだけでエンジョイはしてないな」
図書館に行っているというのは全くの嘘という訳ではない。
何しろ受験生である龍麻は、進学を志している以上勉強をしなければならないのだ。
ただしその割合は、自分の部屋にはないクーラーの恩恵をこうむる為、という方が大きいのだが。
「けッ、図書館ねェ。高いところの本を取ろうとするおねェちゃんを下から覗き込んだりしてんじゃねェのか」
そういえば、この男は転校初日にも学校の図書室でそんな場所があるとか言って誘ってきたことがあった。
結局その後いろいろあってうやむやになってしまったこともあり、
その時はすっかりその気になって秘密のスポットとやらについていくつもりだった龍麻は
自分の都合の悪い部分はきれいに忘れ去って、
どうも図書室というものに変な固定観念を抱いているらしい京一にどう説教してやろうかと考えた。
言葉を選んでいるうちに、恐らく真神一の苦労人であろう醍醐が間に入ってとりなす。
「ひがみは止せ、京一。すまんな緋勇、こいつは夏休みに入ってから毎日補習なんで拗ねてるんだ。
ちなみに俺はこいつより三日少ないがな」
「赤点が一教科少なかっただけじゃねェか。クソッ、俺の高校最後の夏休みが無駄に過ぎていきやがる。
浜辺でビキニのおネェちゃんが俺を待ってるっていうのによ」
「待たねぇだろ……」
「んだとてめェ」
つい口を挟んでしまった龍麻に、ここぞとばかり京一が噛みついてきた。
京一よりは余裕があったように見える龍麻も、あまりの京一の絡みようと、
立っているだけで汗が滲むこの暑さのせいか、次第に苛立ち始めている。
殴り合いでもすれば余計に汗が出るだけだということに気付かない二人に、
醍醐はうんざりしたように声を荒げた。
「よさんか二人とも。俺達は自業自得だからな、覚悟を決めて勉強するしかなかろう。
それより緋勇、お前はなんで学校(に来たんだ」
「それが──」
「あッ、いたわね」
龍麻が醍醐に事情を説明しようとして口を開きかけた時、
実に良いタイミングで龍麻が学校に来た理由である女性が現れた。
「絵莉ちゃんッ!」
つい寸前まで本気で殴りかかる勢いだったのもどこへやら、
京一は龍麻がいることさえ忘れたように年上の女性(のもとに駆け寄る。
醍醐は呆れ、龍麻ももはや怒る気をなくし、自分達に用があるという彼女が話すのを待った。
「間に合って良かったわ。夏休みなのに学校で勉強なんて大変ね」
「い、いや、俺達はそんな不名誉な理由じゃ……」
開口一番、毒の無い口調でさらりと言ってのけた絵莉に、京一は慌てふためく。
一方の龍麻は、勘違いされようのない私服だったので余裕の表情でいられた。
「ふふふッ、ごまかさなくてもいいわよ。補習だって楽しいものだし、
いいじゃない、学校に来る理由が出来て」
「ちぇッ、他人事だと思って」
ひとしきり笑った絵莉は、笑顔を収めると真剣な、そして少し翳(りのある表情をした。
「今日は皆に頼みたいことがあって来たの。本当はあとの二人にも聞いて欲しかったんだけど」
「美里と小蒔なら、多分午後から来るぜ」
毎日学校に来ているものだから、ほぼ全部活のスケジュールを把握している京一が言う。
ここで龍麻は迂闊にも、さっき守ると決めたばかりの秘密を自分から破ってしまった。
「えぇ、さっきまで一緒だったんですけど、もうじき来ると思います」
「なんだお前、デートでもしてやがったのか」
「ちッ、違う、俺は買い物につきあってって言われてそれで」
「普通はそれをデートって言うんじゃねェのか?」
周倒に獲物を待ちつづけていた老獪な蛇のように襲いかかる京一を、龍麻は躱しきれない。
丸呑みにされる小動物のように、哀しい目で助けを求めるしかなかった。
醍醐には期待出来ないその役目を果たしてくれたのは、やはり年長の絵莉だった。
明らかに含み笑いを押し殺しているようではあったが、さりげなく話題を変えてくれる。
「どうしようかしら……お昼でも食べながら、って思ったんだけど」
「昼飯!」
絵莉の機転と飛びあがらんばかりの喜びようを見せる京一の単純さに感謝しつつ、
龍麻は葵と小蒔のことも忘れる訳にはいかなかった。
「あ、でも」
「何?」
「美里さん達ももうじき来ると思うんですけど」
「そう……でも困ったわね。あまり時間が無いのだけれど」
時間が無い、とはどういうことか解らないが、珍しく絵莉の表情には余裕がなく、
何か切迫した事情があるのだと龍麻に推察させた。
「美里達もよ、着替えてから来んだろ? ならまだ時間あるしよ、
俺はとにかく何か腹に入れねェことには考えも出来やしねェ」
満腹になったところで京一が何かを考えるとも思えないが、
腹を空かせているのは、実は龍麻も同じだった。
時間はちょうど正午を回った辺りで、
ここまで来る途中、食べ物屋から漂う芳しい匂いに散々食欲を刺激されてきたのだ。
そして絵莉も、育ち盛りの少年達に食事抜きで話を進めるほど愚かではなかった。
特に今回は、荒事が待っている可能性が高いのだ。
東京を襲おうとしている危機を防げなかったのは食事が原因などというのは、笑い話にもならなかった。
「そうね、それなら手早く食べられるものがいいかしらね」
「わかりました。美里さん達には少し悪いけど」
「おッ、わかってんじゃねーか。この期に及んで待つとかぬかしやがったら、
天に代わって成敗してくれるところだったぜ」
もはや空腹が脳にまで来ているらしく、わざとらしく木刀で肩を叩いて京一が言う。
こいつと美里さん、怒らせたら怖いのはどちらだろう、と考えるまでもないことを考えながら、
龍麻は手早く食べられる、と聞いて真っ先に思い出した、
この数ヶ月ですっかり馴染みとなったラーメン屋に絵莉を案内するのだった。
急いでいる、とは言ったものの、絵莉は性急に頼みとやらを切りだしはしなかった。
まずは三人の高校生が充分に食欲を満たすのを、辛抱強く待つ。
もっとも辛抱、と言ってもせいぜいが数分のことで、このうだるような暑さだというのに、
熱いラーメンが呆れるほどの早さで食べ尽くされるまで、それほど苛立つ必要はなかった。
満足げに腹を擦っている京一を横目で見ながら、
この中では多分一番礼儀をわきまえている龍麻が三人を代表して質問する。
「それで、頼みってなんですか」
「まずはこれを見て」
絵莉が取り出した新聞記事のスクラップには、「江戸川区で連続猟奇殺人事件が発生」
とおどろおどろしい見出しがあった。
京一が声に出して読んでみせる。
「被害者は若い女性ばかり、いずれも頚部(を消失。……おい、頚部ってどこだ、龍麻」
あまり聞きなれない言葉に、龍麻もすぐには答えられなかった。
少し考え、自信なさげに答える。
「首……だと思うけど」
「首ってお前、それじゃ」
首に手を当て、横に引いて見せる京一に絵莉は頷いた。
彼女もルポライターを志して以後、いくつかのグロテスクな事件に関わったことがあったが、
これはその中でもかなりどぎつい部類の事件だった。
「ええ。死体はどれも、頭が無い状態で発見されているわ」
絵莉の口調はむしろ淡々としており、実際の状況ほどおぞましさを想像させはしなかったが、
龍麻はつい腹を抑えていた。
昼飯を腹に入れた直後に聞くには、随分とおぞましい話だった。
自分達はまだ良いが、葵や小蒔が聞いたら具合を悪くしたかもしれない。
コップに残っていた水を、一息に飲み干した龍麻だった。
絵莉の説明が続く。
「そして検死結果を聞いた限りでは、その切断方法は刃物によるものではないそうよ」
「刃物じゃない?」
「そう。熱でもなく、ましてや光源でもない。
強いて言うならば、真空の刃──鎌鼬(とでも言うべきものらしいわ」
「鎌鼬って、あの皮膚が急に切れたりするっていう」
古来より妖怪の一種が引き起こすと言われている、冬の風の強い日に突然皮膚が切れる現象は、
一説には絵莉の言うように空気中に発生した真空層が原因とも言われているが、
正体は未だはっきり解明されてはいない。
しかしいずれにしても自然現象であるはずで、
首を切り落とすほどの、しかも若い女性ばかりを襲う鎌鼬などあるはずがなかった。
龍麻がそう言うと、絵莉はその答えを既に掴んでいるようで、思わせぶりに答えた。
「じゃあ、何か人為的(な『力』が働いている……としたら?」
人為的な力について、改めて確認する必要はなかった。
鬼道衆。
今年の春以後、東京の各処で起きた怪事件のほとんどに関わっていると思われる謎の集団。
もし絵莉の言う通りこの事件が人為的なものだとすると、
東京の壊滅を目論み、暗躍する彼らが引き起こしている可能性は高いといえた。
「鬼道衆(……か……だとしたら、絵莉ちゃんひとりじゃ危ねェな。それに」
「ああ、鬼道衆が絡んでいるとしたら、向こうが俺達を放ってはおかないだろうな」
京一の言葉に醍醐も重々しく頷く。
龍麻も彼らを放っておくつもりなど毛頭無かった。
比良坂紗夜を殺した罪は、必ず償わせる。
彼女のことを想うと痛む胸が、血の誓約だった。
暗い想念が引きずり込もうと足首を掴むのを感じた龍麻は、
それを振り払うように、半ば答えが判っている問いを発した。
「絵莉さんは、どの程度だと思っているんですか? 鬼道衆が関わっている可能性は」
「そうね……色々な情報を繋ぎ合わせてみると、ひとつの結論に辿りつくわ。
意図的に行われている、恐らく儀式のようなもの。被害者はそのために首を切られ、犠牲になった」
「儀式……ですか」
「あなた達が増上寺の地下で開くのを阻止した門にはダゴンという邪神が封印されていた。
でも、門はひとつだけではなく、封印されているものも一種類だけではない」
「それを鬼道衆が解こうとしている……か。辻褄(はあうな」
重々しく唸った醍醐に、コップの水を飲み干した京一が疑問を投げかけた。
「けどよ、今までその門ってヤツが開いたことなんてあんのかよ」
案外ビビった奴が勝手に話を大袈裟にしてるだけじゃねェのか──
京一の指摘を、絵莉は冷静に受け流した。
「あるわ。世界各地に点在する門が開いたという記録が、いくつか残っているの。
近い記録では八年前、南米の小さな村が消えた事件があるわ。
当時その事件はいろいろ論議を呼んでね、
抗体の発見されていない新種のウィルスが異常発生して、
村外への流出を恐れた政府が軍を出動させて焼き払った、なんて説も流れたわ」
それは全くの憶測という訳ではない。
ベトナム戦争ではアメリカ軍が疫病に感染した村をナパーム弾で焼き払った例があり、
その憶測もそういう事実があったからこそ流れたのだろう。
「でも真実は、そこの地下に眠っていた何か(が目醒めたのだとしたら。
その何かを再び封印するためだとしたら」
絵莉の話はほとんど性質の悪いおとぎ話に近いものだった──自分達が関わっていなければ。
しかし増上寺の地下に眠るという邪神ダゴンを復活させようとする異形の怪物、
深きものども(を目の当たりにしてしまった龍麻達は、
残念ながら悪夢よりも胸の悪い現実として受け入れざるを得ないのだった。
「ま、ラーメンは奢ってもらったし、とりあえず行ってみっか」
京一の口調は、食後の散歩に誘うかのような気軽なもので、
龍麻と醍醐は顔を見合わせ、小さく肩をすくめるのだった。
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