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「あ、あっ……!」
二度目の軽い絶頂。
全身を満たす恍惚を、素直に受け入れこそしないものの、
拒むこともなく迎え入れた葵は、ぐったりと床に伏した。
するとその傍らに、彼が横たわる。
力で自分を穢した、逞しいからだ
だが彼は今は、暴力にたのもうとはしてこず、自分が呼吸を整えるのを待っている。
大きく息を吐く度に、微かに触れる彼の肌。
それに安らぎを感じてしまって、葵は慌ててその感情おもいを振り払った。
彼の目を見てはいけない気がして、硬く目を閉じる。
それは同時に彼が何をするか見えなくなってしまうということでもあり、
事実、彼が身じろぎする気配を感じた。
「……っ」
手が触れる。
反射的に身を強張らせた葵だったが、龍麻は想像したようなことはせず、
頬に落ちかかった髪を梳いただけだった。
思わぬ行動に、想いが昂ぶる。
見てはいけない、と自ら課した制約も忘れ、葵は目を開け、龍麻の瞳を直視した。
黒い、自分と同じ色の瞳。
日本人であるなら色が近いのは当然だが、龍麻の瞳は、
それ以上の何かが似ていると葵に思わせる色だった。
束の間呼吸を忘れた葵は、溜まった息と一緒に想いを吐き出す。
「どうして……こんな……」
違うやり方だったなら、あるいは。
問うても無駄だと思いつつ、訊ねずにはいられなかった。
問いに、龍麻は目を細め、閉じ──そして、開いた眼を一直線に据えて言い放った。
「会った瞬間に、もう葵しかいないと思った」
強い言霊が込められた台詞が、問うた葵を縛る。
「でも、こんな──宿命だかなんだか知らないけど、
闘わなけりゃならない毎日じゃ、いつ死んでしまうかも知れない。だから」
龍麻が肩を掴む。
その強さは、強引に犯された時でさえ感じなかったほど強く、
骨がきしむほどであったが、葵は抗議しなかった。
肩を掴んだ龍麻はそのまま押し倒し、上に乗ってくる。
「だから、嫌だって言っても止めないし、嫌だなんて言わせない」
龍麻の瞳から、ただれた欲望の色は消えていた。
それは欲望が彼の人格の、より深いところで結びついてしまったが故で、
一層危険になっただけなのかも知れない。
しかし葵は、自分を汚した男の瞳の奥底に、真摯しんしな光がまたたいているのを確かに見た。
真摯であるなら何をしても許される訳ではもちろんない。
独り善がりな彼を許せる訳でもない。
だが葵は自分が、彼を頑なに拒みながらも、この五日間彼と共に過ごした理由を、
わずかながら知ったように思えたのだった。

口を閉ざした龍麻と、口を開きかけた葵は、共に押し黙る。
二人の間に生まれかけた場違いな、ほのかな温もりは、だが一方の手によってあえなく消し去られた。
激しい絶頂の余韻も消え、鈍い気だるさに浸っていた葵を、龍麻は再び嬲る。
それまでが嘘のように、激しく。
普段なら苦痛を感じずにはいられない強引な愛撫だったが、
今の葵にははじめに少し痛みがあっただけで、すぐに快楽そのものとなって全身を包んでいった。
手首を抑えつけられ、隠すことも出来なくなった乳房を揉まれる。
容赦なく肉を潰し、頂にある過敏な蕾を引っ掻く彼の手に、葵の呼吸は荒く乱れた。
「ひっ、あッ……!!」
高く持ち上がった波が、ゆるやかに自分をさらっていく。
静かに下りていく感覚は、声すら出すのが面倒になるほど深く、長く続いた。
自然に開いている足の間からは、喜悦の滴が、もう滴とは呼べないほどあふれ続けている。
仕方ない──身体の疼きに抗いきれなくなった葵は、男根が苛むのをそう受け入れることにした。
きたる衝撃に備え、唇を噛み締める。
充血しきっている淫らな唇を指で掃かれると、思いきり声を上げたくなる。
しかし龍麻は、硬くそそり立っている男性器を太腿に押し付けてはいるものの、
それ以上はしようとしてこなかった。
苛立ちを覚えた葵は、己の心に愕然とする。
もう、自分はこんなにも肉を欲してしまっているのか──
彼とひとつになれないことに、苛立ちを覚えてしまうほどに──
だがそれは、紛れもなく自分の欲望おもいだった。
足に感じる熱を、はらに迎え入れたい──否定していた願望が、抑えきれなくなる。
そして、それは龍麻が敏感な秘唇ではなく、下腹に触れてきた時に一気に弾けた。
生命にとって最も大切なものが収まっている部分。
そこを上から少し強く、その存在を意識させるように撫でられた瞬間、
葵は子宮が疼くという感覚を初めて味わった。
今すぐに手足を彼に絡め、思いきり挿し貫かれたい。
生じた淫欲を打ち消そうとするが、朦朧もうろうとする意識は口をひとりでに開かせる。
「お、お願い……だめ、もう、我慢……」
「挿れて欲しいの?」
こくりと頷く。
「ここに?」
もう一度。
彼が並び立てる卑猥な言葉に答えこそしないものの、身体はしっかりと反応し、愛雫がとろりと滴る。
認めたくはないが、龍麻の低く、羞恥をあぶりたてる声は、官能の糧となってしまっていた。
葵は目を閉じ、認めてしまった自らの恥辱に震える。
その閉じられた瞼の端を、一筋の涙が伝っていった。

蛙のように開いた足の間に、龍麻は股間を近づける。
いきり立つ屹立は、牡を求める牝の淫裂にびくびくと呻いたが、
龍麻は己を説き伏せ、はしたなく開いた口に添えただけで、挿入しようとしなかった。
すっかり準備を整えている襞が貪欲に器官を捕らえようとするが、
それに逆らって淫口の表面をなぞらせるに留める。
するともう限界なのか、ニ、三度焦らしただけで、葵の腰が物欲しそうに揺れた。
「はっ……はぁっ……お願い……緋勇……君……おねが……い……」
首を傾けるのも億劫なのか、葵はシーツに押しつけた顔をちらりとだけ向け、目で訴えかける。
本当に限界なのだろう、朱に染まった肌にはじっとりと汗が浮かび、肩は震えていた。
瞳は劣情に潤み、彼女が芯から蕩けているのが容易にわかる。
もう、堕ちる──そう確信した龍麻は、ゆっくりと、
彼女が自分から屈したことを思い知らせる為に覆い被さった。
彼女を象徴するように硬く握り締められている手を上から掴み、
指の間から隙間をこじ開け、強引に開かせて奪い取る。
火照った指と、汗ばんだ掌。
自分の手を擦りつけ、葵を征服した龍麻は、その証として、彼女が求める欲望を与えた。
切っ先を、彼女の膣に沈める。
どろどろに潤んだ膣肉は、硬い屹立が入っただけで脆くも溶けていった。
そして葵は、屹立が胎を抉るにつれて肢体をはっきりと歓喜に染めていく。
鮮やかに移ろっていく葵の媚態に、龍麻は深い吐息を漏らした。
肉体的な快感も当然ながら、精神的な法悦は気が狂いそうなほどだ。
女を、己のものにする──葵と出会うまでは、考えたことすらなかった想い。
自分の中にこれほどどす黒い欲望があったことにも驚いたが、
それを全く否定しようとしない自分自身には、驚きを通り越して失笑してしまった。
葵を組み伏せ、衝撃の余り声も出ない彼女を裸にし、犯す。
ほとんど儀式のように陵辱を終えた後、龍麻の裡に眠っていた邪欲は、
いささかも衰えることなく、増幅すらしていた。
自分に性的な本能が乏しいと思っていたのは単なる思い込みで、
本当は心の奥底にマグマのように煮えたぎっていたのだ。
破瓜の血を下腹にまとい、放心している葵を、龍麻は再び犯した。
生理的にあり得ないほど早く回復し、雌を食らいたいと脈打つ屹立を、
前置きすらせず隘路に撃ち込んだ。
苦痛に悶える葵の身体を抑えつけ、強引に腰を振りたてた。
彼女が感じているかなど考慮すらせず、己の欲望を充足させるためだけに膣を使い、屹立をしごいた。
ほどなく訪れた射精。
放った精は、彼女の胎を満たすに充分な量であり、
彼女に自分が穢されたのだと認識させるに余りある量だった。
初めての性交で止まらぬ腰を震わせながら、
龍麻は自分の存在意義を変えるほどのものを見つけ出した悦びに酔いしれていた。
悲惨な破瓜はかを迎えさせられたにも関わらず、気丈にも涙すら見せずに帰っていく葵を、
わざとらしく玄関まで見送った龍麻は決心していた。
彼女を、完全に自分のものにしようと。
心も身体も、自分以外のことを考えられなくしてやろうと。



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