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「その人達は何て」
龍麻が訊ねると、杏子は声を潜めた。
ストーリーテラーとしての才能もあるのか、要所を押さえた話術に、つい龍麻達も引きこまれてしまう。
「体の奥底から、自分を呼ぶ何かの声に応えた。ただ、本能の赴くままに身を任せた──だそうよ」
「本能の赴くまま、か……確かに個人個人、その人間の素を突き詰めていくと、
必ず何らかの動物霊に辿り着くというからな」
「良く知ってるじゃない。そういうのを物活説(っていうのよ」
杏子は醍醐に対して感心してみせる。
実際、ミサでもないのにこの手の話を知っているというのは大したものといえ、
醍醐が話題を補足してくれたので、杏子は労せずに導き出した結論を皆に告げることが出来た。
「つまり、この事件を引き起こしてる奴には、人間の本能に訴えかける『力』があるか、
さもなければ人間の大素である動物霊を操る『力』がある──そんなところでしょうね」
「人を獣に戻す『力』……か。帯脇もそんなことを言っていたな」
「獣になっちゃえば、悩むことも辛いこともなんにもなくなる。本能の赴くまま、だもんね」
しみじみと述懐した小蒔は、急に龍麻の方を向いた。
「もしかして、ひーちゃんもそういうのちょっといいな、とか思ったりする?」
「え? 本能って……食べて、寝て……」
突然話しかけられた龍麻は、つい思ったことをそのまま口にしてしまった。
動物の本能を最後まで言いそうになって、慌てて口を抑える。
しかし、その意味を充分に悟った京一が、珍しい友人の失言をここぞとばかりにあげつらった。
「寝て、なんだよ龍麻クン。朝っぱらから元気なこったな」
醍醐は額を抑え、杏子と小蒔と葵は恥ずかしそうに視線をそむけている。
朝っぱらから大失敗してしまって、龍麻の、一気に血行が良くなった耳がどくどくと脈打つ。
もう秋も深まって朝などは寒いくらいだというのに、顔が火照ってどうしようもなかった。
龍麻の反応を楽しげに見ていた京一は、今度は小蒔にその矛先を向ける。
「ま、お前は獣になんなくたって食ってばっかりだけどな」
「うるさいな、そういう京一だって寝てばっかりだろ」
元気良く小蒔が反論してくれたおかげで、ようやく気まずい雰囲気が解けたようだった。
すっかり脱線してしまった話を、元に戻そうと杏子が口を開く。
「アンタ達はともかく、世の中には辛い現実から逃れたい人は一杯いるわ。
敵はそういった人間を標的(にしているんでしょうね」
「でもさ、それじゃやっぱり帯脇を蛇に変えたのもそいつの仕業なのかな」
「時期的にも無関係ってことはないわね。けど、そういう抽象的な話なら、専門家に聞いた方がいいわ」
こういうことに関する専門家というのはそうはいないものだが、
幸いなことに龍麻達にはすぐ近くに、それも屈指の専門家が一人いた。
「裏密さんか……そうだな、それがいいと思う」
龍麻が言うと、すかさず小蒔が賛意を表した。
「霊だ変異だなんて言ったら、もうミサちゃんの領域だもんね。
怪我した霧島クンやさやかちゃんのためにも、この事件は解決してあげないと」
小蒔の意見に皆が大きく頷いたところで、予鈴が鳴った。
隣のクラスに来ている杏子は、扉に小走りで向かったが、その入り口で立ち止まって振りかえる。
「それじゃあたしは行くわね。これだけ情報提供したんだから、
絶対舞園さやかにインタビューさせてよね」
「冗談じゃねェ、アン子なんかに会わせたら俺のさやかちゃんが汚れちまうだろうがッ!」
出ていった杏子に、京一が早速毒づいてみせた。
そりが合わないとは公言しているものの、
ほとんど条件反射になっているようで、龍麻は少し可笑(しくもある。
必ずしも龍麻は杏子の肩を持つと言うわけではないが、この時はなんとなくそういう気分だった。
「でもよ、一杯写真撮ったら分けてくれるかも知れねぇぞ。紹介料っつって」
「……その手があったか、お前案外悪知恵働くんだな」
心底感心している京一に聞こえないよう、小蒔が葵に囁く。
「ひーちゃんってすっかり京一の手懐け方覚えたよね」
葵が、やはり京一には気付かれないよう小さく笑い返した所で
担任のマリアが入ってきたので、龍麻達は自分達の席に戻ったのだった。
「Good morning,everyone.HRを始めます。
今日は二度目の進路調査表を提出してもらう日ですが──」
マリアの声に、龍麻は昨日久々に親に電話した時のことを思い出していた。
母親に大学に行きたいんだけど、と切り出してみたら、
電話を替わった父親にひどく簡単にわかった、とだけ答えられたのだ。
成績のことに関しては信用されているのか、何も聞かれずに。
まずは進路について大雑把ながら道筋がついたのは良いものの、
なんとなく大海原に一人で放り出されたような感じもして、不安にもなる。
友人達の中で大学に進むのはどうやら葵だけのようだし、
学年全体でもトップの成績を誇る彼女とでは多分進む大学も違うだろう。
そうなると普段は人知を超えた『力』を持ち、日々東京を護る為に闘う龍麻も一介の学生に過ぎず、
今の成績で本当に進学出来るのか、またどんな学部を目指せば良いのか、
など考えることは山積みだった。
一人一人から調査表を回収して回るマリアにほとんど無意識に紙を渡した龍麻は、
とにかく調査表は出したのだから、とそこで思考を打ち切った。
逃げた、と言われたらその通りなのだが、朝考えるにしては重い話題だった。
頭を振った龍麻は、一時限目の用意を始める。
忘れようとはしたものの、進路も含めた自分の人生についての悩みは容易に振り払えるものではなく、
うわの空で教科書を取り出していたので、やや上から自分をさりげなく見つめる視線があることに、
全く気付くことはなかったのだった。
四時限目の授業が終わると、龍麻が教科書を片付けるよりも早く京一がやってきた。
きっとしまう教科書もノートもなかったのだろう、という意地悪い龍麻の考えは、実は外れていない。
陽射しの良い席で最初から最後まで寝ていた京一は、睡眠の次は食事と、
極めて効率良く生きているのだった。
「さてと、かったるい授業も終わったしメシ食おうぜ、メシ」
生あくびをしながらの台詞ではあったが、京一の目は真剣そのもので、
これから始まる戦いを、決して甘く見てはいないのが見てとれた。
頷いた龍麻は手早く教科書を片付けると、静かな闘志を秘めて立ち上がる。
そんな龍麻を、京一は頼もしげに見やった。
「よし、さっさと購買行かねェと、パンが売りきれちまうぜ」
一番人気のヤキソバパンを手に入れるべく、二人が戦場に赴こうとすると、
少し間の抜けた感じもあるチャイムの音が、教室に据えつけられたスピーカーから鳴った。
「三年C組の緋勇龍麻君、マリア先生がお呼びです。至急、職員室まで来てください。繰り返します」
教室中の視線が一時龍麻に集中する。
日常的に連絡に用いられている校内放送でも、
知っている名前が出ればつい関心を抱いてしまうのはきっと全国どこの学校でも同じだろう。
思わぬ注目を浴びてしまった龍麻が級友達に愛想笑いを浮かべると、
腹が減って苛立っているのだろう、京一がじろりと眼光を向けてきた。
「なんだお前、なんかやらかしたのか?」
「なんにもしてねぇよ」
お前とは違う──そう言おうとして、
何も空腹の肉食獣の前で挑発することもないと考えた龍麻は言葉を呑みこんだ。
余計なことを言って口ゲンカにでもなってしまえばお互い余計に腹が減ってしまうのだから、
ここは一歩下がるべきだった。
「どうだかな。お前のパン買っといてやるから、さっさと行ってこいよ」
それが効を奏したのか、ありがたいことを言ってくれた京一に頷いて、
こんな時に呼び出した担任に少しだけ腹を立てつつ、龍麻は職員室へと向かった。
職員室は、多くの教師でごった返していた。
普段は校舎のあちこちにいる教師達が、一箇所に集まっているのは壮観とも言えるが、
そんな場所を訪れる生徒にとって彼らは狼の群れにしか見えない。
その不幸な生徒の一人となった龍麻は、一刻も早く用事を済ませてしまおうと、
目立つ金髪の担任を捜した。
マリアは自分の机に座っており、同僚と何事か話していたが、
自分が呼び出した生徒がやって来たのに気づくと、同僚に軽く会釈して立ち上がった。
「こっちへ来て、緋勇クン」
マリアが案内したのは、職員室の隅にある応接室だった。
転校して以来、そんな所に入るのは初めての龍麻は、
柔らかいソファにも居心地の悪さを感じてしきりに身じろぎする。
龍麻を先に座らせたマリアは、自分も同じように腰を下ろした。
沈みこむソファはやけに着座位置が低く、短い彼女のスカートの奥が見えそうになっている。
思わぬ役得に龍麻が息を呑むと、それがきっかけになったのか、
残念ながらすぐに魅惑の光景は消えてしまった。
ただし、それはある意味より以上の光景と引き換えとであって、
親しげに身を乗り出してきたマリアの深い胸の谷間のかなり奥までが今度は見えてしまい、
龍麻はすっかり目のやり場に困ってしまった。
背筋を伸ばす龍麻に、明らかに勘違いしたマリアは人好きのする微笑を浮かべる。
「先生達がたくさんいらっしゃるところでは、緊張するでしょう?」
それは確かにそうだが、こうして別室に移されたということは話がすぐに終わらないということだ。
どうやら昼飯はかなり遅くなるか、もしかしたらありつけなくなることにもなりそうで、
成育途上の健康的な若者である龍麻はどうしても苛立ちを滲ませてしまうのだった。
それを敏感に察したのか、マリアの秀麗な顔が曇る。
「ごめんなさいね、お昼休みに呼び出したりなんかして。
放課後だと中々時間が取れないし、アナタはいつも美里サン達と帰ってしまうから」
年上の女性に寂しげにそう言われてしまっては、苛立ち続けることも出来ない。
龍麻が愛想笑いを浮かべると、それが愛想笑いであることなど簡単に見抜けるだろうに、
マリアは喜色を満面に浮かべた。
「そうだわ、今度、ふたりで食事に行きましょう。
ね、緋勇クンの好きな物、なんでもご馳走してあげる。だから今は、ワタシに付き合って」
マリアの物言いは、生徒に対してのものではなく、明らかに教師としての範囲を逸脱していた。
が、美しい、年上の、外国人の、教師という、
男子高校生にとってひとつでも抗いがたい形容が四つもあるマリアの誘いに、
龍麻もつい浮かれて頷いてしまった。
しかし、龍麻が首を振った途端、
マリアの蒼氷色の瞳に乱反射していた光が、突如として一点に収束する。
それは胆力では並の高校生を軽く上回る龍麻でさえもが、
背筋に寒いものが走ったほど苛烈で美しい輝きだった。
「それで、話なのだけど……緋勇クン、アナタ……何かワタシに隠してないかしら」
しかもマリアの言葉の中身は、胆力はあっても嘘を吐くのに慣れていない龍麻の肺腑(を抉(る。
ついさっきまで春の陽光で満ちていた雰囲気が、氷嵐(吹き荒れる凍土に変じていた。
「また妙な事件に関わったりはしていないわよね?」
疑問形をとっていても、マリアの質問は、確認であった。
それを龍麻は察知しつつ、ぎこちなく否定するしかない。
だがマリアは龍麻の嘘など軽々と乗り越え、隠すつもりではないものの、
決して良識ある大人に話せることではない秘密に触れようとしてきた。
「そう……それが本当なら、どんなに嬉しいか」
一度、ほっとしたような笑みを見せ、龍麻を和ませたところでまた口を開く。
彼女の手練手管に、龍麻は無意識に操られていた。
「この前、文京区の高校で騒ぎを起こしたでしょう?」
龍麻の背筋を驚きと緊張が螺旋となって走り抜ける。
あの日のことは新聞沙汰にもなっておらず、目撃者もいないはずだ。
なのに何故マリアは知っているのだろうか。
「ダメよ、そんな顔をしても……ワタシの耳にはちゃんと入ってくるのだから」
マリアが口許に湛えている笑みは、ひどく危険なものだった。
男を誘惑し、虜にする、艶めかしい女の笑み。
まだ生まれて二十年にも満たない龍麻では、抗し得るものではなかった。
「お願い──ワタシに隠していることがあるなら話して。
不安なのよ、アナタがワタシの知らないところで何をしているのか」
今度はマリアは、庇護欲をそそらずにはいられない顔で懇願する。
彼女の激しい感情の移ろいに、すっかり翻弄された龍麻は考えるよりも先に口を開けていた。
「僕は──」
呪(いにかけられたかのように、ぼんやりと話し始める。
だが、マリアが龍麻の顔から一瞬たりとも目を離さないで耳をそばだてた瞬間、
間延びした、目の前の教え子からではない声が横合いから割って入ってきた。
「おや、こんなところでどうしました、マリア先生」
「犬神……先生」
マリアの声は、とてもその形の良い唇から発せられたとは思えないほどひび割れたもので、
同僚の教師に対する表情は、般若のようですらあった。
氷山の如き奥から現れた激情を、しかし一瞬で封じこめた彼女は、
乗り出していた身体をソファに沈ませる。
彼女の瞳の束縛から解き放たれたことで、我に返った龍麻は闖入(者を見た。
ちょうどマリアから視線を移した彼と目が合い、皮肉な笑みを向けられる。
「なんだ緋勇、お前また何かやったのか」
からかうような犬神の口調に、何故か龍麻は温かみを感じていた。
それはもしかしたら、マリアの蒼氷色の瞳を長く見続けていたからかも知れない──
埒(もないことを思った龍麻だったが、それが全く的外れな考えであるという自信は、
残念ながら持てなかった。
とにかく、犬神が現れたことで、身体の中にたゆたっていた緊張が肩口から抜けていく。
救ってくれた──何からかは解らないが、確かにそう思えた──犬神に向かって龍麻が応じようとすると、
それよりも先にマリアが話しかけてきた。
「緋勇クン、もういいわ。呼び出してごめんなさいね」
「ああ、僕のことならお構いなく」
「いえ、用事は済みましたから」
つい今しがたまであれほど、情熱的とも言えるくらいに迫ってきたマリアは、
今や龍麻に対して食事を終えた後の皿に対してのような態度を取っていた。
しかしそれに対して腹を立てる余裕もなく、一礼した龍麻は逃げるように職員室から出たのだった。
ほとんど前を見ずに扉を開けた龍麻は、目の前にいた人影に危うくぶつかりそうになってしまった。
上手く身体をコントロールして避けた龍麻だったが、
相手はバランスを崩した拍子に手にしたものを取り落としてしまう。
謝ろうとした龍麻は、その相手が京一であることに気付いて、とっさに悪態をついてしまった。
「ッと、なんでお前がこんなところに居んだよ」
「なんだよ、ご挨拶だな。迎えに来てやったってのによ」
散らばったパンを拾いながら、京一が答える。
量からするとどうやら彼はまだ昼食を食べずにいてくれたようで、
八つ辺りした龍麻はばつ(が悪くなって謝った。
「そりゃ……悪い」
「なんだよ、急に素直になって気味悪ぃな。こっぴどく叱られたのか」
「そうじゃねぇけどよ、まぁいいや、メシ食おうぜ、時間なくなっちまう」
マリアとの会話を話す気にはあまりなれなくて、適当にごまかした龍麻は屋上へと走り出す。
その後ろを、京一と醍醐はやや戸惑ったようについていった。
その日最後の授業が終わると、思いきりあくびをしながら京一がやってくる。
「あぁ、今日も良く勉強したぜ」
それは台詞が違うだけで昼と全く同じ情景で、龍麻は軽い既視感(に囚われた。
もっとも京一は九割がたあくびをしながらやってくるので、
既視感などという大げさなものでもないのだが。
するとこれも日常的な、京一とは反対方向からやってきた小蒔が、短い髪を軽く揺らした。
「ねぇ……それって今の今まで寝てた人のセリフ? あーあー、教科書波打ってるよ」
「う、うるせェッ! 俺が授業に参加してたってことが既に偉大なことなんだよ」
「どうせ単なる日数稼ぎだろうが」
容赦のない小蒔と、辛辣な醍醐の指摘に京一はぐうの音も出ない様子だ。
遅刻とサボりの常習である京一は、
そろそろ真面目に出席し続けないと卒業が危うくなりかけているのだった。
恒例の漫才をしている三人の側で、葵が龍麻に囁きかける。
「龍麻くんは今日はノートはいいの?」
「いッ? い、いいよ、今日は起きてた」
醍醐と同じくらいには辛辣に思える葵の台詞に、思わず声を高める龍麻だった。
そんな龍麻を面白そうに見て、葵は澄ました顔で言う。
「そう、またケーキ食べに連れていってもらおうと思ったのに」
二人の関係を公(にすることは反対ではない──むしろ歓迎すべきことだ。
だが何もこんな形で言わなくても良かろうに、龍麻は葵の真意を量りかねていた。
もちろん好奇心に手足が生えただけの存在である小蒔がそんな重大情報を聞き逃すわけもなく、
目の色を輝かせて葵に食いついた。
「何ソレッ!?」
「何って……それだけよ。この間ノートを借りたお礼に、って」
詰め寄る親友を両手で制しながらも、どこか葵の声は嬉しそうだ。
一方、この場合秘密を暴露された側である龍麻も、
杏子や小蒔ほどではないものの、友人の色恋沙汰を黙って見過ごしはしない京一に追及されていた。
「お前……俺の知らねェところでちゃっかり話進めてんじゃねェぞ。
ここんトコラーメン食いに行かねェと思ったらそういうことか」
今度は龍麻が図星を突かれてぐうの音も出ない。
葵とケーキを食べに行ったのは一度きりなのだが、それがそこそこ良い値段の店だったので、
少し財政的に危険を感じて今月はラーメンを減らすことにしていたのだ。
別に葵との交際を隠していたつもりはないものの、
こんな風に堤防が決壊するとは夢にも思わず、龍麻は狼狽する。
隣で葵が小蒔に絡まれているのは自業自得──もしかしたら、彼女は意図的に情報をリークした、
いや、そうとしか思えない──というものだったが、これ以上この話題が続くのは避けたいところだ。
胸倉を掴まれたまま、龍麻は露骨に話題を変えた。
「そんなことより、ほら、裏密さんのとこ行かないと」
「裏密ゥ!? なんでアイツんとこなんて行かなきゃならねェんだよ」
京一にとってその名は忌避すべきものらしく、
龍麻と葵のスキャンダルを追及するのも忘れて呻(く。
そこに、今日の夜、改めて電話でじっくり話を聞くことを葵と約束した小蒔がきつい一言を放った。
「京一……もう忘れたの? 朝話したばっかりじゃない。寝過ぎて脳みそが口から流れ出てんじゃない?」
「ぐッ……」
きつ過ぎる一言に、京一は悔しそうに黙ってしまった。
「ほら、行こうぜ。下手したらこの後池袋行くんだから、こんな所で時間潰してられねぇぞ」
笑って彼の肩を叩いた龍麻は、皆を促してミサのいる霊研へと足を運んだ。
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