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「ん?」
行為の最中に急に名前を呼ばれ、龍麻が恥ずかしそうに顔を上げる。
芙蓉はそれに負けず劣らず羞恥に顔を染めて囁いた。
「お身体を……抱きしめてもよろしゅうございますか」
「……いいよ」
頷いた龍麻は、ゆっくりと力を抜き、体重を彼女に預けた。
ほどなく細い腕が背中に回され、力が篭っていく。
その強さは彼女の方が苦しいのではというほどだったが、無論抗議などせず、
肌を重ね、時を同じくする幸福に首まで浸かった。
二人とも無言のまま、静かな呼吸音だけが部屋に響く。
それが十を数えた頃、掠れた声が二人の間の空気を震わせた。
「……龍麻様」
「うん」
「お情けを……頂戴しとう……ございます」
それもまた古風な、龍麻の知らない言葉だったが、今度はすぐに理解した。
身体を起こし、下腹へと移す。
淡雪積もる中に残された足跡のような蔭りを目印にして、彼女の中心へ。
閉じ合わされた襞を指で掻き分け、洞の周縁にそっと口付けた。
「く……っ、あぁ……」
艶かしく太腿を動かして快楽に興じる芙蓉にそそられて、更に内側を舐める。
まとわりつく粘液は多く、そして絶えず溢れ出してきていた。
舌に絡む淫水が大きな音を立てる。
半ば無意識にそれを啜った時、芙蓉の腰が卑猥に跳ねた。
「はぁぁっ! た、つま……様……」
切なげに呼びかける声に応え、龍麻はいよいよ彼女とひとつになることにする。
しかし、そう決めた途端、かつて無いほどの緊張が襲ってきた。
全く思い通りに動かなくなった身体を無理やり動かし、手探りでその場所を探す。
焦れば焦るほど手が震え、困り果てた挙句、ようやくそれらしき場所に先端が触れた。
「あ、え……っと、ここ……でいいのかな」
「……はい」
芙蓉の声に励まされるように、彼女の中へと己を沈めていく。
それは予想していたのとは異なり、あっけないほど簡単に収まってしまった。
「龍麻……様……」
感極まったような芙蓉の声も、龍麻には届いていない。
下半身を根こそぎもがれたような快感に、それどころでは無かったのだ。
初めて味わう感覚にたちまち陶酔した龍麻は、挿入の感慨に浸ることもなく腰を打ちつけ始めた。
「あっ……あぁ、はぁっ……」
龍麻とは異なり、彼が初めての男ではないはずの芙蓉も、
これまでのものとは全く異なる、深い喜びに身体が甘く痺れている。
それは単に即物的な喜びだけでない、心の内側から湧き起こる悦びだった。
熱い肉塊が押しこまれる度にそれらが渦巻いて燃え、どろどろに溶けていく。
そうして出来た溶岩の如き快楽は、すぐに芙蓉を呑みこみ、
人に非ざるはずの彼女に生を与えることとなった。
打ちこまれる男根をより感じようと、足を龍麻の腰に絡みつかせる。
それだけでなく全身をたわめ、指先までもを凝縮させて龍麻を感じ取るべくしがみついた。
「……っ、芙蓉……さん……」
歯の隙間から絞り出すような龍麻の声が、髪を揺らす。
名を呼ばれることがこんなにも心地良いことだと、芙蓉は初めて知った。
汗を掻いた人の肌と、そこから漂う匂いがこんなに愛しいものだとも。
彼女は今、図らずも生まれたばかりの赤子のような格好をしていたが、
それはまさしく、新しい誕生を象徴していた。
身体の全てで龍麻を感じ取ることが出来る。
そして、龍麻を想うことが出来る。
しかし、その劇的な変化を、未だ芙蓉は捉えておらず、
短い間隔で突きこまれる男根に、ただ夢中で動きを合わせるだけだった。
「くぅぅっ……はっ、あっ、あぁっ」
苦悶にも似た表情で快感を露にする芙蓉の声色が、急に変わった。
それと共に、それまで己の動きこそが快楽の源泉だと思っていた龍麻だったが、
己を預けている芙蓉の内壁が、絶妙な緩急でまとわりついてきた。
全く制御出来ない快感が流れこんできて、腰が止まらなくなる。
猛る屹立は絡みつく媚肉をものともせず躰の奥へと割って入り、雌を征服しようと咆えるが、
それも一時のことで、すぐに押し寄せる秘肉に圧倒されてしまった。
「芙蓉……さん……っ、ごめん、俺……も……う……っ」
「わた……わたくし……も…………あぁ、龍麻……様……!」
限界が近いことを感じた龍麻はそれを芙蓉に告げる。
芙蓉はそれに答えたものの、抱きついた身体を離そうとはしなかった。
「……っ、くっ……!」
「はっ……あぁ……あぁぁっっ……!!」
先に射精を迎えた龍麻が、芙蓉の体内へと精液を注ぎこむ。
それにほんのわずかだけ遅れて、か細く、長い絶叫と共に、芙蓉が果てた。
歩調を合わせた絶頂は長い余韻を二人に与え、
二人とも射精が終わった後もしばらくの間身動きも出来なかった。

精魂尽き果てたように寝転がる龍麻に愛しげなを向けた芙蓉は、
龍麻がゆっくりと眠れるよう布団から出ることにした。
「失礼いたします」
自分だけに聞こえるようそう告げ、数瞬の名残惜しさと共に身体を離す。
するとその腕が力強く掴まれ、再び身体が密着した。
「いいよ……今日は──今日からずっとここで。ちょっと狭いけど」
「……はい」
芙蓉は乱れた寝間着を整えようとして止め、差し出された腕に頭を預けた。
明日にもこの家の中を主の為に綺麗にするつもりだったが、
この、寝る場所だけはこのままで良い、と思いながら、男の腕の中で目を閉じた。



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