<<話選択へ
<<前のページへ
(2/2ページ)
白く濁った糸が、二人の唇を繋いでいる。
それは、ほとんどが雛乃が生み出したものだった。
漂う異臭を、雛乃は半ば求めて吸う。
生温かい呼気に炙られて臭いを増したそれを、肺の奥まで導きいれる。
眉をしかめたくなるような臭いが、快かった。
「雛乃……」
龍麻の声は、どこか戸惑っているようだった。
間違いなくそれは、豹変した自分に対してのものだろう。
だから雛乃は、再び龍麻の口を塞ぐ。
幾度も、龍麻が解るまで幾度でも。
頬を紅潮させ、目を赤く腫らした雛乃の表情は、あらゆる表情を一面に含む、能面さながらだった。
その、見る者を虜にせずにはいられない夢幻の貌(に、笑みが浮かぶ。
何かを象徴するような色に染まった唇を、淫靡に歪めた笑みが。
「お願い……です。わたくしを……抱いて、ください」
雛乃を知る者が聞いたら、その声に愕然としたに違いない。
その内容もさることながら、そこに含まれた音色は、およそ彼女からかけ離れたものだったのだ。
虫も殺せぬようなたおやかな声が、男を誘い、誑(かす、毒婦のそれに変じ果てている。
唾液に塗れた肌をくすぐる吐息と共にそれを浴びた龍麻は、ひとたまりもなかった。
向きを変え、雛乃を組み敷くと、前戯らしいこともしないまま貫く。
「うぅ……っ、あ、あ……」
求めていた熱い塊が、いきなり奥深くまで入ってきた。
その必要も無いほど、雛乃の女の部分は既に潤っていたのだ。
力強い腕が腰を掴み、雛乃を動けなくする。
大きく裂かれた足の付け根に、龍麻の身体がぶつかる鈍い音が響いた。
「っ、あ、龍麻……さ、ん……」
龍麻のそれがいつもよりも大きくなっていることを、雛乃は身体で感じとっていた。
肉体が悦びに震え、ほとんど意識を失いそうになる。
挿入の余韻が消え去らぬうちに、二つ目の大きな衝撃が下腹に響いた。
「んうっっ!」
嗚咽は淫らな水音にかき消され、快感はあらたな快感に塗り替えられる。
背中に括られた掌をせわしく開閉させて、雛乃は蹂躙される悦びに哭(いた。
「うぁ、んんっ、んっ、ああっ」
身体の中で、龍麻が位置を変える。
肉を抉られた雛乃は、顎を仰け反らせて喘いだ。
すると強い力で胸を掴まれ、敏感な突起ごと捏ねられて、更なる淫悦が身体に満ちる。
「雛乃、雛乃……」
切羽詰った呼び声を、遠くに聞いても、答える気力は雛乃には無かった。
もう頭の中は、快楽が卑しく巣を張り巡らせていたのだ。
それでも視線だけを龍麻に向けると、目が合った龍麻が荒々しく唇を奪って来た。
「んぐ、んうぅっ」
呼吸さえ許さないような激しいキスが、たまらなく気持ち良かった。
求められるままに舌を絡め、小刻みに動く体内の熱杭を存分に感じる。
そのまま果ててしまいたいくらいの愉悦だったが、それはすぐに遠ざかってしまった。
「あ……」
消えていく淫火を惜しむように、雛乃は龍麻を見つめる。
一度離れたはずの顔が、急に近づいた。
「あ、あ……」
見上げていた龍麻を、今は見下ろしている。
抱き上げられた雛乃は、龍麻と繋がったまま、向かい合う格好になっていた。
身体が沈むことで、迎え入れている屹立がより奥へと侵入してくる。
胎(を灼かれる感覚に、雛乃は噎(び泣いた。
「は、あ……」
あまりに深い愉悦に、虚脱したような喘ぎが口を衝く。
通された縄の間で乳房が張り詰め、大きく揺れた。
身体を切なげに折って悶える雛乃にそそられた龍麻が、尻を掴んで犯している少女の身体を浮かせる。
柔肉に食い込む指先の快さに雛乃が浸っていると、いきなりその手が離された。
「あくぅっ!!」
腹の中まで突き通されたような衝撃に、雛乃は上体を仰け反らせた。
およそ彼女のものとは思えない絶叫がほとばしる。
落とされた高さは十センチにも満たないものであったが、
奈落の底に落とされたように、頭の中が闇に覆われた。
「ひっ……かっ、はっ……」
再び腹の中から熱い塊が逃げて行く。
しかし、今度は雛乃は待ちうけた。
屹立の張った部分が肉を掻き回し、奈落に落とされる、その時を。
「っく、んっっ」
そして訪れる解放感。
感覚が遮断され、下腹を抉る焼杭と、それがもたらす淫悦だけが全てになる。
続けざまに三度目の、身体が浮き、そして下降する感覚。
その中で、雛乃は己の身体の中にある、悦びの源に気付いた。
龍麻の先端がそこに触れると、目蓋が灼かれるような快感がもたらされるのだ。
「そ、れ……」
ようやくそれだけを言った雛乃だったが、肢体は貪欲に快楽を求める。
拡げられた足を龍麻の腰に巻きつけ、わずかでも奥に、
わずかでも強く抉らせようと、自ら身体をよじった。
「あぁ……あっ!」
求めていた以上の、雷のような痺れが疾った。
探り当てた場所を逃すまいと、全身で憶える。
淫靡に腰を動かす雛乃に、龍麻がようやく気付き、尋ねた。
「これが……いいの?」
「は、い……そ、れ……い、い……です……」
即答した雛乃は、それが嘘で無いことを示すように、
龍麻を挟みこみ、一瞬たりとも快感を逃すまいとする。
すると身体が、もう一度横たえられた。
今の姿勢では思うように動けない龍麻が、雛乃を追い詰めようとしているのだ。
雛乃の最も感じる場所が奥にあることを知った龍麻は、これまでよりも激しく屹立を撃ちこむ。
欲望に任せた腰の動きは、雛乃を陶酔させた。
「んんっ、あっ、ひっ、うぁぁっ」
あられもない声で快感を貪る雛乃の膣は、牡の精を受けようと柔軟に蠢く。
どろどろにぬかるんだそこは、ただ締め上げるだけでなく、
時に誘いこむような動きさえ見せはじめていた。
細やかな顫動で屹立を果てさせようとし、一度咥えこめば逃すまいとむっちりとまとわりつく。
女に目覚めた雛乃に、龍麻はあっという間に追い詰められる。
「ひな、の……もう、出そう……だ……」
「うぁっ、わた……く、しも……一緒……に……」
雛乃の叫びに、龍麻の痙攣が重なる。
体内で膨れた龍麻が精を吐き出すのを、雛乃ははっきりと感じていた。
幾度かに分けて放たれた熱い粘液が下腹に満ちた直後、雛乃も絶頂を迎える。
「あぁぁ……っ」
それまでの激しさとは一転したか(細い声は、
雛乃がこれ以上無い深い恍惚に達したことを示していた。
何かに耐えるように強張っていた肢体が、ぐったりと崩れ落ちる。
まだ時折痙攣する足の付け根から、白く、どろりとした液体が流れ出した。
それは雛乃の身体を伝い、カーペットに小さな染みを残す。
消える事の無い、染みを。
解かれた縄を、雛乃は見つめていた。
龍麻はばつが悪そうに下を向き、何も言おうとはしない。
狂熱の戯れは、夢としてしまうには刻み付けられた快楽が深すぎたのだ。
自分が引き出してしまった雛乃の女を、龍麻は悔いているのだった。
もう戻る事の出来ない深みへと、彼女を堕としてしまった。
過ちを詫びるように、龍麻はうっすらと跡の残る身体を抱きしめた。
「龍麻……さん」
「雛乃」
掠れた声で答える龍麻に、昨日までの彼女とは異なる笑顔を向けた雛乃は、
抱擁を解き、その掌に縄を乗せた。
「……」
もう一度雛乃を抱きしめる龍麻の頬を、涙が伝う。
頬を触れ合わせる雛乃の頬にも、同じものが。
交じり合う涙は、止むことなく流れ続けていた。
<<話選択へ
<<前のページへ