<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>

(2/4ページ)

いやいや待て。
回し車で遊ぶハムスターのようにぐるぐると思考のループにはまりこんでいた龍麻は、
横に飛び降りれば良いことに気付いて頬を叩いた。
「え、えっと……俺、敵にやられた?」
「は? 何言ってんの?」
「いやおかしいだろ、なんだよご主人様って」
「だってボクたちメイドだもん」
さっきはウェイトレスって言ってなかったか?
答えになっていない答えに、
回し車から出たつもりが更に大きな回し車に飛びこんだだけのような気がして、
龍麻が眉間を抑えると、その腕を小蒔に掴まれた。
あっと思う間もなく掌が小蒔の胸にあてがわれる。
「……ホラ、これでも敵にやられたとか思う?」
つい言われるままにふにふにと揉んでみてもあまり手応えはなかったが、
確かに感触はあって、夢ではないらしい。
「やだな、なんかやらしいよ、手つき」
「ご、ごめん」
「ううん、いいんだ……だって、ひーちゃんはボク達のご主人様だもん」
ご主人様、と言う響きに、龍麻は心をどうしようもなくくすぐられてしまう。
それは、自分が本当に金持ちでお手伝いを雇っているという、
ありえない妄想が浮かぶほど甘美な言葉だったが、
さすがにそれはない、と脳の中心辺りでまだわずかに頑張っている冷静な自分が突っ込みをいれた。
「まっ、待てよ、どういうことだよ」
「嫌だなぁ、そんなこと女の子の口から言わせる気?」
「だってよ」
「いいじゃない。可愛い女の子二人が好きにしていいって言ってるんだから、深く考えなくても」
「……だけど」
なかなかしぶとい龍麻に痺れを切らした小蒔が有無を言わさず野暮ったい制服を脱がせようとすると、
その前に葵が禁断の呪詛を放った。
「……龍麻は、私達のこと、嫌い?」
「そ、そんな訳はないけど」
形の良いつやつやしたおでこにわずかな皺を寄せ、眉を八の字に歪める葵に、
龍麻は慌ててフォローを入れるが、言葉に乗せて息を吐き出すと、頭がずきずきとする。
さっきからどうにも頭の中にもやがかかっていて、だんだんと考えるのが面倒くさくなってきていた。
霞む視界の向こうに立つ二人が、命令されるのを今か今かと待っているように思えてくる。
何かがおかしい、このままではいけない、という声は段々と弱く小さいものになっていき、
替わって力強い欲望がむくむくと首をもたげてきて思考を支配していった。
いつのまにかかさかさに乾いていた唇を舐め回し、それでも恐る恐る訊いてみる。
「……本当に……いいのか?」
「はい……よろしくお願いします」
言った瞬間に「へッ、引っかかったぜ」と京一辺りが出てくるのではないかと
忙しく眼球を動かしていた龍麻だったが、とうとう何も起こらなかった。
ようやく自分が世界で最も恵まれた境遇にあることを知り、
ごくりと唾を呑みこむと、最初に何を命令すべきか頭を巡らせる。
心の奥底に眠っていた欲望の数々を掘り起こすのにしばらく時間がかかったが、
ようやく二人のメイドにさせるべき行為を思いついた。
「お前ら、キスしてみろよ」
「……また随分マニアックなところから入るね」
「うっ、うるさいな。いいからやれよ」
「葵……いい?」
「ええ……」
小さく頷きあった二人は、お互いの身体にそっと腕を回して静かにキスを交わす。
差しこむ夕日の影に隠れてはっきりとは見えなかったが、それが逆に詩的な淫靡さを漂わせていて、
唯一の観客はまばたきもせずに眺めていた。
添えているだけだった腕が、少しずつ環を作り、お互いの肢体を引き寄せる。
しっとりと重なっているだけだった影が、やがて動きはじめ、龍麻の元に微かな呼吸音を漂わせてきた。
他人のキスも、舌を交えるキスも初めて見る龍麻は、
それが女性の、しかも同級生ということに興奮を隠せない。
小蒔から仕掛けたキスは、よほど巧いのか、いつのまにか葵が主導権を握っていた。
「はッ、ふぅっ……ん、んぅ……」
激しさを増す甘い鼻声と共に、唾が絡み合うくちゅくちゅと言う音が漂ってくる。
時々離れる顔の間から漏れる逆光が、くねるように動く舌を照らし出す。
あっという間に劣情に満たされた龍麻は二人に近寄ると腕を伸ばし、遠慮無く尻を掴んだ。
ボリュームの大きく異なる質感を較べるように撫でまわすと、
二つの肢体は嬉しそうに身体をくねらせる。
それでもなおキスを止めようとしない二人に、龍麻は揶揄するように尋ねた。
「雰囲気出して、二人とも案外本気じゃないのか?」
問われた葵は答えるためにキスを止め、龍麻と小蒔を等分に見比べた後、こっくりと頷く。
「はい……ご主人様の次に、好き……です……」
「小蒔はどうなんだ?」
「うん……ボクも……同じ……ひーちゃ……ご主人様の次に、葵のコトが……好き」
うっとりとしたように答える葵と、恥ずかしさを残した小蒔が対照的で、
龍麻は二人の尻にあてがった手をいやらしく動かして自分の方を振り向かせた。
「二人が仲が良いのは解ったから、俺も混ぜてくれよ」
「あ、はい……申し訳ありません」
小さく頭を下げた葵は顔を上げ、静かに目を閉じる。
さっきまで情熱的な口付けを交わしていたせいで熱く潤っている唇に顔を近づけた龍麻は、
何故か寸前でその動きを止めた。
「どうなさったのですか?」
「あ、いや……俺、良く考えたら、その……キス……初めてで……」
「私とは、嫌……ですか?」
「そッ、そうじゃない、そんな訳ない。ただ、ちょっと」
「大丈夫です……私に、任せてください」
理解した葵は龍麻の緊張を解すように微笑み、頬を撫でると優しく唇を重ねた。
ふっくらとした桃色の唇で龍麻のそれを挟み、甘く咥えてやる。
「ぁ……ぅ……」
濡れた唇が口腔を滑り、少しずつ奥に入ってくる。
強く食まれた上唇の裏側を舌で舐めまわされ、ほとんど一瞬で頭が沸騰してしまう。
真神の全ての生徒が聞き惚れる美声を紡ぎ出す口が、自らの口内をまさぐっている。
それも楚々とした唇を大きく開き、舌をいっぱいまで伸ばして。
恐ろしいほどの喜悦に囚われた龍麻は、崩れ落ちないように葵のエプロンの裾を握りしめるしか出来ない。
葵は龍麻の舌の根元までねぶりながらもあくまでもソフトに蠢かせながら、
口唇を重ねる快感をじっくりと、骨の髄まで教え込んでいった。

何度目かの嚥下の音が、教室に響き渡る。
どろりとした質感のそれが喉元を落ちて行く度、龍麻の身体が小さく震え、
小さくない快感を受けていることが容易に判った。
じっと自分達のキスを見ている小蒔に横目を走らせた葵は、
すっかり骨抜きになった龍麻から顔を離す。
誰かが支えてやらねばすぐにも倒れてしまいそうな龍麻に、横から小蒔が腕を回した。
「ボクにもしてよ……ご主人様」
息つく暇もなく、口を閉じる暇さえなく、小蒔に顔を掴まれてキスを奪われる。
葵とはまるで違う情熱的なキスに、今植えつけられたばかりの快感が甦り、
膝の力が抜けた龍麻はそのまま椅子に腰を落とした。
龍麻と小蒔には二十センチ以上も身長差があったが、今、その差は逆転し、
小蒔は上から抑えつけるようにして龍麻と口付けを交す。
啄木鳥のように軽いキスを何度も浴びせ、
くすぐったさに龍麻が顔をそむけたところを待ち構えて舌を差しこむ。
頬を挟む繊細な指先の感触と唇の表面を走るぬらりとした質感に、
龍麻はただ自分の本能がびくびくとするのを受け入れるしか出来ない。
更に葵も黙って見ている訳ではなく、龍麻の背後に回り、首筋を余す所なく舐めまわしながら、
手探りで制服のボタンを外していくのだ。
そしてカッターシャツまでも脱がせてしまうと、
厚い胸板に繊手を泳がせて耳の裏側と言わず肩と言わず、
肌が露出しているところ全てを己の支配化に置いていく。
二人の少女は花と戯れる蝶のように、しばらくの間唇をせわしなく動かし続けていた。

葵よりも長い時間をかけた小蒔のキスが終わった時、
全身をくまなくまさぐられた龍麻の欲望は完全に目覚めてしまっていた。
すっかり目も座り、二人を思いのままに出来るのだという興奮にぎらついている。
そして、そんな龍麻を煽るように、葵と小蒔は両側からねだるような視線を投げかけた。
「次はどんなことすればいいの?」
「そうだな……小蒔はこっちに来い」
「うん」
近づいてきた小蒔を抱き、スカートの上から尻を撫でる。
逃げるような、その実誘っている小蒔に応え、
すぐに手をスカートの内側に入りこませ、布地に沿って指をなぞらせる。



<<話選択へ
<<前のページへ 次のページへ>>