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処女を散らされた翌日に、早くも気を失うほど犯された葵は、更にその翌日、もちろん拒んだ。
しかし犯された。
その翌日も。
疎ましい行為は、平日の五日間、一度も休むことなく続けられた。
土日は何もしない──自分が行っていることが卑劣な行為だとは判っているのか、
金曜日の夜、スカーフを結びなおす葵に龍麻はそう告げた。
無表情にそれを聞き入れた葵は、黙って立ち上がり、地獄に等しい場所から去った。
涙がこぼれてしまわないよう顔の筋肉のひとすじさえ動かさず、人形のような虚ろな表情で部屋に戻る。
枕に顔を押し付け、明日は何もないのだ、と思った葵は、
ようやく感情にかけた閂を外し、思いきり泣いた。
だが、身体中の水分を流し尽くしてしまったかと言うほど泣いた後、
初めて意識した感覚は、どうしてか龍麻が掴んだ手首の熱だった。
それは、きっと彼のことを許せないからだ──自分でも解らない自分の気持ちに、
葵はそう理屈をつけて納得させた。
土曜日──学校は休みだったが、どこかに出かける気になどなれず、葵はずっと部屋に閉じこもっていた。
心配する母親になんでもないと嘘をつき、勉強するからと言って部屋から追い出す。
嘘を重ねるのは良くない、形だけでも、と机に向かい、ノートを広げてはみたものの、
文字はただの記号の羅列にしか過ぎず、頭の中には何かが入ってくることも、
何かを考えることも出来なかった。
ぼんやりとシャープペンを握っている手を見つめて、
三十分ほども微動だにしなかった葵は、不意にペンを離し、手首を返した。
薄く浮き出た血管。
そこを掴んだ、龍麻の掌。
見ていないはずのその部分に、葵の瞳はくっきりと龍麻の手の形を浮かび上がらせた。
「……っ」
息を呑んだ葵は、机に突っ伏し、静かに泣きはじめる。
手首に甦る熱は、下腹にまで伝っていた。
どうして。
将来を共にする男性にのみ捧げるはずだった純潔。
なのに、泣いた後でさえほのかな熱を帯びたままの下腹。
涙を拭いながら、自分のことが解らなくなってしまった葵は、
交錯するいくつかの思いを整理できないまま、生まれて初めて足の間に手を添えてみた。
卑猥な音を立てるそこは、下着の上からでも判るくらい潤っていた。
手を離さなければ──理性でそう命令を下しながらも、何故か指はいうことを聞かず、
勝手に、己の身体にひそやかに刻まれた溝に沿って動いた。
「──!!」
弾けるような快美感だった。
思わず太腿を擦り合わせ、太腿を閉じ合わせた。
しかし挟みこまれた手は抜けず、恐怖めいたものに駆られた葵は、また指を前後に往復させる。
身体が熱い。
もどかしい。
もっと──欲しい。
机に顔を押し付けたまま、葵はあらゆる感情を圧して湧き上がってくる欲望に抗う。
嫌悪と一体であるべきはずのその欲望に、負けてしまうわけにはいかなかった。
だが指先に伝う湿りは、顔に押しつけた腕を濡らす涙と同じか、
あるいはそれ以上に体内から染み出していた。
秘所にまとわりつく布地の不快さに、葵は眉をしかめる。
それなのに、身体はその不快感を求めるかのように血液の流れを速くしていた。
「……」
唇を噛んだ葵は、溝の中心にあてがった中指をそっと押しこむ。
自身は意識していなかったが、その動きは龍麻が行ったものを模したものだった。
あっけないほど簡単に破られた禁忌。
そしてそれがもたらす、どうしようもない快楽。
己の身体を包む昂揚感に戸惑いつつ、龍麻によって引きずり込まれた沼に、
葵は自らの意思で足を踏み入れていった。
ほぐれ、開いていく淫口に合わせ、閉じていた足も広がっていく。
下着の上からでさえ恐ろしいほどだった快感はすぐに物足りなくなり、下着の中へと手を差しいれる。
止まらない。
彼がしたように指を抜き差しし、ゆっくりと掻き混ぜる。
半分ほど埋めた中指を鉤状に曲げ、快感の震源を探り当てる。
止まらない。
動きが大きくなるにつれ、激しさを増した羞恥の水音が鼓膜を叩いても、
身体の中を抉るように淫肉を掘り、たまらず恍惚を吐き出しても、
もう葵は自分を止められなかった。
何故、こんな──肉体を内から弄ってくる感覚に抱く嫌悪ですら、
もはや快楽の一成分にしかならない。
ほんの十数分前に初めて覚えたばかりの気持ち良さに、
全てを委ねた葵は、ほどなく自慰で達した。
「……っ……」
絶望的な哀しさ。
そして、退廃的な快さ。
考えることさえ厭わしくなった頭の中で、
自分がもうどうしようもなく汚れてしまったと受け入れながら、葵はいつまでもむせび泣いていた。

そして、週が明けた今日。
龍麻はいつも通りに接し、授業が終わると同じように共に帰った。
ただ、手は掴んでおらず、もし葵が逃げようとしたなら、逃げられたかもしれない。
今踵を返して走り出せば、忌まわしい時間を過ごさなくてよくなる──
龍麻の家までの途中、葵は何度そう思ったか知れない。
だが、足はどうしても言うことを聞かなかった。
不甲斐ない己の身体に胸中で嘆息しつつ、葵は境遇を受け入れるしかないのだ、と言い聞かせた。
どうせ逃げても捕まるに決まっている。
もう、彼からは逃れられないのだ。
部屋に通され、土日で掃除はしてあるものの、
五日間で染みついた、ただれた臭いを鼻腔に感じた時、葵はそう自分を説き伏せた。
荒々しい手はその力強さとは全く異なり、素早く、繊細な手つきで制服を脱がせていく。
もちろん葵は抵抗を試みるが、力の差はいかんともしがたく、
あっという間に下着姿にされてしまった。
自らの温もりさえ残っていそうな布団に横たえられた葵は、
せめてもの抵抗として両腕で胸を隠し、きっと睨みつける。
だが龍麻は、葵にとっては悪魔に等しい存在である男は、
何も知らない多くの人を騙す瞳に軽い嘲笑を浮かべると、まだ履いたままのストッキングに手をかけてきた。
「嫌……っ」
「破れるよ」
暴れようとすると、憎らしいほど短い言葉が両足を縛る。
今更ストッキングが破れたからといって、大したことではない──
それなのに、葵の心は抵抗を止めるよう指示を出し、身体がそれに従ってしまうのだった。
「お尻、浮かせて」
調子に乗った龍麻が命じてくる。
抵抗しないことと、従うことは別だ、と、葵はのしかかる男を激しく睨んだ。
すると龍麻は、それに怒った様子も見せず、彼女の視界から姿を消した。
寝たままの姿勢では下半身を見るのは辛いが、龍麻が何をするのか気になり、
葵は少しだけ身体を起こそうとする。
その寸前、膝頭に生温かなぬくもりが触れた。
「……!」
ストッキング越しに落とされたくちづけが、全身に衝撃となって疾る。
初めて受ける愛撫だった。
五日間でありとあらゆる嬲られ方をしたと思っていたのに、
まだ龍麻は自分の知らないやり方で翻弄するのだ。
膝から下が、脚気かっけの検査で膝を叩いた時のように痺れている。
驚きと、それ以外の何かによって声も出ない葵の目の前で、膝にくちづけた龍麻の唇がうごめいていく。
壊れ物を扱うようにふくらはぎに手を添え、転々と脛にくちづけをしていく龍麻を、
葵は呆然と見ていた。
熱っぽい痕が右足の半分を浸していく。
その部分はもう龍麻に奪われてしまったような気がして、葵はおののいた。
「や、め……」
龍麻の顔が足先へと近づいていく。
汚い場所。
少なくともきれいではない場所に、龍麻はうやうやしいほどの態度で接する。
それが彼の手管なのだと解っていても、葵は彼を止められない。
ただ両手で足を捧げ持った龍麻が、親指の爪先に唇を落とすのを待っているだけだ。



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