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唇が触れる。
ゆっくりと。
じれったく。
「……っ!」
生温かくない、熱い感触。
突然訪れた感覚に、葵は思わず喘いでしまうところだった。
されるがままだった指を折り、顎を仰け反らせてしまったが、それを気にする余裕もなく、
身体を駆け巡る快感を堪えるのが精一杯だ。
爪を、熱が侵食していく。
乱れてしまったのは知っているだろうに、舌はそれに対しては何の反応も示さず這い回った。
「ひ……っん……」
爪と肉の継ぎ目を、執拗に。
爪の裏側や指の先端を、じりじりと。
躯を駆け巡るのではない、足先から満ちていく得体の知れない毒。
全身がひどく重く、軽く。
その変調こそが毒なのだ、龍麻は何か恐ろしいことをしているのに違いないのだ、
ふるえながら、葵は親指の先に意識を集中させた。
既に爪先を毒に塗れさせた龍麻は、まだ飽き足らないのか、指先に小さなくちづけを繰り返していた。
それと、一緒に弄ばれている他の指とが感じているものが、
高処から低処へ、末端から中心へと流れてくる。
ひとつ。
またひとつ。
鼓動に合わせるように、血流を伝う毒がへその下へと注がれ、溜まる。
熱い。
どこが。
足が。
下腹が。
心が。
微弱にもたらされる刺激は、もうすっかり全てを蝕んでいた。
それを葵はどこかで知っていたが、認めるわけにはいかない。
どうして?
自分で思った、自分で思っていないことに、葵は頭を振る。
かえってその行為が、既に毒が頭にまで回っていたことを彼女に認識させた。
しかし、毒の侵食は早く、もう考えるのも面倒になってきている。
面倒くさい──普段なら決してそんな誘惑に耳を貸すことなどないというのに、
今は、一度浮かんだその怠惰な欲望に従いたい。
そして、そして──
龍麻が指を噛んだ。
また思考が快感に流される。
どうして龍麻はこんなにも自分の弱い所を知っているのだろう。
どうして龍麻は、こんなにも気持ち良くしてくれるのだろう。
どうして。
わからない。
考えられない。
思考の狭間に落ちた葵は、考えるのを止めた。
それが何の解決にもならないことを知りながら。
「お尻、浮かせて」
龍麻の声が、へその下に溜まった毒と混じる。
そうだ、この毒のせいなのだ──納得した葵は息を吐き出し、全身の力を抜いた。
手が臍に触れ、そこから腹を締め付けているストッキングを脱がせていく。
解放感。
気持ちいい。
龍麻の指先。
気持ちいい。
それまでと同じく、恭しく足先からストッキングが抜き取られるのを気配で感じた葵は、
目を閉じたまま静かに息を吐いた。
皮膚がさざめくと、それだけで微かな快感が躯を流れる。
それはいずれ、龍麻がより大きなものにしてしまう。
だから、我慢しても無駄だ。
胸を覆うのも。
下腹を隠すのも。
果たして龍麻は、膝に手を添え、足を広げていく。
もう溜まる熱を抑えきれず、淫蜜をとめどなくこぼしている場所を見られる。
だが手は動かない。
違う、動かせない。
手を動かせば、きっと龍麻が何か、ひどいことをするに違いない──
だから動かさないのではない、動かしてはいけないのだ。
そう自分に命令を与え、葵は足をほとんど限界まで開かされるのも、
身体の最も恥ずかしい部分に龍麻が顔を近づけるのも止めなかった。
欲望に熱せられた呼気が敏感な部分をく。
それが意図的に行われたものであっても、葵は反応を抑えることが出来なかった。
はらへの裂け目を割り開かせようとするかのように吹きかけられた息は、上端で一度止む。
それだけで、葵は龍麻が次に何をするか判りきってしまっていた。
細く、少しだけ強い息が、一点に集中して吹きかけられる。
「あ……っ、く……」
露出し、充血して過敏さを増しているそこに、ちょうど良い強さの刺激だった。
龍麻に教えられるまでは、触れたことさえなかった芽。
神経が剥き出しになっているかのような快美な愉悦を与えてくれる尖り。
次に龍麻がそこにすることを予想して、葵は足でシーツを掴んだ。
「──ッ!」
刺激が訪れる。
予想していても、それを上回る快感だった。
小指の先ほどもない小さな突起が、心肺機能すら支配する。
息を詰まらせる葵に、二度目の刺激が襲いかかった。
「ひ……っあ、あぁ……」
布団を握り締める。
そうしなければ、舌先で軽く突つくだけの愛撫に耐えられず、
彼の頭を思いきり掴んでしまっただろうから。
三度。
三度目はそれまでと違い、舌腹でねっとりと舐め上げてくる。
「……ぅ、ん……ッ」
気持ちいい。
恥ずかしい部分を這い回る舌が、どうしようもなく気持ちいい。
あれだけ我慢していた声も、いつのまにか濡れた吐息となって唇を震わせてしまっている。
そうすると、桎梏しっこくから解き放たれたかのように歓喜の嗚咽はとめどなくあふれだし、
葵は自らの弱さを思い知らされてしまうのだった。
「あっ、はぁ……っ」
大きく息を吐き出す。
熱い、火傷しそうなほどの熱を帯びた呼気が、通る時に唇を撫でていく。
それすらにも心地良さを感じてしまい、葵は怖くなってシーツを掴んだ。
「ん、あっ……!」
どうにか波を押さえこんだと思った直後に、龍麻は刺激を与えてくる。
悪魔的なタイミングに、快楽を享受する身体はひとたまりもなく、足が開き、腰が浮き上がってしまう。
まるで自分から求めるように跳ねる腰を、葵は止めようとするが、
全身に力を込めて押さえつけようとしても、ただ一度吸われただけであえなくちてしまうのだ。
内腿に手を置き、閉じないようにして龍麻が淫核を責める。
どれだけ暴れても、どれだけ悶えても、龍麻の口は吸盤のように吸いついて離れず、
唇と、舌と、歯とで、絶え間無くとりどりの官能を与えてきた。
「あッ……はっ、んんっ……」
彼がもたらす愛撫の数だけ、異なる音色の喘ぎが漏れる。
意に染まぬ声。
心と身体が乖離かいりしている。
初めての感覚に葵は戸惑ったが、より恐ろしかったのは、
それぞれが共により強い快楽を欲していることだった。
拒む心は既に己の中の小さな部分でしかなく、あとはもうつま先に至るまでが浮いた熱に漂っている。
葵はシーツを掴み、その感触にすがって自分を保とうとするが、
龍麻の責めはとどまるところを知らなかった。
「ひぁっ……!」
舌が、奥に潜りこむ。
一人では決して出来ないその愛撫は、たちまち泣きたくなるほどの愉悦に葵を誘いこんだ。
一杯まで陰唇をくつろげられ、べとべとに濡れた秘所を、粘質の塊が犯していく。
「あ、ぁ……いや……ぁ……」
熱いぬめりが身体の内側に触れるたび、頭の奥が白く弾ける。
息さえ出来ないほどの続けざまの愉悦に、涎が口の端を伝う。
それでも快感は防ぎきれず、口を大きく開け、
舌を粘膜の奥へこじ入れてくる龍麻に、遂に葵はその頭を掴んでいた。
男性にしては長めの、豊かな髪に指を埋め、頭皮に爪を立てる。
確かな柔らかさが、足の間に龍麻がいるのだと意識させ、
彼の唇が触れている部分を熱く火照らせた。
舐められる。
吸われる。
そして、食まれる。
そのどれもに翻弄され、もたらされる波をさばききれなくなった時、
葵はこの五日間で嫌というほど味あわされた感覚に上り詰めた。



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